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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―一手―

 ――生きてる。

 最初に思ったことはそれだった。次にサイバー・エンドに討ち滅ぼされる自分と、こちらをただ見据えてくる亮の姿。この世界で敗れた者は消える運命の筈だが、どうやら自分は生きているらしい……いや、もしかしたら地獄か何かか。

 両手足が無事に動く感覚と、デュエルディスクの感覚はある。それだけ確認できれば充分だとばかりに、俺はゆっくりと目を開けた。

 そこに広がっていたのは、幸いなことに地獄ではなく。満点の星空と見渡す限りの砂地……と、自分が今までいた異世界の姿と遜色ない。

 しかし、そんなことより遥かに重要なのは。

「エクゾディオス……?」

 自分が敗れたにもかかわらず、まだ世界に現存しているエクゾディオス。そして、そんな神のカードの前に立つ一人のデュエリスト――カイザー。亮の前にはモンスターはおらず、それでもエクゾディオスは亮に迫っていた。

「亮……亮っー!」

 ――そして、時は少し遡り。

「…………」

 遊矢を必殺の一撃で仕留めた亮は、しばし黙祷を捧げるように目をつむる。弟を守るために地獄が見える地平を目指そうとも、こんな形で決着をつけたくなかった、と親友を悼み――すぐにそれを中断する。

「……カイザー――」

「――近づくな十代!」

 デュエルが終わったからか、駆け寄ろうとしてくる十代たちを制止する。まだデュエルは終わっていない、と確信した亮は辺りを注意深く観察する。

「エクゾディオスが消えていない……!」

 亮に続き気づいた三沢が呟くと、十代たちも遅れて警戒する。神のカード――その恐ろしさを身を持って知っている彼らにとって、不気味にも動かないエクゾディオスは不気味な様相を呈していた。

 ……そしてエクゾディオスの背後から、ゆっくりとその人物が歩み寄ってきた。理知的な雰囲気を漂わせた青年であり、その顔には笑みが浮かんでいた。

「お前は……」

「アモン!?」

 その現れた人物に面識がなかった亮の代わりに、十代が驚愕の意を示す。その十代の名前で亮もアカデミアに来ている留学生、という話を聞いたことを、亮も思い出したが……臨戦態勢を解くことはなかった。

「流石はカイザー亮。その名に違わぬ腕前だ」

「……そういうお前は、随分と物騒な気配をしているようだが」

 面々からの疑惑の視線を受け流すと、アモンは先のカイザー亮のデュエルに拍手を送る。その後、懐からゆっくりと一枚のカードを取りだした。

 ――《封印されしエクゾディア》。

「元々そこの神のカードは僕のなんだが……遊矢くんに奪われるついでに殺されてしまってね。取り返しに来たのさ」

 以前遊矢に敗北したアモンは、この世界の宿命通りに消え去ることとなった。だが、手に入れていた《エクゾディア・ネクロス》の力で脱出……この異世界に戻ってきていた。もちろん、そんなことを亮が知る由もないが、それでも亮は臨戦態勢を解かなかった。

「悪いが、ここでそのエクゾディオスのカードは破壊させてもらう。誰のものだろうとな」

「それは困るな。このカードの力を使って、僕は王になるのだから」

 その声とともに、《神縛りの塚》に封じられていたエクゾディオスが雄叫びをあげると、一枚のカードとなってアモンの手の内となる。アモンはその《究極封印神エクゾディオス》のカードを、わざわざ挑発するように亮に見せてから、デッキに投入しデュエルディスクを構える。

「どうやら神も君にお怒りのようだ。……このまま君を生贄に捧げてみせろ、と言っている」

「……いいだろう」

 再び亮もデュエルディスクを構えると、そのフィールドに《サイバー・エンド・ドラゴン》が再出現する。さらに伏せられていたリバースカードも現れ、どうやら『このまま生贄に捧げる』という言葉通り、先の遊矢とのデュエルを引き継いでいるらしい。……その極限まで減ったライフポイントと、残り少ないデッキ枚数すらも。

「無茶だお兄さん! そんな引き継ぎなんて……」

「いやシニョール翔。カイザーの好きなように、やらせてあげるノーネ……」

 あまりにも無謀なそのデュエルに対し、制止に行こうとする翔をクロノス教諭は引き止める。確かに絶望的な状況ではあるが、亮のフィールドには切り札たる《サイバー・エンド・ドラゴン》に、墓地には数え切れないほどの布石となりうるカード。アモンがエクゾディア……ないしそれに類するカードを使うのならば、ライフがいくら減っていても、その前に相手のライフを削りきらねばならない。

「ありがとうございます……クロノス先生」

 ――それに加えて、今から新たなデュエルを始められる程の余力は、もはや亮には残されていない。

「よく見ておくんだ、十代」

「カイザー……」

 先の遊矢のデュエルでのダメージが色濃く残りながらも、平静を装って構えるカイザーの姿から、目をそらそうとする十代だったが、三沢の言葉で静かに見守ることを選択した。

「フッ、英断だな」

「鬼にならねば見えぬ地平がある……」

 ……それに加えて、カイザーにはこのデュエルを引き継いで行う理由が、もう一つあった。遊矢とのデュエルをアモンが引き継いだ事により、先のデュエルの決着はまだ付いていない。よってこのデュエルを受けさえすれば、親友の命を助けられることが確定する。

『デュエル!』

亮LP800
アモンLP4000

亮、フィールド(引き継ぎ)
サイバー・エンド・ドラゴン
リバースカード、一枚

 ……ただ、その代償はあまりにも重い。
「俺のターンの続きからだ。メインフェイズ2、《サイバー・ジラフ》を召喚する」

 そして開始される変則デュエル。カイザーのメインフェイズ2から開始され、新たなサイバーモンスターを召喚する。

「《サイバー・ジラフ》をリリースすることで、このターン俺は効果ダメージを受けない。ターンを終了」

 まだ亮のフィールドには、《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合した際に使用した、《パワー・ボンド》の効果が残っている。そのデメリット効果により、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力分のダメージが発生するが、そこは《サイバー・ジラフ》の効果で防ぐ。特に動きを見せることはなく、まずはアモンの手を様子見か。

「よくやる……だが、手を抜いたりはしない! 僕のターン、ドロー!」

 満身創痍の亮を見たところで、アモンの決意は揺るがない。彼にとて勝たねばならぬ理由はあり、手をゆるめる理由はない。

「僕は《死者への手向け》を発動! 手札を一枚捨てることで、相手モンスターを破壊する! 破壊するのは当然、《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

「サイバー・エンド……!」

 手札一枚をコストに相手モンスターを破壊する魔法カード、《死者への手向け》によって頼みの《サイバー・エンド・ドラゴン》は一瞬のうちに破壊されてしまう。いくら攻撃力を倍にしようと、この状況では無力だった。

「そして魔法カード《ナイト・ショット》を発動! 相手のセットされているカードを破壊する!」

「…………」

 そして《死者への手向け》に引き続き、セットされていた罠カード《DNA改造手術》までもが破壊され、亮のフィールドには何のカードもなくなってしまう。もちろん、アモンがそこで行動を止めるはずもなく。

「さらに《クリッター》を召喚し、バトル!」

 サーチャーの代表格たるモンスター、《クリッター》がアモンのフィールドに召喚される。その攻撃力は僅か1000ではあるが、亮のフィールドにモンスターはなく、そのライフを削りきって余りある。

「まさか、こんなあっけない結末じゃあないだろう? クリッターでダイレクトアタック!」

「……墓地から《ネクロ・ガードナー》を除外することで、攻撃を無効にする」

 《未来破壊》で墓地に送っていた《ネクロ・ガードナー》の効果が発動し、《クリッター》の攻撃を亮に届くまでに防ぎきる。肝心のエクゾディオス相手には、《神縛りの塚》の効果もあって活躍は出来なかったものの、引き継いだこのデュエルでは亮の命を救ってみせる。

「防がれたか。ならばカードを一枚伏せ、僕はターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 アモンは攻撃が防がれたことに驚きを見せず、カイザーは着々と反撃の為の手札を蓄えていく。一見動きのない地味な戦いだが、どちらもが一瞬たりとも油断を見せなかった。

「……カードを二枚伏せる」

 しかし、カイザーの手はやはり鈍い。遊矢のエクゾディオスを打倒するためにあらゆる手段を使った亮のデッキには、もはや次なる手は限られた数しか存在しなかった。頼みの《サイバー・エンド・ドラゴン》は破壊され、三枚の《サイバー・ドラゴン》とサイバー・ダークは、それぞれ《サイバネティック・フュージョン・サポート》、《サイバー・ダーク・インパクト》によって除外されてしまっている。

 ……要するに、亮にはもうキーカードがないのだ。それでも、キーカードを回収出来るカードを待つ。……ただカイザー亮という男は、待っている間に防御をするだけ、などという芸のないデュエリストではない。

「さらに《サイバー・ダーク・エッジ》を召喚!」

 召喚されるサイバー・ダークの一角。二枚目となるこのカードのみでは融合は不可能だが、その効果は遺憾なく発揮される。

「墓地の《ハウンド・ドラゴン》を装備し、その攻撃力を得る。よって《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃力は2500」

 先のデュエルで墓地に送られていた《ハウンド・ドラゴン》がまたもや装備され、《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃力は2500という上級レベルにまで到達する。もちろん、ただのサーチャーであるクリッターとは比べるまでもない。

「バトル。《サイバー・ダーク・エッジ》は、与えるダメージを半分にすることで、ダイレクトアタックを可能とする。カウンター・バーン!」

「なに……うぐっ!」

アモンLP4000→2750

 遊矢とのデュエルでは発揮すべきタイミングがなかったが、《サイバー・ダーク・エッジ》としての固有の能力は、相手モンスターを無視してのダイレクトアタック効果。与えるダメージは半分になってしまうが、それでも1250ダメージと、ダイレクトアタッカーとしては驚異的な数値。破壊されてもエクゾディアパーツをサーチするだけだろう、《クリッター》を避けつつアモンへ手痛い一撃を与えることに成功する。

「ターンエンド」

「僕のターン、ドロー!」

 これで亮のフィールドには攻撃力2500の《サイバー・ダーク・エッジ》に、一枚のリバースカード。ライフポイントは残り800。

 対するアモンのフィールドは、クリッターとリバースカードが二枚。ライフは残り2750ポイント。

「君が破壊してくれないなら、自ら破壊するまでだ。魔法カード《ドールハンマー》を発動!」

 アモンの発動した魔法カードから、玩具のような大槌が出て来たかと思えば、自分のモンスターであるクリッターを押し潰した。おもちゃの大槌がなくなったかと思えば、そこにはクリッターではなく二枚のカードが浮遊していた。

「《ドールハンマー》は、自分のモンスターを破壊する代わりに、二枚のドローを可能とする。その後、相手モンスターの表示形式を変更する効果もあるが……そちらは必要ない」

 自分のモンスター一体を代償に、二枚のドローと相手モンスターの表示形式変更を可能とする魔法カード。ただ、《サイバー・ダーク・エッジ》の表示形式を変える必要はないという。……サイバー・ダークシリーズは、その攻撃力とは裏腹に守備力は低いというのに。

「さらに破壊された《クリッター》の効果を発動。デッキから攻撃力1500以下のモンスターを手札に加える」

 それが意味することとは、攻撃力2500の《サイバー・ダーク・エッジ》を正面から破壊することが出来る、ということ。恐らく、今し方《クリッター》によってサーチされたモンスターを使って……

「さらにリバースカード、《リミット・リバース》を発動。墓地から攻撃力1000以下のモンスター……《クリッター》を蘇生し、《マジック・プランター》を発動。《リミット・リバース》を破壊し二枚ドロー」

 攻撃力1000以下のモンスターを蘇生する効果を持つ罠カード《リミット・リバース》だったが、即座に《マジック・プランター》によって破壊され、二枚のドローへと変換される。それと連鎖的に反応して《クリッター》もまた破壊されてしまう。せっかく蘇生したところで、本体である罠カードが破壊されてしまえば、モンスターも破壊されるデメリットが容赦なく纏わりつく。

 ……だが、その破壊をトリガーとするモンスターと組み合わせれば。

「再び破壊された《クリッター》の効果を発動。攻撃力1000以下のモンスター……エクゾディアパーツを手札に加えさせてもらおう」

 二回のサーチによって手札に加えたのだろう、二枚のエクゾディアパーツをアモンは亮に示す。それらを手札に加えた後、さらに一枚の魔法カードを亮に見せびらかすように発動する。

「このカードは手札、墓地にそれぞれ五種類のエクゾディアパーツがある時、墓地のエクゾディアパーツを全てデッキに戻すことで発動出来る!」

 そのカードの発動コストとして、まずアモンは墓地からエクゾディアパーツを二枚選択し、デッキに戻していく。

「二枚だと……?」

 その魔法カードの発動条件もさることながら、アモンの語った台詞に亮はやや違和感を覚える。手札に二枚のエクゾディアパーツがあることは、先程の《クリッター》によるサーチの為に分かっている。そして一枚は自力で引いていたのだろう、ということも。だが、墓地に二枚のエクゾディアパーツとは……アモンが手札を墓地に送ることの出来たチャンスは、《死者への手向け》の発動コストのみだった筈だが……

 いや、もう一つエクゾディアパーツを墓地に送るシーンがあった。しかしそれはアモンではなく、先のデュエルでのこと――

『バトル! 《究極封印神エクゾディオス》で、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》に攻撃! エクゾード・ブラストォ!』

 ――エクゾディオスは攻撃する時、デッキから一枚通常モンスターを墓地に送る効果がある。遊矢があの時、エクゾディオスの効果で墓地に送っていたカードは、十中八九エクゾディアパーツ。

「気づいたか? 黒崎遊矢のデュエルを引き継いだんだ、墓地に一枚のエクゾディアパーツは既に送られている。さらに手札の二枚のエクゾディアパーツを墓地に送ることで、魔法カード《究極封印解放儀式術》を発動!」

 手札の二種類のエクゾディアパーツを墓地に送ることで、アモンの手札に一枚のカードが現れる。その魔法カードの名前から察するに、効果は――

「デッキから現れよ! 《究極封印神エクゾディオス》!」

 ――やはり、エクゾディオスを特殊召喚すること。月の光が照らしていた異世界に、突如として雷鳴が轟き、その光とともに《神》が降臨する。遊矢が使っていた時とはまた違う、完全に封印が解放された神のカード――エクゾディオス。

「さらに《神縛りの塚》を発動し、バトルを行う!」

 遊矢も使用していたフィールド魔法、《神縛りの塚》がまたもや発動されるものの、その鎖はエクゾディオスを封印する気配は見られない。むしろ、エクゾディオスの力を高めているような……見せびらかしているような。それでも《神縛りの塚》の効果は適応され、効果の対象にならず効果によって破壊もされない。

「エクゾディオスは墓地のエクゾディアパーツの攻撃力×1000ポイント、攻撃力がアップする……よって、現在の攻撃力は2000ポイント」

 攻撃力の算出方法すら遊矢が使用していた時と違い、通常モンスターではなくエクゾディアパーツ指定となり、最初から2000ポイントの攻撃力を備えている。亮のフィールドにいる《サイバー・ダーク・エッジ》の攻撃力は2500だが……エクゾディオスの効果を前にしては、その程度の攻撃力の差は誤差にすぎない。

「黒崎遊矢が使役していた不完全な暴走状態とは、もはや別物だと思え! エクゾディオスでサイバー・ダーク・エッジに攻撃、天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 エクゾディオスは攻撃時に効果を発動し、デッキから一枚エクゾディアパーツを墓地に送ることで、その攻撃力を1000ポイントアップさせる。《サイバー・ダーク・エッジ》との攻撃力の差分は、僅か500ポイントではあるが、それでも充分な威力をエクゾディオスの一撃には込められていた。

「くっ……!」

亮LP800→400

 もはや残り少ないライフポイントもさることながら、エクゾディオスの攻撃に込められた衝撃が、傷ついた亮の身体に襲いかかる。奥歯を噛みしめて意識をハッキリさせると、亮はエクゾディオスを見据えた。

「《神縛りの塚》の効果により、レベル10以上のモンスターが相手を破壊した時、1000ポイントのダメージを与える」

「だがサイバー・ダークは、装備しているドラゴンを身代わりに、破壊を無効にする。よって、その効果は適応されない」

 《神縛りの塚》の効果の発動条件は、あくまで戦闘破壊をすること。《サイバー・ダーク・エッジ》は《ハウンド・ドラゴン》を盾にすることで、エクゾディオスの攻撃を何とか耐え忍んでいた。だが《ハウンド・ドラゴン》を失ったことにより、そのステータスは下級相応にまで落ち込み、もう戦力にはなりそうもない。

「ふん、ターンを終了しよう」

「……俺のターン、ドロー」

 遂にエクゾディオスの降臨を許してしまったが、亮はまだこのデュエルを捨ててはいない。あまりにも少ない選択肢の中、カイザーは次に繋げる可能性を持ったモンスターに賭ける。

「俺は《サイバー・ヴァリー》を召喚し、効果を発動」

 召喚されるやいなや、すぐさま効果の発動を宣告する。《サイバー・ヴァリー》は三つの効果を持っているが、このタイミングで発動でき、亮が発動するのは第二の効果。

「このカードとモンスターを除外することで、二枚ドローする」

 《サイバー・ヴァリー》と効果によって生き延びた《サイバー・ダーク・エッジ》を代償に、亮は更なるドローを果たす。……だが、もはやそのデッキの枚数も数えるほどしかなく。

 ――残されたキーカードを引く可能性も高まる。

「このモンスターは、墓地の光属性・機械族モンスターを任意の数だけ除外することで、特殊召喚出来る!」

「ほう……?」

 亮の墓地に溜まっていたモンスター。その中でも光属性・機械族という条件を持った、八体のモンスターが時空の穴に吸い込まれていく。その八体のモンスターを、吸い込むごとに巨大になっていく時空の穴から、新たなモンスターが姿を現す。

「出でよ、《サイバー・エルタニン》!」

 亮の切り札たる《サイバー・エンド・ドラゴン》にも勝るとも劣らぬ巨大さ、そして威圧感を放つ《サイバー・ドラゴン》を必要としないもう一つの切り札、《サイバー・エルタニン》。その効果も切り札に相応しく。

「《サイバー・エルタニン》の攻撃力は、除外したモンスターの数×500ポイントとなる。そしてこのモンスターが特殊召喚された時、フィールドのモンスターを全て墓地に送る!」

 これこそが亮が待ち望んでいた切り札。エクゾディオスには《神縛りの塚》により、効果の対象にならず効果破壊も受けない、という耐性が付与されているが……《サイバー・エルタニン》ならば、そのどちらの耐性も無視して、エクゾディオスを除去出来る。

「コンステレイション・シージュ!」

 亮の号令とともに、《サイバー・エルタニン》の八つの首が一斉に砲撃を放ち、フィールドの全域を焼き払っていく。ただし《サイバー・エルタニン》を除き、フィールドにいるのはエクゾディオスのみ……よって、その火力は全てエクゾディオスに向けられる。

 白煙がフィールドを支配し、全てを焼き払った後に残ったのは《サイバー・エルタニン》のみ――

「なっ……!?」

 ――そのはずだった。

「フッ……フフフ。笑わせてくれるな、カイザー……言ったはずだ、黒崎遊矢が使っていた不完全体と一緒にするな、とな」

 アモンの言っている通り、アモンが使うエクゾディオスと遊矢が使っていたエクゾディオスは、もはや似て非なる全くの別物と化していた。《邪心経典》の力で無理やり封印を解いた遊矢とは違い、アモンは正規の手段――愛する人を生贄に捧げ、エクゾディオスを手にしようとした。一足先に遊矢が手に入れていたため、その時は手に入らなかったが……今はもう、完全にアモンの手の内にある。

「《神縛りの塚》がなかろうと、エクゾディオスは他のカードの干渉など受けない。まさしく神なのだから!」

「……バトル。《サイバー・エルタニン》で、エクゾディオスを攻撃。ドラコニス・アセンション!」

 遊矢は制御と耐性の付与に《神縛りの塚》を必要としていたが、アモンはもうそれらは必要としていなかった。他のカードの干渉を受けないと言えど、単純な戦闘破壊ならば……と、亮は《サイバー・エルタニン》に攻撃を命じる。先程の効果の時のように、八つの光弾がエクゾディオスに迫る……が。

「エクゾディオスは相手のカードの効果は受けつけず、破壊されない」

アモンLP2750→1750

 戦闘ダメージは与えられたものの、戦闘破壊は無効にされてしまう。今の一撃でアモンのライフは半分を切ったものの、このまま攻撃していく訳には行くまい。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

「僕のターン、ドロー!」

 頼みの《サイバー・エルタニン》が封じられ、亮はリバースカードを一枚伏せただけでターンを終える。相手のカードの効果を受けない、ということは、《DNA改造手術》からの《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》すらも、実質封じられたも同義だった。

「バトル。エクゾディオスで《サイバー・エルタニン》に攻撃! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 エクゾディオスが雷撃を放つ前にその効果が発動し、デッキから一枚エクゾディアパーツを墓地に送ることで、その攻撃力は4000にまで達する。亮の《サイバー・エルタニン》と同じ攻撃力ではあるが、エクゾディオスは戦闘破壊耐性を備えているため、破壊されるのが一方的なのは明白。さらにアモンのフィールドには、戦闘破壊時に相手に1000ポイントのダメージを与える、《神縛りの塚》が存在している……!

「速攻魔法《ダブル・サイクロン》を発動! こちらの伏せカードと、《神縛りの塚》を破壊する!」

「ほう……」

 亮が伏せていた三枚のリバースカードの中の一枚、《ダブル・サイクロン》がその姿を見せるとともに、亮の伏せカードと《神縛りの塚》を破壊する。遊矢のようにエクゾディオスの制御に《神縛りの塚》を必要としないアモンは、特にその破壊に頓着することもなく、そのまま攻撃を続行する。《神縛りの塚》が破壊された時の第三の効果も、アモンのデッキに対象のモンスターがいないため発動されない。

「…………っ!」

 エクゾディオスの放った雷撃に、亮の切り札の一種たる《サイバー・エルタニン》はあっさりと破壊され、地平に落とされ大爆発を起こす。……鎧袖一触とでも言うべきか、同じ攻撃力とは感じられないほど、《サイバー・エルタニン》は、一太刀も浴びせられず破壊されてしまう。

「……亮!」

 ――ここまでが遡っていった時であり、遊矢が目を覚ますまでのデュエルだった。

「遊矢!?」

 生きていた遊矢に対して三沢が驚きの声をあげるが、遊矢はそれに対して反応することはなく、アモンの元に……エクゾディオスの元へ向かう。

「アモン……お前……!」

「黙って見ていろ、黒崎遊矢。もうお前にエクゾディアを駆る資格はない」

 身体の感覚を取り戻した遊矢は、そのままアモンに詰め寄ろうとするものの、エクゾディオスの雷撃がその行く手を阻む。その雷撃こそが、エクゾディオスの本当の持ち主を表していた。

「遊矢、お前はまだ見ていろ。この神は……俺が倒す」

 こんな状況で何を言っているのか――と、そう返そうとしたアモンの表情が、亮のフィールドを見て驚愕に包まれる。破壊したはずの《サイバー・エルタニン》の爆心地から、五体のモンスターが現れており、亮のフィールドを埋め尽くしていたのだから――

「《ダブル・サイクロン》で破壊したカードは、永続罠《サイバー・ネットワーク》。このカードは破壊された時、自分の魔法・罠カードを破壊する代わりに、除外されている光属性・機械族モンスターを可能な限り特殊召喚する」

 さらにバトルフェイズが行えなくなるデメリットもあるが、今はアモンのターンのバトルフェイズ、その効果は関係のないことだ。除外ゾーンから特殊召喚されたのは、《サイバー・ヴァリー》に《サイバー・ジラフ》、そして……三体の《サイバー・ドラゴン》。

「まさかな……カードを一枚伏せ、ターンエンド……」

「俺のターン、ドロー――」

 カイザー亮のフィールドに三体の《サイバー・ドラゴン》が揃った時、次に行われるべき行動は確定している。亮はドローしたカードを一瞬だけ見たのと同時に、デュエルディスクへとセットする。

「――俺は《融合》を発動! 《サイバー・ドラゴン》三体を融合し、現れろ! 《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

 ――そして降臨する、亮の最も信ずる最強の切り札――《サイバー・エンド・ドラゴン》。先程のデュエルと同様に、神のカードたる《究極封印神エクゾディオス》にも怯まず対峙する。

「そして《サイバー・ヴァリー》の効果を発動し、《サイバー・ヴァリー》と《サイバー・ジラフ》をリリースし、二枚ドロー……バトル!」

 だが《サイバー・エンド・ドラゴン》と言えども、その攻撃力は通常の《融合》で召喚されたため、あくまで4000止まり。それでは先の《サイバー・エルタニン》と同じであり、それではエクゾディオスには及ばない。そこでまたもや《サイバー・ヴァリー》の効果が発動され、さらに二枚のカードをドローし……亮はバトルフェイズへの移行を宣言する。

「《サイバー・エンド・ドラゴン》で、《究極封印神エクゾディオス》に攻撃! エターナル・エヴォリューション・バースト!」

「迎撃しろ、エクゾディオス! 天上の雷火 エクゾード・ブラスト!」

 《サイバー・エンド・ドラゴン》と《究極封印神エクゾディオス》の攻撃がぶつかり合い、雷撃と光弾が辺りに拡散していく。ただ、それでもやはり、エクゾディオスの攻撃が有利……な瞬間、亮の手札から新たなカードがかざされた。

「速攻魔法《決闘融合-バトル・フュージョン》を発動!」

 決闘融合。そのカードの効果は融合モンスターが戦闘する際、相手モンスターの攻撃力を融合モンスターに加える、という効果。エクゾディオスの現在の攻撃力、4000が《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力に加えられ――

 ――その姿が消え失せる。

「サイバー・エンドが!」

 見ていたメンバーの誰かから、消えていく《サイバー・エンド・ドラゴン》へ悲鳴があがる。《サイバー・エンド・ドラゴン》がどこに行ったのか、どうなったのか――それはアモンの発動したリバースカードが、如実に表していた。

「伏せていた罠カード《次元幽閉》を発動した。……《サイバー・エンド・ドラゴン》は除外させてもらった」


 相手モンスターの攻撃宣言時、その相手モンスターを除外する罠カード《次元幽閉》。亮が決闘融合による逆転の一撃を狙っていたように、アモンもまた、その逆転の一撃を防ぐべく対策を講じていたのだ。よって《サイバー・エンド・ドラゴン》は除外され、亮のバトルフェイズは終了する。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド……悪いが、サイバー・エンドはその程度では死なん」

「……なんだと?」

 亮がカードを一枚伏せ、ターン終了宣言をしたのと同時に、フィールドに地響きが鳴り響く。そして《サイバー・エルタニン》が出現した時のように、亮の背後に巨大な時空の穴が出現し……そこから《サイバー・エンド・ドラゴン》が出現する。

「サイバー・エンド……除外したはず」

「除外したのはお前の《次元幽閉》ではない。俺は《次元幽閉》にチェーンし、速攻魔法《サイバネティック・ゾーン》を発動していた」

 決闘融合、次元幽閉。その二枚のカードとは別に、あのバトルフェイズ中に発動されていたカードが、もう一枚だけあった。そのカードこそ、速攻魔法《サイバネティック・ゾーン》。自分フィールドの機械族の融合モンスターを除外し、エンドフェイズ時に再びフィールドに戻すカード。

 ……《サイバー・エンド・ドラゴン》が除外されたのは、アモンの《次元幽閉》ではなく亮の《サイバネティック・ゾーン》。あえて自ら除外することで、《次元幽閉》の除外効果を避け、フィールドに帰還させた。そして《サイバネティック・ゾーン》の効果で帰還した、融合モンスターの攻撃力は――

「――元々の攻撃力の倍となる」

 よって、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は8000。エクゾディオスの攻撃力を効果の上昇分まで優に越し、フィールドに降臨する……しかも、それだけではない。

「あのリバースカード……」

 遊矢は亮のフィールドに伏せられた、一枚のリバースカードを見る。あの伏せカードはおそらく――いや、亮ならば確実に、相手プレイヤーに攻撃を誘発させるカード。エクゾディオスではなく、相手プレイヤーを対象としているのならば、エクゾディオスだろうとそれに抗うことは出来ない。よって、エクゾディオスが《サイバー・エンド・ドラゴン》に攻撃することになり……

「亮の……勝ちだ……」

 遊矢はそう確信して亮の顔を見るが……亮の顔は晴れていなかった。いつもの鉄面皮なのは相変わらずだったが、むしろ自身の敗北を悟っているような――

「僕のターン、ドロー……」

「感謝するぞアモン。これで俺はまだまだ上を目指せる……新たな地平を見ることが出来る」

 アモンが静かな表情でカードをドローする中、亮の独白は続いていく。

「十代、遊矢。お前たちもこんなところで立ち止まる人物じゃない。後悔も悲嘆も乗り越え……次に進め」

「バトル。エクゾディオスで、《サイバー・エンド・ドラゴン》に攻撃!」

 亮の俺と十代に対するメッセージ。それと同時に放たれるアモンの攻撃に、俺はアモンの狙いと亮の考えていたことを悟り、エクゾディオスを中心として、四つのエクゾディアパーツが集結していく。

「『一手』……遅かったな、カイザー」

 墓地に送られていた四枚のエクゾディアパーツ。この攻撃により最後のエクゾディアパーツが墓地に送られ、五枚のエクゾディアパーツが墓地に揃う。《サイバー・エンド・ドラゴン》との戦闘によるダメージ計算より先に、その五枚揃った時における効果――エクゾディアが完成する。

 エクゾディアが完成した時点で、相手プレイヤーの運命は決まっている。

「怒りの業火……エクゾード・フレイム!」

 ――エクゾディアは亮とサイバー・エンド・ドラゴンを燃やし尽くし、そのデュエルは決着した。
亮LP400→0



「やはり行くのか……遊矢、十代」

 亮とのデュエルの後、アモンは他のメンバーに興味はない、とばかりに消えていった。三沢の考えによれば、恐らくアモンはエクゾディオスの力を使い、今回の事件の元凶たる《ユベル》の元へ向かったのだろう、ということだ。砂漠の異世界でマルタンに寄生していた悪魔……アレが今回の黒幕であり、その出生には十代が関わっていたことを、遊矢は三沢から聞くことになった。

「ああ。アモンがエクゾディオスの封印を解いた、っていうなら好都合だ……奪い返して、また俺が使わせてもらう」

「……ユベルと決着をつけるのはオレにしか出来ない。カイザーが止まるな、って言ったしな……」

 そのことを三沢から聞いた遊矢と十代は、一刻も早くアモンを追うべきだと主張した。そこにユベルとアモン、この異世界を巡る一連の事件で、決着をつけるべき存在が揃っているのなら……遊矢はエクゾディオスを奪い返すため、十代はユベルとの決着をつけるために。

「僕も……お兄さんの代わりに、見届けるんだ」

「もちろん、生徒たちだけに危険な場所に行かせるのは、教師としてありえないノーネ!」

「……みんなをよろしくお願いします、クロノス先生」

 他のメンバーの覚悟を聞いた後、三沢は観念したように年長者たるクロノス先生にメンバーを頼む。そして、その言葉を不可思議に思った遊矢が口を開く。

「三沢は行かないのか?」

「ああ。悪いが……俺はみんなを救いにいきたい」

 アモンはあの時、『エクゾディアの力で脱出した』と語った。ならばこの世界で敗北した者は他の異世界に移動しており、そこから脱出すれば、救うことが出来るのではないか。そう三沢は仮説をたて、その仮説を立証するため、ユベルの元には行けないという。……だが、それを引き止めるメンバーは誰もいない。

「……そっちは頼むぜ、親友」

「任せろ。君がエクゾディオスの力なんて、使わないようにしてみせるさ」

 遊矢と三沢はジェネックスの後の時のように握手を交わすと、三沢は十代の方にも語りかける。

「今のお前も覇王十代も1人の人間の一面だ。 そしてお前には、みんなを救える覇王という力がある。……恐れるんじゃない」

「ああ……ああ!」

 ……最後に。三沢は遊矢に一つのデッキを手渡す。

「こいつは……」

「彼らも分かってる。エクゾディオスの強大な力に呑まれないように、わざと置いていったんだとな。連れて行ってやれよ、今度はな」

 遊矢は三沢に渡されたデッキを見て、少しの間迷うようにしていたものの……最終的に、元々入っていた《イグナイト》デッキの代わりに、そのデッキを使うことを決意する。イグナイトデッキを空いたデッキケースに入れると、しっかりとデュエルディスクにそのデッキをセットした。

 ……あとは、ユベルとアモンが待つ異世界への扉を開くのみ。アモンとエクゾディオスが消えた空間を、それぞれのメンバーが囲むように立った。普段ならば不可能だが……エクゾディオスの力が残留している今なら、それぞれのエースカードの力で、異世界への扉を開くことが出来るかもしれない。

「――《E・HERO ネオス》!」

 まずは十代のデュエルディスクから、宇宙の力を得たヒーローが飛び出し、異世界への扉を開けんとその力を全開する。

「《スーパービークロイド-ジャンボドリル》!」

「《古代の機械巨人》!」

 翔のデュエルディスクから二体の機械族。クロノス教諭は自身のデュエルディスクは持っていなかったが、デッキだけは持ってきており、翔のデュエルディスクを借りて召喚される。翔が召喚したジャンボドリルは……一年生の頃、十代や遊矢とともに買ったパックに入っていたものだった。

「閻魔の使者《赤鬼》!」

 同行はしないとはいえ、異世界への扉を開ける手伝い程度は出来る――と、三沢も自身のエースカードを繰り出す。これから激戦に赴く親友たちのために。

 そして――

「来い……《スピード・ウォリアー》!」

 ――遊矢のマイフェイバリットカードが現れる。エクゾディオスの力に呑まれることを恐れた遊矢が、闇魔界の支配していた異世界に置いてきた後、三沢が回収し託された【機械戦士】。その力は衰えることはなく……遊矢の指示に従い、力強く雄叫びをあげる。

 それぞれのエースカードのエネルギーが、異世界の空間に炸裂していく。そのエネルギーが限界突破した時、その空間は戦いを終わらせる扉になる。……だが、やはりこの人数では力が足りない……!

「現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》! ――十代!」

「――! 速攻魔法……《超融合》を発動!」

 遊矢がとっさに召喚した《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に対し、十代が《超融合》を発動すると――十代のフィールドにいたネオスと、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》が融合していく。

『融合召喚! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!』

 《ライフ・ストリーム・ドラゴン》とネオスが融合して現れた竜騎士の一撃が放たれ――異世界の空間に遂にヒビが入る。そのヒビから閃光が溢れていくと……異世界への扉は、デュエリストたちを更なる異世界へ突入させる。

「……頼むぞ、みんな……」

 一人残った三沢は、みんなの無事を祈りながらそう呟いた。
 
 

 
後書き
さらばカイザー。異世界編もあと僅かです…… 
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