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ファイヤーエムブレム 疾風の剣士

作者:blueocean
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序章2 襲撃

 
前書き
ファイヤーエムブレムIF皆さんはプレイしましたか?自分は暗夜で苦戦中ですww 

 
「さて、ティエナとジンは………」

リオル族の人口は200人ほど。これは他部族と比べても1番少なく、その辺りを見ても新しい部族だと分かる。

「おっ、いたいた」

人が少ないので探し人がすぐ見つかるのは良い点だと思う。
ふわりと膨らむ藍色ボブヘアーの少女と、同じく藍色の髪で、少し長い髪を後ろでをまとめた男がいた。

どうやらそれぞれ自分の武器の手入れをしているみたいだ。

「ジン、ティエナ!!」

声を掛けるとどちらもこっちを振り向いてくれた。

「帰ったのか。………どうやら無事みたいだな」
「ああ、誰が山賊なんかに負けるかよ」

そう言いながらジンと拳を当て合う。初めて会ってからこれが挨拶の様になっていた。
ジンとティエナは兄妹で、サカからではなく、エレブ大陸の更に遠くの別の国からの移住者だ。親も無く、最初は誰とも馴染もうとせず、ずっとリオル族の皆を警戒していたが、親父や母さんが真摯に相手になった影響で今では家族の様な関係になった。

ジンは俺より1つ年上の18歳であるが、兄と言うよりは一番の親友の様な関係で小さい頃から過ごしてきた。キリッとした目つきに紳士な振る舞い、そして民族衣装を着ていながらも感じる気品溢れる雰囲気に女性のファンが多い。
リオル族だけでなく、サカの部族の中で唯一槍を得意とし、その腕前も相当なものだ。

「………」

そんな中ティエナは頬を膨らませて俺を睨んでいた。

「ティエナ………連れていかなかった事、まだ根に持ってるのか?」
「だって、今度は連れて行ってくれるって言ってたのに………」

そうふてくされながら弓の弦を弾いたりしていじりながら呟いた。
こんな子供っぽい反応を示すティエナは俺より2つ下の15歳。年齢と見比べても幼く見える背丈のせいか、2年位まではもっと幼く見えていたのだが、段々と体型も大人の女性らしくなっており、昔ほど幼く見えなくなりつつあった。
………しかし、そんな姿でも既にその年でリオル族の中で弓を扱わせれば一番上手く、遠くを見据えられるタカの様な目と、自分の背丈とほぼ同じくらいの大きさの弓、『大弓』を使い、かなり遠くから相手を狙い撃てる技術を持っている。
小柄なのに自分と同じくらいの弓を扱う力がどこから出てくるのか未だに不思議だ。

「で、どうだった?」
「………だめだ、結局いつも通りだ。ガベラの奴はいなかったし、ガベラの居場所は誰も知らなかった。………全くはた迷惑なやつだよ本当に………」

と愚痴を溢す中、そもそもの目的を思い出した。

「そうだった!!ジン、ティエナを親父に連れて来てくれって言われてたんだ」
「アルスさんが?分かった」

そう言って手入れし終わった槍を持ち、、ティエナも無言で弓を持ってジンについて行く。

「………ってちょっと待てよ!!」

余りにも自然に置いて行かれたので俺は慌ててついて行った………









「親父連れてきたぞ」
「おっ、ご苦労」
「お帰りなさい」

そう言って迎えてくれる親父とセリア。
何時もは親父だけなので少し恥ずかしい。

「あれ?見ない顔ね………」
「そうだな、先ずはセリアの説明を先にしておくか。………ゼオン」
「あっ、俺に丸投げですか………」

と軽く文句を言いつつ、俺はセリアとの経緯を説明し始めた………










「ベルンか………」
「お兄ちゃん………」

拳を握り締めるのを見て、ティエナが心配そうにジンの顔を覗き込む。

「………大丈夫だ、俺は大丈夫だよティエナ」

優しくそう答えるジンにティエナも安心したようだ。

「………それとジンとティエナにとってこれから話す話は辛いものとなるだろう。無論俺やゼオンにも関係ある話だ」

そう本題を話し始める前から前置きが妙に重かった。こんな風に親父が話すのは初めて見る。

(………一体何があったんだ?)

膨れ上がる不安を抑え、親父の言葉を待つ。

「心して聞け。ついさっき届いた報だ。………東のブルガルが落ちた」
「なっ………!?」

その報告に俺は驚いて思わず立ち上がってしまった。
最近ベルンの動きが不自然で、警戒のためにそれぞれの部族から兵力を集め、1番近く、そしてサカで1番大きい都市、ブルガルに集結させたのだ。

当然規模が小さいリオル族も例外ではなく、実力もあった若い剣士がブルガルに送られていた。

「負けたんですか………?」
「ああ。詳しい詳細は分からないが、確かな情報だ。ベルン兵があの辺りにいたのも納得がいくしな。……ベルンは準備が出来次第サカに本格的に攻めてくるだろう」
「それじゃあ………」
「リオル族も例外じゃない」

そう親父が言ったところで空気が一層重くなる。
いずれこうなる事はサカを含めて他の国も予測していた。それほどベルンの動きは怪しかったのだ。だからこそ密かに兵を集中し、牽制したり、使者を立てて礼を尽くしたり、戦争が起きないように懸命に手は尽くしていたと思う。
なのに不意に、そして特に理由もない状態で攻め込まれるとは誰も思っていなかった。

………いや、

「既に部族の皆をクトラ族の元へ集結するように準備している。決戦はサカの部族全員で戦うだろう。その為の『サカの掟』だ」

サカの掟。
サカが侵略者によって攻められる際、部族一丸となってこれに当たると言う古くからの決まりだ。他の部族も皆が当たり前のように知っているので戦力的には申し分ない人数へと増えるだろう。

それにしても親父はこの場にいる、………いや、恐らくリオル族の誰よりも冷静だった。思えばベルン兵と今日戦った時点でこうなる事は予測していたんだと思う。

『お父さんはね、本当は元軍師なのよ。それも何処の国も欲しがった優秀なね〜!』

と俺が小さい時に母さんが嬉しそうに話していたのを未だに覚えている。基本何時迄もイチャついている夫婦で、俺も大人になるにつれて恥ずかしく思った時もあったが、その反面嬉しく思っていた。

「それじゃあ俺達も戦う準備をしろって事だな」
「ベルンと………!!」
「私も頑張る!!」

俺含めてジンとティエナにも戦意が高まる。特に2人にとってベルンとの戦いは待ちに待ったものだろう。

「いいや、お前達には俺から頼みたいことがあるんだ」

しかしやる気の上がった俺たちに親父が水を差した。

「頼みたい事?」
「ゼオン、ジン、ティエナの3人はセリアと共にフェレ領まで向かってほしい」
「エリウッドさんの所?でも何で………」
「事はサカだけじゃない。このエレブ大陸全土に戦乱が広がるだろう。だからこそ互いに協力し合わなくちゃいけない。相手は強国ベルンでもあるしな。後は………」

そう言って親父は俺に書状を渡した。

「それをエリウッドに渡してくれ。……くれぐれも中を見ずに直接渡せよ」
「?分かったけど………」

何か念を押されるとかえって気になるのだが………

「集落の外にルードが馬車を用意してくれている。それに乗っていけ」
「ルードさんが?」

ルードとはよくリオル族に来る行商人で、サカにはない様々な物を安く売ってくれる。
親父とは古い付き合いで、俺だけでなく、ジンやティエナも面識があった。

「アルスさんは行かないんですか?」
「リオル族の戦力を減らすわけにはいかないからな。それに移動の際の護衛もある」

確かに今集落には戦えるものは数10人程しかいない。そんな中、1番の実力者でもある親父がいなくなったらベルン相手では苦しくなるだろう。

「そういう訳で、皆準備が出来次第馬車へ………何だ?」

外が騒がしくなり始め、親父が話を中断した。

『ベルン軍だ!!ベルン軍が攻めてきたぞ!!!』

外から天幕の中まで聞こえるほどの大声が響いてきた。

「早すぎる………こちらよりも優先すべきは集結しつつある部族連合の方が先だ。まだ集結していないうちに主要部族を叩く。これが鉄則だろう。……全てが集結し、準備が出来ればいくらベルンだとしても長期戦になるのは必須。その隙に上のイリヤや、隣のエルトリアから援軍が来れば苦戦するのはベルンの筈だ。そうなると無理してでも強行する理由が………それは恐らく………」
「親父!!」

考え込む親父に声を掛け、我に返らせた。

「今はこの事態をどうするかだ。指示をくれ親父!!」
「………ああ、そうだな。お前達は早く準備を済ませ、敵に悟られないように集落を抜け、フェレへ向かえ」

そう言う親父の指示はこの場にいる全員が予想と反した指示だった。

「皆を見捨てて逃げ出せって事ですか!?」
「それほど重要な内容なんだ。もしかすればこれから起こるであろう動乱を終わらせる切り札になるかもしれない。………だがそれは俺じゃ判断出来ない。だからエリウッドやヘクトルに託したい」

親父がここまで言うのだから相当重要な内容が記されているのだろう。
だけど一つ腑に落ちない。何故エリウッドさんやヘクトルさんの判断を得なければいけないのか………?

「どういう事だよ………さっきから親父の言っている事はおかしいよ。まるでこうなることも分かってたみたいだ」
「………あながち間違いじゃないが、そんな事は後回しだ。お前達は早く集落の外へ。……決して悟られるなよ」
「親父!?」

親父はそう言って掛けてある鉄の剣と滅多に使わないキルソード、を手に取り、そして傷薬を何個か腰の巾着に入れた。

「それとゼオン、セリアちゃんをベルンに悟られるな。もし悟られたら全力で守り通せ。後『マーニ・カティ』も持っていけ。お前なら母さんみたいに使いこなせるだろう」
「おい勝手に何を………」
「それじゃあ無事を祈る」

そう言って親父は天幕を出て行った。

「何だよあれ………」
「どうするお兄ちゃん?」
「………」

ティエナに困った顔で問われたがジンは何も言わず俯く。

「すみません。自分の住む場所が危機なのに、それを見捨てて別の所へ行けなんて言われても納得出来ませんよね………」

そんな俺達の態度を見てセリアが申し訳なさそうに言った。

「セリア………」
「私なら大丈夫です!!私杖だけじゃなく光魔法も使えるから一応戦えますし、途中で傭兵を雇えばフェレ領までだって行けます!!」

そう力強く言うセリアだがその試みは今の状態じゃ厳しいだろう。
恐らくだがベルンは動き出した。親父の話が本当なら大陸全体で戦争が起こり、そして兵士が足りなければ傭兵を雇って補うだろう。
そうなると雇うにも自然と高額になるだろうし、個人に付き合ってくるか分からない。むしろ追い剥ぎに合う可能性だってある。

「ゼオン、どうする?俺はお前の判断に任せる」

暫く黙っていたジンだが意を決した顔でそう答えた。

「………良いのか?」
「ああ。俺が判断するとどうしても私情が入りそうだ。それにゼオンの方が向いている」

向いているかさておき、ティエナもどうやら異存は無いようだ。

「………よし、だったら俺達もフェレへ向かおう」
「えっ!?」

俺の判断に驚きの声を上げたのはセリアだった。他の2人はそう言うだろうと思っていたのか自然と頷いていた。

「どうして………」
「君を放っておけないだろ?それに多分俺達もフェレへ行くことは多分重要な事なんだ。これから起こるであろう動乱を終わらせる為には」
「だけどそれじゃあリオル族は………」
「大丈夫だ、親父がいればなんとかなる。疾風の剣士は伊達じゃないよ」
「疾風の剣士………?」

不思議そうに首をかしげるセリア。その可愛らしい仕草に思わず笑みが溢れた。

「………何で笑ってるんです?」
「ああ、いや悪い。可愛らしかったから思わずな」
「か、可愛いだなんて………」

そう恥ずかしそうに俯くセリア。何でいちいち可愛らしい仕草をするのだろうか………?

「…………」
「………2人共良いか?」
「あ、ああ!どうした?」

ジンが入り口の近くから申し分なさそうに声をかけてきた。
すぐ近くにいるティエナに関してはジト目で俺を見ている。

思わず空気が和み、のんびりと話していたが今の状況じゃ少し不謹慎だったか。

「まだこの近くには敵は来ていない。恐らく東側から攻めてきたんだろう。今の内なら敵に気付かれず動けるかもしれない」
「ジンとティエナの準備は………?」
「流石にこのまま家にへは行けないだろう………近くの天幕で予備の槍と弓を借りていく。幸いティエナは大弓を持ってきているしな」

そうジンが言ったところでティエナが自信満々に背中に止めている大弓を持って見せる。

「うわぁ………大きい………」

ティエナの身体で隠れていたがやはり大きさはティエナと同じくらい。
あれで弓の弦の強度は普通の弓の約1.5倍ほど、その反発の強さが、遠くから狙い撃てるほどの射程を作っているが、本人しか扱えないだろう。

「そう言えばジンも大事な槍があるんじゃないか?」
「あれはここには無い。取りに行くにもここからじゃ遠いし、目的地とは反対方向だ。………それにあの槍は俺かアルスさんしか見つけられないよ」
「そうか………」

あの槍とはジンがこの集落に辿り着く際に持っていた槍の事で、当時子供でまだかじった程度の弓と剣の実力しか無かったが、あの槍の持つ力に圧倒されたのを今でも覚えている。

(名前は教えてくれないけど、多分あの槍は母さんのマー二・カティの様な特別な武器で、恐らくどの槍よりも優れているだろう………)

もし今すぐに持っていければこれからの旅に役に立つかもしれない。………そんな淡い期待もあったが、直ぐにその期待は四散してしまった。

「ゼオン、どう言う編成で行く?」
「ああそうだな………俺が先頭を行く、セリアは魔法で援護と回復。ジンとティエナは武器や何か役に立つ物を集めるだけ集めといてくれ」
「了解した」
「任せて」

ジンとティエナの返事を聞き、俺は鉄の剣を抜き、先頭に移動する。

「セリア、くれぐれも無理をしない様に」
「は、はい!!」

多少緊張しているものの、覚悟は出来ている様だ。

「よし、行くぞ!!」

そして俺達は天幕の外へ出た………










天幕の外は思ったより静かだった。
東の方から金属同士のぶつかる様な音、怒声や悲鳴が聞こえてくるが、こちらでは全く無く、まだ戦場は東側に集中しているのだろう。

「こっちの人達はもう移動したみたいだな」
「荷物も準備していたし直ぐに移動できたんだろ」

それより心配なのは東側の方だ。いくらベルンとて武器を持たない人を無差別に殺すような事はしないだろうが、所々聞こえる悲鳴が不安を掻き立てる。親父や残っている剣士が戦っているのだ。そんな心配は不要だろうが、やはり不安は拭えない。

「ねえ、やっぱり………」
「もう決めた事だ。それにアルスさんは言っていた。奴等にセリアを見せるわけにはいかないと」

ティエナの言葉に揺さぶられる前にジンがハッキリと俺にそう言った。
ジンの言う通りだ。1度方針を決めた以上、いちいち揺さぶられていたら事を成し遂げられなくなる。

「ジンの言う通りだ、部族のみんなの守りには親父もいるんだ。大丈夫だきっと」
「そうね………分かった」
「そうと決まったらさっさと行こう。ここで長いしても危険だ」

親父達の目的は敵の撃退では無く、部族のみんなの離脱までの時間稼ぎ。余計に戦う必要は無い。
暫くすればこちらまで敵はやって来るだろう。

(だけど親父が呟いていた様に何でわざわざこんな小さな集落を狙うんだ?)

今回のベルンの動きはやはり妙だった。部隊の人員数は定かではないが、多かれ、少なかれ、後に決戦をするのは分かっている筈なのに、戦力を分けてまで少し離れた場所の部族を攻撃する。
確かに決戦までの足止めや、敵の戦力低下を狙えるが、サカの部族自体、かなり多くまとまっているのはクトラ族とジュテ族位で、後はどこもそこまで変わらないのだ。

(それと親父が念を押したセリアの事もだ………何であそこまで執拗に見つからない様に言ったんだろう………もしかして………)

考察していく内に辿り付いた結論を一旦頭の奥底へと仕舞い込む。今は深く詮索する必要も無いし、例えそうだとしてもやる事は変わらないからだ。

「………よし、あった!」
「こっちも確保出来たよ!!」

やはり空き屋には持っていけなかった武器や傷薬の様な道具。それに互いに使い易そうな防具。ジンは軽く動きを阻害されない軽装の鎧。ティエナは革のプレートを付けていた。他にも俺が使い易そうな防具や剣を持ってくれている。
更に携帯食料と、旅に必要な物が多少残っていた様だ。尤も、残したと言う事はそれほど大事では無いと言う事であり、あまり良い物では無かった。
………まあそれでも無いよりはマシなのだが。

「よし、それじゃ早く集落の外へ………!!」
「えっ!?」

人の気配を感じ、咄嗟にセリアを抱き寄せ、天幕の裏へ隠れる。

「えっ、えっえっ………!?」
「セリア、静かに………」

慌てるセリアを静かにさせ、物陰からこっそりのぞくと、出口にベルン兵が居た。
数にして5人。恐らく、戦闘に参加しなかった予備兵だろう。反対側を見張るように言われ、やって来たと思われる。
ジン達も少し離れた天幕の物陰に隠れたようで、ベルン兵を確認したようだ。

(不味いな………)

ここに兵士が少数配置されているとなると、いずれもっと多くの兵士がやって来るだろう。そうなれば見つからずに逃げるどころか、逃げられる可能性も低くなる。そして足となる馬車もいずれ見つかってしまうだろう。

(となれば………)

そう思いながらジンを見る。どうやら考えは同じなようだ。

「セリア」
「は、はい!」
「強行突破する。援護頼むな」
「えっ!?はっ………」

俺はセリアの返事を聞く前に物陰から走り出していた。
横を見るとジンも単独で堂々をベルン兵の元へと向かっていた。

「うん……?敵か!!」

俺とジンが動いて敵も気がついたようだ。相手は全員槍を持っていた。後ろの2人は側に馬を従えていたので騎兵のソシアルナイトだろう。

(全員槍か………リーチじゃ不利だが………悪いが俺には関係無い!!)

槍を俺とジンに向け、待ち構える。ある意味賢い。外へ出る事が目的である以上無闇に出て行かなくても相手からやってくるし、待ち構えた方が攻撃しやすいと考えたのだろう。

しかし動かないと言うことは的みたいなものだ。

「貰った………!!」

俺とジンの頭上から高速の矢が放たれた。
矢は真っ直ぐ敵の喉へと吸い込まれるように飛んで行った。

「うっ!?」

狙いは狂うことなく相手の喉に突き刺さりそのまま絶命した。

「アーチャー!?しかし何処からだ!?」
「余所見してていいのか?」
「えっ!?」

飛んできた方向を確認していた相手の兵士1人が気の抜けた声を出した。

「なっ………!?」
「終わりだ」

相手に反撃させる隙を与えず、袈裟斬りで着ていた軽装ごと斬り裂き、そのまま動かなくなる。

「あがっ………!?」

ジンの方も一瞬だった。俺と比べてスピードの遅いジンでは相手が気付く前に懐に入るのは無理があった。
だが、ジンは相手の槍の突きを身体を捻るだけで交わし、カウンターのようにそのまま槍を突き返した。
しかも一突きでは終わらず、1度突いたあと、流れる様な動きで槍を回し、刃のある方で上から斬り下ろした。

ジンの槍術には親父が付けた名前があった。確か………

「槍舞だっけな………」

まるで槍を使って舞っている様な動きに親父が名付けた。ジン曰く、槍を身体の一部と考え、全身を使って動くらしい。
試した事があるが、とても真似が出来る技では無かった。

「くそっ………!!」

仲間が3人即座に倒れたのを見て、残り2人の判断は早かった。
1人が直ぐに馬にまたがり、もう1人が馬にも乗らず槍を構え俺達を足止めしようとしていた。

「させない!!」

再びティエナの矢が飛来する。

「くっ………!!」

偶然か、逃げようとした男の視線に弓を確認できた。馬に着けていた盾を構え、冷静に富んできた弓を防いだ。

「いいぞ、行け!!」

そう言われ、馬を走りださせようとする。

「行かせるか!!」

さきほど、天幕の中に合った手槍を持ち、投擲。

「あがっ!?」

その槍は見事に馬に乗り、逃げようとした男の背中に辺り、衝撃と共に馬から転げ落ちた。
鎧のせいで、仕留めるまでにはいかなかったものの、地面に背中から落ち、頭も打ったようで気絶しているみたいだ。

「よし、ナイスジン!!」
「くそっ!!」

投げたため、何も持っていないジンに囮の男が槍で斬りかかった。

「させるか!!」

ジンに向かわせる前に、俺が割って入り、振るわれた槍を弾き返した。

「ぐっ………!!このままむざむざやられてたまるか!!」

男は手に持った槍を俺達に向かって投げつけ、そのまま馬へ走り出した。

「ちっ………!!」

飛んできた槍を再び弾き返しているうちに囮の男も馬にまたがっていた。

「ティエナ!!」
「今度は………行け!!」

再び、遠くから矢を放つティエナ。

「もうどこから飛んでくるのかは分かっている」

男は投げやりに見えて冷静だった。馬に乗って走りだす前に近くの大きな岩に移動した。

「くっ、不味い!!」

ティアナの大弓は連射が効かない。一度失敗すれば再び矢を射るまでに逃げられてしまう。いくら腕がいいとはいえ、馬が走っている所を遠距離から狙い撃ちは流石のティエナでも出来ない。

俺は直ぐに走りだすが、今にも馬は走り出そうとしている。このままじゃ逃げられてしまう。

「ライトニング!!」

そんな中、岩場に隠れていた男に上級から白い雷が落ちた。

「な………何が………」

そう呟き崩れ落ちる男。

「魔法………?」
「良かった………間に合った………」

ジンの所まで出てきたセリアが安堵のため息を吐いた。
セリアも1人だけじっとしていられなかったんだろう。戦闘も不慣れで魔法が使えるとは言っていたがよもやこれほどの威力があるとは思っていなかったので思わずその場で固まってしまった。
尤も光魔法が初見だったのもあるのだが………

「何にせよやったな」
「ああ」

ジンと拳を当てあい、一息付く。しかしのんびりしていられない。

「ゼオン、お兄ちゃん、気絶しているコイツどうする?」
「………俺が処理する。ゼオン達は先に馬車の場所まで向かってくれ」
「……分かった」

そう言ってジンは落馬した兵士の元へと向かう。俺達の姿を見られた以上、逃げた方向を特定させない為にも口封じは必要だ。

「悪いジン………」
「構わないさ」

これも戦争だ。分かっていたが、この様な事が続くとなると気が滅入る。

「早く終わらせないとな………」

とても親父の言うような動乱を終わらせる切り札なのかどうかは正直半信半疑だ。だけども本当にそうであるのなら俺はこんな戦争を終わらせる為に奮闘したい。

「よし、行こう」

俺達はそのまま集落の外へと出て行った……






「く、くそ………」
「クリファー!!」
「ちっ!!」

東側の集落。
近くで戦っていたリオル族の剣士がまた倒れていくのを見て、アレスは舌打ちをした。

(戦力的には圧倒的な差は無い。ただ練度が高い……!!)

鋭い槍の突きを躱し、そのまま斬り伏せる。
アレス程の実力であればさほど問題なかったが他の剣士は違かった。

(せめてブルガルに行った剣士達がいてくれれば………いや!!)

弱気になっている自分を無理矢理切り替え、戦いながらこの戦況を打破する手を考える。
しかし妙案は浮かばなかった。
それでもアレスは決断した。

「テレス」
「何ですか?」

今いる剣士の中のリーダー、テレスに声を掛けた。彼はサカ生まれではないが、実力ではブルガルに行った剣士達にも劣らず、今いる剣士でアレスの次の実力を持つ剣士だ。

「お前が中心となり、逃げていった人達の護衛をしながらクトラ族と合流しろ」
「えっ!?」
「住民の避難はほぼ終わっている。ここで最後まで戦う必要は無い」
「ですけど、ここで退いては敵も追撃に………まさか!!」
「ああ、俺が殿を努める。だからお前は戦っている皆を率いて先に撤退しろ」
「できません!!敵の強さもかなりのものです!!いくらアレスさんでも………」
「安心しろ、俺も適当に戦ってさっさと逃げる。1人であれば山でも入れば敵も見失うだろう。だが複数居たら逆に動きづらくなる。分かるな………」

そんなアレスの問いにテレスは返す言葉が無かった。
今この場で敵味方含め、一番強いのはアレスだった。アレスの言う通り1人残って戦っても逃げる自信があるからこその提案だろう。

だがらその隣に立てない自分の不甲斐なさが情けなかった。

「………分かりました。御武運を」
「ああ、皆を頼むぞ」

テレスは悔しそうにそう言うとまだ戦っている味方に指示を出し始めた。

「敵が引くぞ!!」
「追撃し………」

敵の兵士が叫んでいる途中に絶命する。
斬られた本人も気が付いていないほどのスピード。

「な、何が………」

有り得ない光景に追撃しようとした兵士の足が止まった。

「………さて、味方もいなくなった以上、だらだらと何時までも戦うつもりは無いんでね。本気でやらせてもらう!!」

鬼気迫る物言いに敵が思わず後ずさる。

「ひ、怯むな!!敵はたったの1人だ!!」

指揮官らしき男の檄に我に返った兵士達は各々の武器を持ち、アレスに迫る。

「ふん………」

一斉に向かってくる敵に対してもアレスは慌てる事は無かった。
鉄の剣を鞘に仕舞い、今回持ってきたキルソードも持つ。

「見せてやる。『疾風の剣士』の速さを………!!」

アレスが駆け出すと同時にその戦場に風が過ぎ去った………
 
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