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恋姫†袁紹♂伝

作者:masa3214
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第22話

 
前書き
~前回までのあらすじ~

地和・人和「やべぇよやべぇよ……物凄い。白紙だから……」

天和「大丈夫でしょ、ま、多少はね?」


………
……


宝譿「まるで成長していないゾ」

華琳「……」

袁紹「駄目みたいですね(達観)」


大体あってる
 

 
袁紹と華琳の両名が久しぶりに顔を合わせた翌日、日も昇り始めていない時刻の広宗内部、 『張三姉妹』が使っている屋敷よりも上等な建物内で、手配書に目をやりながら男が嗤っていた。

「……くくく」

 彼の名は『張角』――無論本人ではない。しかし手配書には彼と同じ風貌の男が描かれていた。

 二十万の勢力とは言え黄巾は下火にある。聡い者や不安に押しつぶされた者達は官軍が来る前に黄巾を離れ、行く当てもない彼等は自然と南皮に辿り着いていた。
 そんな彼等の情報により、表に現れない張角達に代わり黄巾を取り纏めている者の素性がわかった。その男は黄巾に合流したどの賊上がり達よりも多くの戦力を従えていた賊長で、持ち前の腕力と、多くの手下を使い広宗の黄巾達に指示を出していると言う。

 風はこれに目をつけた。実質上黄巾の指導者となっていたその男を『張角』と見立て手配書を作成したのだ。

 ただの賊上がりが一躍大罪人に、並みの人間なら卒倒しかねない状況だったが男は嗤った。
 見方を変えれば、ただの賊長が今や黄巾二十万を率いる『張角』だからだ。実際張角として此処に居るのは愉悦だった。それまで自分に恐怖の視線を向けていた者達からは畏敬の念を、自分の指示に従わない少数派の者達は頭を下げ始め――捕らえた女は抱き放題だった。

 広宗に篭城している黄巾達で、張三姉妹の素性を知っている者は殆どいない。
 彼女等の説得で目を覚ました彼等はそれまでの熱が嘘のように冷め、広宗に辿り着く前に離脱している。そんな状況のため男が張角を自称するのは、手配書の効果も相まってすんなり成功していた。

「此処の次は南皮だ。あのふざけた袁家って奴を滅ぼしてやる」
 
 男は何処までも驕り、昂っていた。彼に学はなかったが、戦において数の優劣がどこまで重要な事かは理解していた。
 広宗を包囲している官軍は多く見積もっても十万ほど、対する自分達はその倍の数で篭城している。広宗に備蓄されていた兵糧もあり長期戦でも余裕があった。

 そして此処を抜けられると前提して次の獲物――袁家を思い出しては顔を歪ませる。
 奴らが居なければ今頃自分は五十万の大軍勢を率いていたはずなのだ。聞けば南皮で難民として受け入れられた言っていた。

「袁家を滅ぼして目を覚まさせてやる。この張角様がなぁ! ……くくく」

 周りの官軍を蹴散らしたら景気祝いにあの旅芸人達を抱いてやる――男は歪んだ決意を胸に屋敷から外に出て行った。

 



「か、頭ぁぁ! 大変です!?」

「頭って呼ぶなと言ってるだろ! いつになったら覚えるんだ?」

 外に出ると、すぐに部下の一人が慌てて駆け寄ってきた。

「す、すみません張角様……でもあれを見て下さい!」

「あ~ん?」

 いつまでも自分を頭呼びにしている部下を叱り飛ばそうとしていると、いつになく慌てた態度だったため部下が指し示す方角に目をやる、すると――

「な、なんだありゃあ……」

 広宗にある兵糧庫付近から黒煙が上がっているのが確認できた。

「おい兵糧はどうした!? 無事なんだろうな!!」

「へ、へい、幸い兵糧には火が移ってないです……が」

「なんだ……どうした?」

「火の勢いが強くて……このままだと……」

「馬鹿野郎! それをはやく言いやがれ!!……寝ている連中を叩き起こせ。
 門の見張りも消火活動にあたらせろ」

「へ? 見張りはどうするんで?」

 部下が疑問に思う。自分達黄巾は確かに数では官軍に勝る。しかし錬度という点ではまったく適わない。
 そのため地の利を得ている現在が理想の形、それを脅かす可能性は作りたくないと、小心者でなくても至る考えだったが――

「大丈夫だって言ってるだろ馬鹿が! いいから行動しろ!!」

「ヒッ、わかりました……」

 一喝して部下を動かす。その懸念はこの『張角』にもあったが、今はそれどころではない。
 自分達が地の利を得ていられるのは単に、潤沢な兵糧があるから成せるのだ。それを無くしてしまえば長期戦は不利、窮地に追いたたされるかもしれなかった。

 警備は問題ない。仮に門番達を全て消化活動に当たらせたとしても、城壁には沢山の見張りが配置されている。
 官軍の攻撃があればすぐに警笛で知らせるはずだ。第一、日はまだ昇っていない。官軍達がいつもの攻城に出るまで時間があった。






「冥琳様の狙い通り、見張りが少なくなりましたね!」

「ああ……馬鹿な連中だ」

 城門から見張り達の殆どが兵糧庫に向かって行くのを、建物の影から甘寧と周泰の両名がほくそ笑みながら見ていた。
 彼女達は広宗に潜入してから、火の不始末に見せかけ幾度も小火騒ぎを起こしていた。日がまだ昇りきらない明朝であるのも相まって、間者の仕業だと疑う者はいなかった……

「いくぞ明命!」

「はい!」

 そして僅かに残った見張り数人を難なく黙らせる。彼等は悲鳴を上げることも出来ずに息を引き取った。





「ん? おい、あれ……」

「砂塵?――まさか」

 城壁の見張りが異変に気が付いたのは事が起きた少しあとだった。薄暗い大地に砂塵が出来ている。

「騎馬……騎馬隊だぁぁぁ!?」
 
 気付いた見張りがそう叫ぶも他の面々は首を傾げた。それもそのはず。明朝に攻撃を仕掛けてきたのは初めてたが、それ以上に篭城している自分達に対して騎馬で挑むとは――

「警笛を鳴らせ。一応下の見張りにも伝えておけ」

「下にはオラがいくだよ」

 見張り達は冷静に動いた――と言うより慣れに近い。
 主に見張りをまかされている自分達は非戦闘員だ。後は駆けつけた仲間に任せて後方に下がれば良い。広宗に来てから何度もやって来た単純作業。今日もそのはずだった――

「だ、誰もいねぇ!?」

 城壁の淵から下に知らせようとした男の声を聞くまでは

「おいどうした!」

「じょ、城門の見張りがいないだよ!」

「ば、馬鹿な……」

 いくら何でも見張りが居なくなるなんてありえない。この広宗において城門は兵糧庫と同等の重要拠点なのだから――そこまで考えて見張りの男は血の気が引く感覚に陥った。

 兵糧庫付近の火災、見張りのいない城門、砂塵と共に近づいてくる騎馬隊――男は確信した。

「か、官軍だああぁぁ!! 官軍が門から押し寄せてくるぞおおお!!」






「か、官軍だああぁぁ!! 官軍が門から押し寄せてくるぞおおお!!」

 その知らせは兵糧庫の火災を消化して、警笛の音で城門に向かっていた黄巾達に届いた。

「ありえん……門番達はどうしたのだ?」

「あ、あれ! 門が開いてる!?」

 遠めで確認して悲鳴のような声を上げる。もしも広宗内に進軍されたらと思うと――、黄巾達は一斉に走り出し門へと向かった。

「く……、一人入ってきやがった」

「女一人だ! さっさと片付けて門を閉めるぞ!!」

 官軍の隊列から飛び出し一人門を潜る武将が一人、燃え盛る炎を連想させるような赤毛、袁紹軍所属、呂奉先の姿がそこにあった。

「…………へ?」

 彼女に殺到した黄巾たちの一人が素っ頓狂な声を上げる。斬りかかった十数人の姿が一瞬にして『消えた』のだ。
 そして後方で音がしたので振り向くと――

「ヒ、ヒィーーーー!?」

 物言わぬ彼等がそこにあ・っ・た・。
 一閃――ただそれだけで彼等は吹き飛ばされ、痛みを感じる間も無く息の根を止められたのである。

「さすがだな恋……ここは任せるぞ!」

「……ん」

 恋の後に続いて広宗に辿り着いた星は、彼女の武力に黄巾達が恐れ硬直している内に、広宗の脇道へと入っていった。








「うああああ!? は、離れろおおお!!」

 恋を見て叫び声を上げるこの男、黄巾ではなく他諸侯の兵士だ。
 袁紹軍が内部に進撃しているのを確認した彼等は、便乗するように広宗に殺到した。そして入り口付近で黙々と黄巾達をなで斬りにする彼女の姿に叫び声を上げた。

 恋の得物が速過ぎて視認出来ない。彼女が数歩前に出るたびに風切り音が聞こえ、次の瞬間には十数人の黄巾達が吹き飛ばされていく――彼女の周りには元黄巾達の変わり果てた姿が転がっていた。

「……なんと言う」

 孫呉の将黄蓋、弓の使い手として目に自信のあった彼女には辛うじて恋の矛が見えていた。

「いいわぁ……あの娘、戦ってみたい」

「正気か策殿、あの武はわし等と次元が――!?」

 誰が聞いても無謀と取れる言葉を呟いた孫策を諌めようと顔を向け、口を閉ざす。
 他の者達が呂布に恐怖や畏怖のような目を向けているのに対し。孫策の目は何処までも野生的で、まるで獲物の様子を窺う虎のようだ。

 堅殿、貴方の血は確かに色濃く受け継がれていますぞ――孫策のそんな様子に意識を戻した黄蓋は、孫呉の第二の目的、諸侯の前で自分達の武を見せ付けるため弓を引いた。




「す、すげぇ……」

「ああ……」

 どこぞの兵士達から感慨の声が上がる。袁紹軍の呂布はもとより、孫呉の孫策と黄蓋、曹操軍の夏侯惇は一騎当千の腕前で次々と黄巾達を倒していく、そして一見地味だが呂布隊の面々、常日頃から彼女と鍛練に明け暮れている彼等は臆する事無く大群に向かい。前線で戦う彼女等の討ち洩らしを防ぐように、堅実に敵を屠っていく――





「ここか」

 所変わって星。張三姉妹の救出を任されていた彼女は、三姉妹が匿えられているとされる屋敷の近く、物陰から様子を窺っていた。
 
 広宗から南皮にやって来ていた『難民』の中には三姉妹の愛好者の姿もあった。そんな彼等に彼女等を救出する事を条件に広宗内部の作りと、この屋敷の場所を教えてもらったのだ。

 普段十数人に護衛されているその屋敷は、『張角』がいる屋敷より堅固に警備されており、孫呉の間者二人は奇しくも、此処に張角がいると断定していた。

「時間も無い。行きますか」

 見張りの数と位置を確認した星は、勢い良く物陰から飛び出し駆け寄っていく――

「な、なんだ貴様、官ぐ――」

 屋敷の門前に五人いた見張りの意識を奪う。本来なら倍以上の人数がひしめき合っているはずだが、先の小火騒ぎに借り出され彼等しか残っていなかった。

 そして星はそんな彼等の意識を奪うことまでで留める。息の根を止めたほうが確実性もあるのだが――南皮の謁見の間で袁紹に頭を下げて願ったあの男の顔が浮かんだ。彼と同じく三姉妹の愛好者として彼女達の護衛についている彼等を、手にかけることが出来なかった。
 説得という手も有ったかもしれないが――それではどこから情報が漏れるかわからない。






「!……誰!?」

 敏感に人の気配を察知した次女地和は、姉と妹を守るように彼女等の前に出た。
 そんな彼女達に華蝶仮面――星は姿を表し一言

「時が惜しい。お主等は生きたいか? それとも此処で散りたいか?」

「なっ!?」

 根も葉もない奇人のその言葉に三姉妹は目を見開く、半ば生を諦めていた。護衛達を退けてこうして誰かが来れば、それは自分達を討伐するのが目的だろう――そう確信していたからこその驚きだった。

「いきなり現れて何を言ってるの!?」

「ちぃ姉さん!」

「っ~~生きたい……わよ、これで良いの!?」

 肩を震わせながら地和は姉妹を代表して願いを述べた。そんな彼女の様子に星は満足そうに頷く、せっかく此処まで救出に来ているのに相手が無気力では助け甲斐が無い。
 三姉妹の瞳に光が戻ったのを確認し。踵を返した。

「時間がない。私の後に続け!」







「っ……クソッ!!」

 それから少し遅れて甘寧が屋敷に到着する。見張りの男達が意識を失っているのを見るに先を越されたようだ。相方ならこんな回りくどいことはしない。

「遅かったか……」

 苦虫を潰す様な表情で呟く、念のために屋敷内を確認しようとした彼女は疑問を持った。
 
 ――屋敷内が綺麗過ぎる。抵抗の跡はおろか血の一滴も落ちていない。

「……」

 気付かれないうちに暗殺に成功した?――ありえない。ここまで鮮やかな手口は自分達にも難しい。後ろから付いて来ていた仮面の女は気配を消す心得があったが、あくまで素人の真似事にすぎない。では何故血の一滴も見つからないのか――生け捕りにしたのだ!

「思春さん!」

 甘寧が結論に達したと同時に周泰が到着する。時間が無い故に詳細を省き指示をだす。

「付いて来い明命。張角を追うぞ!」

「え!? は、はい!!」

 突然の出来事に目を白黒させている周泰を伴い。裏道から広宗の門を目指す。
 自分なら生け捕りにした人間をどの道から連れて行くか、いかに黄巾や官軍の目から隠れるか、最も効率の良い経路を頭の中で描き二人は疾走した―――







「む……まずいな」

 星は後方から近づいてくる気配を敏感に察知した。隠密に優れた二人であれば悟られること無く近づくことも出来たが、一刻を争う事態に気配を消している余裕は無かった。

「?……何がまずいのですか」

 星の様子に、頭の上に疑問符を浮かべていた三姉妹の人和が問いかける。武をかじってすらいない彼女達にわかるはずもない。

「なに、お主達の首にご熱心な者達が来るだけよ――首と別れたく無くば口裏を合わせよ」 

「ちょ!?」

 おどけているとも真剣ともとれる星の縁起でも無い発言に、三姉妹は顔面蒼白になる。
 少しして遠方から二人組みが向かってくるのが確認できた。星の発言も相まって恐ろしい形相に見える。

「待たれよ!」

 殺気を振りまきながら接近してきた二人と、三姉妹の間に入る形で星が制止を呼びかける。
 甘寧と周泰は素直に止まったが、甘寧は後一歩踏み込めば星を間合いに入れられる位置で止まり、今にも斬りかかって来るような気迫を醸し出している。

「やはり生け捕…………女?」

 星が連れている三姉妹を見て、一瞬だが甘寧は呆気にとられた。手配書から張角を男と認識していたこと、星が連れ出したのは張角だと予想していたこと故の驚きだった。

「我が名は甘寧、孫呉の将だ……お前は?」

「我が名は趙雲、袁家現当主袁紹様の将よ」

「っ!? ……失礼致しました」

 袁家の名を強調され緊張する。先の文でもある通り、自分達の頭脳である周瑜が辛酸を舐めさせられた相手だ。勢力さも比べ物にならず下出にでる他無かった。

「……後ろの者達は?」

「それよ! 主の命で張角を討とうと警備が厳重な屋敷を覗いてみれば、張角の姿は無く彼女達が監禁されていたのだ。
 本来なら張角探しに行きたいところであるが……被害者である者を放っておくのは義に反するであろう? 故にこうして安全なところまで連れて行こうとしておるのだ」

「え? 張角はわた――「「天和姉さん!」」むぐぅ」

「……」
 
 後ろのやり取りが少し気になるが、趙雲の言葉に不自然な点は無い。あるとすれば何故屋敷の場所を知っていたかだが――途中まで二人に付いて来て後は勘で進んだら行き着いた。とでも言われればそれで終わる。

「思春さん……この人たちは――」

 男ですよ? 疑惑が晴れない甘寧に周泰は決定的な矛盾を突く、碌に説明は受けていなかったが何となく張角かもしれないと、甘寧が考えていることは肌で感じていた。

「……わかっている」

 既に穴が開くほど見た手配書を、懐から取り出し再び目を通す。
 そこに描かれていた張角は強面で、およそ目の前にいる三姉妹には似ても似つかない。

「……行くぞ明命」

「はい!」

 完全に疑惑が晴れたわけではないが、そこにいる三姉妹が張角で無いなら早急に探し出す必要がある。甘寧は化かし合いよりも任務を優先した。

 この手配書、もしも袁家で発行していたら彼女はさらに疑ったであろう。これには風の隠れた名采配があった。

 手配書を作成するに当たり彼女はまず、この『張角』の情報を漢王朝に袁家の名を伏せ提出した。黄巾の乱が起きてから権威の失墜を感じていた彼等は、喜々してこの情報を各諸侯に流布した。まるで己たちで調べ上げたとでも言うように――






「……」

 周泰と二人、官軍と黄巾が争っている広場に向かいながら甘寧は思案していた。

 あの者――趙雲の任は張角の『首』では無い。旅芸人の救出が目的? だとしてもそれだけで破格の物資を投入するだろうか――考えすぎかもしれない。しかしどうにも腑に落ちない。

(後で詳しく調べる必要があるな、だが……まずは張角だ!)











 その頃、広宗の広場で指揮を取る『張角』は焦っていた。いくら広場といっても建物や壁に囲まれていては、数の利は十全に発揮されない。
 黄巾は人海戦術が肝だ。いくら補充要因がいてもそれが出来なければ意味が無い。加えて、前線では化け物のような武将呂布が暴れている。所詮農民の集まりである黄巾の士気は下がる一方だった。

「くそ! 一旦引くぞ」

 たまらず後方に下がろうとする。自分はこんな所で死んでいられないのだから――

「そんな……張角様!」

 そんな彼の様子に側近の一人が声を上げる。そしてそれは――官軍の耳に届いた。

「張角……張角がいるぞおおお!」

「手配書と同じ風貌、間違いない!」

 『張角』を確認した官軍は勢いが増した。逆に黄巾達は勢いが無く、まるで素通りの如く官軍達は張角を目指し進軍していった。

「ち、ちくしょう!」

 『張角』は恐怖から後方に走り出す。官軍の――そしてあの化け物の矛がすぐそこまで迫っている。もはや形振り構っていられなかった。

「逃がしません!」

「ヒッ……女!?」

 逃げる先で女――周泰が突然現れ情けない悲鳴を上げる。

 甘寧と周泰の両名は、黄巾賊後方の建物に身を隠し機を測っていた。手配書に描かれている張角を探し出せたまでは良かったが、周りが黄巾で固められていて手が出せなかったのだ。
 すると突然『張角』は周りの制止を振り切り走り出した。自分達の潜んでいる下へと、まさに火に飛びいる夏の虫――この機会を逃す二人では無い。

「餓鬼じゃねぇか、どきやがれ!」

「餓鬼じゃありません!!」

 童顔な周泰に悪態をつき、彼女の逆鱗に触れたことにも気付かずに『張角』は剣を振り下ろす――が、怒りを伴った周泰の長刀に圧し負かされ、粗末な剣は折れてしまった。

「く……おい野郎共! 早く俺を――っ!?」

「こいつらがどうかしたのか?」

 たまらず自分の側近達に呼びかけようとして止める。彼等は甘寧の手によって、既に物言えぬ姿へと変わり果てていた。

「あ……あぁぁ」

「終わりです!」

 絶望から動きを止めた『張角』は、抵抗も出来ず自身の首と別れる破目になった。











「黄巾の長『張角』この周幼平が討ち取りましたーーーー!!」

『うおおおおおおおおおおお!!』

「良くやったわ明命ーー!」

 官軍の勝鬨に紛れ孫策が嬉しそうに褒め言葉を叫ぶ、この場に『張角』が居たことで一時はどうなるかと思ったが、討てたのならば問題は無い。

 そして歓声に隠れ、前線に向かっていく旗があった――







「負け……ちまったのか俺たち?」

「……」

 官軍の勝鬨とは対照的に黄巾達は唖然とする。元々農民である彼等に戦の作法などわからない。
 『張角』を討たれはしたが自分達が残っているのだ。そもそも漢王朝に反旗を翻した自分達は死罪を免れない。

 それなら、それならいっそ―――

『うわああああああ』

「なっ!? こいつらまだ!!」

 黄巾達は自分たちを狂気に委ね、再び攻撃を開始した――ここから先は血で血を洗う殲滅戦、誰もがそう予想したその時だった。

「双方、武器を納めよ!」

『!?』

 戦場には相応しくないほどに凜とした声に、官軍、黄巾双方共に動きを止める。
 そんな彼等の間に割って入るようにして軍が現れた。

 そしてその軍の中央、漆黒と呼べるほど見事な体毛の馬に跨り、流麗な鎧を着こなし美しい金髪の――曹孟徳の姿が其処にあった。





 
 

 
後書き
(変動)無いです 
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