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真田十勇士

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巻ノ二 穴山小助その九

「まだ山におります」
「これがとかくでかく強い熊で」
「木位の背で」
「しかも足は丸太の如く」
「前足の一撃で巨木も真っ二つです」
「わし等もすバタを見れば逃げております」
「ではその熊が出て来たらわしが相手をする」
 穴山は三人の話を聞いてその目を余計に鋭くさせた、そのうえでの言葉だ。そして背にある、マントの上から背負っているその鉄砲に手を触れさせて述べた。
「この鉄砲でな」
「いや、鉄砲でもです」
「あの熊は毛皮がとても厚く矢さえ通しませぬ」
「そうした奴なので」
 三人は意気込む穴山を止めにかかった。
「ですからそうしたやまっ気は起こされずに」
「ここはお頭に任せましょう」
「そろそろ出られるとのことなので」
「いやいや、その頭目も強いじゃろうがわしも強い」
 にやりと笑っての言葉だ、それで三人に言ったのである。
「わしの鉄砲は百発百中、決して外さぬ」
「例え外されぬにしても」
「それでもです」
「弾も毛皮を通さぬか」
「そういう訳でもない、まあ出て来た時は任せるのじゃ」
 今もだ、穴山はにやりと不敵な笑みで答えるのだった。
「よいな」
「そこまで仰るのなら」
「我等も止めませぬが」
「しかしです」
「その熊はとかく強いので」
「わし等は逃げることを勧めます」
「このことは変わりませぬ」
 あくまでだ、三人はこう言って穴山に賛成しなかった。だがこうした話をしている間にも幸村達への案内は続けた、そして。
 三人は歩きつつ周りを見回してだ、自分達の後ろの幸村達に告げた。
「そろそろです」
「もうすぐ我等の隠れ家です」
「そこに着きます」
「そうか、しかしな」 
 幸村は三人の言葉に頷きつつ述べた。
「心配した通りになったな」
「はい、確かに」
「そうなりましたな」
 穴山と雲井が幸村の言葉に頷いた。
「この気配はおそらく」
「熊のものですな」
「そのとてつもなく大きな」
「この山に来たという熊ですな」
「何と、出たのですか」
「それは大変ですぞ」
「すぐに逃げねば」
 三人はすぐに慌てふためきだした。
「あの、相手が悪いです」
「如何に幸村様達といえども」
「ですから」
「まあ見ていることじゃ」
 穴山は笑ってだ、慌てる三人に述べた。
「その熊はわしが何とかする」
「まさかと思いますが」
「熊を倒されると」
「そう仰るのですか」
「そうじゃ、だから見ておれ」
 穴山はその両手に鉄砲を持った、そして。 
 その気配がする方に身体を向けて身構えた、すると間もなくしてだ。
 途方もない大きさの、熊と言ってもまだ信じられない位の巨大な熊が出て来た。その背の高さは木と同じ位だ。
 その熊を見てだ、三人はいよいよ震えだした。
「こ、こいつです」
「こいつがその熊です」
「わし等も殺された者こそ出ませんが何人も死ぬ様な怪我を負わされています」
「本当にこいつはです」
「ちょっとやそっとじゃ相手に出来ないです」
「化けものですよ」
「だから見ておるのじゃ」 
 まだこう言う穴山だった、熊はその巨大な身体の上にあるこれまた大きな頭から穴山達を見下ろしている、後ろ足で立っている為か余計に大きく見える。 
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