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魔法少女リリカルなのは~その少女の歩む道~

作者:大空星
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第一話

───世界はいつだって残酷だ───

見渡す限りの瓦礫の山と燃える大地。
血と硝煙と生き物の焼ける匂い。

───万人を幸せにする奇跡なんて存在しない───

傷だらけの体と流れる血、膝をついて動かなくなった自分の体。

───叶わない夢や希望を追い求めることに───

名も知らぬ兵士たちが銃を構え一斉に発砲する。

───何の意味がある?───

崩れ落ちる自分の体。
それと同時に湧き起こる歓喜の叫び。

───そんな当たり前の事に───

その歓声を聞きながら、

───やっと気づいた───

俺は死んだ。



「やぁ、気分はどうだい?」



───そして、『私』の新しい人生が始まった。───





新暦70年4月 私立聖祥大学付属女子中等部 教室 


春の暖かい日差しが教室を包みこむ。
新学期になり、一番後ろの窓側の席という誰もが羨む席を手に入れる事が出来た私にとって、この暖かさは睡魔の誘惑以外の何物でもない。
“とある理由”によってこのところ教室内でも気を張り詰めている ――――もちろん気づかれないよう注意も払っている――――事もあり、今すぐにでも誘惑に負けて寝ってしまいたい欲求に駆られる。
というか、もうすでに頭を漕ぎ始めていた。
ああもういいや、私ってば別に優等生じゃないし、悪いのはこんな席を用意したくじ運とこの陽気のせいだし、もう寝ていいよね。と諦めて夢の世界に旅立とうとした時、

ゴンッ

「痛ッ!?」
「? 倖月さんどうかしましたか?」

何かが私のこめかみにぶつかり、思わず声をあげてしまう。
突然声を上げた私に女教師が不思議そうに尋ねてきたが、なんでもありません。と答え何がぶつかったのか確認してみると、足元に消しゴムが落ちていた。……ああ分かった。

「遥、その消しゴム取ってくれない?」

声をかけられ半眼で隣の席に目を向けると、赤みがかった茶髪に灰色の瞳、東洋人とは思えない白い肌と整った顔にどこか知的な雰囲気を纏わせた少女が、黒板から目を離さずノートに書き写していた。
授業中なので先生に気づかれないよう小声で話しかける。

「菜々星、あんたねぇ」
「あら、何か間違ったことをしたかしら?」
「起こすならもうちょっと優しく…」
「あれでも私としては十分優しくした方よ。それとも耳を思いっきり引っぱった方が良かった?」
「……………」

自分では確認できないが、おそらく私の額には青筋を立っているだろう。
そして今の会話の中で、この女は一度もこちらに顔どころか視線すら向けていない。

「人と話す時は相手の目を見て話しなさいって教わらなかった?」
「授業中にクラスメイトと目を見て会話するよう教わったことはないわね」
「……………」

何だろう。この女は人の神経を逆なでするのが趣味なのだろうか。

「あんたいい加減に」
「何?授業中に居眠りしそうになった生徒を起こして何が悪いの?感謝されるのならいざ知らず、怒られる筋合いはないわね」
「……………」

……そろそろ堪忍袋の尾も限界に近い。

「それと一つ」
「まだ何かあん「倖月さん?」!?」

その一言で熱くなりすぎていた頭が急激に冷えていく。
ゆっくりと顔を前に戻すと、目の前で先生が笑みを浮かべていた。
最も目は一切笑っていない。

「……声が大きいわよ」

隣で、ぼそりと独り言のように菜々星がつぶやいた。
どうやら知らず知らずの内に声のボリュームが上がっていたらしい。

「廊下に立ってなさいとは言わないけど、授業が終わるまでその場に立ってなさい」
「……はい……」

その静かな迫力に反論する気も起きず、大人しく立ち上がる。
でも立ち上がった時に、『愚かね』と声には出さず視線で語たられたのを見て殺意が湧いたのは悪くないと思う。



「何やってんのよアンタ」
「私は悪くない」
「私のせいでもないわね」
「OK分かった。喧嘩売ってるのね、喧嘩売ってんのね!!」
「は、遥ちゃん、落ち着いて!」

昼休み。
呆れたように話しかけてきた金髪の少女、アリサ・バニングス。
あくまで私は関係ないと白を切る少女、深山菜々星(みやまななせ)
思わず飛び掛かろうとした私、倖月遥(こうづきはるか)
そんな私を必死になだめる少女、月村すずか。
の4人は、屋上のベンチの一角でそんな賑やか?にお昼を取っていた
ちなみに事故防止のため多くの学校は屋上への立ち入りを禁止しているが、ここ聖祥大および付属校では立ち入り禁止どころか花壇やベンチなどが設けられ、生徒の憩いの場として解放されている。

「ほんと、菜々星も遥も毎度毎度よくやるわよね」
「まったく、付き合わされる私の身にもなってほしい」
「あんたは一度も被害をこうむったことないでしょうが!!」
「遥ちゃん、ほら、深呼吸深呼吸」

そう、腹立たしいことに何故か毎回注意されたり立たされたりするのは私だけで、この性悪女は一度としてそのような目にあったことがない。

「そこは上手くやっているから。優等生の私と不真面目な貴女との違いよ」
「まあ、確かにやり方は褒められたものじゃないけど、どちらが悪いかと聞かれれば授業をちゃんと聞いてない遥の方が悪いわね」
「……世の中ってホント不公平」
「あはは」

平然と菜々星が答え、アリサがそれに同意し、すずかは困ったように笑った。
私は半ばやけくその様に弁当のおかずを口に運ぶ。お、今日の生姜焼きは上手く味が染み込んでて美味しい。やっぱり一晩漬け込んだのは正解ね。ちなみに弁当は二段重ねで、下段がご飯、上段が千切りキャベツの上に豚の生姜焼きを添えた生姜焼き弁当である。

「毎度のことながら思うんだけど遥、アンタのお弁当って、その…なんて言うか…」
「女の子のお弁当ではないわね」
「ストレート過ぎるわよ菜々星!」
「もしくは雑ね」
「酷くなってるよ菜々星ちゃん!」

うん、外野が何やら言っているが無視する。どうせ何か言ったところで菜々星(ドS女)を調子づかせるだけなのだから。
だから耐えろ私! 
高速でこれでもかと力を入れながら生姜焼きを咀嚼する。

「厚めの千切りキャベツに、豚肉と一緒に漬け込んだ生姜をそのままに炒めた生姜焼きとご飯のみ、まるで一人暮らしを始めた男の弁当ね」

ブチッ

「この性悪女ぁああああああぁぁ……痛いいたたたた離しなさいよー!!」

思わず飛び掛かった――弁当に被害が出ないよう注意しながら――私の手を菜々星は一瞬で掴み後ろに回してねじり上げた。ドラマなどでよく見かける単純な技だが、これがかなり痛い。

「私に手を挙げようなんて十年早いわよ」
「痛たたたた、ちょ、それ以上はダメ!ギブギブ!!」
「な、菜々星ちゃん、喧嘩はだめだよ!」
「喧嘩じゃないわ制裁よ」
「いいから離せえええぇぇぇ!!」
「……ま、いつも通りね」

そう。
若干サディスティックな笑みを浮かべながら私の腕をねじり上げる菜々星。
それを必死に止めようとするすずか。
我関せずと一人弁当を食べるアリサ。
そして、“仕事”でこの場にいない三人の少女を加えた合計七人の女子グループは、面子は違えど毎回こんなやりとりをしている。と、昼休みの屋上の一コマとして知られていた。

………関わるつもりじゃなかったのにどうしてこうなった……。

腕をねじ上げられ悲鳴をあげながら、私は心の中で溜息をついた。


その後、流石に見かねたアリサがすずかと一緒に弁護してくれたので無事に解放された。
解放された私は色々言いたいことをグッと堪え、大人しく食事を再開する。
最も、食べながらずっと菜々星にどう仕返ししてやろうかと考えていた為、味わう余裕はなく、
結局食べ終わる頃には、どうやっても返り討ちに合うだろうという結論にいたり思わずため息をついた。

「幸せが逃げるわよ」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「私のせいじゃないわね」
「……テンドンする気はないわよ」
「あら残念」

これっぽっちも残念そうじゃないすまし顔で菜々星は食事を続けている。
ちなみに菜々星の弁当は、プチトマトやブロッコリー、卵焼きにミートボール、ご飯の上に黒ゴマと真ん中に梅干しを添えた、日本人ならお弁当と聞いて最初に思い浮かぶような色鮮やかなお弁当である。

「あげないわよ」
「いらない」
「これが女の子のお弁当よ」
「唐突に自慢!?
っていうか女の子の弁当というよりは、ありきたりs……
痛たたたたッふぁなしなふぁいよおおぉぉ!!」

私が菜々星の弁当についてコメントしようとした瞬間、菜々星が問答無用で頬を引っ張ってきた。割と強い力で引っ張ってきたので思わず悲鳴をあげてしまう。

「余計な事を言うな」
「分かったからふぁなしなさい!」
「あらやだ、何だか楽しくなってきたわ」
「いいかげんにしろおおぉぉ!!」
「はいはい、菜々星もそこまでにしなさい。昼休み終わっちゃうわよ?」
「…そうね、名残惜しいけど、ここまでにしておくわ」

アリサに説得され、しぶしぶといった感じにっ手を放した菜々星は食事を再開したが、残りはそれほど多くなかったので、すぐに食べ終えて今は水筒に入っていたお茶を啜っている。
年寄りくさいと言いそうになったが、先ほどより酷い目に合いそうだったのでやめた。
っていうか何だ名残惜しいって!
このドS女ぁぁ、私をからかって楽しいか!
ああそうですよね、楽しいですよね、ちくしょおおおぉぉぉ!!

「どうしたのよ遥?そんな顔して」
「どうせつまらないことよ。大方、私にからかわれて悔しいとかでしょ、気にするだけ無駄よ」
「菜々星ちゃん、そんな事言っちゃだめだよ。遥ちゃんも、いつもの事なんだから気にしちゃだめだからね」
「…何気にすずかも酷いこと言ってるからね」

アリサの一言にすずかが慌てて謝ってきたが、事実は事実なので気にしてないと告げる。
あれ?昨日もこんなやり取りしたような……なんて事を考え、また落ち込みそうになった。
私って意外とネガティブなのかも。

「話は変わるけど、すずかも菜々星も確か今日予定空いてたわよね?」
「うん、今日は塾も習い事もないよ」
「私も今日はオフね」
「よし決まり!じゃあ今日の放課後、翠屋に寄りましょう!最近みんな色々予定があってご無沙汰だったじゃない。久しぶりに桃子さんのケーキ食べたいしね。当然、遥も来なさい」
「え、私の予定とかは「あっても来なさい!決定よ!」……ですよね~」
「諦めて来なさい」
「アリサちゃん、言い出したら聞かないから」

既に退路はないらしい。
まぁ、確かに今日は特に予定も入っていないので断る理由もない。
私は諦めたように今日何度目か分らないため息をついた。


昼休みが終わった後の授業中。
先生の言葉を話半分に聞きながら、私は放課後の事について考えていた。
結局あの後、了承の返事をした私に満足そうに頷いたアリサが、放課後に皆で一緒に行くと告げ、昼休みの時間も残り少なかったので、そのまま皆で教室に戻ってきたのだが、正直私は気が進まなかった。
アリサは、友達なんだからと特に深い意味もなく私を誘ったのだろうが、この際はっきり言ってしまえば私が求める彼女たちとの関係は、

友達ではなく、知り合い以上友達未満の関係なのだ。

誤解なきよう言っておきたいのだが、私は別に彼女たちが苦手だと思う事はあっても決して嫌いな訳ではない。いや、むしろ好ましく思っている。(ただし一名を除く)
なのになぜか?
答えは、自分には決して知られてはいけない秘密があるからだ。
特に“菜々星を含めた”四人の少女たちには。

なので出来れば断りたい。
しかしあの時、『まさか断らないわよね?』と、無言でこちらを睨み付けてきたアリサの顔を見たら、とても断れない。
さてどうしたものかと考えていると、ブレザーの内ポケットが2回ほど振動するとピタリと止まり、私はそれに思わず目を細め内心で舌打ちをした。


今が昼休みではなく、授業中であったのが幸いだった
もし、アリサ達が今の遥の表情を見たら、自分の目を疑ったかもしれない。
それほど、普段からは考えられないほど遥は冷たい表情をしていた。
そう、まるで感情のない機械のような表情を。


いけないと、すぐに表情を戻す。
時間にすれば一瞬、危なかった。と私は内心の動揺を隠し、視線だけ菜々星の方に向ける。
相変わらず菜々星は真剣な表情で前を向き、ノートに板書していた。まさに優等生といった佇まい、これで性格が良ければ、とつくづく思う。
少し脱線したが、菜々星はどうやらこちらの一瞬の変化に気付かなかったようだ。
心の中で安堵の息を吐くと教室の時計で時間を確認する。
授業が終わるまで三十分ほど“2コールで切られた”ということは緊急の用件ではない。なら、大人しく次の休憩時間まで待った方がいいだろう。

「では次の問題を……倖月さん」
「!? は、はい!」
「どうしました?次の問題を解いてみてください」
「……すみません。どの問題ですか?」
「立ってなさい」
「……はい」

一日に二回も立たされるのは初めてなんじゃないだろうか?
そんな私を、菜々星は冷めた目で、すずかは苦笑し、アリサは呆れたように見ていた。


授業が終わり、先生にそのまま説教をされそうになった私は、「花を摘みに行かせて下さい」と告げ、返事も聞かぬまま急ぎ足でトイレの個室に入り鍵を閉めた。
内ポケットから先ほど振動した耳介型補聴器のような機器を取り出し、右耳に付け、中央に付いているボタンを押す。
コール音が聞こえてきてから待つこと数秒、

『ハロー、ハルカ♪』
『用件は?』
『つれないわねぇ~、1カ月ぶりの通信だっていうのに~、お姉さん悲しいわ~』
『悲しいわ~、じゃない!学校にいる時間帯は通信してこないっていう約束だったでしょ!』
『怒らない怒らない。何事にも寛容なのが良い女の秘訣よ』
『その言葉、どこかの誰かさんに聞かせたいわ』
『あら、噂のナナセって子?』
『まぁね』

本当にあの性格は何とかならないのだろうか、あれで男女問わず人気があるのだから世の中分らない。何でも人気の一つに、『あの冷たい表情で罵られたい』などというのもあるらしい。
訳が分らない。

『それで、何の用?』
『さっきも言ったけど、1ヶ月ぶりにあなたの近況を確認したくて♪』
『はいはい、悪ふざけもその辺にしなさい』

悪ふざけじゃないのに~、などブツブツ言っているが本当に用件がそれだけなら、
わざわざ対魔法探査用秘匿念話通信装置(インカム)を使用したりしない。
しばらく、ブツブツ言っていた通信相手の女性は、

『仕事よ。詳細はこちらで迎えの車を出すからその中で』

念話越しでも分かる程冷たい声で告げ、一方的に通信を切った。
まったく、寛容になれと言ったのはそっちなのに仕事の事となると一方的なのだから性質が悪い。

「別に断ったりしないけど」

と、誰にも聞かれないように口の中で呟く。もっとも念話中にも外への意識は向けていたので自分以外には誰も入ってきていないのは確認済みなのだが。
念のためトイレ用擬音装置のスイッチを押しトイレの水を流してから個室を出て、手洗い場の鏡の前で無意識の内になってい“仕事用”の表情を“日常用”の表情に戻す。
仕事を断ったりはしない、しないが……

「アリサになんて言い訳しよう」

容易に想像できる額に青筋をたてたアリサの仁王立ちの姿に、軽く憂鬱になりながら教室へと戻った。
余談だが説教の途中で抜け出した事へのお咎めしっかり受けた。と後述しておく…………ハァ 
 

 
後書き
注意:TS、神様転生ではありません。
   
文章がおかしい場合は指摘して頂けると助かります。

……書き貯めないと(棒 
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