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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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1~2期/啓編
  K17 片翼では飛べない

 響ちゃんがリディアンを休学した。
 母さんは、休学するのは月末まで、って学院に連絡したらしいから、猶予はまだタップリある。

「ごちそうさまでした。やっぱりおばあちゃんの高野豆腐の肉詰めサイコーっ」
「おなかいっぱいになったかい?」
「うん。なった」

 そういう響ちゃんの前に並ぶ皿には、半分以上の料理が残ってる。

 今の響ちゃんの笑顔はいびつすぎて痛々しい。
 母さんもばあちゃんも気づいてる。でも響ちゃんは気づかないのか、気づけないフリをしたいのか、来る日も来る日もカラッポの笑顔。

 ここは響ちゃんの家で、響ちゃんの居場所なのに。




「ウソツキって言われちゃった。また嘘つくんでしょって」

 シンフォギア関連で秘密を共有してるおれと二人きりだと、響ちゃんは笑わない。

「ぜんぶわたしのせいだった。隠し事しないって言ったのに隠してたわたしのせい」

 泣くんだ。あの響ちゃんが。泣いて、未来ちゃんの名を呼ぶ。……堪んねえよ。
 頼むよ、未来ちゃん。響ちゃんに会いに来てくれ。会って、また友達に戻ろうって響ちゃんに言ってやってくれ。


 ピンポーン


 ! まさか、未来ちゃん?

「おれが出るから。ちょっとごめん」

 響ちゃんの部屋を出て――超ダッシュ。玄関にホコリ巻き上げる勢いで向かって戸を開けた。
 かくて――おれの希望は打ち砕かれた。

「立花――姉はいるか?」

 我が家を訪れたのは、風鳴翼だった。





 イチイバルの雪音クリスと戦い、フィーネという謎の女と邂逅を果たした、翌々日。
 緒川さんから聞いた。立花が休学すると家族から学院に連絡があったと。

 二課の通信機で呼びかけても返答はないという徹底ぶりだ。……もっともこれは、立花自身でなく弟のほうが通信機を取り上げている可能性も否めないのだが。

 とにかく。それを聞いて、私は学校を休んだ。


 二課に属する施設で、自前のバイクの点検をしながら、緒川さんと電話で話す。

「では、立花が休学した理由は、小日向未来にシンフォギア装者だと知られたことが原因なのですね」
《あくまで現時点である情報からの推測ですが》

 各種ブレーキ液の量、よし。冷却水、よし。タイヤ、よし。ハンドルの具合、よし。

《まさか翼さんご自身が会いに行くとは思いませんでした》
「それは……」

 正直、奏のガングニールを使う立花に思う所がないわけじゃない。
 そんな無意識があるからか、立花と「一緒に戦った」と言える局面も多くはない。
 むしろぶつかり合って、いがみ合って。

「……立花姉弟は戦士です。半人前で未熟ですが、戦士に相違ないと確信しています。ですから、その志が折れるならば、同じ戦士が立て直すのが筋というものです」
《なるほど。翼さんらしい理由ですね》
「それと、もう一つ――立花と小日向未来の間にあるものについても」

 立花と小日向未来のクラスメートによると、二人は親友を通り越して熟年夫婦かと思うくらいに仲がいいとか。寮では同室で、登下校も二人で。
 そもそも中学校が同じで、リディアンに入学したのも、立花が小日向未来を追いかける形で、だったらしい。

 立花の態度がおかしいというんじゃない。私だって奏に対しては恥ずかしいくらい甘えていた。
 ただ、立花の小日向未来への感情は少し歪な気がする。
 きっと彼女たちをそんな関係にしてしまったのは、2年前の私たちのライブ。

「……知らなくてはいけないのです。立花弟が語った以上のことを。あの悲劇を起こした人間の一人として」
《翼さん……。分かりました。微力ながらお力添えします》
「すいません。お願いします、緒川さん」

 通信機を切ってポケットに入れ直す。

 ナビを点けて、立花の実家の地番を登録する。

 ――そう遠くはないな。弟のほうが自転車でしょっちゅう来られるわけだ。

 バイクに跨り、エンジンをかけ、ハンドルを回して発進した。





 立花本人が出ないだろうとは思っていたが、まさか弟のほうが出迎えるとは思わなくて。

「立花――姉はいるか?」
「学校はいいんすか」
「休んだ。そう言うそっちこそ」
「おれも休みましたが何か? あと響ちゃんですけど、おれがタダで会わせると思います?」
「思わない。あなたはお姉さんにぞっこんみたいだから」
「分かってんならお引き取りクダサイ。二課の誰が来ても響ちゃんには会わせませんから。じゃ」

 ガラガラと閉まる玄関の戸。私は足をサッシに入れて邪魔をした。

「づ…!」
「は? ……わあーーーー!? な、ただのブーツで、な、何トンデモな真似してくれてんすか!」

 立花弟はサンダルを脱ぎ捨ててバタバタと家に上がって行った。
 戻って来た立花弟の手には、昔ながらの常備救急箱。

 慌てる彼は私を三和土に招き入れ、玄関の段差に座らせた。意外な形で入れてしまった。

「靴と、あと靴下も脱いでっ。骨イッたらどーする気だったんすか、アイドルっしょ!?」

 立花弟はてきぱきと応急処置をしていく。
 さらに、挟んだ部位が膨らんで後から痛くなるからと、帰り用にビーチサンダルまで貸してくれた。

 ……何というか、彼があの立花の弟なんだって今分かった気がする。 
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