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雲は遠くて

作者:いっぺい
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86章 ギリシャ哲学から、2000年が過ぎたけど

86章 ギリシャ哲学から、2000年が過ぎたけど

 6月28日の日曜日。上空はよく晴れていた。29度の暑さだが、心地よい風が吹いている。

 川口信也たち、7人が、渋谷駅前の忠犬ハチ公の銅像がある広場に集まっていた。

 信也と、信也の彼女の大沢詩織、信也の飲み友だちの新井竜太郎、
竜太郎の彼女の野中奈緒美、信也の妹の美結と利奈、
美結の彼氏の沢口涼太の、7人である。

 午後の4時の待ち合わせだった。

 みんなで、スクランブル交差点を渡ってすぐの、レストラン・デリシャスに行くところである。

 デリシャスは、世界各国の美味しい料理やドリンクを提供する多国籍料理のレストランで、
竜太郎が副社長をしている、エターナルの経営であった。

 渋谷駅の近くでは、集団的自衛権反対の集会が行われている。

「わたしたちの~、大切なぁ~、この国~、日本を~!戦争をする国に~、するなぁ~!!」

 そんなスローガンのシュプレヒコールを、大声で叫びながら、若い男女から年配者までの、
一般の人びとが行進してゆく。

「今度、わたしにも選挙権があるのかしら?美結ちゃん!
だったら、わたしも、政治に関心持()たないと!」

 そういって無邪気にわらって、(となり)を歩く、美結を見る、利奈だった。

 利奈は、1997年の3月21日生まれ、18歳の、早瀬田大学1年である。

「そうね、利奈ちゃん。選挙権が、18歳以上になるっていうからね。うふふ」

「お姉ちゃん、集団的自衛権って、どんなことなの?」

「そんな難しいこと、わたしに聞かないでよ、ぁっはっは。
(りょう)くん、助けて!集団的自衛権について、利奈に説明してあげてよ!」

 身長171センチの美結と、身長184センチの沢口涼太は、仲のいい似合いのカップルであるが、
新井竜太郎の会社、エターナルの傘下の芸能事務所のクリエーションに所属する、
人気も上昇中のタレント、俳優であった。

「集団的自衛権ですかぁ!?おれだって、よくわかんないっすよ。あっはは」

 涼太は、照れながら、わらった。

「集団的自衛権っていうのはね。たとえ、日本が攻撃されなくても、
同盟国とかの、密接な関係にある国、アメリカとかが攻撃されたときには、
いっしょに防衛するために、戦うという権利のことかな!」

 前を歩く、利奈たちに、そう話した、信也だった。

「なるほどね!さすが!しんちゃんだわ!」

 美結がふり返って、そういった。みんなで、明るくっわらった。

 みんなは、レストラン・デリシャスのテーブルにつくと、好きな飲み物や料理を、
ウエイトレスや、ウエイターに注文した。

 そうやって、くつろぎながらも、集団的自衛権の話題で、しばらく、盛りあがった。

「まあ、なんというか、言葉って、その使い方が、非常に大切なんだよね。
いい加減な言葉の使い方を知っていれば、自然と、信頼関係も薄れていくんですよ。
薄っれるどころか、こわれてしまうんですよ、人間関係が。
それって、会社のような組織では致命的です。社員のやる気もモラルっていうか、
道徳や倫理も低下して、会社はつぶれる方向へ悪循環になるでしょうね。
おれって、以前は、そんなことには、無神経だったんだけど、しんちゃんや、
しんちゃんの会社の森川社長とかから、勉強させてもらったんですよ。あっはっは」

 豪快にわらって、そう語るのは、エターナルの副社長の竜太郎だった。

「竜さん、おれのほうこそ、竜さんからは、いろいろと、勉強させてもらってますよ。あっはっは」

 信也も、いつものように、(さわ)やかにわらった。

「言葉を大切にする人って、わたし、大好きっだし、尊敬しちゃいます!うっふふ!」

 信也の隣の詩織が、そういって、わらった。

「よく、基本に(もど)れとか、会社の社訓にもあるけれど、あの基本って、まずは、
言葉に対する信頼とか、、真実の言葉を使うとか、ウソや濁りのない言葉を使うことから、
始めないとダメじゃないいかと、おれなんかは思うんですよ」

 そういって、生ビールを楽しむ信也だった。

「そのとおりですよ。しんちゃん。だから、最近のおれは、
言葉に対して、いい加減な社員たちに、よく注意するんですよ。
まあ、私的な感情を入れないで、思いやりをこめて、優しく、注意するんですけどね。
公の場所で、言葉を使用するときは、できるだけ無私でなければ、
言葉は、いい加減になりますし、正しく使えないですからね。あっはは」

 竜太郎がそういって、わらった。

「そういう、竜さんって、ステキだと思います。うふふ。
なんて言ったらいいのかしら?人の命や、人の価値が、軽くなっているような現代ですよね。
それと同じようにして、言葉も本来持っている価値や命が、軽くなっているような気がするんだけど」

 そういって、微笑むのは、竜太郎の恋人の、野中奈緒美だった。

 奈緒美は、1993年3月3日生まれの22歳、身長は165センチ、
竜太郎たちの芸能プロダクションのクリエーションに所属している。
美少女で、茶の間の人気も上昇中であった。

「そのとおりですよ、奈緒美さん。おれたち、人間って生きものは、原始の時代に、
火や言葉を、発見して、道具として活用してきて、今のような文明を築いたのでしょうけど、
言葉を粗末にしていれば、火と同じで、大変に危険なわけで、
身を滅ぼすことになるんだと思います。
ロックバンド、SEKAINO OWARI(せかいのおわり)は好きですけど、
人類が、本当に世界の終りってことでは、情けないですよ。
じゃあ、どうしたらいいのかって、おれたちにできることは、
言葉とか、音楽とかを大切にして、美しいことは何かとか考えながら、
芸術的なことを楽しんでいくしかないような気もしますけど。あっははは」

「そうよね。しんちゃん。言葉とか、音楽とか、何でもいいから、
何か美しいことを目標や楽しみにして、自然を大切にして、自然に生きていくのが、
わたしも、ベストな生き方な気がする!」

 利奈がそういった。

「そうよ、利奈ちゃん。でもそれが、なかなか、出来ないのが人間なのよね。
美しいことや、魂とか、友情とか、愛だとかを大切なことだと、
ギリシャの哲学者プラトンとかが、考えたりしてから、
2000年が過ぎ去っちゃったんですからね!人間って、ホント、進歩がないと思うわ!
頭がいいぶん、人間って、自分勝手な、悪知恵や、欲望がふくらんじゃうのよね、きっと。
でも、わたしたちは、その基本にもどって、カンバりましょう!
でも、なかなか、欲を捨てた、無我の境地になんて、
なれないでしょうけどね!きゃぁっははは」

 美結が、そういって、わらうと、みんなも、「うんうん、カンバろう!」とか、
「そのとおり!」とかいって、明るくわらった。

「美結ちゃんは、男っぽいとか言って、プラトン哲学が好きだからな。
以前、おれは、その男っぽさに興味がわいて、美結ちゃんからプラトンの本借りて、
夢中で読んだんですよ。あっはは。
プラトンが生きていた2000年前も、今と同じで戦争とかが絶えなくて、
政治は混とんとしていたんだよね。まったく、現代と似ているんだよね。
それでも、プラトンは、幸福な生き方とは何か?とか、よりよい社会の実現には、
どうすればいいのか?とかを小説みたいな設定で、師匠のソクラテスを主人公にして、
対話形式とかで、徹底的に思索した人なんだよね。
言葉に対して、それは人間に対してということにもなるんでしょうけど、
真摯な人だったと思いますよ。
それでも、やっぱり、人間だから、完璧なものは書けないとでも言うのか、
その思索には欠陥もあるんだろうけど。
おれも、好きというか、共感するんですよね、プラトンには。
彼は、詩人でもあって、小説家的でもあって、
言葉や人間を大切にする人だったんだろうね。あっはっは」

 信也は、そういって、わらうと、生ビールを飲み、
店の名物のダチョウの刺身料理をつまんだ。

≪つづく≫ --- 86章 おわり ---
 
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