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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
ありふれた冒険譚◆初めての絶望、そして希望
  第十話 第二十五層ボス――The Twin Giant――

 
前書き
新章突入。 

 
第二十五層の攻略はかなり厳しいものになった。



「いくぞ!!」
とキリトが叫び、それに呼応するのは同じ臨時パーティーの仲間、つまりマルバ、エギルと他数名だ。
ここでは語らないが、第一層攻略後キリトはベータテスターたちの罪や疑惑を一身に背負い、汚い"ビーター"として生きる道を選んだ。それ故に彼とパーティーを組むものは少なくなり、今は彼を信頼するごく一部のプレイヤーたちだけになってしまった。ちなみにアスナは血盟騎士団という強大なギルドに誘われ、すでに指揮官としてのその才能を現しつつあるため、キリトのパーティーには参加していない。

第二十五層ボスは頭が二つ、腕が四つの巨大な人間型モンスターだ。動きは遅く、前衛がしっかり守りを重ねてスイッチ、後衛が前に出て攻撃というセオリーに従っていれば倒せるだろうという計画にもとづいて、マルバ達は後方で待機していた。

巨人が両方の右腕を振り上げる。前衛が大きな盾を構え、しっかりと防御した。ここでボスの攻撃を跳ね返してスイッチ、後衛のマルバ達が前衛に出て攻撃、ボスがディレイから回復したらまた盾部隊が前にでて防御……



と、なるはずだった。



振り上げられた腕を余裕の表情で受け止める前衛。その身体が盾ごと吹き飛ばされ、後方の草原に落ちた。HPも四割強も減っている。対するボスは一切のディレイを課されず、そのまま後衛に肉薄する!
たちまちその場はパニックに陥った。


「キリト君たち、ボスの注意を引いて!私が統制を立て直す!」
アスナの叫びに一つ頷くと、マルバは右手の愛剣を構え、投げつけた。チャクラム専用技、『円月斬』。ブーメランのような軌道を描き跳んでいくリングはボスの片方の頭を捉えたが……見事に躱された。なにせ相手は頭が二つ。視界は広く、遅い円月斬では対抗できない。しかし、こちらとて伊達にこんな特殊な武器を使ってるわけではない。躱された刃は途中で軌道を変え、戻ってくる。その刃は再びボスの頭を捉え……再び躱された。
キリトは敵の右手二本の攻撃を剣を使って受け流し、HPをすり減らしながらかなり危うい防御を繰り返している。
エギルたちは左手二本の攻撃をスキルで相殺したり受け流したりして、何人か殴り飛ばされるもののぎりぎりのローテーションを繰り広げた。


「アスナ、無理だ!こいつ、移動速度は遅いくせに上半身だけは素早い!近づかないとダメージ与えられないぞ!」
戻ってくるチャクラムを片手で取りながらマルバはアスナに向かって叫ぶ。アスナはなんとかパニックを鎮め、AGIが高くボスの攻撃を確実に躱せる遊撃部隊と、キリトのように武器防御スキルでボスの攻撃を受けることによって吹き飛ばされずに攻撃を受けられる防御部隊を組織した。さすが、としか言いようがない。

「キリト君、エギルさん!HPが危険です、防御隊と交代してください!回復するまで防御隊が支えます!」
アスナの号令で一旦キリトのパーティーは後退し、防御隊に道をゆずる。
防御隊が正面から攻撃を受け、その後ろから長物で攻撃を仕掛ける遊撃部隊。
マルバもAGIに物を言わせてボスの側面に張り付き、攻撃を躱してはカウンターで『閃打』、さらに躱しては『パラレル・スティング』といった調子で完全にカウンターで攻撃を繰り返す。腕四本のうち二本は必ず防御部隊が支え、遊撃部隊が必ず躱せるように必死の防御を繰り返した。








第一層以来の激戦。HPゲージの四本のうち三本が空になり、残り一本が半分になったところでアスナが一旦後退の号令を出した。マルバもかなり奮闘し、ボスの右手の片方を見事破壊したところだ。押していると思ったプレイヤーは不満そうに、しかし一応指示に従って後退する。
アスナが恐れたのはボスの凶暴化……つまり、HPが少なくなると攻撃力が急上昇するボス専用の状態異常である。

果たして……雄叫びを上げたると破壊されて失った片方の右手が再び生え、、背中に背負った斧を両手で握りしめた。四本の手全てが斧を持つと、よりいっそう不気味な姿となる。

最初に一撃を喰らって吹き飛ばされた盾部隊がアスナの号令で再び結集し、最も防御力が高い者が前に出て縦一列に並び、全力でボスの一撃を弾き返す構えを取る。たった一人が攻撃を受け、その者が吹き飛ばされないよう後ろの者全員が支えるのだ。
ボスは四本の手を同時に振りかぶると、最も前にいる一人に容赦無い一撃……いや、手が四本だから四連撃を叩き込む。それぞれの攻撃が1/2に少し満たない量のHPを削る。怒涛の四連撃は本来なら耐え切れない攻撃だが、そこは攻撃が集中するプレイヤーを一人に絞ったからこそできる戦術がある。一発攻撃を喰らう度に後ろに控えたプレイヤーが緊急用の結晶で回復するのだ。前衛はぎりぎりで攻撃を弾き返すことに成功し、ボスが大きく態勢を崩す。そこにキリトとマルバが同時に『弦月』を打ち込み、見事転倒させた。


「総員、全力攻撃!!」


アスナの号令とともに全員がスキルをめちゃくちゃに打ち込み、ボスのHPは1ドットもあますところなく喰らい尽くされた。





【Congratulations!!】

システムメッセージが浮かび上がり、ぎりぎりの戦いは幕を閉じた。






「おっ、武器破壊ボーナスだ!」
マルバは『You've Got the Special Bonus!!』の表示を見て少し喜んだ。
にやにやしているキリトはまたもやラストアタックボーナスで貴重なアイテムを入手したようだ。羨ましい。

「よっ、ナイスファイトだったぜ、《双剣》。」
と声をかけるのはエギルだ。《双剣》と呼ばれたマルバは顔をしかめながら振り返った。
「その呼び方、よしてくれよ。僕は《閃光》のアスナみたいに活躍してるわけじゃないんだしさ、バトルスタイルだけ評価されても正直微妙なだけだし。」
「いやいや、お前結構活躍してたぞ?で、どうだった。いいアイテム出たか?」
「うん、武器破壊ボーナスで籠手がドロップしてた。『黒武』……だってさ。」
「おお、よかったな。お前、籠手ならちょうどいいだろ。」
「そうだね。こいつもそろそろ替えどきだったから助かったよ。エギルの方はどうだった?」
「いいや、役に立つものはなかったな。曲剣ならドロップしたけど、お前使うか?安くしとくぞ?」
「あ、ただじゃないんだね……。曲剣スキルは体術スキルを取るときに諦めたよ。」
「そうか……。仕方ない、店で売るとするか。」
「それがいいと思うよ。これもあげる。僕は使わないから。」

マルバはドロップしたLv.3の毒の瓶もエギルに押し付けた。Lv.3といえばかなり強い毒だが、マルバにとってはストレージを圧迫する要因にしかならない。

「んなもん、俺も使わねえよ。短剣に塗って投げれば少しは効くんじゃねぇの?」
「あ、そんな使い方もできるのんだ。今度試してみるね。」

マルバはエギルの手から瓶を奪い取った。苦笑するエギル。

経験値とコルの分配が終わるとマルバは一旦別れを告げてはその場を離脱した。ボス戦の間リズにユキを預けておいたので回収に行くのだ。




「いらっしゃいませ~、ってなんだあんたか。」
「仮にも客に向かってその言い方は無いんじゃないの?」
「まあまあ、ユキ預かっててやったんだからそれくらいいいじゃないの。」

ユキはリズの腕の中に収まっていたが、マルバをひと目見るなり飛びついてきた。蹴られた形になるリズは数歩よろめく。

「うわっ、とと。結構力あるのね、その子。」
「うん、筋力値は低いんだけどね。敏捷性が半端じゃないから蹴りは強いと思うよ。」

マルバはユキをなでると、そっと地面に下ろしてからリズに向き直る。

「それじゃあ本業のほう、お願いしようかな。このチャクラムの整備をお願い。」
「任せといて。……あれ?籠手はいいの?」
「ああ、ボス戦で新しいのが手に入ったからね。……あ、そうだ。せっかくだし、ちょっと見てみてくれない?」

マルバはそれまで装備していた籠手、『瓢』を外すと新しく手に入れた『黒武』といっしょにリズに手渡した。メインウィンドウの追加防具装備欄から表示が消える。
リズは指で黒武の表面を軽くタップすると開かれたウィンドウから鑑定スキルを示す虫めがねアイコンを押した。

「うーん、普通の防具ね。」
「あれ、そうなんだ。ボスの武器破壊ボーナスで手に入れたやつだからなにか特殊効果でもあるかと思って期待してたんだけどな。」
「特殊効果ならついてるわよ。武器防御スキルにボーナスっていうやつ。でもそんなに珍しい効果でもないわよ。これホントに特殊ドロップなの?」

リズはそう言いながらウィンドウを可視モードにするとマルバに見せた。マルバがそれを覗きこむ。

「あれ、この武器防御スキルボーナスってのの下の灰色の空欄、なに?」
「え、嘘、そんなのあった?」

慌てて覗きこむリズ、押し出されるマルバ。

「ホントだ……まだ隠された特殊効果があるってことかな。あたしの鑑定スキルじゃまだなんなのか分からないけどね」
「ふうん。じゃあ使ってるうちに新しい特殊効果が出てくるかも、ってこと?」
「ううん、これは特定回数強化するか、そうじゃなければ特定のソードスキルが習得可能になると表示されるやつよ。」
「ふむふむ……それじゃあ、黒武の強化に必要な素材は?」

リズがウィンドウを操作する。ふと見ると、ユキが退屈そうにマルバの足元を一周した。抱き上げるマルバ。

「必要なのは、フェザードラグの羽根とジャイアントアントの脚。最低二つづつで成功率65%ね。」
「95%まで上げるにはどれくらい必要?」
「15づつ。ちょっと大変よ。」
「まあボス戦も終わったし気楽に探すよ。何層のモンスターだったか覚えてる?」
「確か十六層だったと思うわよ。わりとポップしやすいモンスターだから丸一日がんばれば集まるでしょ。」
「了解。それじゃその古い方の籠手はインゴットに戻してくれない?」
「任せといて。」

リズからインゴットと修復されたチャクラムを受け取ると、マルバは十六層に向かうべく転移門に脚を向けた。 
 

 
後書き
マルバが十六層に行くための理由付けの回です。それに苦戦したという双頭巨人戦を少しですが書いてみました。正直全然書けなかった気がします。誰も死なないし。いや、死ななかったのはいいことなんですけどね。

なんかどんどん独自設定が増えていってます。これから先、オリジナルのエクストラスキルやシステム外スキルも出てくる予定なのでこんがらかったりしたらすみません。
『複属性武器』とかいうとんでもない設定出してから言う台詞じゃないですけどね。 
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