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ソードアート・オンライン~共鳴の宴舞台~

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前を向くために

 
前書き
一行でわかる前回のあらすじ

リークさんの昔の話!あとフォルテはバカ(゚O゚)エッ? 

 
第69層迷宮区

前と同じようにまだマッピングがされていない道を探索する。

今日は前にいなかった二人も加えて、五人で来ている。

もう一つ、前と違うことがある。

五人がいる場所が、大きな扉の前……ボス部屋の前だということだ。

「……間違いないよな」
「ボス部屋……だね」

普段の元気なリークも、はしゃぐルインも、今この場では表に出てきてはいない。

理由は、二つ。

一つ目は、ボス部屋の前だということで、気を引き締めているということ。と言っても、もう一つの理由の方が大半を占めているのだが。

そのもう一つの理由というのは、フォルテだ。

フォルテは、ボス部屋を見つけ、近くに来たときから、何も話さず、動こうともしなかった。

強引に動かすわけにはいかなかった。四人とも、彼の事情を知ってしまっているから。

彼は第50層のボス討伐に、参加していた。

50層–––––つまり、クォーターボスだ。

偶然にもボス討伐に参加したのはその時が初めてで、生き残りはしたものの、その時からボスの存在が彼の中でトラウマとなっている。

彼の中でのボスは、どれほど切っても、どれほど殴っても、突いても、凪いでも、断っても、穿っても、割いても、抉っても、潰しても、倒れることはなく、立ち上がる。まるでどこかの主人公のような、最強で最悪な悪夢。

その後、リークとルインのお陰で、迷宮区に潜ることはできるようにはなっている。

が、まだ一度も、ボス討伐には参加していない。

間違いなくトップクラスの実力を持つ彼のことだ。参加してほしいという勧誘も催促も、いっそ命令や脅迫まがいのものすらあった。

しかし、行けなかった。行かなかったのではなく、行けなかった。

自分の歩く道の先にあの悪夢があると思うと、どうしても進むことができなくなってしまうのだ。

だからあの50層以降、彼がボス部屋の前まで来るのは初めてということになる。

「フォルテ……」

消え入りそうなリークの声も、届いていない筈はない。

だが、フォルテは迷い、悩み、葛藤していた。



あれほどの恐怖を味わってなお、武器を振るってこれたのは間違いなくここにいる皆のお陰だ。

またこの扉を開け、中に入ることが恩返しになるのではないだろうか。

だが、この人数でボスに挑むのは、どう考えても危険。

恩返し以前に自分を含めた誰か、もしくは全員が死んでしまうかもしれない。

でも、ボス部屋にここまで近づいたのは、50層以来。今戻ったならもう一生ここには戻ってこれないと、自覚している。

諦める苦しみは、知っている。

進まないと、自分は自分でいられなくなるのも、知っているから。



深呼吸をして、もう一度扉を見据える。

ゆっくりと、だが確かに足を前に進める。

「フォルテ……」

「行きましょう」

心配そうな顔をしていたメンバーも、その言葉を聞いて、気を引き締める。

向かうだけでは意味がない。

勝てなくてもいい。負けなければ。

生きて帰ってくれさえすれば、それは勝ちに繋がる。

「うし、じゃあ《シンフォニック・B・シーヴス》海賊団、侵略開始!」

–––––––––応!!

凛と鳴り響く声を響かせて、彼等は前へと足を運んだ。

––––––––––––––––––––––––––––––––––––

彼等は少人数でこそあるが、攻略組でも屈指の力を持つ有名なギルドである。

事実、今までのボス攻略にも大きな貢献をしている。

だが、この五人だけでボス攻略に挑むのは、言うまでもなく初めてであった。

「……来たな」

フィーネが呟くと同時に、ボスが姿を現した。

その風貌は、一言で表すならば『魚人』だろうか。

トカゲのような頭に、鱗で覆われている胴体。その間からにょきりと生えた筋骨隆々の太い腕にはモリが握られている。

下は黒い布をただ巻きつけただけの服に、ヒレが付いている足。そして後ろには尻尾も生えている。

魚人……?トカゲ人……?とりあえず亜人型である。

名前は–––––『The waterside hunter』

直訳で、『水辺の狩人』と言ったところだろうか。

「……キモい」
「ヒナ、言っちゃいけない」
「……でもルイン……あいつキモいよ?」
「……うん」

ヒナがちょっと引いていた。

なぜだろう。狩人さんちょっと悲しそうに見える。
気のせいだよねそうだねそうしよう。
軽く「くぅぅ……」みたいな声も聞こえなくもないけどきっと威嚇だよね。
体はムキムキなのに肩を落としてたりしてるけどきっと違うよね。(しつこい)

「来るぞ!」

誰かが叫び、狩人が駆ける。涙目で。

他のボスと比べるとそれほど早くはないが、中層のスピード特化型のプレイヤーと同等くらいだろうか。

実際、避けることができたのは同じくスピード型のフィーネとリークだけだった。

だからと言って、黙って攻撃を食らう訳でもないが。

「なかなか……パワーあるじゃねぇか」

残った三人の真ん中、ルインが狩人の拳を剣の腹で受け止めていた。

だが、これで終わるほどボスモンスターは甘くない。

プレイヤーにはあまりできない動き。

つばぜり合いをしながらの、もう一つの攻撃。

「ひ、だり!?」

主に使うのは体術。ならばそれだけで終わるはずもない。

「く……そ、がッ……」

右手を剣で止められていながらの左の手刀。

それが躱されると今度は右膝が飛んでくる。

ルインは紙一重で躱すがバランスを崩し、もう一度右手の拳が彼に向かう。

だが

彼は十分、役割を果たした。

彼がモンスターを抑えている間に、準備は完成した。

「……《通り魔の鉤爪(ファントム・キラータロン)》!」
「《空席へ贈る鎮魂歌(ベイケンシー・レクイエム)》!!」

ルインの左右から飛び出した二人が、己が技を狩人に叩きつける。

フォルテが棍を、ヒナが爪を構えながら、狩人の前に歩み出る。

吹き飛んだ狩人を前に、フォルテは恐れなどまるで感じないように言い放った。

「申し訳ありませんが、僕もそろそろ前を向かなくてはいけないんですよ。だから僕は、あなたを砕きます」

真正面から悪夢と対峙して、その上で前へと足を進める。

「《濁流船医》フォルテです。土も瓦礫も飲み込んで、あなたを砕き割りに行きますので、ご容赦を」

火蓋はすでに落とされた。

海上の戦士たちが、命を狩りに暴れ始める。 
 

 
後書き
今回はちょっと短かったね。ごめんなさい。
フォルテ「最後のあれ……」
かっこつけました(ドヤッ)
フォルテ「あ、……はい」
ちょ、引かないでよ!?

そ、それでは次回のお話もぉ!
フォルテ「耳を傾けていってくださいね!」
ばいばい〜 
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