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ケツアルカトル

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第二章

「とてもね」
「それでその神様の名前は」
「ケツアルカトルっていってね」
 ここでだ、学者は学生に神の名前を教えた。
「古代のあちらの言葉で羽毛を持つ蛇っていうんだ」
「文字通りですね」
「うん、ただこの神は色々あって国を後にしたんだ」
「じゃああの国にはいないんですね」
「そうだよ、けれどね」
「けれど?」
「戻って来ることは約束しているよ」 
 学者は生徒にこのことも話した。
「必ずね」
「国、そして彼が創造した人間達のところに」
「その戻って来る時が何時かもね」
 このこともだ、その神ケツアルカトルは約束したというのだ。「
「そして去ったんだ」
「それでその時は」
「戻って来るその年はだね」
「何時ですか?」
「一の葦の年だよ」
 学者は今開いている書を読みつつ答えた。
「あちらの暦でね」
「古代中南米の」
「スペイン人が来るまでのマヤ人のね」
「マヤ人の暦で、ですか」
「一の葦の年のね」
 まさにその時にというのだ。
「戻って来ることを約束したんだ」
「そして去って」
「まだ戻って来ていないんだ、その代わりにその一の葦の年に来たのは」 
「スペイン人だった」
「そう、残念なことにね」
「まだその神様、ケツアルカトルは戻って来ていないんですね」
「そうなんだよ」
 こう学生に話すのだった。
「残念ながらね」
「戻って来るでしょうか」
「信仰が戻ればね」
 その時はというのだ。
「ケツアルカトルへのね」
「信仰ですか」
「信仰は廃れるけれど復権もする」
「流行り廃りってやつですね」
「それがあるからね」
 人の世の常としてだ、信仰にもそれがあるというのだ。
「だからね」
「信仰が戻れば」
「戻って来るよ」
 ケツアルカトル、この神もというのだ。
「再びね」
「そうですか、ですが」
「今はだね」
「メキシコってあれですよね」 
 学生はかつてマヤ人がいた国、今はこの名前になっている国のことを学者に対して話したのであった。
「宗教は」
「カトリックだよ」
「そうですよね」
「うん、けれどね」
「信仰は復権する」
「そういうものでもあるからね」
 だからというのだった。
「ケツアルカトルも戻るかも知れないよ」
「そうですか、戻って来るでしょうか」
 つまりケツアルカトルへの信仰が復活するかというのだ。
「果たして」
「それはね、ちょっとね」
「わからないですか」
「うん、僕にはね」
 これが学者の返答だった。 
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