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信長のクリスマスプレゼント

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3部分:第三章


第三章

「そうじゃ」
「どうされました?」
「あの物乞いのことじゃ」
 家臣達に彼のことを話すのだった。
「あの物乞いはどうしておるか」
「さて、生きておればよいのですが」
「どうしておるか」
「左様か。そしてじゃ」
 さらに言う信長であった。
「今日は何時じゃったかな」
「師走の二十五日です」
 柴田がすぐに答えてきた。
「その日ですが」
「師走の二十五か」
 信長はその日を聞いて別のことを思い出したのだった。
「確か耶蘇の主が生まれた日じゃったな」
「左様でしたか」
「今日は」
「ふむ。見えてきたのう」
 この話をしているとだった。早速目の前にその山中が見えてきたのであった。
「山中じゃ」
「はい」
「あの物乞いはいるでしょうか」
「おそらくな」
 こう家臣達に返す。考える顔になりながら。
「さて。おればじゃが」
「どうされるのですか?」
「何かお考えが」
「少しのう」
 あると言うのだ。そうして山中に着くと。
 やはりその物乞いがいた。相変わらず道の隅に座り込んでいる。雪が降ってきたのにも関わらず座り込んだままでその雪を受けている。
 その彼を馬上から見てから信長は。村人達に対して継げたのであった。
「言い渡すことがある」
「えっ、殿」
「何をされるおつもりですか?」
「すぐにわかる」
 家臣達もそれを聞いて驚きの声をあげた。その彼等に対しても告げるのだった。
「すぐにのう」
「は、はい」
「左様ですか」
 家臣達は今の言葉で素直に従うことにした。信長の勘気の凄まじさは彼等が最もよく知っていることだった。だからこそ今は静かにすることにしたのだ。
 信長の周りに村人達が集まって来た。彼等も信長の気性は知っていたので恐る恐るである。信長はその彼等に対して馬上から告げた。
「皆集まっておるな」
「は、はい」
「皆集まっております」
 村人達は怯えた様な声で答えた。
「それはもう」
「皆おります」
「ここに物乞いがおるな」
 彼のことを話すのだった。
「そうだな」
「あの物乞いですか」
「ずっとここにいる」
「そうじゃ」
 まさにその彼のことだというのだった。
「あの者のことじゃが」
「あの物乞いが一体」
「何をしたというのですか?」
「まさか信長様に」
 失礼なことをしたのではないかと考えたのだ。若しそんなことをすればどうなるのか、天下の誰もが知っていた。何しろ信長である。
「それは申し訳ありません」
「真に」
「そなた等に謝られる様なことは受けてはおらん」
 しかし信長は言った。そうではないと。
「その様なことはな」
「では一体」
「何を」
「あの物乞いに反物を与える」
 絹のことである。絹が高価なのはこの時代でも同じである。絹はそのまま財産なのだ。
 
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