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ロード・オブ・白御前

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踏み外した歴史編
  第6話 戒斗の描く世界 ①


 駆紋戒斗は力を手に入れた。
 オーバーロードインベスとしての力。世界を塗り替え、思うがままに作り替える力。

 先に投与した大量のヘルヘイム抗体の効果で、自我をなくすこともなく、肉体だけをオーバーロードへと変えることに成功したのだ。


 ビルの上。一段高い段に立ち、戒斗は次々とクラックを開け、インベスを召喚していた。
 街のあらゆる道路が、ハイウェイが、インベスで埋め尽くされている。

「ずいぶんと増えたな」

 どこからか帰って来たザックが、戒斗の右に並んだ。左側には耀子がいる。

 耀子は元から戒斗に付いて来ていた。
 ザックは、自身のオーバーロード態を見せた上で決断を迫ると、戒斗につくと宣言した。

「全人類を敵に回すんだ。あの程度ではまだ足りない」

 全人類を殲滅した上でなければ、戒斗の描く世界は創れない。ノアの方舟で神が一度、地上の全ての命を洗い流したというエピソードに今なら心から共感できそうだ。





 耀子と反対側に立ったザックは、ポケットから凰蓮特製の小型爆弾を取り出し、戒斗が立つ段の裏に貼りつけた。
 これであとはスイッチを押すだけ。

 オーバーロード態ならともかく、こうしていれば戒斗はただの人間だ。爆弾を足下から直撃させられれば――()れる。

 リーダーになってザックは知った。戦う意味を。守る誇らしさを。

 だが、駆紋戒斗は全く変わらなかった。守るものも失くすものもなくし、むしろ彼の弱点と呼べるものは全て取り去られた。

(やっぱり無理だったか)

 ザックが爆弾の起動スイッチを押そうとした時だった。
 がちゃ。年季の入った音を立てて屋上ドアが開き、一人の少女が入ってきた。






「敵を求めて世界を敵に回すんじゃないかと思ったこともありましたが、本当にそうなってしまったんですね。残念です」
「関口――」

 呉島碧沙に執着する、ただ力を増すだけで心は一歩も前に進んでいない少女。それが戒斗の、関口巴に対する見解だった。大方、今も碧沙絡みでここに来たのだろう。

 戒斗は段差を降り、オーバーロード態に変異した。

「待って、戒斗。ここは私が」

 変異した戒斗を耀子が制し、巴の前へ歩いて行った。






 ザックが驚いた表情で巴を見ている。ザックと打ち合わせてここに来たのではないから当然だ。

「本題に入る前に一つ。戒斗さん、いつから人間辞めたんですか?」
「戒斗は進化したの。私やあなたじゃ到底及びえない領域にね」
「そうですか」

 とりあえず、戒斗は人間ではなくなった。それだけを脳内メモに追加した。

「一つ、知りたいことがあって来ました。知恵の実を授かったとして、駆紋戒斗はそれを何に使うのか」

 耀子はまるで自分のことのように誇らしげに笑んだ。

「戒斗が創ろうとしているのは『弱者が踏み躙られない世界』よ」
「――どういうことですか?」
「誰かを虐げるためだけの力を求めない、そんな命でこの星を満たす。舞さんと一緒に。知恵の実を使って」

 ちらりとザックを見る。彼も戒斗の目的を知っているからか、苦渋の表情で顔を伏せていた。

「でもそれじゃあ、今いる人類は駆逐されてしまいますよね。わたしも、あなたも」
「そうかもね。でも私は最後まで彼の行く末を見届ける。その上で彼の手で排除される覚悟も出来てるわ」

 理解できるだけ巴はうんざりした。もし戒斗と耀子の立場が碧沙と自分なら、自分も耀子と同じ覚悟を固めることができる。本当に、うんざりする。

 巴は気を取り直し、耀子に向き合い直した。

「前におっしゃいましたね。一度引き受けたことを投げ出すのは、大人の世界では無責任と言うんだと」
「ええ。その通りよ」
「わたしが『やる』と決めたことは碧沙を救うこと。それは果たされた。そう思っていました。けれど、戒斗さんのしようとしていることを伺うに、わたしはまだこの戦いを降りられないようです」 
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