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ダンジョンに転生者が来るのは間違っているだろうか

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邂逅

 
前書き
原作でいうと、二巻に突入です 

 
「シッ!」

『ヴヴォォッ!?』

刀の刃がミノタウロスの強靭な肉体を斬り裂いていく。
筋肉質で厚い皮に覆われたミノタウロスは、まるでゴムのようでほんと、斬り難い。
が、【物干し竿】の前ではそんなもの無力であった。

「っ!」

続けて二太刀目。振り下ろし、片腕を奪った刀を返す刀で振り上げる。
狙うはもう一本の腕。

『ヴゥゥゥゥゥッ!!』

しかし、そうはさせじと天然武器(ネイチャーウェポン)である身の丈ほどの斧で防ぎにかかった。
ぶつかる戦斧と長刀。拮抗したのは一瞬。
【物干し竿】が戦斧ごとミノタウロスの腕を斬り落とした。

『ヴ、ヴォォォォォォォォォ!?』

「ったく、牛みたいにうっせぇな」

まぁ牛なんだけども

両の腕を失ったミノタウロスは最期の手段なのか体勢を低くし、頭の角をこちらに向けた。
最後の切り札、というやつだ。
ただ、本来ならもっと頭が地面に近づくのだが、両腕が無いためそれも叶わない。

……で? 誰がそんなの迎え撃つと思ったの?

「フッ!」

今にも動こうとしていたミノタウロスに接敵し、一気に距離を詰める。
狙うは首。
懐に潜り込んだ俺の視線と、驚愕に目を見開くミノタウロスの視線がぶつかったのは一瞬。
次には一閃。刀を振り抜いた俺は血を浴びるのは勘弁なので懐から抜け出し、ミノタウロスの後方へと移動。

ミノタウロスの頭が重力に従ってズルリと落ち、続いて鈍い音をたてて体が崩れた。

「……まぁこんなものか」

刀に付いた血を振り払い、鞘に納めるとミノタウロスの魔石を回収。おまけにミノタウロスの角もドロップしていたのでこちらもバックパックに放り込んだ。

ダンジョン十六階層
俺はそこで暇潰しのソロ探索を行っていた。

「……ありゃ、いったい何だったんだ?」

思い出すのは先日の怪物祭(モンスターフィリア)
【ガネーシャ・ファミリア】が捕獲していたモンスターが街へと脱走し、その始末に協力していたときのことだ。
あの【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者たちが苦戦するほどのモンスター

いや、そもそもあれは【ガネーシャ・ファミリア】が捕らえてきたモンスターなのか?
てか、最大派閥の【ロキ・ファミリア】。しかもその【ロキ・ファミリア】の幹部の第一級冒険者
が苦戦するほどのモンスターを【ガネーシャ・ファミリア】が生け捕りに出来るのか?


無理である

てことはイレギュラーなのか?

「……あぁ! 分からん!」

こんなことなら、原作とかもっと読んどけばよかった。
今更言っても仕方ないことだが、どうにもやりきれない。

イライラを発散するかの如く、襲いかかってくるミノタウロスの群れを始末しにかかる。

Lv5の俺には、もうこの階層のモンスターは簡単に処理できる。
油断大敵とは良く言われるので、注意だけは怠っていないが、それでもなお物足りないのはかわりない。

魔石を回収し、皮や角などのドロップアイテムもバックパックに放り込んだ。

若干重くなった気もするが、まぁこのくらいなら問題はない。探索を続け、俺は続いて十七階層まで降りた。

まだ階層主であるゴライアスは出現していないようで、ここ『嘆きの大壁』にはミノタウロスやらバグベアーやらが我が物顔で闊歩している。

「……発散にはちょうどいいか」



ーーーーーーーーーー



「三八〇〇〇〇ヴァリスか……なかなか上々かな?」

十八階層の『リヴィアの街』には降りることなく、十七階層で探索を終えた俺は、ギルドでの魔石、及びドロップアイテムの換金を終え上機嫌だった。

どうしようか。とりあえずリューさんにぷれぜんとでも買おうか。

通りに軒を連ねるあちこちの店のショーウィンドウに飾られたアクセサリーや髪飾り等を眺め、いちいち足を止めてはそれがリューさんに似合うかどうかを想像し、そのあとのお礼の言葉を考えニヤニヤしていた。
第三者から見れば確実に変な人である。

いろいろ見て回った後、これだ!と思って手に取ったのは翡翠色のチョーカーであった。
これなら普段から着けていても問題はないはずだ。
少々値段は張ったが、この程度、リューさんのためならば問題はない。

今のところ、『豊饒の女主人』以外の人でリューさんが心を許してくれているのは俺だけだからな!
フハハハハハ!!なんという優越感!!

……なのになぜ届かないっ!この気持ち!

とかそんなことを考えつつ、俺は一度ホームへと帰還。
ダンジョン帰りであるため、土埃やらなんやらで汚れた体を洗わなければならない。
ていうか、女性に会いに行くのに汚れた身形で行くのは流石に失礼だろう。
バベルの方は簡易のシャワールームしかないがホームの方は風呂も完備(購入の際、俺が付け加えた)しているので、俺もこちらの方がよい。

「式、お帰りなさい」

「あ、パディさん。ちょっと出掛けてきますね」

「夕食までには戻った来てくださいね?」

了解っ、と一言だけいってホームを出る。
今気づいたのだが、ハーチェスさんにリリアさん。それにエイモンドさんは不在だった。
夕食まで二、三時間程度時間があるため、それなりにはゆっくりできそうだ。

目指すは西のメインストリート。『豊饒の女主人』
リューさんの仕事場だ。

手に持った包装された箱を見て思わず笑みがこぼれてしまう。
あかん、これ、周りからみたら完全に不審者や

と、あれこれとリューさんに関する想像を膨らませたところで前回のことを思い出した。





あれ? 仕事中は困るって言われたばっかじゃん?



分かる、分かるぞぉ!
これをもって女主人まで行って渡したときのリューさんの反応が!
きっとあれだ。あなたはどうしてそんなすぐに私の言葉を忘れられるんですか、バカなんですか、嫌いです。
とかいって冷たい眼差しで俺のことを睨むんだ!
……いや、逆にありかも…………いやいやいや!!何を考えてるんだ俺は!?
俺的には、もう、式は忘れんぼなんだから、とか言われるのが超嬉しいんだけれども、多分ないだろうから困ったぞこれは困った!



閑話休題



まぁ、こんな道中で悩んでいても仕方ない。
また次の機会を待つか、と肩を落として来た道を帰ろうと体を向ける。


「こんなところで何をしてるんですか? 式」


……おお、神よ。感謝(誰にかは俺自身も分からんが)いたします。


「今からリューさんに会いに行こうかと」

然り気無く箱を後ろ手に回し、挨拶。
白いブラウスと膝下まで丈のある若葉色のジャンパースカートにその上から長めのサロンエプロン……うむ、いつもの女主人の制服だ。
それを着こなす金髪に空色の瞳のエルフーーリューさん。

くっ! 眩しくて直視ができないぜ……!


「……何をしてるんですか」

「リューさんが可愛くて直視出来ません」

「そ、そう言うことを平然と言わないでください」

「失敬な! リューさんにしかやりませんよ、こんなこと!」

「……もう、いいです」

はぁ、とため息をついたリューさん。若干顔が赤く見えるが、果たしてこれが茜色の空のせいなのか、それともリューさん自身が赤くなっているのか判断が着かないが……後者ならどれ程嬉しいか!

「ところで、リューさんは買い物ですか?」

リューさんの片手に抱えられている大きな紙袋を指差す。
どうやら、夜の営業に向けての買い出しの途中とのことらしい。
……てことは営業前じゃん。さっきの俺の思考が全部無駄になった瞬間だった。
……まぁ、プレゼントは無駄にならんし、別にいいか

「持ちます」

「いえ、これは私の仕事ですし……」

「いいからいいから」

ほら、と手を出せば、リューさんは渋々といった様子でその大きな紙袋を俺に渡した。
意外に重いな

「すみません、助かります」

「いえいえ。このくらい平気ですから。 あ、そうだ」

リューさんの両手も空いたし、ちょうどいい。
後ろ手に回していた手をリューさんの方へと伸ばす。もちろん、その手の上にはあの箱だ。

「? これは?」

「プレゼントです。 営業前だし、いいですか?」

「……まぁ、今なら」

ありがとうございます、と、言われたお礼に心を弾ませ、飛び上がりたくなるのを抑えて、はいと一言だけなんとか返した。

「開けて見てください!」

「わ、分かりましたから、そんなに顔を近づけないでください。 は、恥ずかしいですから」

俺の期待のこもった目にたじろぎながらもリューさんは箱を開ける。

「チョーカー?」

「ぜひ! 似合うと思いますんで!」

箱を開け、中身のチョーカーを取り出すと、一通りそれを眺めてから首につけた。
首もとに翡翠のアクセント。よく似合っていらっしゃいます。

「ど、どうですか?」

「綺麗ですよ」

「っ! は、早く行きましょう。遅くなるのは困りますので」

少し速い歩調で前を行くリューさんを追って隣を歩く。
横顔見て言うのもなんだかま、ほんと、この人綺麗だよなぁ

顔は少し赤いが、いつもの表情へと戻りつつあるリューさんに、ちょっと残念だなとか思いながらついていく。
どうやら、近道として路地裏を使っているらしく、彼女はいつもそこを通るようだ。


「……ん? 今の声は……」

「? リューさん、どうかしましたか?」

路地裏をある程度進んだところでリューさんの足が止まった。

「……この先、ですね」

「あ、リューさん待ってください」

スタスタと歩いていくリューさんを慌てて追う。
いったいどうしたんですか、と声をかけようとしたその時だった

「止めなさい」

鋭い声が響いた。
リューさんが見下げた先。そこにいたのは白髪のナイフを構えたヒューマンの少年に、そのヒューマンに今にも斬りかかろうとする二十代くらいの男のヒューマン

戦闘に入る寸前ってとこだな

……てか、白髪の方、主人公じゃねぇか!!

二人の視線がリューさんに集まる。様子から見るに、主人公君の方はリューさんと面識があるのか?

「次から次へと……!? 今度は何だァ!?」

剣を構えたていた男が吠える。

「貴方が危害を加えようとしているその人は……彼は、私のかけがえのない同僚の伴侶となる方です。手を出すのは許しません」

ほうっ! そうなのか!
リューさんのかけがえのない同僚……ってことはシルさんかな?
なら俺が関与することではないな!頑張れよ、少年!

……主人公君が驚いているように見えるのだが、本当なんですよね?リューさん?

「どいつもこいつも、わけのわからねえことをっ……! ブッ殺されてえのかあッ、ああ!?」

「吠える「斬り殺すぞ、雑魚が」……」

「ッ!?」

「え、え!? いつの間に……」

考えるよりも早く、体が動いていた。

オラリオ内では何が起きるか分からないため、【物干し竿】は可能な限り、装備している。
どうやら、手が勝手に動いたらしい。

肩からかけていた袋に収まっていたはずの【物干し竿】がいつの間にか抜刀され、男の開いた口にその切っ先を向けていた。

俺の『敏捷(アビリティ)』がなせる技だ。

「へ、へめぇ……!!」

「その汚い口を閉じろ、雑魚。 殺されるのはお前だ」

真正面から男を睨む。
この状態なら、今すぐにでも微塵切りに出来る。いや、両手両足を斬り落として、ダンジョンに放り込むのもありか?

「式、それくらいで」

物騒な思考が頭の中を埋めようとする寸前、リューさんの言葉で我に変える。

「……二度とその汚ねぇ面を見せんなよ」

「く、くそがぁ!?」

そんな言葉を吐き捨てて退散していく男。一瞬吐かれた言葉で後ろから斬りつけたくなったが、押し止める。
あんまりやったら、リューさんに嫌われるからな

「大丈夫でしたか?」

「あ、ありがとうございます、助かりました……」

後ろでリューさんにお礼を述べる主人公君。
俺は刀を鞘に戻し、肩の袋に戻すと、リューさんの後ろから近づいた。

「悪かったな、少年。差し出がましいかっただろうに」

「ですね。彼ならきっと何とかしてしまったでしょう」

「い、いや、そんなことはぁ……」

頬をかいて視線を横にずらした主人公君は、そうだ、とばかりにリューさんに話しかけた。

「リュ、リューさんはどうしてここに?」

「夜の営業に向けての買い出しです。夜は冒険者が店に押し寄せますから、準備をしないと大変なことになるので。その途中で貴方を見つけてしまい、つい」

「ほんと、いきなりだったからビックリしましたよ」

「式に言われたくありません」

おっしゃるとおりで

「あ、あの、リューさん。こ、こっちの人は……」

「ああ、彼は私の「恋人」……友人の式です」

くっ、ノッてはくれなかったか。
そろそろ昇格してもいいんじゃないんだろうか、と思いつつも握手を求めて右手を差し出した。
さぁ、主人公君との初邂逅だ

「ナンバ・式だ。よろしくな、少年」

「ベ、ベル・クラネル、です」

おお! 確か、そんな名前だったな!
どうにも思い出せなかった部分がパズルのピースをはめるが如く、埋まったのでかなりスッキリした。

「あ、あのリューさん。僕、この人の名前を聞いたことがあるような……」

「そうでしょうね。一応、式はLv5の第一級冒険者ですから」

「えぇえええええ!?」

「うおっ!? 急に叫ばんでくれよ、クラネル君」

「きょ、極東出身で、さっきの長刀……【秘剣(トランプ)】!? アイズさんと同等って言われてる剣士!?」

その呼び方はやめてほしいです。

「そ、そんなことよりもだ、クラネル君。君はここで何をしていたんだ?」

称号(二つ名)の話題を変えるべく、ここに来たときの疑問を伝える。

「あっ、そうだ、あの子……あれ?」

すると、クラネル君は誰かを探すように辺りをキョロキョロと見回した。
俺が来たときにはクラネル君とさっきのクズの二人だったと思うんだが……

「誰かいたのですか?」

「え、ええ。その筈なんですけど……」

おかしいなぁ、と呟きながら考え込むクラネル君。
まぁ、嘘がつけるようなタイプには見えないため、本当に誰かいたのだろう。

「では、私たちはこれで」

「はい、本当に、ありがとうございました」

「おう! 気を付けろよ、クラネル君」

お互いに挨拶を交わしてその場を別れる。
ちなみに、先程まで俺が持っていた紙袋は、倒れないようにきちんと建物の壁に立て掛けられていた。

……ほんと、あの一瞬で何したの俺




やがて『豊饒の女主人』へとたどり着くと、リューさんに紙袋を手渡した。
もう少し持っててもいいから、二人でまだまだ歩きたい気分なのだが、仕方ないので諦める。

「荷物持ち、ありがとうございました」

「大丈夫ですよ。むしろ、リューさんといられるなら本望です」

「だ、だから、平然と言わないでください」

少し怒ったような口調で言うリューさんの姿に、やっぱ可愛いなぁ、と笑いながらその一挙一動を眺めていた。

「あ、リューさん」

「……なんですか」

「俺が言うのもなんですが、チョーカー、すっごい似合ってますよ」

「っ、し、式!」

それでは、とダッシュで『豊饒の女主人』をあとにする。
今度、パディさんに頼んで、また『豊饒の女主人』に行けるようにしてもらおう。
前回はあの狼のせいで楽しめなかったしな。


で、だ。
ずいぶんと時間が経っていたようだった。やっぱり、楽しい時間というものは気付かずにすぐ過ぎるものだ。
それがリューさんとの時間なら尚更である。

「……で? それが言い訳ですか? 式」

「……マジですみません……」

「僕は言いましたよね? 夕食までには戻ってくるように、と。なに平気で破っているんですか」

はい、間に合いませんでした。
帰って早々、玄関を開けるとそこにいたのは静かな怒りを見せるパディさん(お玉装着ver)だった。

「今日は夕食抜きです」

「そ、そんな殺生な!?」

「いいわけ無用! 少し反省してください」

……食べてくればよかった











ちなみに、夜中に夜食を持ってきてくれたパディさんまじ優しい






 
 

 
後書き
アニメのリューさん、可愛かったぁ……! 
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