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ある提督の回顧録

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3日目

大淀(おおよど)以下3名、本日付で着任となりました。ご指導、ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。」

 朝日が昇りはじめ、白んできたころ。
新任の挨拶を私は受けていた。
 大淀と名乗った黒の長髪に青いヘアバンドをつけた少女はその可憐な見た目とは裏腹に、肩に線を背負っていた。
――佐官。少佐か。

 後ろに控えるピンク色の髪の子と割烹着を着て赤いリボンを髪につけた朗らかな雰囲気の女性はそれぞれ明石(あかし)間宮(まみや)と名乗った。
 名前からして全員艦娘であろう。

「なお、本日を持ちまして田中提督におかれましては中佐となられます。……こちらを」

 そう言って大淀が手渡してきたのは辞令と階級章だった。
それにしても昇進が早い。
 平時であれば私は大学校に行っていたはずで、それがいきなり提督になれと言われた挙句この昇進。これの意味するところはつまり……いや、止めよう。
 
「承知した。まあ、こんな朝早くから来て疲れたろう。君たちに部屋を割り振ってしばらくしてから鎮守府内を案内させるから。
……夕張、まずは宿舎までの案内を頼む。その後は誰でもいいから適当な奴に案内させて帰ってくるように。今日は仕事が多めだからな。」

 今日の秘書艦である夕張に案内を託す。

「了解しました。じゃあ皆さん!こちらへ!」

 そうして部屋を出て行く4人。
夕張がやけに張り切っていたが……大丈夫か?



















 着任の挨拶からしばらくして、執務室に机と椅子が届いた。
やはりこれが無いと少々間抜けっぽさが否めない。
床で書類を書くよりも遥かに腰への負担も少ないし。

 それにしても夕張が遅い。
部屋を出てから約2時間は経っている。どこで油売ってるんだ?

 ふと、ノックの音がした。
やっと夕張が戻ってきたのか、そう思ったのだが。

「失礼します。」

 入ってきたのは大淀だった。
手には書類が抱えられている。

「提督、我が鎮守府の情報を整理しました。ご確認を」

「あ、ああ。ありがとう」

 手渡されたのはこの鎮守府の戦力情報と今後予想される敵戦力の予測データ等々。
まだ戦力が整っていないとはいえこの短時間でここまで纏めきれるのはすごいと言えるだろう。

「うちの鎮守府内の戦力分析は正確だな……敵戦力に関しては今後の交戦状況次第、か」

「交戦データはそこそこでしたが、まだこれからという感じが否めませんね」

 大体あってる。
さすが伊達に佐官になってはいない、か。

「優秀とは聞いていたがこれほど優秀とはな」

「お褒めに預かりましてありがとうございます……今の私にはこれくらいしかできませんので」

 今の、というのは彼女がまだ出撃が出来ないことに由来するものだろう。
今回着任した3名のうち、装備を身につけていたのは間宮だけであった。
 間宮は主計担当なので出撃はしないが。


「これだけできれば十分だよ。……やはり、装備はまだ完成していないのか?」

 事前通達によって聞かされてはいたが、艦娘であるにもかかわらず装備がない。
正直に言って不思議ではあった。

「はい……申し訳ありません。本来であれば私が前線に出てお役に立てるはずでしたが……」

「気に病まなくていい。……本当は艦娘(きみたち)に戦争などさせたくはない」

「……私たちは「そうあるべく」して育てられました。お気持ちはうれしいですが……」

 そう言って大淀は私に微笑みかけた。
つまり、「そうあるべく」とは艦娘としての知識……「(ふね)の記憶」を先に植え付けられた。
そういうことだろう。
 彼女は本当に自分の意思で戦うことを望んでいるのだろうか。

「装備がないのを恥じる必要なんてないんだぞ?」

「一般的に言うなれば装備があっての艦娘、ですので……」

 それも劣等感のようになっているのか。
そういう風に育てられた彼女達に「戦うな」と、言うことが今はできない。
 そんな歯がゆさが私の口を(つぐ)ませた。
今何を言っても彼女には伝わらない。
 
「大淀、朝食の前に朝礼を行う。……放送で各員に通達を」

「了解しました」

 本来は夕張の役目であったが、当の本人が帰ってくる気配がないので大淀に任せることにした。
大淀は敬礼のあとすぐに部屋を出て行った。
 やはり優秀だ。たとえそういう風に育てられていたとしても。

 







 朝礼のために続々と艦娘達が執務室に入ってくる。
大淀は滞りなく放送を行っていた。
 夕張も来たな。あれ?明石も一緒か。
……なるほど、大体の想像は出来た。

「全員揃った様だな。では、ただいまより朝礼を始める!」

「気を付け!礼!」

 大淀が号令をかけた。
おい夕張、お前の仕事とられてんぞー。

「本日、新たに3人この鎮守府で着任があった。彼女らはそれぞれの分野においてエキスパートであるので工廠、通信および作戦会議、主計でお世話になるだろう。皆、あとで挨拶をしておくように」

 一部、もう挨拶どころか友人になっていそうなのがいるが。

「それと、本日ヒトマルマルマルより鎮守府近海の索敵を執り行う。旗艦は夕張、その他随伴艦として叢雲、白雪、綾波、島風。周囲の警戒を密にすること。
 今後の目標はこの近海における敵の完全なる掃討だ。各員の健闘に期待する。以上」

 簡単に指示を出して朝礼を終える。
腹も減ってるだろうし、長い演説は好きになれないからな。

「気を付け!礼!」

 タイミングよく大淀が号令をかけてくれた。
もう大淀が秘書艦でいい気がする。
 朝礼が終わったので続々と執務室を出てゆく艦娘達。

「夕張、ちょっと」

 その中に混じって出て行こうとする夕張を引き止める。

「あー……ハイ……」

 後ろめたそうな顔をするんじゃない。

「まあ、わかってるとは思うが秘書艦としての自覚を持とうな?大淀が全部やってくれたからいいものの、これじゃあ今後示しがつかん」

「うう……気をつけます」

「あのー……ちょっといいでしょうか?」

 傍からひょっこりと顔を出したのは明石だ。
こちらもなんだか申し訳なさそうな顔をしている。

「夕張さんをあんまり責めないであげてください。そもそも私がドッグの拡張を申し出てしまったのが悪いので……」

「ドッグの拡張?……2人でそんなことしてたのか」

「はい、あらかた終わってるんですがまだもう少し拡張できそうなんですよね……」

 あらかた終わってる?おいおい、うちの妖精さんは化け物か。

「なんであれ報告をするようにな?今回はまあ、仕方ないが」

 明石はキョトンとしてこちらを見上げた。
首をかしげる仕草にすこしドキッとさせられる。

「……怒らないのですか?」

「怒ることじゃない、今後気をつけてくれれば良い」

「あの、提督……」

 おずおずと夕張はこちらの顔を伺っている。
そんなに私の顔は怖いのだろうか。

「夕張も連絡は密に、な?」

「は、ハイ!」

 ついでに今日の分の建造、開発を伝えておくか。

「明石、今日の建造は最低値を建造ドッグ分だけ、装備開発も同様で最低値を10回くらい。
頼むな?」

「わかりました。そのようにします」

「よし!もう行って良いぞ。出撃には遅れないように」

「はい!失礼しました!」

 部屋から出て行く2人。
心なしかホッとしていたようだ。

「あれでよろしいのですか?」

 後ろで見ていた大淀が聞いてくる。
佐官でもある彼女から見れば「甘い」対応だろうが……。

「良いんだよ、あれで。ここは軍隊だが、彼女たちにそれを強いることを私は望んでいない」

「……わかりました」

 不承不承(ふしょうぶしょう)、といった感じで答える大淀。
納得はしてくれないらしい。
 










 朝食が終わり、一時間ほど。
時刻はマルキューゴーゴーとなった。艦娘達は装備を身につけ出撃体制に入っている。

 一昨日の出撃を経験した3人は落ち着きが見られるが、その他の2人には緊張が見て取れる。
まあ、慣れろというのも酷か。

 ブザーが鳴る。時間だ。

「総員、出撃!」

 号令をかける。
私の不安を悟られぬよう、強めに。







 
「敵発見!さぁ!色々試してみても、いいかしら?」

 鎮守府海域をおよそ60海里ほど進んだ近海にて敵と思わしき影を夕張が発見した。 
前方正面、一昨日と同じくイ級だ。
 敵がここまで近くに来ているとは。
今日の索敵が無ければ攻められていた可能性が高い。
 
「どーぉ?この攻撃はっ!」

 各艦娘達、それぞれが砲弾の散布界を展開させる。
もはやこのイ級に逃げ場は無かった。

「GAAAAAぁぁぁぁ……!!!」

 前回と違い、こちらの数が多いため相手は何も出来ずただ撃沈された。
今の戦力ならばもう少し先まで行っていいだろう。

「夕張、今のはおそらく偵察艦だ。本隊、もしくはそれに近しい戦力を持った集団がどこかにいるはずだ。発見次第、それを叩け」

「了解!先へ進みます」




 北側に進路をとったそのおよそ40分後。
遠方に再び影が見えた

「左舷敵影発見……数は2!」

 2隻しかいない、はずれか。

「数的に本隊ではないようだが、ここでみすみす見逃すわけにも行かんな」

 近づくにつれて敵影がはっきりして来る。
1つは先ほどと同じイ級だ。だがもう1つは見覚えが無い。
データベースを検索してみる。

「イ級と……駆逐ロ級か。ロ級は初めてだったな。気を抜くなよ?」

 交戦許可を出す。
真っ先に駆け出したのは島風であった。

「私には誰も追いつけないよ!」

 なるほど、早い。
砲撃はうねうねと動く例の「連装砲ちゃん」3体が周りを取り囲みながら撃っている。

 いや、なんだアレ。
見た目はもはやサーカスのそれであった。
 
「島風、あまり突出するな。そこから回り込んで隊列に戻れ」

「はーい提督、了解です!」

 見た目はアレだが、きちんと指示には従ってくれる。
ちょっと感動してしまった。

 交戦中のロ級、イ級はどうもすこし錬度が高いようだ。
散布界を集中させぬようにジグザグに動き、かつ反撃もしてくる。

「GUUUUU!!!!!」

 イ級の砲撃。
狙い済ましたようなそれはしかし僅かに逸れた。

「きゃあっ!」

 被害を受けたのは叢雲だ。
幸い、直撃ではない。

「叢雲、大丈夫か?」

「少し服が汚れただけよ、問題ないわ!」

 そう言ってカメラを見て笑う叢雲。
その笑みは武人のそれであった。

「そうか。……全員よく聞け、今回の敵は錬度が高いようだ。個別攻撃ではなく数を生かした波状攻撃であれば有効だろう。ターゲットをイ級に固定、その後にロ級を」

「了解です」

 そう答えた白雪は攻撃を開始した。
続くように叢雲が砲口を向ける。

「よくもやってくれたわね!……沈めっ!」

 なおも回避するイ級、だが。

「にひひっ!あなたって、遅いのね!」

 島風の砲撃によって進路を阻まれ。

「よく狙って…てぇえええ~い!!」

「ZYAAAAAAAAぁぁぁぁ……!!!」


 綾波によって打ち抜かれた。
イ級は撃沈。残るはロ級のみ。

 ロ級はこちらを伺いつつ逃げるようなそぶりを見せている。速度は先ほどのイ級よりも速い。
もう逃げられないことを教えてやろう。

「島風、ロ級の後方へ回り込めるか?」

「やってみます!」

「残りははそのまま波状攻撃を続けろ」

「了解よ。あのニヤけっつらに叩き込んでやるわ!」

「叢雲ちゃん、落ち着いて」

「提督に良いとこ今日は見せられてないし……がんばらないと!」
 
 それぞれに指示を出して行動を開始させる。
ロ級は巧みに回避するが、散布界は徐々に小さくなっていく。

「てぇえええ~い!!」

 一番的確に敵を狙っているのは綾波だ。
ソロモンの鬼神と言われたその力は今、遺憾なく発揮されている。

「GIIIIIIIII!!!!」

 着弾した。
直撃ではないが、ダメージはあるようだ。速度が鈍った。

「しまかぜ、再び砲雷撃戦入ります!」

 回りこんだ島風からも容赦なく砲弾が降り注ぐ。
「連装砲ちゃん」は大小それぞれが動き回りながら撃てるからか、読みにくい軌道を描いている。
しかしなお、ロ級はまっすぐ逃げようとする。
……いや、ダメージで舵が取れないのか、ならば。

「総員、雷撃戦用意!」

「後で感想聞かせてね!」

 それ食らって感想聞けるわけないだろう。
……ああ、こっちに言っているのか。威力とかの考察に使えと。

「IAAAAAAAぁぁぁぁ……!!!!」

 そうして発射された魚雷は見事に命中。
ようやくロ級も撃沈した。

「敵の殲滅を確認した。周囲に敵影がないかを良く確認した後、帰投してくれ」

「了解しました!」

 手元のタブレットから目線を外し、一息つく。
けが人は出たものの、犠牲者はなし。
誰一人欠くことなく帰投してくれるだろう。
――良かった。







 艦隊が帰るまでの間に私は工廠を見て回ることにした。
建造、開発も、もう終わっているころだろう。

「あ、提督!ご指示のあったように建造と開発が終わりました。確認をお願いします」

 やはり終わっていたようだ。
ふと、建造ドッグの傍を見ると3人の人陰が見えた。
 姉妹だろうか、同じ服を3人とも着ている。
こちらに気づいたようで一列に並んで挨拶を始めた。

川内(せんだい)、参上。夜戦なら任せておいて!」

 栗色の髪と瞳が印象的なその子はツーサイドアップにまとめた髪をゆらしてそう言った。
黙っていれば美人なタイプだ。

「姉さん、失礼ですよ……あの……軽巡洋艦、神通(じんつう)です。どうか、よろしくお願い致します……」

 長く艶のある髪を先で縛っている可憐な少女は気弱そうに言った。
なんだかこちらのほうが長女に見えるがこの子が神通ならば2番艦であろう。
 どうしてこうなった。

「艦隊のアイドル、那珂(なか)ちゃんだよー。よっろしくぅ~!」

 なんだそれは、挨拶か?
たしかにアイドルじみた可愛さはあるが……華はどう考えても神通の方がある。

 しかもなにやらポーズまで取ってる。こいつは大丈夫か?
いや、島風の例もある。話したら実はまともって事も。

「そうか、アイドルなのか……よろしくな?」

 そう言って手を差し出すが。

「那珂ちゃんはー、みんなのものなんだからー、あんまり触っちゃダメなんだよー?握手はまた今度ね?」

 何だこいつ殴りたい。

「申し訳ありません……申し訳ありません」

 神通が必死に謝っている。
なんて不憫な子なんだ。君が悪いんじゃないのに……!

「神通、そんなに謝らなくていいから。
……とりあえず工廠をでてすぐ右手に宿舎があるはずだからそこで部屋割りを決めてもらってくれ」

「はい……ほら、2人とも、行きますよ?」

「提督、今度夜戦につれていってね!約束だよ!」

「まったねーキャハッ!」

 神通がまともな分その他2人のありえなさが際立っているように感じる。
神通、本当に不憫な……。

「強烈な姉妹でしたねー」

「戦力が許すならば那珂(あのバカ)は解体処分してやりたい気分だ」

 まあ、解体といっても解体するのは装備のほうだが。

「まあまあ、落ち着いてくださいよ。……これが開発された装備の一覧です」

 渡された紙を見て目をむいた。

「10cm連装高角砲が4つに61cm四連装(酸素)魚雷が3つと13号対空電探が3つ……出来すぎじゃないか?」

「妖精さんたちがものすごいですね、ここ。装備開発は妖精さんのモチベーションによると聞いたことはありましたけどこんなにやる気に満ち溢れているなんて見たこと無いです!」

「それは夕張に聞いてくれ。私は知らん」

「でも、妖精さん曰く、「ここの提督は良くわかってる」らしいですよ?」

 なにをだろうか?
特に何かをした覚えは無いのだが。

「設備がどうとか……まあ、ここは設備も確かにすごいですけどね」

「あー言っておくがその(たぐい)は一切わからんからな?」

 明石にまであの良くわからん講釈をされたらたまらない。
実際チンプンカンプンなのだから。

「明石、じゃあまた何かあったら連絡を」

「はい!了解しました。あ、ドッグなんですけどもう少し広げても良いでしょうか?」

「かまわない。……ああ、明日の朝また執務室に来てくれるか?だんだん此処でレシピを一々指定する時間が無くなってきていてな」

「わかりました。では失礼します!」

 作業に戻っていく明石。
夕張と明石のおかげでうちの工廠はここ2日くらいで大きく様変わりしている。
工廠や入渠ドッグがやたら大きくなってきたのはどう考えても2人の功績だろう。

 今度、差し入れでも持ってきてやろう。
そう思いつつ、私は工廠を後にした。





















「作戦終了。艦隊が帰投しました」

 17時、執務室に戻った私は帰投の挨拶を受けた。

「お疲れ様。初めての旗艦はどうだった?」

「大変ですね、これ……ちょっと疲れました」

 まあ、だろうな。
夕張は戦闘が好きではなさそうだし。

「叢雲、お前は直接入渠してもよかったんだぞ?」

「何言ってんのよ。さっきも言ったけど大丈夫よ、このくらい!」

 心配をかけまいとしているようだ。……こう見ると何気に健気だな。
しかし叢雲はどう見ても左手をかばっている。

「無理はするな。早めに入渠して来い」

「叢雲ちゃん、司令官もこう仰ってるし一緒に行こう?」

 白雪にまで言われると叢雲は意地が張りづらいのかしぶしぶ頷いた。

「わかったわよ……行けばいいんでしょ!」

 顔が真っ赤だ。
怒っているというより心配されて照れているのだろう。
 
 そうして叢雲は白雪に連れられて入渠ドッグへ向かった。

「今日は一番の大活躍だったな、綾波」

 本日の功労者たる綾波にも声をかける。
こうして話すのは初めてかもしれない。

「綾波が一番だなんて……嬉しいです……司令官のおかげですね」

 なんてつつましい良い子なんだ。
那珂(あのバカ)に爪の垢を煎じて飲ましてやりたい!

「あの、司令官?……どうして綾波はつつかれているんでしょうか?」

 気がついたらほっぺをつんつんしていた。
魔性のほっぺだった。めっちゃやわこい。

「ああ、すまん……皆、今日は良くやってくれた。一人も欠くことなく帰って来てくれて非常に嬉しく思う。今日はもうゆっくり休んで明日に備えてくれ。以上、解散!」

 解散を告げると各艦娘たちは思い思いに外へ出て行った。
夕張だけは秘書艦であるのでここにいるが。

「さあ、夕張。後一がんばりだ、書類が片付いたらお前も今日は上がっていいからな?」

「はい!任せておいて!」

 なんだかんだ夕張はこうして鎮守府にいる間が一番笑顔が多い気がする。
この子達がもっと笑顔でいられる環境を作るためにももっと頑張らなくては。

















 夜、本日分の書類が終わり一息ついたころ。
外がなにやら騒がしくなっていたので見に行くと。

「やーせーんー!」

「姉さん……だから今日はもう出撃は……」

「なんで!?こんなに良い月夜なのにー」

 外で川内が騒いでいた。
なにやってんだこいつ。

「あ!提督!ね?ね?夜戦しよーよー!っていうかさせてよー」

 困ったものだ。
川内が夜戦好きなのはわかってはいたが、いかんせんこれは「病的」ではないか?
頭の隅に何かが引っかかる。

「あー川内?あまり迂闊にそういうことを言わないように。こんな時間から出撃なんぞしたら体力がもたんだろう?」

 そう言うと川内は胸を張って。

「昼寝ればいいじゃん!」

 と、答えた。
呆れるばかりである。
夜戦ジャンキーか、とんでもない中毒だな。

「申し訳ありません……申し訳ありません」

 昼間と同じく謝りっぱなしの神通。
可愛そうに。

「いや、神通?お前は別に悪くないから」

「そーだよー夜戦しないのがおかしいんジャン!」

「お前は黙ってろ」

ちらり、と神通の方を見ると手に鉢巻を持っていた。
 それを頭に巻いた瞬間、その気配が変わった。
明らかに川内が慌てている。

「姉さん……これ以上騒ぐならば……」

「神通……?ちょっと?わ、わかったから落ち着いて……」

 神通の目が据わっている。
ああ、この子は怒らせてはいけないタイプの子だな。

「落ち着くのは姉さんの方です……提督にまでご迷惑を……」

「あ、あはは……じゃ、私ッ……ゥゲッ!」

 その瞬間放たれた右ストレートは目で追うことが困難であった。
見た目によらずこの子相当強いんじゃ……?

「不肖の姉が失礼を……」

「あ、ああ。川内は大丈夫なのか?」

「気を失っているだけです。……いつものことなのでお気になさらずに」

 いつものことなのか。
しかし動きに無駄が無いな、本当に強いぞこの子。

「では……提督、お騒がせしました……失礼します」

 そうして神通は川内を抱えて宿舎へ戻っていった。

 今日の日誌に絶対に書くことが1つ出来た。
神通を怒らせるべからず。
 
 








 
 

 
後書き
毎日更新している方々はすごいです。
どうにも毎日少しづつしか筆が進まない…… 
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