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藤崎京之介怪異譚

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case.2 山中にて
  Ⅲ 8.22.am11:58



「起きろっ!この寝坊助どもっ!!」
 鈴木の怒鳴り声が響いた。
「何だよ…。」
 俺達はムックリと起き上がり、騒いでいる鈴木を見上げた。
「何だよ…じゃねぇよっ!飯作ってくんねぇと、腹へって死にそうだってのっ!」
 俺はどこのお坊っちゃまと泊まりに来たのだろうか?まぁ、鈴木に飯の支度をしろと言うのは、俺に体育教師になれと言ってるようなもの…。仕方ないな。
「あれ?和巳君は目が覚めない様子だね?雄一郎君、丁寧に起こして差し上げて。」
「ラジャー!」
 俺はそうして、一階へと降りた。
 二回からは何だか奇妙な叫び声が聞こえてくるが、俺はそれを無視し、備え付けの冷蔵庫から卵を取り出したのだった。
 昨日に続き、今日も晴天だった。窓からの陽射しは強く、未だ夏が終わっていないことを主張している。
 昼食はベーコンエッグにトースト、昨日残った野菜でサラダを作った。
 俺達はその昼食を平らげ、誰とはなしに昨日の話を話し始めていた。
「あれさ、本当に小林の話してた“友人”ってヤツなんかなぁ?」
 鈴木が言った。
「お前たちが起きる前、俺さ、ちょっと光が見えた辺りに行ってみたんだよ。でもさぁ、ここまで光が届くにゃ、田んぼん中に入んねぇと無理なんだよなぁ…。」
 鈴木が難しい顔をしてそう言い切ると、小林があっと言った風な顔をした。
「考えてみりゃそうだよなぁ…。道の両端は芒に覆われていて、おまけに杉林まであるしな…。」
 鈴木と小林は真剣に考え込んでいるが、別に大したことじゃない。霊のやることなんて、変に決まってるからな。
 だが一つ気になることがあって、俺は小林に尋ねた。
「なぁ和巳、その辺りで事故は起きてないのか?」
 俺の問いに小林は暫し考えていたが、少しして思い出したかのように言った。
「俺よりも、近くの小屋に来てる爺さんの方が知ってると思う。」
 どうやら、この廃村の元住人らしい。暫くあれこれと話しているうちに、その人物らしき車の停まる音が聞こえたので、小林は直ぐ様呼びに出ていった。
 仕方なくこちらは、その人物を迎える支度に掛かったのだった。
 数分の後、この山小屋に初老の男性が姿を見せた。
「いやいや、お若いのと話をするのは久しいなぁ。」
 好好爺とした男性で、こちらも「宜しくお願いします…。」と、ついつい礼を正したくなる人柄だった。
 名前を下村虎吉と言い、何代もこの村に住み続けていたのだという。
 中に上がってもらい、一先ずはお茶をお出しした。
 暫くは世間話をしていたが、小林に聞いていたのか、例の場所での出来事をポツリポツリと話し始めた。
「さてと、あの辺りは昔からよう何かある場所でなぁ。ここ暫くは何事もないが、昔は頻繁に事故があったのぅ…。」
 彼の話しを要約しよう。
 一つに、四十年前にあった事故は、三輪自動車であったのだ。バイクではなく…。小さな橋の欄干に激突したのは間違いない。
 二つに、ニ十数年前にも大きな事故があり、今度は例の場所で、若いバイク乗り四人が走行の最中に、誤って四人とも田んぼに落ちたことがあった。
 この時、なかの二人が首の骨を折って亡くなった。残り二人もかなりの重症で、たまたま通りかかった車に発見された。その時の発見者は、この下村さんだった。
 三つ、その後二年程経ってから、再びバイク事故が起こり、今度は一人で走っていたため発見が遅れ、かなり腐敗していたとのことだ…。
 この時はおかしなことに、田んぼの近くにある杉林から遺体が見つかったのだが、バイクは田んぼの下の川に落ちていたのだ。
 そうなっていては、探そうにも探せなかったに違いない。見つかったのは、まだ運がいいと言える。
 そこまで話を聞き終えると、俺達は顔を見合せた。こうなると光の主が分からない。
 だが、これでお仕舞いではないのだ。
「そっからまた十年くらいしてからか、今度は立て続けに三件事故があってなぁ…、二人死んどるんじゃ。」
 唖然とするほどの事故多発地帯だ…。
 俺はそんなとこになぜガードレールや柵が設置されないのか不振に思い、下村老人に聞いてみた。
「まぁ、そう思うのも無理ないのぅ。じゃがな、着けても着けても直ぐに錆び付いて駄目になるんじゃよ。どういうことか、わしにも分からんが…。」
 有り得る話しだと思う。しかし、どうもあの場所は、それだけではない気がするのだ。
 それというのも、この村は何回か廃れている。ここが廃村になる以前にも、同じことが繰り返されているのだ。
 この土地には平家の落武者伝説があり、家紋を継いでる家も存在する。何か不思議なことが起こったとしても、決しておかしくはない土地だ。
 現に、室町時代以前からあるとされる小さな稲荷の社が山に祀られている程だから、あながち嘘とも言えないだろう…。
 その稲荷は恐らく、初期は別の何かを祀っていたのかも知れないがな。
「何度も立て直したんじゃがのぅ。まぁ、廃村になってからは、誰も手を着けてないがの。殆んど来るもんもおらんようになったしのぅ…。」
 まぁ…そうだろうな。その時、小林が下村老人に質問した。
「あの田んぼってさ、どこん家のやつだっけ?」
「お前んとこの本家のやつじゃねえか。忘れたんかい?」
「そうかそうか。じゃ、問題ないな。」
 何が問題ないのか分からず、俺と鈴木は首を傾げたのだった。
 その後、下村老人は仕事があるからと戻って行き、俺達は今後どうするかを話し合った。
 これは、別に事件というわけではない。何となく変なものを見ただけであって、何かが起こったわけでもない。何かあったのは、もう遥か昔のことなのだ…。
「どうする?もうここを引き上げて、俺ん家にでも来るか?」
 鈴木がそう提案してきたが、俺は何となく、それではいけないような気がして言った。
「いや、予定通りにいこう。と言っても、もう一泊なんだがな…。」
 小林も俺の意見に賛同して言った。
「そうだな。別に襲われるわけでなし、そうしようぜ。」
 鈴木は浅く溜め息を洩らしながら、「物好きだねぇ。」と言ったのだった。



痛みが増してしまった…。
 空しい日々に…疲れ切ってる…。



 
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