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真田十勇士

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巻ノ三 由利鎌之助その四

「仁愛ですか」
「その心をお持ちなのですな」
「仁の心を忘れて天下は成り立たぬ」
 幸村は二人に確かな声と顔で答えた。
「父上に教えて頂いたことじゃ」
「昌幸様にですか」
「その様に」
「そうじゃ、兄上もそうじゃった」
「真田家はですか」
「仁愛を備えた家ですか」
「確かに真田はどの家につくこともする」
 それで日和見とも蝙蝠とも言われている、それで天下から白い目で見られることもある。しかしというのだ。
「しかしそれでもな」
「仁愛はですな」
「忘れぬと」
「そうじゃ、そしてそれは拙者も同じじゃ」
 幸村もというのだ。
「だからな」
「山犬達もですか」
「避けたのですな」
「そういうことじゃ、だからあの時は戦いを避けたのじゃ」
「無用な戦は避ける」
「そうされましたか」
「これからもそうじゃ、拙者は必要とあらば戦う」
 このことは絶対ではあってもというのだ。
「しかしな」
「必要でない時はですか」
「戦も殺生もされぬ」
「左様ですか」
「そうされるのですか」
「うむ、そうする」
 こう話してだ、そしてだった。
 山犬を避けた後で三人で眠った、それから起きてすぐに木曽に向かう。その途中由利は二人に歩きながらだ。
 干し飯を出してだ、こう言った。
「如何でしょうか」
「干し飯か」
「はい、丁渡持っていますので」
「それなら拙者も持っている」
「わしもじゃ」
 幸村と穴山が述べた。
「だからこちらのものを食するからな」
「御主は御主のものを食え」
「そうするか、ただな」
 由利は実際に自分の干し飯を口にしつつだ、穴山に言った。
「御主とは今は特に呼び合う名前がないな」
「会ったばかりだしのう」
「お互い何と呼び合う」
「それは名前でよかろう」
 穴山は何でもないといった調子でだ、由利に返した。
「わしのことは小助と呼べ」
「それでよいのか、ではわしの名もな」
「うむ、何と呼べばいい」
「鎌之助と呼べ」
 こう言うのだった、穴山に。
「その様にな」
「そうか、ではお互いに名でな」
「呼び合おうぞ」
 二人で呼び方も話した、そして。
 幸村も入れて三人でだ、歩きつつ干し飯を食ってだった。そのうえでそれで腹を膨らませつつ歩いた。三人が木曽の手前まで来たところで。
 不意にだった、三人は山道を歩いていたが。
 急に目の前に崖が出て来た、しかしその崖を見てだった。 
 幸村は無言で傍に転がっていた小石を拾って崖に向けて投げた。すると恋しは崖の底に落ちることなくだった。
 崖の遥か上、幸村達の足元の高さで跳ね返った、幸村はそれを見て言った。 
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