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ゲリラ

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4部分:第四章


第四章

「それはいいか」
「いえ、それは」
「そうだな。破りたいな」
「何としても」
「そういうことだ。こうするしかない」
 アーカスも苦いものを噛み締めてだ。言うのであった。
「フランスに勝つ為にはな」
「そうですか」
「犠牲がどれだけ大きく酷くなろうとも」
 アーカスは言った。苦い声で。
「こうするしかないのだ」
「では我々は」
「これまで通りゲリラ達に武器と燃料を渡す」
 決定事項だった。覆すことなぞ考えられないものだった。
「わかったな」
「わかりました」
「それと同時に我々も戦うがな」
 こう話してだった。彼等はゲリラ達に武器と弾薬を渡し続けた。戦闘を続けながら。
 このゲリラ戦術によりフランス軍はさらに追い詰められだ。遂にはどうしようもなくなった。これは確かにかなりの効果があった。
 フランスはこのことで消耗しやがてロシアで無惨な敗北を遂げ遂にはナポレオンは失脚した。フランスは敗れイギリスは勝った。しかしだった。
 ワーテルローの戦いにも勝ち勝利に沸き返るイギリスの中でだ。アーカスは浮かない顔でだ。一人酒を飲んでいたのであった。
 そうしてだ。その彼のところにだ。アーカスが来たのだった。そのうえで彼に言ってきたのである。
「どういた、暗いな」
「ええ、まあ」
「イギリスは勝ち卿も昇進したのにか」
「それでもですね」
 その浮かない顔で述べる彼だった。
「この勝利は」
「苦いか」
「ワーテルローはいいですよ」
「見事な勝利だったな」
「ですが」
 オーグルはだ。浮かない顔で話す。
「その為にです」
「スペインのことか」
「多くの血が流れました」
 そのことは忘れられなかった。決してだった。
「しかも惨たらしくです」
「そのことだな。しかしだ」
「しかしですか」
「イギリスは勝った」
 アーカムが言うのはこのことだった。それを言うのだった。
「それは事実だ」
「ではあの人達は」
 オーグルは難しい顔でだ。また言った。
「犠牲ですか」
「そうなるな。彼等は犠牲だ」
「イギリスの勝利の為に。スペイン人達が」
「スペインも勝利した」
 アーカムはオーグルの横に来た。そのうえで彼も酒を頼んでだ。それを前にしてまたオーグルに対して自分の言葉を出すのだった。
「フランス軍が退いたことによってな」
「そのフランス軍がですね」
「我々はその勝利の手助けをしたのは」
「詭弁ですか」
「詭弁ではない」
 アーカムはそのことは否定した。
「事実だ」
「そう言えるのですね」
「言える。一面において事実だ」
 それと共にだった。彼はこうも言った。
「しかし君の言葉もだ」
「詭弁というそれですか」
「それもまた事実だ」
 このことも認めるのだった。
「スペインでは実際に多くの血が流れたのだからな」
「ですから私は。とても」
「気持ちはわかる。私も同じだ」
「大佐もですか」
「そうだ。嫌なものだな」
 彼は酒を飲んでいなかった。自分の前に置かれたそれを見たままだ。オーグルにこう言ったのだった。冷たく硬くなった声でだ。
「勝利の裏では何があったのかを知るということはな」
「全くですね」
「イギリスは勝ちスペインはフランスを追い出した」
 このことは事実だった。紛れもなくだ。
「だが。その為に何があったか、何をしなければならなかったか」
「知っていると」
「勝利も祝えないな」
「そうですね、本当に」
 二人で話すのだった。彼等は勝利の美酒は飲めなかった。とてもだ。
 スペインでのことはゴヤが絵に残している。グロテスクであり醜悪でもある一連の絵はどれも正視に耐えないものがある。だがそれは紛れもなく現実を描いたものである。それは間違いない。
 そしてこの戦争だけではなくだ。これ以降ゲリラ戦というものが度々起こるようになった。それによって得られた勝利は確かに多い。だがそれ以上に犠牲が出てしまっている。惨たらしい悲劇も頻発している。それもまた現実だ。それが何時終わるのかは誰も知らないしわからない。絵に残したゴヤやオーグル達は今も行われているそれを見てどう思うかもだ。それも同じことである。


ゲリラ   完


           2010・11・30
 
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