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ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか

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主神、加治神訪問

 
前書き
次の更新がいつになるかわかりませんが、できれば二日後にしたいと思います。 

 
 「朝から一日、ホームを開けることになる。二人とも、留守を頼む」

 朝食の途中、デイドラと寝たおかげか、昨夜の疲労困憊の態が全く窺えないテュールが言った。

 「わかった」
 「頼まれた」

 それに対して二人は言葉少なに、だけど確かな信頼の色が窺える返答をする。

 「今日はどこにいくつもりなのだ?」
 「それは、ふふん、秘密じゃ」

 悪戯を目論む子供のようにノエルの質問にテュールは無邪気な笑みを浮かべて答える。

 「そうか。他の女神に会わないようにだけ注意してくれ」
 「そ、そうじゃな」

 が、ノエルが善意から言った忠告に昨夜のことを思い出したテュールは顔を白くさせて、答えた。


     ◆


 「今日はいつもより上がっておるぞ」
 「そうか。よかった」

 デイドラはテュールの言葉に静かに喜びをあらわにした。
 食後、デイドラの申し出で、テュールは眷族のステイタス更新をしていた。
 ちなみにノエルはダンジョンに潜っておらず、【経験値】が貯まっていないと、今回は辞退した。

 「ほい、これが汝の新しいステイタスじゃ」

 テュールはベッドに俯せになっているデイドラのそばに更新したステイタスをコイネーで書き写してから、背から離れた。

 デイドラ・ヴィオルデ

 Lv.1

 力:F317→375 耐久:G240→F301 器用:G263→F332 敏捷:F372→E437 魔力:I56→G112

 《魔法》
 【パーガトリウム・フレイム】
  ・火属性付与魔法。
  ・接触物類焼。
  ・炎は発動間不滅。
  ・発動間代償(激痛)発生。
  ・代償の多寡により火勢(かせい)変動。
  ・詠唱式【我が身を喰らえ】
 【】
 【】

 《スキル》
 【怨讐一途(ドミナス・フレーゼ)
  ・早熟する。
  ・憎怨(おもい)が続く限り効果持続。
  ・憎怨の丈による効果向上。



 「確かにいつもより上がってる。それに魔法が……」

 デイドラは平均で60も上がっているステイタスにも勿論驚くも、それよりも三つのスロットのうち一つが埋まっていることに驚き、喜んでいるようだった。
 しかし、そのデイドラを横目にテュールは厳しい面持ちだった。
 その主神にノエルはさりげなさを装って、近づいた。

 「あの小娘が言っていた通り、超短文詠唱になっておったし、項目も増えておった」
 「…………そうか、どんな項目なのだ?」

 そして、デイドラに聞こえない声で言葉を交わす。

 「発動間代償(激痛)発生。代償の多寡により火勢(かせい)変動――じゃな」
 「代償…………?」
 「うむ、口調が変わってデイドラは好転しておるように見えるが、まだ気が抜けぬようじゃ」
 「そうだな」

 主神の言葉にノエルはデイドラに視線をやって呟くように言った。

 「では、今日はデイドラを頼む、ノエル」

 テュールは机に予め用意していた背嚢を掴むと、扉に歩き出した。

 「了解した」
 「ん?もう、行くのか」
 「うむ、できるだけ早く帰ってくる」
 「わかった。いってらっしゃい」
 「道中気をつけて」

 簡潔に言葉を交わして、テュールは彼女には少し大きすぎる背嚢(はいのう)を背負って普段着の純白のワンピースを翻して、眷族二人に見送られながら、去っていった。


     ◇


 「くふっ…………ここか。やっと、着いたぞ………………」

 ホームを出て、半時間してやっとテュールは北西のメインストリートにある鍛冶系ファミリア内で最も規模の大きい【ヘファイストス・ファミリア】の支店の前に立っていた。
 道中何故かジャガ丸君を売っている出店の女性店員に襲われ、ひとしきり撫でられた後に大量のジャガ丸君を押し付けられて、それを歩きながら食べていると、完全に腹が膨れ、横腹まで痛くなったということもあったが、それ意外なにごともなかった。

 (くっ…………思わぬ伏兵がいたが、何とか彼奴等(女神共)に会わんと着けたから、よかろう)

 テュールは気持ちを切り替えて、白髪の少年が衆目を意に介せず張り付いている陳列窓(ショーウィンドウ)の横を通って支店に入っていった。

 「頼もう」
 「はい、どういった…………あれ、迷子になったのかな?」

 入ってきたテュールを見て硬直した犬人(シアンスロープ)の女性の店員は一瞬後には事務的な笑みを綻んだものに変えると、膝を折って言った。

 「わ、妾は神じゃ!神テュールじゃ!」
 「えっ!?し、失礼しましたですぅっ!!も、も、申し訳ありませんですぅっ!!」

 テュールは店員の対応に顔を真っ赤にさせて叫び、店員は飛び上がるようにして驚愕。そのまま目を白黒させながら頭を何度も下げた。
 制服のスカートから覗くシアンスロープ特有のふさふさとした尻尾はかくかくとありえない角度に折れ曲がっていた。

 「てゅっ、テュール様、き、今日はどういった御用件で、い、いらしたのでしょうか?」

 自分の余りにも不敬な言動に店員は完全に恐縮を通り越し、恐懼(きょうく)の域に達していて、テュール自身でもその姿には流石にいたたまれなくなった。

 「い、いや、それほど固くならんでよいぞ。アポをとらんで来た妾も悪いわけじゃし」
 「そ、そういうわけにはいきませんですっ!!わ、私のしたことは、か、神を愚弄するような、げ、言動でありましてっ――」
 「ちょっと、今度は何よ」

 テュールの手に負えないほどに店員が取り乱し、声も大きくなったところで、その声を聞き付けて、店の奥から朱髪の女性が疲れを隠しきれていない顔を出した。

 「も、申し訳ありませんですっ!ヘファイストス様!!」
 「おお、ヘファイストス!やはりここにおったか」

 その女性に店員は主神に迷惑をかけたと思い、再び恐懼して頭を何度も下げて、テュールは相好を崩した。

 「あら、テュールじゃない」

 テュールの声に朱髪の女性、鍛冶神ヘファイストスが彼女を見付け、同じく微笑を浮かべて、テュールに歩み寄った。
 テュールはヘファイストスと天界から度々顔を合わせる仲だ。

 「昨日、『神の宴』に来ていたと聞いて、驚いたわ。会えたらよかったのだけど」
 「はははっ、まあな、そんなことより、今いいか、ヘファイストス」

 昨夜の悪夢を思い出し、口元を引き()らせるテュールは話題を本題に移そうとした。

 「うーん、立て込んでると言えば、そうなるのかしら。取り敢えず、何の用で来たかは訊こうかしら」

 ヘファイストスは少し憂鬱そうな眼差しを天井、もとい三階にある執務室で今も土下座をしているであろう神友(しんゆう)に向けてから、テュールに向き直って言った。

 「妾の眷族に武器を作ってほしいのじゃ」

 そのヘファイストスにテュールは何とでもないように言い放った。

 「………………あまりこういうことは言いたくないのだけれど、テュール、あなたのファミリアに私の団員の鍛えたオーダーメイドの武器を買えるようなお金はないと思うのだけれど」

 そのテュールに一拍置いてからヘファイストスは油断なく鋭い目付きととも言う。
 僅かに、だが確かな緊張が空気を張り詰めさせる。

 「そうじゃな」
 「…………言っておくけれど、値引いたり、ただで作ってあげるたりはしないわよ」

 なおも平然としているテュールに疑念を抱きながら、なおも念を押す。

 「無論じゃ。妾は平気で他の神の懐を喰い漁るようなどこぞの幼女神とは違う。それに、御主に限って、自らの団員をおとしめるような真似はせんじゃろうしのう」
 「その台詞を今すごく聞かせてやりたい神友が上にいて、あなたと同じお願いをしているのだけど」
 「そうか、どうりで、疲れた顔をしているんじゃな」

 テュールの真意を探ろうとヘファイストスが言った言葉にテュールは依然として平然と答える。

 「…………どういうつもりなのかしら?」

 無為な腹の探り合いを打ち切ってヘファイストスが単刀直入に訊いた。

 「なぁに、ちょっとした物々交換をしたいのじゃ」

 テュールは腹の探り合いに勝ったと言うかのように勝ち誇ったような笑みを浮かべると、核心に迫った。

 「物々交換?」
 「そうじゃ。ただ代物が代物でのう」

 要領を掴めないようであるヘファイストスにテュールは背に負っている背嚢を顎でしゃくるようにして示した。

 「わかったわ、こっちに来てちょうだい」

 ヘファイストスはその意図を汲み取り、一度テュール、いやテュールの背にある背嚢に一瞥を与えてから、店の奥へ歩き出した。

 「うむ」

 テュールも満足げに頷いてその後に続いた。

 「………………」

 そして、途中から存在を忘れられていた店員は二人の緊張感のあるやり取りにすっかり硬直していた。


     ◆


 「それで、その代物って何なのかしら?」

 一階の奥にある休憩室とおぼしき、四M四方の小部屋でヘファイストスは切り出した。
 部屋の真ん中に机があり、対面するように二組の椅子が並べられていて、二柱の神もそれに従って、向かい合うように席についていた。

 「これじゃ」

 テュールは勿体振らず、背嚢に納められた『代物』を机に取り出した。

 「ちょっと……これ…………何よ」

 終始冷静だったヘファイストスは、背嚢から取り出された瞬間に禍禍(まがまが)しい障気を放つ始めたそれに動揺を隠しきれずに声を震わせる。

 「御主にもこの牙の気が見えるか。なら話が早いのう」

 机に広げられた十数本の青黒い『牙』を見下ろしてテュールは言葉を続ける。

 「これは怪狼(フェンリル)の牙じゃ」
 「…………フェンリルの牙だなんて」

 信じられないと言うかのような顔をしているが、その声音にはどこか合点のいった感があった。

 「ウィザルにもらったのじゃ。『思うところがあるだろう』なんて言って全部妾に寄越したのじゃ」

 思うところなどないのにのう、とテュールは何気なく右腕をさすりながら言ったが、

 「というか、女とあんなに話せぬ彼奴(あやつ)が何故妾とは平気で話せるのじゃ」

 すぐに不平とともに頬っぺたをぷくぅと膨らませた。

 「…………これに見合う武器なんて…………」

 『それはあなたのロリ巨乳よりもロリな矮躯(わいく)とかそんな仕種に女っ気のかけらもないからでしょ』なんて答える余裕など当然なく、ヘファイストスは目の前にある牙の山の価値を見極め、今ある【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師でこれと釣り合う武器を作れる者を頭の中で探す。
 ここで少しでも下回る者を探さないヘファイストスは律義実直と言っていいだろう。

 「見合う武器を作れる鍛冶師は一人しか思い当たらないわ。いや、彼女に作れるかどうかも怪しいかもしれない」

 しばらくの黙考の末、正直な結果を口にした。

 「じゃろうな。神をも恐れさせた怪狼じゃ、当然じゃろう。じゃから別にそんなことを要求するつもりはない」
 「………………なら、どういうつもりなのかしら?」
 「言ったじゃろう?物々交換と」

 軽々しい口調でテュールは言う。

 「ええ、そうね…………」
 「つまりはじゃ、此奴(こやつ)の犬歯四本以外を全部譲る代わりに、これを素材にして武器を、短刀を作ってくれぬかのう?」

 テュールは牙の山の中にある象牙にも匹敵する巨大な牙四本を自分の前に残し、残りをすべて対面のヘファイストスに押しやった。

 「犬歯以外の牙は少々小振りじゃが、これを冒険者用装身具(アクセサリー)にすれば、かなりのものになるじゃろうのう?それに、武器に埋め込めば、これまでにない特殊武装(スペリオルズ)ができるやもしれんのう?」

 心なしかテュールは悠然(ゆうぜん)とヘファイストスを試すような口調で話を続ける。

 「………………わかったわ。それでも、こんな素材扱える鍛冶師も一人しかいないから、その鍛冶師のところまで案内させるわ」

 微動だにせず、思考を深めていたヘファイストスは少ししてかすかな溜息とともに静かに答えた。
 ――そのすぐ後に、『本当、何で私の周りには面倒事を持ち込む幼女神しかいないのかしら』と唇だけ僅かに動かして。

 「うむ、恩に着る」

 それに露ほども気付かず、満面の笑みを浮かべてテュールは答えた。


     ◇


 「こ、ここが、も、目的地に、な、なりますですっ」

 先程の店員が工業地帯の道の真ん中で、足を止めて、とある建物を手で指し伸べて指し示す。

 「うむ、ここか」

 背嚢を背負っているテュールは周囲から飛来する金属を叩くような音やドワーフの濁った掛け声などに眉一つ動かさずに頷く。
 店員とテュールが現在いるのは、都市第二区画の工業区が隣接する北東のメインストリートに位置するとある平屋造りの工房の前だ。

 「で、では、す、少し、ここでお待ちくださいです」

 程度はかなり改善されたものの、いまだ恐縮している店員はぎこちない足取りで扉に向かうと、意味があるか定かではないが、ノックを数度して、中に入っていった。
 すると、しばらくして、金属を叩く軽快な音が途絶え、

 「お、お入りくださいです」

 と、店員が開いた扉からひょっこり顔を出して言った。


     ◆


 「しかし、広いな」

 店員に導かれ、扉から薄暗い工房に入り、濃厚な鉄のニオイが充満する空気を潜りながら、キョロキョロと見回すテュールは感心するように言った。

 「そうかもしれぬが、手前は気にしたことないな」

 そのテュールの言葉に工房の奥、鍛冶場から女性の声が返ってきた。
 その声が聞こえてすぐに声の主は二人の前に現れた。
 椿は巨大な工具に囲まれ、猛々しく炎を吐く炉とこれまた巨大な鉄床が真ん中に鎮座している空間にいた。

 「こ、こちらが【ヘファイストス・ファミリア】の団長、椿・コルブランドですです」
 「うむ、そうか、汝が椿か」

 店員の紹介を聞き、テュールは椿を真っすぐ見詰めながら、興奮を隠し切れていない声音で言った。

 「こんな薄汚いところまでご足労だった、神テュールよ。話は聞いた」
 「なら、早速本題に移ろうかのう。これが、例の素材じゃ」

 少し興奮気味のテュールはその団長の固い挨拶には返答せず、背嚢から牙を取り出して、椿に押し付けるようにして先を急かす。
 椿も特に気を悪くしたわけでもなく、押し付けられた四本の牙に視線を落とすと、一拍置いて獰猛に笑った。

 「こんな素材が手前(てまえ)に回ってくるとはな」

 と、テュールを遥かに上回る興奮に声を震わせて言う彼女の牙を映す目には既に完成品が映っているように見えるのは気の所為ではないだろう。

 「最高の短刀を作ってくれ」
 「言われずとも」

 テュールと椿は何故か同士を得たように互いに不適な笑みを浮かべ合って言葉を交わす。

 「………………」

 そして、やはり途中から存在を忘れられていた店員は二人の間のえも言われぬ異様な空気に完全に置いてけぼりを喰らっていた。 
 

 
後書き
今回はコラボしている他作品にも出ているヴィザルさんを名前だけですが、出させていただきました。
ご愛読ありがとうございます。
何卒私めにご感想の恵みを。 
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