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空気を読まない拳士達が幻想入り

作者:sibugaki
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第1話 幻想郷に北斗現る!!

 
前書き
最近になって東方に興味が湧いたのと、大好きな北斗の拳との合作がしたかったので書いた感じです。
 

 
≪西暦199X年。世界は、核の炎に包まれ…なかった≫


 世界は核戦争とか環境破壊とかとは全く無縁のまま平和に時を刻んでいた。
 当然、そんな時代なのだから「ヒャッハー!」とか「ホホホー!」何て言う危なっかしいバイオレンスな事なども起きる事なく、世界中に死の灰が降り注ぎ不治の病が蔓延する何て事も起きておらず、ましてやそんな平和な時代なのだから恐怖による支配とかそう言った事なども一切起こらずに、平和に時が過ぎて行った。
 そんな核戦争とは無縁のこの世界に置いて、人知れず伝えられてきた一子相伝の暗殺拳が存在していた。
 
 その名は≪北斗神拳≫

 その歴史は古く、今から二千年前の古代中国の時代(皆大好き三国志の時代だと思うよ)より発祥された恐るべき拳法である。
 一拳に全エネルギーを注ぎ込み、経絡秘孔を突き、肉体の外部ではなく内部を破壊する無敵の暗殺拳である。
 しかし、時代は世紀末をとっくに過ぎ去った21世紀。
 その平和な時代にそんな物騒な拳法など無用の長物であり。また、そんな拳法を例え習得していたとしても別に就職に有利になったり、はたまた資格扱いされる訳でもなく、寧ろ危ない人と思われるのがオチだったりする。
 その為、一子相伝の暗殺拳を伝承した拳法使い達は皆、苦心の末に身に着けた暗殺拳を日々持て余すのであった。
 そして、この物語はそんな暗殺者達の巻き起こす血で血を洗う壮絶な戦いの物語である。
 




     ***




 うっすらと意識が明確になり始めると、耳元で木々の囁く音が聞こえてきた。
 他にも虫の羽音とか鳴き声とか鳥のさえずりなどなど、とにかく多種多様な音が耳に入ってきたのだ。
 そんな音を聞き、ケンシロウはそっと身を起こした。

「むっ!」

 開幕第一声がこれである。彼の名はケンシロウと言い、先ほどでも触れた一子相伝の暗殺拳である北斗神拳の正統伝承者である。
 彼が正統伝承者になるまでには、それこそ想像を絶する苦難なエピソードが隠れているのだが、それを語るのは別の機会にするとしよう。別に知らなくても物語には影響しないと思われるし。
 そんなこんなで正統伝承者として北斗神拳を伝承したまでは良かったのだが、生憎その頃は核戦争とか環境破壊とかもまるでなく、実に平和な世界であったので、そんな物騒で胡散臭い拳法が陽の目を浴びる事などなく、すっかり埃を被る羽目となってしまっていた。
 しかも、ケンシロウは北斗神拳を継承する事だけに今までの人生を費やしてきたが為に一般常識が全くと言って良い程備わっておらず、就職するのにも一苦労な日々を送る事を強いられてしまっていた。
 しかし、其処は某世紀末アニメの主人公。全く動じる事なく近所のコンビニでアルバイトをして生計を立てる暮らしをしていたのであった。
 そして、目が覚めたらこれである―――

「此処は何処だ? 確か、俺は何時も通りアパートに帰り布団の中で眠った筈だが?」

 目の前に映る世界と昨晩までの記憶との食い違いに困惑するケンシロウ。しばしその場で硬直し、昨日までの出来事をおさらいし始めた。
 まず、コンビニでアルバイトをし、その際に店内に入ってきたハエに北斗神拳を使い爆発させた為に陳列されていた商品にハエの残骸が付着した為に総取り替えを行い、更にレジをやった際にまたしても北斗神拳を使用した為にレジを破壊させてしまい手作業で会計を行う羽目になり、結局その後はバイトが終わるまでずっとトイレ掃除に専念する事となっていた。
 そして、バイトが終わりアパートへと戻り、そのまま布団に潜って夜を明かしたまでは覚えている。
 が、朝目が覚めたら今ケンシロウが居るのは全く見覚えのない深い森の真っただ中だったりする。

「むぅ……目が覚めたら森の中……まさか! 俺が寝ている間に人類文明が終焉し、自然の姿へと戻ったというのか!?」

 念の為に言っておきますが絶対そんな事はありません。そんな訳で一人勘違いをしながらもとりあえずケンシロウは森の中を適当に歩き回る事にした。
 行けども行けども其処は深い森の中。聞こえて来るのは木々が擦れた際に聞こえて来る葉っぱの摩擦音だったり、鳥や虫達のさえずりだったりと文明化社会の代償として消え去ってしまった物ばかりがケンシロウの目や耳、そして五感すべてに伝わって来ていたのだ。
 ふと、ケンシロウはその場に立ち止まり、静かに目を閉じた。
 彼の両の目からうっすらと涙が零れ落ちる。

「あぁ、自然は何と美しいのか。こんな美しい光景を兄さん達にも……そして、ユリアに見せたかった―――」

 因みにユリアとはケンシロウの婚約者だったりする。詳細は後ほどご説明するとしよう。ネタバレはつまらないし、第一みなさんご存じだろうし。

「だが、こうして俺一人が生き残ったのも恐らく北斗の運命。ならば、俺はその運命に従って生きよう。北斗神拳の伝承者として。そして、唯一生き残った人類として!」

 勝手に決意を固めているようだが全てケンシロウの勘違いの末に生み出された妄想の類だったりする。しかし、生憎その場にはケンシロウ以外の人類は居ない為にその妄想を指摘、または批判する者が一切居らず。その結果としてケンシロウの一人妄想劇が淡々と続けられる羽目となってしまっていた。
 だが、何時までも泣いている訳にはいかない。手の甲で強引に涙を拭い取り、決意の表情でケンシロウは強く歩を進めた。
 自分が何を成すべきなのか?
 何故自分だけが生き残ったのか?
 その答えを見つけ出す為に、ケンシロウは歩いた。
 ……まぁ、その答えは恐らく絶対見つからないと思うのだが。




     ***




 歩いてどれ位経った頃だろうか。深い森を抜けたケンシロウの目には、古ぼけた家屋が飛び込んできた。相当年期の入った佇まいではあるが、決して空き家と言う訳ではない。その証拠に家屋の回りには生活の跡と思わしき痕跡がちらほら見受けられた。
 何処かで見た覚えのある品々が家屋の回りに無造作に置かれている。その中には一見するとゴミとしか思えない代物までもが其処に転がっていたのだ。だが、だとしても其処からは微かに文明の香りが、人が生きていた残り香が漂ってきた。

「こんな自然の中に家屋が―――」

 その家屋を見たケンシロウは、まるでそれに吸い込まれるかの様にその家屋へと近づいた。
 近くで見れば見る程その家屋は相当年期の入った建物でもあった。
 一見和風の佇まいなのだが、入り口は何故かノブで開くドア式になっている。そして、そんなドアの上にはでかでかと名前の様な物が刻まれていた。

「香霖堂……聞いた事の無い名だ。出来てまだ間もないと言う事なのか?」

 身に覚えのないその名に疑問を抱きつつも、ケンシロウは迷う事なくノブに手を掛け、ドアを開いた。
 古き良き木々の擦れる音と共にドアはゆっくりと開き、その奥の景色が飛び込んできた。
 其処には、ありとあらゆる物の類でひしめき合っている状態であった。
 家財道具から電化製品、果ては置物や掛け軸はもちろんの事、全く見覚えのない古臭い骨董品等々がまるですし詰め倉庫の様に敷き詰められていた。

「此処の家主は一体何の目的でこれだけの品々を集めていたと言うのだ?」

 並び立つ物を見ながらケンシロウは家の中を歩き回った。小さな家屋に見えたが中は案外整理されているらしく、歩くのにそう不便さは感じられなかった。
 しかし、歩く度にこの家の中だけがまるで別世界ではないのかと言う錯覚に見舞われてしまいそうになる。
 
「いらっしゃい。ここら辺じゃ見ない顔だね」
「むっ!!」

 突如として、声が響いた事にケンシロウは驚いた。思わずギョッとした表情のまま声のした方を向く。其処は丁度会計を行うレジの場所だったらしく、そして其処には一人の青年が立ってこちらを見ていた。
 白銀の髪に丸い眼鏡を掛けた細見の男性であり、青と黒の着物を連想させる衣服を身に纏っていた。

「驚かせてしまったみたいだね。店内は自由に見て貰って構わないよ。だけど、中には壊れ物もあるから扱いには注意してね」
「!!!!!!!」

 そっと囁くように言葉を投げかけた青年に、ケンシロウは言葉を返すことが出来なかった。今、ケンシロウの胸の中は歓喜の思いでいっぱいだったからだ。

「ど、どうしたんだい? そんな所でぼうっとして―――」
「ま、まだ……人類は死滅していなかったのだな―――」
「……は?」

 突然何を言い出すかと思えば。余りにもぶっ飛んだその言葉に青年は思わず呆気にとられる顔をしてしまった。
 そんな青年にケンシロウは思わず詰め寄ってくる。レジの上を駆け上り青年の真ん前までじっと顔を寄せて来る。

「ちょっ、え? 何!?」
「教えてくれ! 世界はどうなったのだ? 人類はどうなったのだ?」
「いや、君が何を言っているのかさっぱり分からないんだけど。一体何を言ってるんだい?」
「世界は核の炎に包まれ、海は枯れ地は裂け、あらゆる生命体は絶滅してはいないのか?」
「いや、何の話だい? それ―――」
「そして、僅かに生き残った人類は残り少ない水や食料を巡って争う弱肉強食の世にはなっていないのか?」
「ちょっと待って待って! まずは落ち着いて!」

 立て続けに意味不明な質問を投げかけられてしまい青年は対応に困り果てた。とりあえずケンシロウを落ち着かせて改めて質問の内容を一から整理する必要があった。

「えっと、まず君の質問なんだけど。とりあえず核の炎で世界が焼かれた何て話は聞いてないね。それに、人類も別に死滅してないだろうし弱肉強食の世には……まぁ、多分なってないと思うよ」
「本当か? では、人類はまだ生き残っているのだな?」
「生き残ってるも何も、普通に生活しているけど……そもそも君は一体誰なんだい?」

 もっとも肝心な事を言い忘れていたとケンシロウは気づき、ハッとした顔をする。見知らぬ相手と話す際にはまず自己紹介が必要。これはある意味で一般常識でもあったりする。

「すまない、どうやら俺は取り乱していたようだ。改めて名乗ろう。俺の名はケンシロウと言う。長い場合はケンと呼んでくれても構わない」
「そうか、僕は森近霖之助。此処香霖堂の……まぁ店主みたいな者かな?」
「店主と言う事は、此処は店なのか? 見た所様々な品が並べられているようだが」
「まぁ、店って言うよりは単なる物置……みたいな所かな? 趣味で色々な物を拾ってきちゃうんだよ」

 改めて店内を見回すケンシロウに対し霖之助は苦笑いをしつつ答えた。確かに、見れば見る程店内に置かれている商品には統一性がない。まるで気に入った品を片っ端から詰め込んだ。と言っても差し支えがないようにも見える。

「それよりもケン。さっきから君の言い分を聞いてて思ったんだけど、ひょっとして君は外の世界から来たのかい?」
「嫌、俺は昨日までコンビニのアルバイトをしていた。外の世界と言う場所には訪れてはいない」
「あぁ、やっぱりそうか。どうやら君は外の世界から入り込んで来た外来人なんだね。道理で意味不明な事ばっかり言うと思ったよ」

 納得したかの様に霖之助が一人でそう言い放つ。すると、今度は逆にケンシロウが困った顔をし始めた。

「霖之助。さっきからお前は何を言っているのだ? 外の世界だの外来人だの。俺は今朝目が覚めたら深い森の中に居ただけだ」
「森? まさか、魔法の森から来たってのかい!? 良く無事だったねぇ」
「???」

 何故霖之助が驚いているのかケンシロウには全く理解出来なかった。そんなケンシロウを見たのか、霖之助が説明をしてくれた。

「あの森は様々な種類のキノコが自生していてね。そのキノコの出す胞子のせいで体調を崩す人とかが多いんだよ。ケンは何ともなかったのかい?」
「問題ない。北斗神拳は人間の潜在能力をすべて引き出す事が出来る。毒への抵抗力も並の人間の比ではないからな。キノコの胞子程度ではどうと言う事にはならん」
「え? 北斗……神拳? 何だいそれ」

 今度は霖之助が知らない言葉が出てきた。すると、今度は打って変わってケンシロウが霖之助に説明をする番となった。

「北斗神拳とは二千年の歴史を持つ一子相伝の暗殺拳の事だ。経絡秘孔を突く事により相手の外部より寧ろ内部を破壊する事を極意とした一撃必殺の殺人拳の事だ」
(何か、胡散臭い話だなぁ―――)

 はっきり言って霖之助はその話を信じる気になれなかった。一子相伝の暗殺拳だとか、そんな物騒な代物があるなんて聞いた事がない。
 だが、それを語っているケンシロウのハキハキした姿を見ると、とてもそんな事が言えなかったのでそっと自分自身の胸の内に締まっておく事にした。

「ところで霖之助。此処は何処なんだ?」
「説明すると長くなるから要所だけ言うとだね。此処は幻想郷と言って、君が元居た世界とは別の世界になるんだよ」
「別の世界? 良く分からん」
「まぁ、普通そんな事言っても信じる人間は居ないだろけどさ。そもそも、君は何で幻想郷何かに来てしまったんだい?」
「全く皆目見当もつかない。朝目が覚めたら此処に居たんだ」
「変だなぁ。本来幻想郷ってのは、現世から忘れられた存在が入ってくる筈なのに……あ!」

 言葉を言ってる途中で、霖之助は気づいた。もしかして、先ほどケンシロウが説明した例の胡散臭い暗殺拳が原因でこの世界に来てしまったのかも知れない……と。

(まさか……いや、詮索は止そう。僕個人の考えだけで彼を混乱させる訳にはいかないし―――)

 再び自分自身の胸にそっとしまう事を誓う霖之助であった。

「ところでケン。君はこれからの生活はどうするつもりなんだい?」
「嫌、全く考えていないが」
「良かったら家の手伝いをしてくれないかい? 丁度家の中の整理とかをしなきゃならないから人手が欲しかったんだ。君、元の世界でコンビニのアルバイトとかしてたんだろ? だったら接客とかも出来る筈だよね?」
「問題ない。コンビニの仕事は一通りこなしている」

 自信を持って答えるケンシロウだが、実際には問題しか起こしていないからはた迷惑な事だったりする。しかし、真相を知らない霖之助はそれを聞いて嬉しそうに笑みを浮かべてきた。

「そりゃ助かる。早速で悪いんだけど、家の店番をして貰えないかい? これから物置の整理をしなきゃならないんだ」
「うむ、それ位の事なら任せて貰おう」
「助かるよ。それじゃ少しの間だけど宜しく頼むよ」

 そう言って、霖之助は店の裏へと歩き去ってしまった。霖之助が居た場所に入れ替わるかのようにケンシロウがその場に立つ。
 ケンシロウの目の前には見覚えのあるレジがそびえ立っていた。良く見るとバイトで使っているレジと余り違いは見受けられない。バーコードリーダーがついたごくごく普通の何処のコンビニにでもあるようなレジが置かれていた。

「幻想郷……か。自然豊な良い土地だ。トキ兄さんもここで暮らせば病もきっと良くなるだろう」

 一人ぶつぶつと小言を述べつつしきりに感動の意を表しているケンシロウ。
 そんな時だった。奥の方で扉が開かれる音が響く。そして、同時に聞こえて来る足音。音からしてどうやら一人だけの様だ。

「おいぃっす! 邪魔するぜ、香霖」

 女の声だった。それも子供、つまり少女の分類に位置するであろう声であった山積みされた品物の山の中をかき分けて現れたその姿もこれまた変わった姿、と言えた。
 金色の長髪は決して珍しくはないが、黒いとんがり帽子を頭に被り、黒を基調とした服の上になぜか白いエプロンを着ると言ったこれまたケンシロウの居た世界ではまずお目に掛かれない服装をした少女が姿を現してきた。

「いらっしゃいませ」
「あれ? 香霖じゃない……ってか、誰だお前?」

 どうやら少女はレジに霖之助が居るのだろうと思っていたのだが、宛が外れたかの如くその場に居たケンシロウを見て少しばかり驚いていていた様子だった。
 
「俺の名はケンシロウ。ケンと呼んでくれ。今は訳あってこの店の店番をしている身だ」
「そっか。あたしは霧雨魔理沙ってんだ。こう見えて普通の魔法使いなんだぜ」
「魔法? もしやお前も俺達と同じなのか?」
「へぇ、ケンも魔法が使えるのか。今度ケンの魔法見せてくれよな。っとと、そんな事より……」

 唐突に会話を切り上げると、魔理沙は店内を物色し始める。そして、お目当ての品と思わしき品物を手に取ると―――

「んじゃ、これ借りてくぜぃ」

 と言ってそのまま店を後にしてしまった。
 その一部始終を見ていたケンシロウの脳裏に、ふととある場面が浮かび上がる。
 それは、ある日のバイトの時の事であった。




     ***




「良いか、ケン。万引きには十分注意してくれよな」
「何だそれは?」

 何時もの様にバイトをするケン。そんなケンに同僚でもあり大学生でもあるバットがそんな事を言ってきたのだ。

「万引きってのはな。代金も払わずに勝手に店の品を持っていく奴らの事だよ。ま、簡単に言えば泥棒みたいなもんだな」
「何だと! この時代、人々が懸命にその日の糧を得る為に必至で働いていると言うこの時代に、何と卑劣な奴らだ!」
「いや、其処まで必至には働いてねぇから……とにかく、万引きには注意してくれよな」
「うむ、気を付けるとしよう」

 因みにバットがそう言っていた時期は、付近で万引きの被害が多数出ていたり強盗の被害が出ていたりしていたのでそれの防止強化月間と言った事が行われていたのだ。
 幸い、このコンビニにはケンシロウが居るので、万が一ケンシロウの居る時間帯に強盗に入れば忽ち半殺しにされた上に御用となってしまうのは明白な事だったりする。
 因みに、バットに説明を受けて以降、ケンのアルバイトする時間帯だけは万引きや強盗の被害が一切出なくなったと言うのは予断だったりする。




     ***




 場面は再び香霖堂店内へと戻る。魔理沙の万引き行為を目の当たりにしたケンシロウは遂に動き出した。そして、目にも留まらぬ速さで店内を飛び出し、外へと飛び出す。店の近くでは、丁度魔理沙が持って来た箒に跨っている場面であった。

「お客様!」
「ん?」
「代金のお支払がまだですが?」

 あくまで接客の一間として、ケンシロウは丁寧な物言いで魔理沙に言い放った。しかし、魔理沙は全く気にも留める様子はなく―――

「あぁ、その内返すから気にしなくて良いぜ。そんじゃ」

 それだけ言い残すと突如、魔理沙の体が宙に浮かび上がった。箒にまたがって空を飛ぶなど正しく魔法使いその物だったりする。
 だが、それで諦めるケンシロウではない。

「貴様……万引きをしたなぁ……」
「ん? 今何か聞こえたか?」

 微かに聞こえたケンの声が気になり、魔理沙はふと、後ろを振り返る。すると、其処には先ほどとは打って変わり鬼の形相に変貌したケンシロウが其処に立っていた。

「力なき人々がその日一日を懸命に生きているこの時代に、他人の物を奪い取る外道め! 貴様には……貴様には地獄すら生温い!!」

 完全に激怒したケンシロウ。着ていた上半身の衣服を手を使わず気合いの容量でバラバラに引き裂いてしまった。そして、露わになったケンシロウの胸板には、七つの傷跡が刻まれていたのだ。
 そう、丁度夜空に浮かぶ北斗七星と同じ形の傷跡が―――

「うえぇぇ! な、何だあいつはぁ!」
「万引きをする外道め! 貴様に今日を生きる資格はなぁい!」

 怒号を張り上げると、これまた凄まじいスピードで大地を走り始めた。そう、上空を飛んでいる魔理沙目がけて一直線に。

「うわああああ! なんなんだぜあいつはぁぁぁ!」
「むわぁぁぁてぇぇぇぇい!」
「怖ぇぇぇぇ!」

 すっかりケンシロウの放つ威圧感にビビッてしまった魔理沙は一目散に逃げの一手に出る。が、そんな魔理沙に向かいケンシロウは土埃を巻き上げながら何処までも追いかけ続けて来る。しかも徐々にその速度が上がってくる始末なのだ。

「冗談だろぉぉ! 何で追いつけるんだよぉぉ! あいつ化け物かぁぁ!?」
「万引き許すまじ! 強盗許すまじ! この世に蔓延る悪を許すまじぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
「何で借りただけでこんな目に合わなきゃならないんだよおおおぉぉぉぉぉ!」

 必至に逃げる魔理沙と、それを鬼の形相で追いかけるケンシロウ。二人の終わりなきデッドヒートは半日近く続いたとされ。それを目撃した者達からは「風よりも早く走る亜人が来た」と後に噂されるとかされなかったりとかするそうだが、別に物語に深く関わる訳でもないのでスルーして貰っても構わなかったりする。




     ***




 辺りがすっかり暗くなり、空には無数の星と一際輝く月が夜空を照らす時刻になっていた。

「遅いなぁ、一体何処行ったんだ?」

 霖之助が物置の片付けを終えたのは丁度ケンシロウと魔理沙が激しいデッドヒートを開始した頃であった。
 一通り片付けを終え、店内に戻ったは良かったのだが、店内は誰も居らず、人の気配がまるで感じられなかった。
 疑問に感じた霖之助ではあったが、ひとまず店番を再開する事とした。
 そして、それから半日近くが経過し、看板を仕舞おうと外に出た霖之助が目にしたのは、すっかり疲れ果ててその場に倒れ込んでいる魔理沙と何故か上半身裸で息を切らせて仰向けに倒れているケンシロウの姿が飛び込んできた。

「えっと……何があったんだい? これは」

 一人、真相を知らない霖之助は対応に困り、両者に事の真相を訪ねる事にした。
 それに対し、魔理沙が息を切らせながら話をすると、霖之助は呆れたように笑い顔を浮かべだしたのであった。

「そりゃ災難だったねぇ魔理沙」
「さ、災難なんてもんじゃねぇぜ! 何で……ただ借りただけなのに……半日近くも追い回されなくちゃ……いけなかったんだぜ!」
「追い回されるって……飛んで逃げればよかったじゃないか。いつもみたいに」
「飛んで逃げたさ……だけど……それでもこいつ……物凄ぇスピードで走って追いかけてきたから……全然撒けなかったんだぜ」

 話すのも苦しい状態の魔理沙。そんな魔理沙の証言に霖之助は驚いた。まさか、空を飛んでいる魔理沙を相手に走って追いつけるなんて。
 
「まぁ、とりあえず魔理沙は早々に帰った方が良いだろうね。ケンには後で僕が事情を説明しておくよ」
「お、おう……そうしてくれると……助かるんだぜ……」

 とりあえずもうこれ以上は追われる事はないだろうと安心した魔理沙は、すっかり弱り切った体に鞭を打つかの様に立ち上がり、再度とび上がって行く。
 そんな魔理沙を見送ると、今度はその場に倒れているケンの方へと視線を移す。

「大丈夫かい? ケン」
「み……水……水を……」
「あぁ、はいはい……ところでケン、最後に一つ良いかい?」
「な、何だ?」
「君、やけに背小さいんだね」
「……うむ」

 本当に今更な内容であった。とにもかくにも、こうして幻想郷にてケンシロウの新たな戦いの火蓋は切って落とされたのであった。
 果たして、ケンシロウを待ち受ける運命とは?
 悲劇(喜劇)は繰り返される……かも?




つづく 
 

 
後書き
次回予告

幻想郷にて香霖堂の店番と言う職を手に入れたケンシロウ。
そんなケンシロウに新たな試練が襲い掛かる!
 
次回、空気を読まない拳士達が幻想入り
   
    第2話 炸裂、北斗神拳! 俺の拳に砕けぬ物はない!!

「お前はもう、死んでいる―――」 
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