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炎の天使

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5部分:第五章


第五章

「だからだ。こうして天使が舞い降りられたのだ」
「まことだったというのか」
「あの娘は聖女だったのか」
「信じられん」
「そんな・・・・・・」
 しかしだった。彼等が驚いているその間にだ。
 炎は消えだ。ジャンヌが救い出されていた。何とその身体は全く焼かれてはいない。
 天使はそのジャンヌにだ。こう声をかけるのだった。彼女の背についてだ。後ろからその顔を見下ろしつつ覗き込んで語りかけていく。
「ジャンヌよ」
 清らかな、そしてとても優しい声であった。彼女を包み込む様な。
「貴女はここで死ぬべきではありません」
「そうだというのですか」
「はい。貴女のフランスに対する役目は終わりました」
「それはですか」
「そうです。そして」
 天使はだ。ジャンヌにさらに話していく。
「貴女はこれからは神の御為にです」
「神の御為に」
「働くのです。いいですね」
「はい」
 ジャンヌが断る筈もなかった。天使の言葉にこくりと頷く。
「では。私は」
「共に参りましょう」
 天使はまた彼女に告げた。
「いいですね、それでは」
「はい、それでは」
「新しい。貴女の為に」
 最後にこう言ってだ。天使はジャンヌをその両手で包み込むとだ。姿を消した。後に残ったのはその焼くべき相手のいなくなった火刑台と取り残された者達だけであった。 
 取り残された者達はだ。呆然としながら言い合うばかりだった。
「馬鹿な、こんな」
「何故だ、何故こんなことが起きる」
「あの娘はまさか本当に」
「聖女だったというのか」
「聖女でなければだ」
 呆然となる彼等にだ。若い僧侶が言う。
「あれだけのことができるものか」
「フランスを救った」
「そのことがか」
「そうだというのか」
「そうだ、しかもフランス王の秘密を御存知だった」
 しかも王を多くの貴族達の中から見つけ出してである。多くの奇蹟がそこにあったのだ。
「それでどうして聖女でないのだ」
「くっ、では我々は」
「その聖女を焼こうとしていたというのか」
「そうだ、貴方達は罪人だ」
 僧侶は彼等に冷たく告げた。
「それは永遠に語り継がれることになる」
 そしてだった。ジャンヌについても語るのだった。
「あの方は。これからも生きられるのだ」
「聖女としてか」
「そうだというのか」
「そうだ。しかもだ」
 彼はだ。さらに話すのだった。
「あの方は死しても尚永遠にだ」
「聖女として生きるか」
「そうなるのか」
 そのことをだ。誰もが思い知るのだった。
 この話は外には出なかった。誰もがなかったこととして口をつぐんだのだ。それは若い僧侶も同じだった。彼も話すことはなかった。
 だがこの火刑から数年後ジャンヌの弟達の前にその聖女が再び現れたという話が残っている。これが真実かどうかは不明である。
 ただ現実に言えることはある。ジャンヌ=ダルクは今は聖人、聖女として知られている。祖国フランスを救った少女はだ。そのフランスから深く敬愛されているのである。


炎の天使   完


                  2010・12・31
 
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