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真田十勇士

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巻ノ三 由利鎌之助その二

「天下にその名を残す、必ずな」
「そこまでの御仁ですか」
「あの御仁は」
「そうなのですか」
「うむ、徳川の味方になればいいが」 
 しかしというのだ。
「敵になればな」
「その時はこれ以上はないまでの敵ですか」
「徳川家にとって」
「そうなりますか」
「そうなる、間違いなくな」
 雲井は真剣な声で語った、山道を相当な速さで進みながら。
「今徳川家は北条家と対しているが」
「北条は強いですな」
「やはり尋常な相手ではござらぬ」
「伊達に武田、上杉と渡り合ってきた訳ではござらぬ」
「油断出来ませぬ」
「しかしな、真田家そして幸村殿もじゃ」  
 彼もまた、というのだ。
「敵になればな、徳川の」
「厄介な御仁ですか」
「これ以上はないまでの」
「拙者はそう思う、油断出来ぬ」
 こう話しつつだ、雲井は忍装束の者達と共に甲斐に下った。その頃幸村達は諏訪から今度は木曽に向かっていた。
 三人で山道を進んでいく、穴山はその中で幸村に言った。
「こうした道を知っていると速いですな」
「そうじゃな」
「はい、しかし殿の足は」
「拙者の足に何かあるか」
「忍術を極めておられていても」
 それでもだというのだ。
「相当ですな」
「そう思うか」
「はい、健脚ですな」
 どれだけ険しい山道を幾ら歩こうとも疲れを全く見せない、それで言ったのだ。
「速いですし」
「確かに。武士と忍の者では脚が違いますが」 
 由利も言う。
「殿のお脚は忍の我等から見ましても」
「御主もそう言うのだな」
「はい、お見事です」
「これでは思ったよりも速く木曽に着きそうですな」
「そうじゃな、この道をこれだけ速く進めばな」 
 由利は穴山に応えて述べた。
「すぐじゃな、木曽に」
「さて、木曽からですが」
 穴山は由利の言葉を受けてからまた幸村に顔を向けて問うた。
「美濃に入られますな」
「うむ、それから都に向かう」
「やはりそうされますか」
「人が多いからのう。人が多ければな」
「その分だけ優れた者もいますな」
 由利も言う。
「だからですな」
「人を探すには人の多いところじゃ」
 幸村は歩きつつ述べた。
「だからじゃ」
「畏まりました、では」
「木曽から美濃、そして都に向かいましょうぞ」
 こう三人で話してだ、一行は木曽に向かう。険しく深い山道だが一行は何なく進んでいった。だがその途中でだった。
 一行は不意にだ、夜休んでいる時にだ。急にだった。
 周りに気配を感じた、それでだった。
 周りを見回すとだ、そこには。
 山犬達がいた、険しい顔で唸り声をあげつつ三人を囲んでいた。一行は気配に目覚めて周囲を見回してこのことを察した。
 そしてだ、すぐに起き上がり身構えるがだ。幸村は穴山と由利に言った。 
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