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韓蛾

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2部分:第二章


第二章

「歌を歌えばいいんですよね」
「そうじゃが」
「いいのか?わし等に」
「歌わせてくれるのでしたら」
 静かに微笑んで彼等に応えるのであった。
「是非共。私はそれだけでいいです」
「何と」
 誰もが今の韓蛾の言葉を聞いて驚きの声をあげた。
「歌えればそれでいいとな」
「何という志か」
 顔を見合わせ驚くばかりであった。
「邪険にしたわし等に対して」
「そこまでしてくるか」
「確かに悲しいものでした」
 それは彼女も認めるのだった。
「けれど。歌わせてくれるのなら」
「左様か」
「それでは早速」
「はい、では」
 韓蛾は彼等の言葉を受け早速歌いだした。最初からいきなり明るい調子だった。
「おおっ」
「この歌はまた」
「明るい、明るいぞ」
 皆彼女の歌を聴いて早速笑顔になるのだった。
「明るいだけではない、楽しいぞ」
「何か聴いているだけでな」
「うむ」
 笑顔で顔を見合わせる。もういてもたってもいられなかった。
「踊るぞ」
「踊ろう」
 言う側から踊りだした。その中央には韓蛾いる。町の誰もが笑顔になり韓蛾の周りで踊りはじめる。もう悲しい気持ちは何処にもなかった。
「さあさあ皆で」
「踊れ踊れ」
「踊りが終わった後は」
 自然にその後の話になっていく。
「酒じゃ馳走じゃあ」
「韓蛾殿を祝おう」
「祝え祝え」
 口々に韓蛾を讃えていく。
「宴を開いて皆楽しみ」
「心ゆくまで踊ろうぞ」
 誰もが笑顔で歌い踊り宴を楽しんだ。そしてそれが終わった次の日には韓蛾に対して立派な贈り物をするのであった。
「やあやあ有り難う」
「おかげで明るくなった」
「明るくなっただけではない」
 笑顔で韓蛾を囲んで言うのだった。
「楽しませてもらった」
「だからじゃ」
「無論あのことの謝罪もある」
 宿屋のことであるのは言うまでもない。
「じゃが。それと共にだ」
「御礼ですか」
「いや、実に楽しい気分にさせてもらった」
「全くだ」
 誰もが笑顔で彼女に語るのであった。
「それの御礼じゃよ」
「さあ、受け取ってくれ」
「はあ。それでしたら」
 彼等の申し出を素直に受け取ることにした。これでこの話は終わった。だがここで。街の者達はここであることを韓蛾に提案してきた。
「それで一つ御願いがあるのですがな」
「御願いといいますと」
「貴女の歌です」
 韓蛾の歌について言うのだった。
「貴女の歌を。歌っていいか」
「これからもこの街で」
「私の歌をですか」
 これは韓蛾にとっては意外なことだった。それで目を丸くさせて彼等に言葉を返すのだった。
「そう、この街でこれからも」
「歌っていいだろうか」
「悲しい歌も楽しい歌も」
 両方の歌をであった。
「よいだろうか」
「貴女さえよかったら」
「それでしたら」
 韓蛾はその言葉を聞いて静かに笑う。実に穏やかな笑みだった。
「喜んで」
「いいと申されるか」
「歌い手にとっては自分の歌が口ずさまれること程嬉しいことはありません」
 その小さな声で述べた。やはり普段は物静かである。
「ですから。是非」
「ではこれからも」
「歌わせてもらいます」
「どうぞ。そうして頂けることこそ私が一番嬉しいことですから」
「ではな」
「これから。歌わせてもらおう」
 こうしてこの街では韓蛾の歌が歌われることになった。これは何時しか斉の国の隅から隅にまで広がり斉では歌が好かれるようになった。心の底から出されたものは人の心に残り続けるという。そしてそれは何時までも残る。韓蛾の話はそういう話であろう。


韓蛾   完

 
                    2008・9・7
 
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