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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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一方的な戦闘

アパルトヘイト。南アフリカ共和国で行われた人種差別政策だが、それは肌の色で差別が行われていたという。

今、俺の脳裏に過ぎったのはその単語である。

事が起きたのは食事に関して少し揉めたあの日から約一週間後のことだった。その日もひたすら西へ向かっていたのだが……。

「……暑いね……」

今にも干からびそうな様子でダラダラと歩いているのはレアだ。旅を始めたころの興味で輝いていた瞳を持っていたレアはどこへやら。

「えー、そう?ボクは平気だけど?」

対して元気一杯なのはユウキだ。ただ歩くだけでも幸せらしく、ニコニコしながらダレているレアをからかっている。

どうやらアンダーワールドには四季があるようだ。そこら辺は制作者の日本人らしい感性が出ている。今の季節はおそらく夏。茹だるような暑さが遮るもののない荒野に蔓延している。

「ユウキもそうだけどリンも平気そうだね……」

「暑いと思うから暑いんだ」

確かに気温は高いが、その暑いという感覚の大半は実際の温度とは無関係。思い込みからくる脳の錯覚に過ぎない。

とはいえ、だからといってその錯覚を取り除くのは非常に難しいから知ったところでどうもできないのだが。

「ぅ~……う?お、日が隠れた?」

暑さに唸っていたレアだったが、唐突に現れた日陰に驚きながらも嬉しそうな表情になった。

だんだんと大きくなっていく影。そして風切り音。これは……。

「違う、これは……。レア、伏せろ!」

ユウキが剣を抜き放つのを横目に見ながらレアを地面に引き倒す。地面に倒れ込んだ俺達のすぐ頭上を何か大きな影が横切った。

「……かわされたか」

その影はそのまま地面に降りるとその二対の目でこちらを睨みつけた。

真っ黒な騎士甲冑を纏った、巨大な騎乗槍を持った人物がこれまた漆黒の竜鱗を持つ竜に騎乗している。

声は甲冑によりくぐもっていて性別を判別することはできない。

バイザーの下ろされたその顔からは表情を窺い知ることはできないが、強烈な殺気と僅かな賞賛からだいたいの感情がわかった。

「さてと……一応襲ってきた理由を聞いてもいいか?」

身体を起こし、剣を抜きながら問い掛ける。

予想としてはレアがなんらかの形で怨まれていた……くらいだろうか。俺とユウキはこの世界に来たばかりであるし。

だが何故か俺とユウキに向けられる方が殺気の割合が多い気がする。

その返答は槍だった。

狙われたのはユウキ。その容姿から組み易しと思ったのだろう。槍を構えて一直線に突っ込む。

「せやっ!」

だが、ユウキに剣で軽く払われ、竜を飛び越えるためにジャンプしたユウキの蹴りが甲冑の顎の部分を捉えた。

「ぐぅっ!?」

その騎士は竜から落下して地面を転がる。さらに衝撃で甲冑の頭部分が外れ、素顔が明らかになった。

肌の色はレアと同じく黒めで髪は短めの金髪。それなりに顔の整っているだろう男だったが、今は屈辱と怒気で歪んでおり台なしである。蹴撃と落下時の衝撃はキチンと殺していたらしく、見たところダメージはない。

「貴様ら……素直に殺されてればいいものを……もはや楽には殺さん!」

「会話はキャッチボールだろうに。会話のファイヤーボールとは斬新だな」

竜騎士からすれば俺達を殺す動機はあるのだろうが、俺達からすればいきなり襲ってきて、無様に反撃を食らい、それに逆上した阿呆にしか見えん。

「話を聞かないタイプだね、アレ……」

嫌そうな表情のユウキ。天真爛漫でコミュニケーション能力が高いユウキにしては珍しい表情だ。

まあ、ああいうタイプは俺も嫌いだ。自分が世界の中心とでもいうように考えているやつ。……須郷を思い出すな。

そんなことを話しているとさらに逆上したのか、顔に浮かんでいる青筋の本数が増加する。そして手に持っていた騎士槍を投げ捨てると、腰から騎士直剣を引き抜いた。

「……ボク、あっちで竜の相手をしてくるね!」

そう言うとユウキは竜と対峙する。……俺に騎士の相手を丸投げして。

「はぁ……。ちょっといいか」

「この私を愚弄するのもいい加減にしろ!」

「事実を言ったまでだ。それはどうでもいいが……聞きたいことが」

「死ね!」

「話しを聞け」

斬りかかってくる騎士の直剣を、一本だけ引き抜いた剣で受け流す。技量はそこそこ高い……が単純だ。逆上しているのもあるが、こちらを見下してるのか、教科書のような軌道で剣を振ってくる。

「逃げ! るな! 卑怯! 者め! 素直に! 死ね!」

イクスクラメーションマークと共に剣を振ってくる。しかし当たらない。火花すら、金属音すら鳴らない奇妙な膠着。金属音すら鳴らないのは完璧に受け流しているからなのだが。

周囲から見ると俺が押されているように見えるのが、レアがハラハラしている。しかし、俺は相変わらずの無表情。対して騎士の表情は逆上の表情から、焦りの表情へ。眉間のシワがどんどん険しくなっていく。

「くっ……」

罵倒を浴びせていた口もいつしか固く結ばれ、時折くぐもったうめき声が漏れる。

「とりあえず、俺達の敵ってことでいいんだな?」

袈裟斬りを右下に流しつつ、少し目を細めてそう俺は言うと、竜騎士は少し下がって口を開く。

「当たり前だ! 貴様らはこの私が直々に剣の錆にしてくれる! 潔くそこで腹を斬るというのなら介錯をしてやらんこともないぞ!」

実力差を悟ったのか態度が多少軟化している。とは言っても上から目線なのは変わっていないのだが。

そしてユウキは何故か知らないのだが、竜を飼い馴らして遊んでるし。……こいつ。自分の飼い竜を盗られたのか、ユウキに。まあ、獣は本能的に強いものに服従するのが基本だから無理もないか。多少は訓練を積んでいるようだが……ユウキの足元にも及ばない。

「残念ながら、俺達はここで'はい'と言う程マゾヒストではない。それに……」

納めていたもう一本の剣を抜いて構える。

「お前が敵だと言うのなら、しかも命を取ろうというのなら……俺も容赦はしない。他人の命を狙うのなら自分の命を賭してもらおうか」

「ぐ……こ、この白イウム風情がああああ!!」

正論を言ったはずなのになぜか逆ギレされた。まあ、激情型なのは元から知っていたし、何故狙われたのかだいたい把握することができたし、プラスかマイナスかで言ったらプラスになるのだろうが。

ここまで扱いやすいとはな。

「貴様らは我々に滅ぼされる家畜に過ぎん! 豊かな地に住み、ヌクヌクと育ったお前達の命と私の命が同等だと思っているのか!?この下等人種め!!」

チャンバラのように振り回される剣をステップだけでかわす。

右、左、上、下と不規則に振り回される剣は先程の教科書剣術よりは読み辛いものの、フェイントすら入っていないため、ある程度の先読みができる俺からすれば、剣を使うまでもない攻撃だった。

聞くに堪えない悪態を次々と吐き出しながら剣を振るうその姿に感心さえ覚える。よく舌を噛まないな、と。

「貴様らはすぐにゴミになる。この私の正義の刃によってな! そうだ、そこのメス一匹と反逆者は私が飼ってやろう! それで安心だろう?安心して死ぬがいい! なぜなら私に飼われるということは名誉なことだからな!」

そろそろ聞き捨てならない言葉も混じってきたし、潰すか。正直なところ、かなり我慢した方だと思う。

「黙れ」

こちらから見て斜め左から振り上げられた刃を左手に握った剣で絡め取り、上に跳ね上げる。跳ね上げたことで空いた空間に下がるのではなく今度は踏み込むと、右手に握った剣の柄を鳩尾に叩き込む。鎧によって多少の威力は殺されるが、気にせず、同時に左手に握った剣の切っ先を跳ね上げ、くの字になったため高さが下がっていた竜騎士の剣を持っている手を斬りつけた。こちらは籠手によって阻まれるが、衝撃は中に徹すことに成功する。その衝撃で竜騎士は剣を手放してしまい、竜騎士とは別の、あらぬ方向へと飛んでいってしまう。

「一つ言っておく。俺からすればお前よりもユウキとレアの命の方が重い」

すべての命はすべて同じく価値があるなんて綺麗事はかけらも思っていない。

「人の逆鱗に触れるなら己の命の価値をゼロにして勘定するべきだったな。まあ、元々理不尽に剣を向けてくるお前の命の価値など俺からすればたかがしれてるがな。……自分の価値を過大評価し、それを相手に押し付ける。その愚かさを悔やみながら贖罪しろ」

俺は剣についた血を剣を振ることで払うと、納刀して踵を返す。その後ろには物言わぬ骸が一つあった。

「リン!」

踵を返した瞬間、ユウキが抱き着いてきた。いや、これは正確じゃない。飛びついてきた。

どうにか受け止めると、ユウキはそのまま俺の腕の中から俺を見上げてくる。

「……どうした?」

「……リンの雰囲気が怖かったから……。ボク、リンがどこかに行っちゃうような気がして……」

心配そうにこちらを見上げるユウキの頭を軽く撫でると、地面に降ろす。

「どこにも行かないさ。こんな俺を好きでいてくれる人を守りたいからな。支えてくれる限り、俺は大丈夫だ」

「……釣った魚に餌をやるのを忘れないんだね、リンは」

頬を赤くしながらも恨めしげにこちらを見てくるユウキはかなり可愛かった。 
 

 
後書き
最近ロリコンロリコン言われる蕾姫です。

ケイオスドラゴンのエィハが可愛くて仕方ない。レッドドラゴンのよりもキャラデザがいいですよね!

今回の話はちょっとあれかもしれませんが、次に繋がる大事な布石です。まあ、わかる方が多いとは思いますが念のため。

平等云々は私の勝手な主張です。建前として命は平等なんだ!ってのは大切だと思いますが、個人レベルで考えるとやはり大切な人や自分の方が命が重くなるのは当たり前。異論は認めますが、主張は変えませぬ。

リン、あっさり殺し過ぎじゃないの?と思われる方がいるかもしれませんが、ああいうプライドの高い阿呆を生かしたまま放置すると虎の威を借りて復讐しにくるから後腐れなくやっちゃうのが一番かと。洞穴でのやつらはその虎すらいなかったので。まあ、放置してマモレナカッタしたくないですからね。


次回はちょっと説明入れてイチャイチャしたいなー……多分。

ではでは 
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