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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  082 生きたまま冥界に行けるのはおかしい


SIDE 升田 真人

「初めまして。私は西行寺(さいぎょうじ) 幽々子(ゆゆこ)。〝ここ〟──【白玉楼(はくぎょくろう)】の家主をしながら、閻魔様から幽霊の管理を任されている者です。で、こちらが〝ここ〟の庭師をしている──妖夢、挨拶なさい」

「改めて自己紹介させて頂きます。……主、西行寺 幽々子様よりご紹介に与りました、魂魄(こんぱく) 妖夢(ようむ)と申します。〝半人半霊〟と、その文字通り[半人前]な身では在りますが、先にも幽々子様のご紹介にもありました通りこの【白玉楼】の庭師にそれに兼ねて、剣術指南役を務めさせて貰っています」

然も年期が有りそうで──そして高級感溢れる卓を挟んで、桜色とも薄い紫とも取れる髪の少女──西行寺 幽々子が優雅に…その隣の、アッシュブロンドの髪で二本の刀を携えている、あどけなさを残している少女──魂魄 妖夢が(うやうや)しい態度で俺に礼をする。

(さて、どうしたものか)

そんな事を考えながら、いつもの通り平行的思考(マルチタスク)の要領で今日有った事を簡単に纏める。

……1.魂魄 妖夢と名乗る少女が【満足亭】にやって来た。2.その少女は主の遣いでやって来たらしく、〝冥界〟に着いて来て欲しいと言う。3.俺はそれに承諾してホイホイと冥界にやって来た。4.今に至る──そんな感じである。

「これはこれはご丁寧に。……私は…」

「敬語は良いわ。〝代わりに〟と云ってはなんだけど、私も普通に話させてもらうわね」

……幽々子はさっきまでの優雅佇まいからその立ち振舞いを変え、そう注釈とばかりに、俺に敬語を取り除く様に付け加える。……これはいつも思っている──わけでも無いが、俺の敬語は嘘くさいのかもしれない。

「……まぁ、態々(わざわざ)名指しで俺を呼んでるから、俺の事はある程度は知っているかもしれないが、取り敢えず俺も二方に(なら)って自己紹介といこうか。……俺の名前は升田 真人。そっちで云う顕界(げんかい)で、しがない定食屋を開いている新米の現人神(あらひとがみ)だ」

そう一礼にて返す。

「あらあら。〝月〟との(さき)の大戦で殿(しんがり)を務めた≪英雄≫殿の自己紹介にしては、(いささ)か色気が少ない自己紹介でなくて?」

「≪英雄≫って。最早否定する気も起きないが、それは一部の妖怪が言っているだけだよ」

「それにしては紫から色々な貴方に関する事を聞いてるわ。それはもう耳にタコ出来るくらいに。……〝その時〟の紫は可愛かったわよ。顔を──それこそ年頃の生娘(きむすめ)の様に、顔を真っ赤にしてて」

「ははは…」

(紫が、ねぇ…)

そうニコニコ笑顔で(のたま)う幽々子の言葉を信じられないものだった。……取り敢えずどんな反応(リアクション)をして良いのか判らないので、苦笑いで誤魔化しておく。

「でね──」

……その後は、幽々子にからかわれそうになったりしたらそれをのらりくらりと避けつつ、幽々子──時たま妖夢と四方山(よもやま)話に華を咲かせていれば、いつの間にやら夜になっていたので今夜は【白玉楼】に厄介になることになった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

――バシィン! ……バシィン!

「ん、お…?」

明くる朝。【白玉楼】の一室で、(なにがし)かの音で目を覚ます。……音の発生源を探ると、(ふすま)の向こうの、庭の方から聞こえている事が判明した。

「あれは…」

襖の向こうではアッシュブロンドの少女が〝鍛練用〟らしき木剣を振るっていた。俺は一応、一端(いっぱし)の武芸者であるつもりだ。……故に彼女──妖夢のしている事は判る。要は日課の鍛練なのだろう。

……誰も彼女の鍛練に気を向けていない事から、この【白玉楼】庭では日常茶飯事らしい。……そもそも冥界は人間が居るような土地ではないのだが。

閑話休題。

仙術で周りの〝空気〟と一体化しながら妖夢に近付いて行く。妖夢は鍛練に夢中な様子で、俺の存在には気付いてない模様。

「精が出るな」

「っ!? 何者か──って、真人さんでしたか。……あんまり吃驚(びっくり)させないで下さいよぉ…」

いきなり掛けられた声に驚いたのか、こちらに木剣を向けながら妖夢は言う。……妖夢の様子からして、ドッキリは成功したらしい。……そんな妖夢の様子に、そこはかとない──どうしようもなく稚拙な充足感を噛み締めていると、妖夢はその(かんばせ)を思い悩んでいる様な表情に変えて口を開く。

「……あ、もしかして起こしちゃいました?」

「いや、俺がいつも起きる時間帯に起きたら偶々(たまたま)妖夢が鍛練していただけだから、気にしなくて良い」

「は、はぁ…」

妖夢が一息吐いたのを確認して──先ほどの、妖夢の鍛練の一端から散見された剣の腕を見込んでふと思いついた〝ある事〟を提案をするの決め、〝倉庫〟から一振りの木剣(“デルフリンガー”と同寸)を取り出す。

「さて、こうやって妖夢の鍛練の場面に与れたのも何かの縁だろう。……そこでだ。〝剣術指南役〟である妖夢から、一手だけでも良いからご教授願いたい」

「そんな、滅相も無い! 私は昨日も申しました通り、若輩の域を出ない身空です」

「くくっ…」

俺の取り繕った態度に妖夢は然も〝恐縮〟と云った(てい)で、〝予想通り〟のリアクションをするので思わず苦笑が漏れてしまう。

「……もう、知りませんっ!」

「くくっ…はははっ…。悪かったよ、……くくくくっ…」

……そんな俺の笑みを見た妖夢は、さすがに揶揄(からか)われている事に気付いたらしく顔を林檎の様に赤く染める。……妖夢〝半人半霊〟で血色もあまり良くないので、〝赤〟が佳く映えている。……そう、妖夢を見ていて突発的に思いついた〝妖夢イジり〟は成功の様相を見せた。

……ならびに、幽々子達にはどうせ毎回の様にイジられている様だし[妖夢=イジられキャラ]と──脳内にどうでも良いメモを残しておく。……もちろん、妖夢には内緒で。どちらにしろ(あなが)ち間違っている事でもないだろう。

閑話休題。

………。

……。

…。

「……〝攻め〟は上々ですが、どうも〝護り〟になると──言いにくいのですが…」

「どうも片手落ちになっている──だろう?」

妖夢の機嫌が直った頃合いにもう一度手合わせの提案を──今度は普通にしたら、妖夢は承諾してくれた。……〝剣技〟のみで妖夢と立ち合おうと思った試合の結果は──科白(せりふ)から察する事が出来るかもしれないが俺の負けである。

最初は圧せていたのだが、次第に妖夢の二刀流の連撃に呑まれ──計214合の打ち合いの末、妖夢の〝長い方の木剣〟の(きっさき)が俺の喉元を捉えた。……つまりは、〝純粋なる剣技〟に()いて負けたの事になる。……それについては、やはりと云うべきか。一端(いっぱし)の〝剣士〟として悔しいものがある。

「……それに私の所感ですが、そもそも真人さんは〝剣〟が合っていないのではないですか?」

「いや、まぁ…な」

痛いところを突かれる。……俺が得意なのは〝槍〟である。しかし自覚しつつも〝剣〟を振るっている理由──それは“デルフリンガー”がその理由の大半を占めている。デルフリンガーは良くも悪くも数十年来の相棒だ。

(〝それ(デルフリンガー)〟を捨てるなんてとんでもない──ってか?)

「どうかしましたか?」

「いや、なんでも無いさ」

そうして、多少の課題を残しつつも【白玉楼】を後にするのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「すっかり忘れていた…」

―ああ、そう言えば貴方って死んでるの生きてるの? 貴方まるで〝生きてるのに死んでる〟みたいよ―

幽々子にそう言われるまで“死なない遺伝子(アンデッドジーニアス)”──不死のスキルで〝月〟で〝不死〟になり〝死〟を遠ざけるのを止めるの忘れていので、【白玉楼】からの帰りの道中で“死なない遺伝子(アンデッドジーニアス)”の行使を終了しておき、〝死んでしまうよう〟にしておく。

「……あ、もしかして」

幽香と引き分け──妖夢負けた理由が判った気がした。……おそらくだが、〝死ななかったから〟こそ負けた──ないしは引き分けてしまったのだろう。……尤もながら、今となっては言い訳にしかならないが。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE OTHER

【白玉楼】。そこは文人・墨客が死後に行くといわれる楼閣だが、〝幻想郷〟での【白玉楼】は、冥界に存在する広大な建物で、その広さは200由旬──大体1440キロメートル(1由旬=7.2キロメートル換算)は有ると云われている。主人は西行寺 幽々子。庭師兼剣術指南役として魂魄 妖夢や、多数の幽霊が住んでいる。

「……妖夢はどう思った?」

「悪い人には思いませんでしたよ? ちょっとからかわれてしまいましたけど」

その【白玉楼】の一室で〝主人〟と〝庭師兼剣術指南役〟が呑気にお茶を啜っていた。否──その主従コンビだけでなく…

「だ──そうよ。紫? ちなみに私からの彼への心象は悪くないわ。……少々〝おっちょこちょい〟なところはあるけれどね」

幽々子は居ないはずの人物に話し掛ける。すると幽々子と妖夢だけだった空間に1人の闖入者──八雲 紫が〝空間を裂いて〟現れる。……主人の親友──紫の来訪を察知した妖夢はすぐに幽々子の隣に控える様な恰好になる。

「……真人が〝店〟に居ないと思ってここに来てみれば…。……あぁ、妖夢は別に楽にしてて結構よ。この来訪はお遊びみたいなものだから。藍も居ないしね」

「はぁ」

紫の言葉を受けた妖夢は姿勢を楽にする。

「見定めていたのよ。貴女の想い人の為人(ひととなり)を」

「まったく幽々子ったら…。過保護過ぎないかしら?」

「そう、かもね」

「「ふふっ」」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ぶぁっくしょいっ!」

「風邪ですか、マスター?」

一方、こんな一幕が有ったり無かったりしたらしい。

SIDE END 
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