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カエサルと海賊

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6部分:第六章


第六章

「ちゃんとこっちに持って来たからな」
「えっ、持って来たって」
「船をかい?」
「まさかと思うけれどな」
「それは」
「そうだ。見るのだ」
 カエサルはこう言って海の方を指し示す。するとだ。
 そこに見事な船があった。海賊達がこれまで乗ったことのないまでのだ。そうした見事な船がだ。そこにあったのである。
「あれを御前達にやろう」
「何と」
「あんな立派な船をか」
「俺達にか」
「そうだ、そしてだ」
 そうしてだった。カエサルはさらに話すのだった。
「当面の生きる為の金も用意した」
「それも俺達にっていうのかい」
「くれるのか」
「海賊にか」
「それで海賊から手を洗って漁師でも商人でも何でもなるといい」
 またこう言うカエサルだった。
「アレクサンドリアでも何処でも行ってな」
「わかった。ではな」
「そうさせてもらう」
「信じられないが」
「御前達が根っからの悪人ならここで処刑していた」
 カエサルは笑いながら今度はこんなことを言ってきた。
「しかし御前達はそうではないからな」
「だからか」
「それでだというんだな」
「俺達にここまでしてくれるのは」
「そういうことだ。では海賊から足を洗って真面目に暮らすようにな」
「わかった」
「じゃあそうさせてもらうな」
 海賊達もカエサルのその言葉に頷く。しかしだった。
 ここでだ。彼等は不意にこう思うのだった。
「しかしな。当面の金といい」
「用意してくれた船もな」
「それにこれだけの軍も連れて来たしな」
「金はどうしたんだ?」
 彼等は今度はこのことについて考えだした。
「一体全体どうして」
「どうしてこれだけの金を用意できたんだ」
「あんた金持ちらしいが」
「それでか?」
「ああ、それはな」
 カエサルはしれっとした調子でこう答えたのだった。
「借りた」
「借りた!?」
「借りたって!?」
「どういうことだよ、それって」
「何なんだよ」
「借金だ」
 それだとだ。平気な顔で答えたのだった。
「全部借金だ。金はいつもそうして作っている」
「何っ、これだけのことを全部借金でか」
「あんた正気か!?」
「これだけのことを全部借金でやるなんて」
「どういうつもりなんだ」
「何かおかしいか?」
 海賊達のその言葉にだ。何でもないといった顔で返すカエサルだった。
「金は借りる為にあるだろう。違うのか」
「いやいや、軍に船って」
「どれも尋常なもんじゃないだろ」
「それを全部借金でするって」
「どんだけの額になるんだよ」
「いいではないか。借金も財産だ」
 カエサルは本当に何も思っていない。むしろ誇りにさえ思っているふしがあった。
「そういうことでな」
「恐ろしい男だ」
「そうだよな。こいつ、まさか」
「かなりの大物なんじゃないのか?」
「やっとわかったか」
 その大物という言葉にすぐ反応するカエサルだった。
 満面の笑みになってだ。彼は言うのだった。
「私は必ず大きなことをするからな。何処かで真面目に生きてその有様を見ているのだ」
「何か俺達が会っている奴ってな」
「だよな。少なくともな」
「普通の奴じゃないな」
「それはわかったよ」
「では達者でな」
 唸るしかできなくなった彼等にだ。カエサルは明るい声をかける。
「機会があればまた会おう」
「ああ、じゃあな」
「縁があればまたな」
「会おうな」
 海賊達も結局は笑顔になってカエサルに返す。彼等もそんな彼に対して妙に魅力を感じているのも事実だったのだ。
 カエサルの若き日の話である。この海賊達は俗には処刑されたことになっている。だがこの後どうやらアレクサンドリアに移りそこで商人をしていたらしい。そこに戦でやってきたカエサルと再会してだ。本当に大物になった彼に妙に納得したという。カエサルにまつわる多くの話の一つである。


カエサルと海賊   完


                2010・12・5
 
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