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東方紅魔語り

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有波ー下校編
  Part19 無意識に意識

 
前書き
新章ー下校編がスタートです。
皆さん、家に帰り着くまでが遠足ですよ?←
さあ皆も一緒に紅魔館へ帰ろう! 

 
 話をしよう、あれは今から数十時間前の事だったか。
 俺は宴会が終わった後、疲れて寝てしまったフランとレミリアを担いで紅魔館に戻ってきた。
 咲夜さんは宴会の片付けでお残りだ。
 門の前で寝ている紅 美鈴を蹴り起こして、門を開けてもらい、二人のベッドにそれぞれを寝かせた。

 俺もその日は疲れていたし、仕事も無かったから、ベッドに入って眠ってしまった。
 いい夢を見ていた気がする。

 起きた瞬間は凄まじく気分が良かった。
 嵐の通り過ぎた後のような晴々した気分となった俺は、さあ今日も頑張ろうと意気揚々と立ち上がったのだ。
 そして、その時に気付いてしまった。
 俺の眼に映りしは、陽が僅かしか当たっていない、岩肌が荒々しい断壁。
 どれだけ辺りを見渡しても、赤い館も見えなければ博麗の神社もない。


 そして今に至る。
 どうしてこうなったか。
 もしかして、ついにクビにでもされたか?
 いや、クビにするのなら正々堂々とそれを言えばいいだけの話だ。わざわざこんな崖の底みたいな場所に放り投げる必要はない。

 となると、可能性としては他の何者かが俺を攫って置き去りにした、とか?
 いや、我等が紅魔館の防衛セキュリティは万全だ。
 メイドの咲夜さんを筆頭に、レミリアやフラン、そして館中を闊歩する妖精メイド。
 その辺の馬鹿が俺を攫おうと行動した所で、結局は捕えられるのがオチだ……。

 と思ったけど、昨日はレミリアもフランも眠り、一番役に立つ咲夜さんも居なくて有象無象だったのか。
 つーか万全状態でも魔理沙に突破を許したんだし、考えるだけ無駄かな。
 門番があれだしなぁ……。
 いっそのこと俺を門番にした方が良くね?
 でも恐らく美鈴の方が俺より強いだろうし、やっぱ無理か。

 しっかし、ここはどこだ?
 全然知らない場所だし、まさかここでサバイバル生活をしないといけないのか?こんな生物が住んでいるのかどうかすら怪しい場所で?
 うん、無理。
 誰か迎えに来て、レミリアに咲夜さんにフラン様にパチュリーさんに霊夢に魔理沙。
 帰ろうにも道が分からない。どうしろというんだ、こんな場所で。

 警戒すべきだったんだ。宴会が終わったということは一つのイベントが終わったということ、それはつまり次のイベントを引き起こすトリガーだったということ。
 気を抜いた時にやられるんだ、気を引き締めてる時は何も起こらない。気を抜いた時に何かが起こる。
 それがこの世界の真理。
 フラグは24時間フリープレイ。
 コンティニューはできない。

「だーれかー!いーませんかー!」

 叫んでみるが、少し声が反響しただけで返答は無かった。
 妖怪どころか生物がいないと見た。
 そりゃそうだ、こんな場所に生物が住んでいるわけない。
 幻想郷の奴等ならもしかして……と思ったけど、大抵の奴ってちゃんとした家を持ってるんだよな。
 こんな家も建てられないゴツゴツした場所に住むなんて、それこそ知能の無い妖怪くらいか……。

 お、おお……なんか怖くなってきた。
 妖怪よ、現れないで下さい。
 お願いします、まだ死にたくはないんです。

「ねえ」
「ホワィ!?」

 急に背後から聞こえてきた声。
 それに驚いて跳ね上がり、携帯を取り出そうとしたが、その声が『女の子』のものだと気付いて手を止めた。
 素早く背後を見てみる。
 するとそこには、一人の少女がいた。
 フリルをふんだんにあしらった服に、黄緑色の髪。そして彼女の周囲に浮かぶ、眼を閉ざした三つ目の瞳。
 原作にも居た、無意識を操る覚妖怪。

 古明地……こいし……。

 地底にいるはずの妖怪が、なぜこんな所に?

「えーと……すんません、こいしさん、ですか?」
「ん?誰?貴方」

 どうやらこいしで正解のようだ。
 やはり俺の運はプロフェッショナルだぜ。
 こんな状況で原作キャラに出会えるとはな。

「申し遅れました。私は紅魔館の執事、有波 風羽化。以後お見知りおきを」

 そう名乗ると、彼女は一瞬だけ考えるような仕草を取った。

「紅魔館……あー、あの、一年前に紅霧異変を起こしたっていう?」

 む?何でこいしがそんな事を知っているんだ?新聞は我が館の主によって阻止されたはず。
 いや待てよ。実はあの天狗、既に何枚か配ってたんじゃないか?
 あり得る。
 くっそっ!あそこで安堵するべきじゃなかったのか!
 次に会った時……風神録になったら覚えとけよ。主人公勢と共にボコボコにしてやる。

「でさ、その紅魔館?の執事が何でこんな地底近くの場所にいるの?」

 こいしに話しかけられ、俺は元の目的を何とか思い出した。
 そうだ、今は射命丸の事なんてどうでもいい。早くここから出なければ。
 ……あれ、いや、あれ?
 何だ?さっきのこいしの言葉、何か重要な単語が入っていた気がする……。
 うーん……思い出せないって事は、大した事でもなかったのかな。
 って、違う、そうじゃない。

 集中しろ、まずは現状把握だ。
 俺は運がいい。本来、こんな状態になったら適当に彷徨う事しか出来なかったであろう。
 しかし、私の傍らには原作キャラにしてラスボスクラスの存在である、古明地こいしがいる。
 俺はここがどこだか分からない、しかしこいしはここが何処だか分かる。
 俺は妖怪と戦う力なんて持っていない。しかしこいしは持っている。
 この現状を利用しない手はあるだろうか。
 いや、ない。

「こいしさん」
「ん?なに?」
「えっと、その、私はですね、何と言いますかその……ここが何処だかわからないのです。なので、道を教えてもらえると……」

 助かります、と僅かに上目遣いをしてみる。
 0と100の能力を使ってもいいんだが……多分、俺の事だから色々ミスしまくって、最終的に遠い場所にワープしてしまう可能性もある。
 確実たる方法を取るのは、武人として大事な事だ。

「道?うーん……」

 こいしは呟くと、少し考えるように唸った。
 むぅ、少し時間をかけているな。フランみたいに即了承してくれると思っていたから、少し計算外だ。
断られたらどうしよう……俺、生きていけるかな。
 もしそうなったら、携帯様の力をお借りして何とかしよう。

「うーん、何か変な感じだなぁ。人に何かを頼まれるなんて、初めてで」

 あ、そうか、何か迷っていると思ったら、ただ人に頼られる事に慣れていなくて戸惑っているだけなのか。
 彼女、こいしは無意識を操る。
 周囲の人達は無意識のうちにこいしを見ようとしないし、こいし自身も無意識に行動する。
 気付かれない存在であるこいしが人に頼まれごとをするなんて、まず今まで無かったことだろう。
 しかし助かった。この流れだと、断られる可能性は殆ど無いだろう。

「うーん、まぁいっか。いいよ、連れてってあげる」

 こいしは道案内を快く引き受けてくれた。
 やったぜ!これで俺の生存率は跳ね上がる!
 運命よ、俺をどうにかしたくば、原作キャラ全てを俺の敵にして、尚且つ俺を別次元にでも封印するんだな!
 フハハハハ!
 ……いや、本当にされたら俺の心が折れるんで、やんないでください。

「じゃ、飛んでいこうか」
「あ、すみません、俺空を飛べないので歩きでお願いします」
「えー……ま、いいや。じゃあこっちだよ。ついてきて」
「有難うございます」

 こいしは浮いていた足を地面につけ、俺に背を向けて暗い道の先を目指して歩き始めた。
 わざわざ徒歩の俺に合わしてくれるとは、やはり妖怪、というか原作キャラは優しいやつが多いな。
 いやぁ、人の為に行動出来るのはいいことだよ。うん、いずれ大成するさ。

「そういえば有波って、何で私に気付けたの?無意識に私から目を離す筈なのに」
「え?あー、それはですね……」

 うーん、何と言ったらいいか。
 そうだな……言うなれば……。

「何かこう、オーラを感じ取ったんです。というかそう思ってて下さい」
「へー、何か凄いね」
「でしょう?」

 こうして俺達は歩き始めた。
 洞窟の奥深くへと。



数分後ーー


「ゼェー、ハァー」
「えっと、大丈夫?」

 はぁ、はぁ、思ったよりも重労働だった。
 足場が不安定かつ慣れない場所での長距離移動は骨が折れる。
 ほら、見ろよ俺の足。まるで生まれたての子鹿みたいだろう?
 心配そうに此方を度々振り返ってくれるこいしの存在なくして、俺は頑張れていないだろう。
 もしフランだったのならば抱えてダッシュくらいできるのだが、贅沢は言えまい。
 これがもし罪袋とかならば、俺は能力に頼った賭けをしただろうからな。

「それにしても寒いですね、こいしさん」

 俺のスタミナを奪っている要因の一つがこれだ。寒い、ただただ寒い。
 おかしいだろ、今は純粋な夏だぞ、なのに冬なみに寒いとはどういうことだ。働けよ、夏。

「そうだね、そろそろ春だと思うんだけどなぁ……」
「いやいや、こいしさん、春はもう過ぎましたよ。今は夏です」
「夏?夏は七月とか八月とかじゃないの?」
「そうですよ?」
「え?」
「え?」

 ……何故だ?何だか話が噛み合ってない気がしてならない。
 えーと、こいしはそろそろ春って言っていて、でも今は夏で、でもこいしも夏が何時からか知っていて……。
 あ、あれ、頭がこんがらがってきたぞ、こんなに頭悪かったっけか、俺。
 ……いや、昔から頭はかなり悪かったな。運動神経もあいつと比べて、随分と悪かったしな。
 くそっ、誰か俺の長所を見つけ出してくれ!

「あ、有波ー」
「なんですかこいしさん?私は今自分の存在について色々と……」

 こいしの声が聞こえてきた為、思考を一時停止させて目の前にいるこいしを見た。
 しかし、こいしのいる方向を見た瞬間、俺は恐らく生涯で一番の速さで携帯を取り出した。
 無数……とは言わないまでも、相当数の妖怪が、まるで壁のように目の前に立ち塞がって居たからだ。
 鬼のような風貌の奴らもいれば、犬に角がはえたような奴もいる。

 ……なぁにこれぇ。

「あ、あれ?おかしいな、この道、普段はあまり妖怪いない筈なんだけど」

 こいしが妖怪の山を見て、少し汗を流しながら呟く。
 普段はあまり妖怪がいないのか……でも俺が通った時に限って妖怪が現れる……。
 ……ふっ、やはり俺の運はパーフェクトだぜコノヤロウ。

「携帯さんお願いしまっす!『妖怪の力を0に』」

 直後、目の前の妖怪全てが地に平伏した。力が無くなり、立つことも出来なくなってしまったのだ。
 こういう命令の場合は俺にも反作用として同じ力がかかるようだが、俺は妖怪じゃないから問題なし。
 地に平伏した妖怪達はなにが起こったのか分かっていないらしく、驚いたように目を見開くもの、鬼気迫るような表情で此方を睨んでくるものもいる。

 まあいくらでも睨むがいいさ。さあ、こいつらを踏み台にして早く脱出しよう。

「よし、行きますよこいしさ……ん」

 こいしを見てみると、こいしも同じように地に平伏していた。
 『妖怪』の力を無くしたからだ。
 こいしも妖怪。味方だろうが敵だろうが、能力の定義に当てはまる存在は平等に餌食となる。
 本ッ当に融通が効かないなオイ。
 しかし、まさか置いて行く訳にもいかない。流石にそこまで外道じゃない。
 ……しょうがない、か。

「えーと、その……すみませんこいしさん!」
「え?わっ!」

 一言謝り、こいしをお姫様だっこで担いだ。背中でも良かったんだが、ちょっと走り辛くてな。
 妖怪とはいえ、やはり子供。体重はかなり軽い。これならば妖怪の屍を超えていくくらいできる。

「え、ちょっ、あ、有波?」

 こいしの顔に目を向けてみると、少し顔が赤い。
 これは……ついに俺にもモテ期が!?
 ……いや、どちらかと言うと、大した力も持ってない人間が自分を担いでる事に対する怒りか?怒りで顔が赤くなってるのか?
 そう思ったら、もうそれが正解みたいに思えてきた。
 くっ、やはり俺にこの幻想郷でハーレムを作ることは出来ないのか。

「すみませんすみませんすみません、ですがこれしか方法が無かったんです。ですので殺さないで下さい」
「な、なにいってるの?」

 よし、ここを潜り抜けたら土下座でもして許してもらおう。
 土下座の最中に首を切られないように防御力を100にしてからな。
 俺……これが終わったら紅魔館に帰るんだ……。

「よし、行くぜぇぇぇぇ!!」

 俺は妖怪を下に、走った。
 その最中に、こう思いながら。

 あれ、これって、幻想郷中の妖怪も同じ状態に陥ってたりしないよね。 
 

 
後書き
最近買ったゴッドイーター2、Wi-Fiの調子が悪いのかインターネット通信ができねぇorz
というか、今のところヒロインに一番近いのはこいしさんですね、どうしてこうなった。
だ、大丈夫だ!どうせこの小説は花映塚までしかいかないんだし、関係が深くなることもない!

……大丈夫ですからね?ヒロイン、フラン&咲夜の座は誰にも渡しませんよ? 
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