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俺と乞食とその他諸々の日常

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十一話:双子と日常


 いよいよ始まったインターミドルではあるがジークは第一組のエリートシードなのでSN(スーパーノービス)戦が終わるまでは一週間ほど暇だ。
 休日に開かれる大会ではあるが係の人はSN(スーパーノービス)戦の結果をすぐにエリートクラスに反映しないといけないので大変そうだ。
 何はともあれ一週間の期間があるのだから有効に使いたい。
 まあ、セコンドをするといっても戦術的なことは基本的に素人なのでそこらへんは全部ジークに任せている。
 最も今までジークは、セコンドはスタッフにやってもらっていたのでいつも自分で考えていたらしいので問題はない。
 俺に出来るのはサイフ、もとい食事の提供ぐらいだ。
 なので、俺はある場所に来ていた。

「最近、廃車にどんなアフレコをつけるのかを考えるのが生きがいになってきた自分がいる」
「それだけ気楽だと君の人生は基本的に楽しそうだね。何も考えて無さそうで」
「失礼だな。俺だって次元世界に永遠の夜をもたらす方法part3を考えているんだぞ」
「悪いけどそれは私の仕事だよ」
「その返しが欲しかったんだ」

 いつかの廃車場でボケをかます俺だったがしっかりとミカヤが拾ってくれたので一先ず満足だ。
 やっぱり、愛しているよ、おっぱい侍。
 それと今日は俺とミカヤに加えて中性的な顔立ちのオットーと大人っぽいディードさんがいるんだが―――

「ええ、本当にリヒターさんの人生は楽しそうです」
「私も思わず羨ましくなりますね」

 この二人、俺のボケに対して素の反応で返してきている。
 ……オットーとディードさんってまさか天然のボケ殺しなのか?
 いや、まだ決めるには早い。何せ知り合ってまだ一日も経っていないんだ。

「ミカヤ、今日も常温で不味くなったうえに健康を考えて薄めてさらに不味くなったスポーツドリンクを持ってきてやったぞ」
「リヒターさん、確かに味は落ちますが工夫次第では美味しくすることも出来ますよ。例えば―――」
「ああ、うん。それは今度落ち着いて聞かせて貰うよ、オットー」

 ダメだ、この人達にボケてもツッコミが返ってこない。
 真面目なのかそれとも感性が独特なのかは分からないが俺にとっての天敵だという事だけは分かった。
 普通に軽口を聞いたりするからノリが悪いわけではないと思うんだが……まさか、俺のギャグの精度が落ちているというのか!?

「認めたく無い物だな。己の若さゆえの過ちという物を…っ!」
「リヒターさん、過ちという物は認めることで初めて糧に出来る物だと私は思いますよ」
「あ、はい」

 おっぱいの大きなディードさんからやんわりとした顔で諭されてしまう。
 流石はシスターディード。人を導くのが上手で思わず涙が出てしまう。
 別にギャグがスルーされたからではない。

「ミカヤ……この人達といるとどうにもやりづらい」
「言うな。私も二人相手だとボケもツッコミも出来ずに少し寂しいんだ。だから君を呼んだんだ」
「どうかされましたか、お二人共?」
『いや、なんでもない』

 オットーの言葉に声を揃えて返す。
 不思議そうな顔をするオットーだが俺は初めてオットーに会った時から思っていたことをどうしても聞いてみたくなる。

「なあ、失礼な事を聞くがオットー、お前は―――男と女どっちなんだ?」
「何を言っているんだい、リヒター。オットーくんは男の子だよ」
「いえ……よく間違えられますが僕は女の子ですよ」
「へ?」

 どうやらオットーはボーイッシュな女の子らしい。
 まあ、それは良いんだが問題は俺の隣で驚愕の表情を浮かべているミカヤだ。
 どうやら長い付き合いであるにもかかわらず男だと思っていたらしい。
 そもそも、オットーだけ『くん』を付けるから俺もどちらか分からなかったんだ。

「ずっと、ふざけてオットーのことを『くん』づけしているのかと思っていましたが……素で間違えていたのですね、ミカヤさん」
「うん……初めて会った時は執事服を着ていたからてっきり男の子だと思ってたの」
「確かに似合いそうだな」
「ディード、僕はもう少し女の子らしくした方がいいかな?」
「それなら、今度着付けでもしましょう。丁度オットーに似合いそうな可愛らしい服がありますよ」

 自分が女の子として見られていなかったことに軽くショックを受けたオットーがディードに相談すると、なぜか待っていましたとばかりにニッコリと笑いながら話を進め始めるディードさん。
 まさか、この展開を読んで用意をしていたとでもいうのか!? 恐ろしい人だ……。

「さて、気を取り直して私もがんばらないとだ」
「大将、いつものやつお願いします!」

 馴染みのおじさんである大将に声を掛けて準備をして貰う。
 今日も男らしい笑顔が眩しい、大将だ。

「ところでいつものと言うのは何を?」
「試し斬りさ」

 ディードさんの質問にそう言って上を指差すミカヤ。
 オットーとディードさんはつられて見上げて思わず声を上げる。
 そこにはクレーンから吊るされた状態の廃バスがあった。
 あれ? いつもよりデカいな。

「まさか、いつも試し斬りでこんなものを!?」

 驚くオットー。うん、俺もいつもよりデカくて、驚いているからその気持ちは分かる。
 ミカヤは驚いている俺達を安心させるようにいつもはもっと小さいと口を開―――


「当然だろう?」


 ドヤ顔で嘘つきやがったよ、こいつ。
 驚く二人の顔を見て不敵に笑ってやがるよ。
 後で絶対にバラしてやるからな。
 それで嘘だったのかとホッとして撫で下ろすディードさんの巨乳を見るんだ。

「準備万端! お願いします!」
「はいよ!」

 いかん。考えているうちに始まってしまった。
 すぐに廃バスにアフレコを付けなければ。

「よく来た、勇者ミカヤよ。わしは待っておった。そなたのような若者が現れることを……もし、わしの味方になれば世界の半分をお前にやろう。どうじゃ? わしの味方にならないか?」
「半分? なら残りの半分は力尽くで奪うしかなさそうだね」
「勇者が魔王より魔王らしい件について」

「それに個人的には世界よりお金の方が欲しいかな」
「金なら俺の方が欲しいわ、ボケェッ! 死ねェェエエエッ!!」
「どれだけお金に困っているんだい、君は」

 俺の魂の雄叫びに対して呆れたような声を出しながら向かって来る廃バスに対して抜刀するミカヤ。
 高速で自身を押しつぶさんと突進してくる鉄塊をまずは―――一閃。
 そして縦に割れて真っ二つに分かれる前に軽く刀を振りさらに一閃。
 一瞬の静寂の後に芸術的なまでに美しい仕草で刀を鞘に納める。


「天瞳流抜刀居合―――天月(てんげつ)(かすみ)


 その瞬間、止まっていた時が動き始めたかのように廃バスは四つに分かれて崩れ落ち始める。
 地面に落ちて起きる轟音がまるでミカヤに対する喝采のように廃棄場に響き渡る。
 まあ、実際におじさん達の喝采とオットーとディードさんの歓声はあるんだけどな。
 二人は手を握り合わして見ているのだがその姿が何とも可愛らしい。
 特にディードさんのおっぱいに目が行ってしまう。

「それにしても凄まじい……魔力もほとんど使わずにこんな事が可能なんですね」
「ふ、これは私の力のほんの一部を開放したに過ぎない。全力を出せばそこにいるリヒターごとね」
「なんでお前の後ろに居る俺が斬られるんだよ。故意に狙わないと無理だろ、それ」
「意中の相手に気が向くのは仕方ないと思わないかい?」
故意()だけにか。って何を言わせてくれるんだ!」

 おじさん達の失笑が地味に胸に響く。
 オットーとディードさんは、なんか俺達の関係を邪推し始めているけどな。
 今後、俺にとってシャレにならない事態になりそうな気もするが俺とあいつは悪友だということは後で気づいてくれるだろうから何も言わないでおく。
 まあ、今はそれよりも気になることがある。
 何というか、ミカヤには―――


「敗北フラグが立った気がする」


 外れてくれたらいいんだがな。
 
 

 
後書き
二回目の廃車切りですけどミカヤん好きの作者にはどうしても外せなかったよ(´・ω・`) 
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