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雷門にて

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第三章

「それで」
「歩いてすぐ傍や」
「そうか、蕎麦食うてすぐ傍まで行くんやな」
 ここで左千夫は駄洒落を飛ばした。
「そうするんか」
「ああ、そういうこっちゃ」
「そこでつまらんとか言わんのか」
「今更そんな親父ギャグで突っ込むか」
「それは世知辛いのう」
「大阪人がそんなんで笑ったりするか」
 お笑いの本場のプライドだった、この辺りは。
「そんなに笑って欲しかったら日本大使館の前で放射能防護服着てデモやらんかい」
「それやったらキチガイやろが」
「実際でそれで笑い取った奴おるわ」
「そら笑われたんや」 
 最近は吉本興業もその地位が危うい、それも仕方のないことだ。
「わしは笑わせるんや」
「笑われるんとちゃうんやな」
「笑わせるのがホンマのお笑いやろ」
「じゃあもっとええお笑い出さんかい」
「もっとええ駄洒落か」
「そんなもん今時大阪やったら犬でも笑わんわ」
 こうした話をしながらだった、二人は雷門に向かっていた。そして程なくして赤い大きな提灯があるその門まで来た。 
 門自体は映画等でいつも観るものだ、特に映像と変わりはない。
 それでだ、左千夫はその雷門の前に来てから共にいる真矢に言った。
「ここで記念撮影したらどや」
「ああ、めっちゃ似合ってないぞ」
「そやろ、自分でもそう思うわ」
「切り絵か捏造写真みたいになるぞ」
「もう大阪からそのままやな」
「ここにワープしてきたっちゅうかな」
「そやろな、ここも来るの二回目やけどな」
 それでもというのだ。
「何の変哲もないわ」
「感動がないな」
「何でこんな感動ないねん」
 それが不思議という口調だった。
「ここも」
「やっぱりわし等が東京嫌いなせいやな」
「東京ドームなんか観ただけでむかつくしな」
「無意識のうちに巨人負けろって思うわ」
 それも百試合程連続して二桁失点で惨敗してだ。巨人に最も似合うものはやはり無様な敗北である。それが最も相応しい。
「スカイツリーもな」
「通天閣の方がずっとええ」
「上野動物園より天王寺動物園や」
「ほんまや」
「そっちの方がずっとええわ」
 そうした場所のことも話した、そして。
 二人は結局雷門には何も思わないままだ、そのまま。
 帰ろうとしたここでだ、ふとだった。
 雷門の前にいる女の子を見た、左千夫はその娘を見て目を瞬かせてから真矢に対してこう言ったのだった。
「まあ女の子はな」
「ああ、東京もやな」
「可愛いわ」
「そやな」
 二人共本能には忠実だった。
「このことは一緒やな」
「大阪も東京も女の子は可愛いわ」
「あの娘幾つやろな」
「女子高生やろ」
 左千夫は真矢にこう返した。
「制服着てるしな」
「そやな、洒落た制服やな」
 黒のミニスカートのブレザーだ、デザインはかなり垢抜けていて脚は黒のハイソックスで覆っている。靴も黒だ。
 その娘を見てだ、真矢も言った。
「ちょっと澄ました感じやけどな」
「可愛いな」
「そやな」
 こう左千夫に言うのだった。 
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