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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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1期/ケイ編
  K12 光線と銃弾

 翼の復帰コンサートも兼ねたアーティストフェスティバル、当日。

 リディアン音楽院の正門で、ケイは未来をバイクの後部座席に座らせ、響の下校を二人して待っていた。

 響は装者。ノイズ撃退のために授業に穴を開けることも珍しくない。今日もその手の補講を受けるために居残りをしている。響が下校次第、サイドカーに乗せて3人で会場へ出発する段取りとなっている。


「すいませーん! お待たせしましたー!」

 響が校舎から出てこちらへ走って来る。

「お疲れ様」
「はあ、はあ……つ、疲れてなんか、いらんないよ。何たって、翼さんから直接チケット貰ったんだもん! 全力で応援するんだから」

 いつものことだが、本当に気持ちのいい子だ。
 ケイは響にヘルメットを渡そうとして――

 通信機が響の物と合わせて鳴った。

「どうしたの? 早く出ないとよくないんじゃない?」
「! 未来……」

 ケイはつい響と顔を見合わせた。あれほど否定的だった未来が、装者活動のあれこれを笑って促している。にわかには信じがたい事態だった。

 とりあえず、二人して通信機の応答ボタンを押した。

「はい。響です。ケイさんもすぐ横にいます」
《ノイズの出現パターンを検知した。翼にもこれから連絡を……》
「司令。この任務、俺だけで行っちゃいけませんか?」
「ケイさんっ?」
「あの会場で歌うこと。あの会場で一緒にステージを観ること。彼女たちにとって今日戦うべきは、ノイズじゃなくて、それだと思うんです。だから――お願いします」
《――やれるのか?》
「はい」

 自分でも驚くほどすんなりとイエスの返事を言えた。

 ケイは通信機を切って未来と響を見た。

「そういうわけだ。悪いな。送ってってやれなくて」
「……ばか」

 未来が後部座席から降り、響と並んだ。

「ケイさん、やっぱりわたしもっ」
「だーめ。言ったろ。今日の戦いはそれじゃないって」

 未来を見やる。「彼女たち」とは翼と響だけでなく、未来をも含めた言葉だ。未来はそれを察したから文句も言わずにバイクを降りてくれたのだと、信じたい。

「行ってらっしゃい。楽しんで来いよ」

 ケイはヘルメットを被り、バイクを反対方向に向けて発進させた。

 高台にあるリディアン音楽院から街の道路へ降り、指示されるポイントへバイクを走らせる。道交法も何のそのとばかりにアクセルを全開で捻る。

 翼のライブイベントがあるおかげか、歩道も車道も空いている。
 いいチャンスなので、ケイは詠い、A・レンズのシンフォギアを装着した。


 会場から遠く離れた埠頭の倉庫街。そこが今夜の小日向ケイの戦場だった。





 ライブ会場に着いた未来たちは、チケット指定の席に座って翼の登場を待っていた。

 隣り合って座る響と手を握り合い、祈りの形に指を絡めて。
 互いにもう片方の手には、青いサイリウムを持って。

(楽しんで来いって言った。行ってらっしゃいって言った。だからケイは絶対帰ってくる)

 会場の灯りが落ち、スポットライトが舞台袖を照らした。
 スポットライトに照らされながら、新曲の伴奏が鳴る中、風鳴翼がステージに登場した。登場だけで、観衆は歓声を上げた。

 ――2年前のツヴァイウィングのライブ。急用が入って未来は行けなかった。響と一緒に楽しく出かけて、楽しく帰ってくるはずだったのに、できなかった。

(これはわたしの戦いでもあるんだ)

 座席にサイリウムを押しつけて折り、青い光を灯す。会場がたちまち青い光で満ちた。

 ついに翼の歌が始まった。


「 『デジャヴみたいな感覚 繊細みたいなプラトニック』 」


 その歌声が発された瞬間、未来の胸に荒れていた感情の嵐が吹き飛んだ。
 ただただ翼の歌声に魅了された。気圧された。全身に鳥肌が立った。

(ドキドキして、目が離せない。すごい。これがライブなんだ)


「翼さーん!!」

 隣の響が頬を紅潮させ、サイリウムを振って翼を呼んでいる。

(帰ろう)

 未来もまた友人に手を振るように、青く光るサイリウムを振った。

(目一杯楽しんで、響と帰って、すごく楽しかったって、笑ってケイにただいまを言おう)





 ケイが倉庫街に到着した時、現場はすでに炭と硝煙のにおいで満ちていた。

 蛇口の付いたビル型ノイズを筆頭に、通常サイズのノイズが群れている。そのノイズの群れと雪音クリスが、イチイバルのギアを纏って、ガトリングやミサイルで戦っていた。

 ネジ型ノイズが頭上からクリスに落ちようとしている。

 ケイはバイクを降り、プリズムレーザーの照準を合わせ、レバーを引いた。翠の中粒子ビームがネジ型ノイズを貫き、炭素分解させた。

 走って行きながら、サーベルモードにしたアームドギアで、向かってくるノイズを斬り捨てる。
 どうにかクリスの近くまで行くことができた。

「あんた……っ」
「悪いけど勝手に助太刀させてもらう」

 サーベルをレーザー砲に戻し、レバーを引いた。

 これだけ群れていれば照準を合わせる必要もない。右から左へ180度、プリズムレーザーを発射したまま薙いだだけで、群れのほとんどが炭化した。

 討ち漏らしに対処する前に、それらのノイズを弾丸とミサイルが撃ち抜いた。

「貸し借りはなしだ!」

 クリスなりの援護だった。

 クリスがノイズを足止めしている間に、再びレーザー砲をサーベルに変え、歌ってフォニックゲインをチャージする。


「 『俯かない 諦めない pray Your Destiny』 『突破するんだ 心のmaze そして Your Future』 ――」


 フォニックゲインを限界まで流したレーザーサーベルが、翼のブレードのように巨大化した。

「飛びのけ、雪音!」

 クリスが高くジャンプし、射程上から離れた。

 ケイは巨大レーザーサーベルで、ビル型ノイズを縦に両断した。
 ビル型ノイズは斬られた断面から炭素分解し、完全に黒炭となり灰の砂となり、風に攫われて消えていった。

 大きく息を吐いて、プリズムレーザーを地面に立てた。


「おい」

 横着な呼び方は、今しがた共闘したばかりのクリスから。

「前にあんたは、あたしのやり方は戦争を絶対に無くさないと言ったな。じゃあ、どうやったら戦争を無くせるんだ?」
「難しいこと聞くなあ」

 そんなものが分かっていれば、とっくに人類から争いなど無くなっている。だが、思った通りを言い返せば、こうしてまっすぐケイを見つめるクリスを傷つける。

「正直、俺も分からない。前に言った友達なら、ひょっとしたら答えられたかもしんねえけど。そうだな。とりあえず、この力じゃないのは確かだ」

 ケイはA・レンズのギアを解除し、ペンダントを手にした。

「コイツで争いを無くせるなら、あいつはコレを自分で使ったはずだ。それが俺に送りつけられたんだから、シンフォギアじゃあないんだろうな」
「――ふうん」

 クリスもまたギアを解き、踵を返した。

「どこ行くんだ」
「あんたにゃ関係ねえだろ」
「いや。行くとこがあるなら送ってこうかと。俺、バイクだから」
「よけいなお世話だ! これ以上、借りを作って堪るか!」

 ケイが止める間もなく、クリスは倉庫街から走り去った。

 さて、とケイは気を取り直し、停めてあるバイクを取りに行った。
 翼のライブが終わった後で、未来と響を寮まで送るくらいはできるだろうと考えながら。 
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