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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico24彼の居ない時間の中で・・・~Sad days~

 
前書き
アニメ「Vivid」の1クール目が終わってしまった・・・。 

 
†††Sideはやて†††

「「――起立、礼!」」

「みんな、車には気を付けて帰ってくださいね」

日直の子が号令をかけて、「さようなら」わたしもクラスメイトのみんなも先生にお辞儀。先生が教室を出て行って、クラスメイトの子らも教室を出てく。扉から出てく前に、「はやてちゃん、元気出してね」とか、「ルシル君はきっと大丈夫だよ」とか、「困ったことがあったら何でも言ってね」って、わたしを元気づけてくれた。

「おおきにな、みんな」

わたしは笑顔を作ろうとしたんやけど、上手く出来ひんかった。するとクラスメイトの子らは、無理しないで、って気遣ってくれて、思い思いに教室を出てく。わたしも帰るために机に立てかけてあった松葉杖へと手を伸ばしたんやけど、「あ・・・」掴む前にコツンと指先が当たったことで松葉杖が倒れてもうた。

「しっかり、はやてさん」

「咲耶ちゃん・・・。おおきに」

わたしが通うてる病院の看護師、木花結さんの妹さんで、この4年2組のクラス委員長・咲耶ちゃんが松葉杖を拾てくれた。それを受け取って「よいしょ」っと椅子から立ち上がる。

「お辛いですわね。帰郷してすぐにルシルさんが交通事故に遭われるなんて・・・」

海鳴温泉でのシュヴァリエルらリンドヴルムとの一件から数日の今日は、9月1日。二学期の始業式や。そこで先生からクラスのみんなに、ルシル君が実家のあるノルウェーへ帰郷していて、そこで交通事故に遭うたって知らせた。
ルシル君のホンマの実家は第12管理世界フェティギアやけど、海鳴市に来たばかりの頃にルシル君はノルウェーの国籍を用意したから、そのままルシル君の出身国はノルウェーになってる。そうゆうわけで、親戚の処にルシル君が帰郷している時、交通事故に遭ったということになった。

(ルシル君・・・)

シュヴァリエルってゆう、とんでもなく強い人にルシル君は負けて、右腕を失ったうえ殺されかけた。ううん、実際に数分の間だけ死んでたんや。そやけどシャマルと、応援に来てくれたベッキー先輩のおかげでなんとか蘇生させることが出来た。そんで全てが終わった後、応援に来てくれた先輩たちが乗ってた次元航行艦シャノンからスカラボ経由で本局に緊急転送されて、スカラボの外で待機してた医務局員の人たちと一緒に医務局へと向かった。

・―・―・回想や・―・―・

手術室の前にある待合室で、わたしらチーム海鳴全員でルシル君の手術が終わるんをひたすら待つ。手術はシャマルやティファレト先生まで参加して行われてて、看護師の人たちが器材を手に忙しなく手術室を出たり入ったりする。それが余計に不安を呼ぶ。
手術が始まってどれだけ経ったやろ。手術室から医務官さんが出て来て、長椅子に座るわたしらのところへやって来たから、わたしは松葉杖を突いてすぐに立ち上る。リンディ提督も立ち上がって「ルシリオン君の容体は・・・?」っ訊ねた。

「小さいお子さんも居ます。場所を変え――」

医務官さんがリンディ提督を連れて場所を変えようとしたから「わたしも聴きます・・・!」わたしはそう言って止める。それでも渋る医務官さんに、「ここで構いません。お願いします」リンディ提督も説得してくれると、「・・・判りました」聞き入れてくれた。

「率直に申しますと・・・非常に危険な状態です。右腕は切り口が鋭く綺麗だったおかげで繋げることが出来ると思いますが・・・。両腕両足だけで数ヵ所の筋断裂・筋膜断裂と複雑骨折。頭蓋骨・鎖骨・胸骨数本・背骨・骨盤もまた酷いものです。さらには全身の切創・擦過傷、腹腔出血、内臓破裂。挙げれば切りがありません。
医者である私が言うのもなんですが、正直な話、生きているのが不思議なくらいです。我々も全力を尽くしますが・・・。今夜からしばらくは峠が続くでしょう。ですからご家族にご連絡を。いつルシリオン君が旅立っても良いように・・・覚悟をお願いします・・・」

お辞儀した医務官さんが手術室に戻ってく。わたしは足元が崩れたような錯覚を得てその場にへたり込んだ。わたしの名前を呼ぶリインやシグナム達、すずかちゃん達の声がどこか遠い。

「いや・・・いやや・・・。ルシル君・・・ルシル君が・・・死・・・うっ!?」

吐く。旅館で頂いた夕食やったものを吐き出してもうた。ルシル君のボロボロになったあの姿が脳裏に過ぎると、「おぇぇ・・・!」さらにまた吐いた。苦しい、辛い、涙が止まらへん。しかもどうゆうわけか「っ!?・・あ・・・は・・・うぁ・・・!?」息が出来ひんくなった。

「いけない! 過呼吸だわ!」

そんでわたしの意識は飛んだ。次に目が覚めたのは10時間も後の昼間。

「はやて!」「はやてちゃん!?」「「主はやて!」」

長椅子に横にされてた体を起こす。ヴィータとリインは涙目で、シグナムとザフィーラも不安げにわたしを見てた。辺りを見回すとすずかちゃん達は座ったまま眠ってて、リンディ提督とクロノ君は席を外してて居らんくて、「はやてちゃん。良かったぁ。体は大丈夫?」エイミィさんが声を掛けてくれた。

「なんとか・・・大丈夫です・・・。ヴィータ達にも心配かけたな、ごめんな」

もう何が大丈夫で、何がアカンのか判らへんほどに頭がボーってしてる。リインに「何か飲みますか?」って訊かれて、旅館の夕食からこっち、なにも飲食してへんことを思い出した。それに気を失う前に派手に吐いてしもうたから胃の中は空っぽ。何か入れとかんとアカンし、「お茶、お願い出来るか」そうお願いした。

「はいです。ちょっと待っててくださいね、はやてちゃん」

「リイン、あたしも付いてくよ。お前ひとりじゃなんか不安だしな」

「リインひとりでもお使いくらい出来るですよ」

「そう言って一度、迷子になったじゃねぇかよ」

「それは・・・そうですけど・・・」

そんな会話をしながら自販機に向かったヴィータとリインを見送って、手術室の方を見た。あれから10時間も経ってるのにルシル君の手術はまだ続いてた。

「ルシル君・・・。神様、どうか・・・どうかお願いします。ルシル君を助けてください」

指を組んで祈る。神頼みしかわたしに出来ることはあらへん。悔しい。そんなことしか出来ひん自分の無力さに腹立たしさを覚える。

――守るべきはやてが居ると思わせてくれるから強くなれる――

ルシル君がそんな嬉しいことを言うてくれたからわたしも・・・

――わたしも守るよ。ルシル君の事。ルシル君を傷つける人が居ったら、わたしが守ったげるからな♪――

そう約束、誓ったはずやのに。何も出来ひんかった。ただ眺めて、叫んで、ルシル君が殺されかけるまで何も・・・何もや。また溢れ出てくる涙。悲しみやのうて悔しさから出てくる。強くなりたい。シュヴァリエルって人すらからもルシル君を助けられるように。

それからさらに2時間。すずかちゃん達も目を覚ましたことでわたしらみんなで寄り添って、リンディ提督とクロノ君も戻って来た頃、ついに手術室の扉が開いて、シャマルにティファレト先生、他10人ほどの医務官さん達、そんで体中に包帯、チューブやコードが付けられたルシル君が移動ベッドに乗せられて出て来た。

「集中治療室に移動させます。しばらくは面会謝絶となりますから注意してください」

さっき説明してくれた医務官さんがわたしらにそう言って、ベッドに乗るルシル君らと一緒に集中治療室へ去ってった。

「シャマル」「ティファ」

わたしらのところに残ったシャマルとティファレト先生。2人は「全力は尽くしました」って言うて、その場にへたり込んだ。今にも気を失いそうなほどに顔色が悪くて、疲れ切ってた。

「ティファ。ルシルはどうなの? しばらく峠が続きそうって聞いたけど・・・」

「お嬢・・・。間違いないです。いくら魔法や医学が進んでいても、救えない人は居ます・・・。だけど・・・」

「ルシル君は必ず助けます! 絶対です!」

ティファレト先生やシャマルが強い意志を見せてくれた。

・―・―・終わりや・―・―・

あれから数日。ルシル君は未だに集中治療室で、予断を許されへん容体や。そんでシャマルもあれから家には帰って来てへん。泊まり込みでルシル君の治療に当たってくれてるからな。

「はやてさん・・・?」

「あ、ごめんな、咲耶ちゃん。ルシル君はきっと大丈夫。大丈夫や」

「そう・・・ですわね。ええ、きっとまたあの笑顔をわたくし達に見せてくれるはずですわ」

咲耶ちゃんとも別れて、「はやて。行こうか」クラスメイトの子らと喋り終えたシャルちゃんのお誘いに「うん」頷いて、一緒に教室を出る。わたしら2組のムードメイカーのシャルちゃんも普段よりずっと沈んでて、今日1日このクラスはずっと静かやった。
シャルちゃんと一緒に廊下に出たら、「迎えに来たわよ、シャル、はやて」アリサちゃん達が居った。すずかちゃんもなのはちゃんもアリサちゃんもフェイトちゃんもアリシアちゃんも、みんないつものような明るい雰囲気やない。

「おおきにな、アリサちゃん」

「ありがと」

「シャルはともかくとして、はやては危なっかしいんだから。足の事もそうだけど、その・・・ほら」

アリサちゃんの言わんとしてることは判る。ルシル君の事や。シャルちゃんもわたしも落ち込み過ぎてあれから食事も睡眠もあんまり取ってへん。そやからしばらくはアリサちゃん家の車で送迎してもらうことになったんや。

「今日も本局へお見舞いに行くんだよね・・・?」

すずかちゃんの問いに「うん」ってわたしは即答する。お見舞いって言うてもルシル君とは会えへんけど。集中治療室の室内へは医務局に勤める人しか入られへん。そやけどガラス越しにベッドに横たわるルシル君を見ることは出来るから、そのために医務局へ向かう。

「あの一件でわたし達みんな仕事がお休みだし、毎日ちゃんとルシルに会いに行けて良かったよね」

アリシアちゃんがそう儚げに笑みを浮かべる。わたしらチーム海鳴は無期限の休暇をそれぞれ所属してる部隊の上官から言い渡されてる。ルシル君の事、リンドヴルムの事でいろいろと精神的に参ってるやろうからって。
正直、そのお気遣いにはお礼を言いたい。こんな状態で現場に出たとしても、絶対にミスする。そやけどシグナムとヴィータとシャマルは、その休暇を断って今日も仕事に行った。シャマルはルシル君の治療のために、シグナムとヴィータは体を動かす方が、気が紛れてええってことや。

「私たちも一緒していいかな?」

「もちろんや。その方がルシル君もきっと喜ぶと思うから」

ルシル君。海鳴市の空は青く澄んで晴れ渡ってるよ。それやのに、わたしの心の内は曇ってる。ルシル君がひとり居らんだけでこんなに寂しいんやよ。お願いやから早く起きて、またわたしに笑いかけて、名前を呼んでな・・・。

†††Sideはやて⇒シグナム†††

「はぁぁぁぁぁーーーーッッ!」

――紫電一閃――

「ぐあぁぁぁぁーーーーっ!」

魔導犯罪者を一閃の下に斬り伏せる。“レヴァンティン”からカートリッジを排莢し、局より支給される新たなカートリッジを装填する。私とヴィータは、所属する第2212航空武装隊の仕事としてある魔導犯罪グループの摘発を行っていた。私がいま斬り伏せたのもグループの1人だ。
カートリッジの装填を終えた私の耳に、「シグナムさん、すごい荒れてますね」同班のセレス・カローラと、「気持ちは解るけどな。あたしもどっちかってぇと荒れてる方だ」家族のヴィータのヒソヒソ声が聞こえて来た。

「ルシル君の事、ですよね・・・。話は聞いてます」

「そっか。いま思い出しただけでも自分の無力さに腹が立つ。なんも出来なかった。ルシルとシュヴァリエルの闘いに干渉できなかった。その意思が潰されたんだ。シュヴァリエルの強さを目の当たりにして・・・、あたしは自分たちの命のために、ルシルを捨てて逃げようとした!」

ヴィータの言葉の節々には自身に対する怒りが滲み出ていた。私とて同じだ。私とて、シュヴァリエルの強さを前に、ルシルへの助勢を躊躇してしまったのだ。何が守護騎士か、何が剣の騎士か。私は自分の命とルシルへの助勢を天秤にかけ、自分の命を取ったのだ。魔導犯罪者への一撃も、自分の不甲斐なさへの八つ当たりだ。

・―・―・回想だ・―・―・

主はやてからルシリオンが息をしていないという悲鳴が発せられた。シャマルが主はやてとルシリオンの元へと駆け、治癒魔法を発動した。ルシリオンはシャマルに任せるほかあるまい。
そしてシュヴァリエルは、シャルロッテすらも戦闘不能にし、目的とする少年の方へと歩み行こうとしていた。“レヴァンティン”を持つ両手が震える。これまで感じたことの無かった死の恐怖が私の心を掴んでいた。今は死が恐ろしい。主はやて達との別れが怖ろしい。その恐怖が私の体を支配する。

――コイツらや武装は大人しく返そう。少年についても最悪、見捨てるしかない――

ルシリオンはそう言っていた。この場に居る我々が救われるには、おそらくそれが一番なのだろう。だからと言ってこのままシュヴァリエルの思うようにさせていいのか。家族を、ルシリオンをあのような悲惨な目に遭わせたあの男を。友を、シャルロッテを傷つけたあの男を。

「否!」

一歩踏み出す。と、カツンと爪先が何かを蹴った。見ればソレは「エヴェストルム・・・!」の欠片で、しかもカートリッジを装填するためのシリンダーの部品だった。カートリッジにはまだ残りがある。“レヴァンティン”と“エヴェストルム”の口径は幸運にも同じだ。

「ルシリオン・・・。オーディン・・・。借ります」

シリンダーからカートリッジを抜き、“レヴァンティン”に装填する。

「ああああああああああああああああああッッッ!!!!」

そして迷いを断ち切るために声を上げる。バンへルドにすら殺されてしまった私が、三強の一角であるシュヴァリエルを止めることなど天地がひっくり返ろうとも不可能な事なのだろう。それは重々承知している。だが、一矢報いねば。それが将たる努め。そしていざ、シュヴァリエルへ・・・という時、


「ちょっとシュヴァリエル! 急に艦から居なくなって、ドラゴンハートの連中がうるさくてしょうがないんだけどね!」


また新たな声が聞こえた。その声を聞いた瞬間、先程まで私の胸の内に渦巻いていた決意が消え、代わりにその声への懐古でいっぱいになった。そして、その声の主が姿を見せた。その小さな体、真っ白な髪、腰より生えた一対の白翼は、何百年経とうと色褪せることなく保たれていた。

「アイリ・・・」

「うそ・・だろ・・・。お前、アイリ・・・かよ」

「っ!!」

見間違うことなきかつての家族、氷結の融合騎アイリがそこに居た。

「え・・・え・・・? うそ・・・? シグ・・ナム・・・、ヴィータ・・・、ザフィーラ・・・? それにシャマルも・・・? ほん・・もの、なの? 夢・・・、幻・・・?」

アイリもまた我々を視認すると自分の頬を抓り、目を大きく見開き、大粒の涙を溢れさせ、「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、なの?」と涙声で我らの名を呼んだ。

「「「アイリ!!」」」「アイリちゃん!」

その問いに答えるべく我らはアイリの名を呼んだ。

「っ、うぅ・・ぅ、ぅ・・・アイ、リ・・だよ・・・アイリ、だよぉ・・・アイリだよぉ!やっと・・・やっと、逢えた・・・! やっと逢えたぁ・・・! シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ! やっと逢えたよぉ・・・!」

「おっと。待てよ、アイリ。お前は、リンドヴルムの所有物だろ?」

「ぅあ・・・」

ボロボロと涙を流すアイリが私とヴィータの元へ来ようとしたら、シュヴァリエルがそう言ってアイリの小さな体を鷲掴んだ。そうか。アイリ、お前はリンドヴルムに捕らえられていたのか。これでさらに戦う理由が生まれた。私は「ヴィータ、ザフィーラ! 私がシュヴァリエルを抑える! お前たちはアイリを確保しろ!」“レヴァンティン”のカートリッジをロードし、シュヴァリエルへと突撃する。

「バンへルド如きに指1本と触れることすら出来ずに殺された、役立たずの1人か」

「っ! ああ。その役立たずだ! だがな、その役立たずにも意地があるのだ!」

――紫電一閃――

アイリを鷲掴んでいるシュヴァリエルの右腕へと“レヴァンティン”を振り下ろすと、ガキンと音を立てて衝突した。が、「っく・・・!」斬り落とすことは出来なかったが、「チッ」奴の握力だけは緩めることが出来た。アイリが解放され、「シグナム!」アイリが私の胸へと飛び込んできた。懐かしい温かみだ。すぐさま「ヴィータのところへ行け、アイリ!」私の側から離れさせる。

「人のもんを奪うなんて公僕のする事じゃないだろ」

「リンドヴルムの犯罪者風情がよく言う!」

――空牙――

“レヴァンティン”を振るい、シュヴァリエルの両目へ向けて魔力刃を放つ。直撃はしたが、「効かねぇよ、この程度の神秘じゃな!」全くダメージを与えることが出来なかった。そして改めて握られた大剣が振るわれる。振り下ろされる大剣を横っ跳びで回避し、「カートリッジロード・・・!」具現した鞘へと“レヴァンティン”を納め、全カートリッジをロード。

≪Schlange form≫

「飛竜・・・一閃!」

“レヴァンティン”をシュランゲフォルムへと変えた状態で鞘から抜き放ち、至近距離での砲撃級斬撃を繰り出す。シュヴァリエルは斬り返した大剣を盾にし・・・着弾。剣身に付加されていた魔力が爆発を起こす。

「神器王ですら俺には勝てなかった。それがすべてだ」

魔力爆発の際に発生した煙よりシュヴァリエルが飛び出して来た。やはり無傷。しかも「なに・・・!?」ルシリオンの砲撃によって失われていたはずの左前腕が再生していた。

――十裂刃風――

「しまっ・・・!」

奴の左右に発生した風の渦が刃となって私に放たれ、成す術なく“レヴァンティン”の剣身が粉砕された。

「寝てろ」

「ぐふっ・・・!」

大剣の柄頭が私の鳩尾に打ち込まれ「げほっ、ぐふっ、ごほっ・・・!」激しく咽る。さらにガシッと顔面を鷲掴みにされ、「っが・・・!」後頭部から地面へと打ちつけられてしまった。後頭部への衝撃が強く、視界が歪む。脳震盪を起こしているようだ。体が動かない。

「アイリ! 戻って来い! 出ないとコイツを殺す!」

「「「シグナム!」」」

私の胸元に硬い感触が当たる。歪む視界の中で見えるのは、シュヴァリエルの持つ大剣の剣先が突き付けられている状態だというもの。アイリがシュヴァリエルに従わなければ、奴はその大剣を無情に落とし、私を貫くだろうな。

(くっ。なんて様だ。アイリを助けるどころか首を絞めているではないか・・・!)

あまりの悔しさに涙が出そうだ。そんな私の耳に、「判った。だからシグナムには何もしないでよね」と、シュヴァリエルに従う意思を見せたアイリの声が届いた。

「そう、それでいい。こっちへ来い」

「「アイリ!」」

『アイリちゃん!』

「行くな・・・アイリ・・・!」

私の頭上を飛んでシュヴァリエルの側へと寄り添ったアイリ。アイリは涙を流しながらも「そんな悲しい顔しないで」微笑んだ。

「何百年・・・、何百年と待ってた・・・。シグナムとヴィータとシャマルとザフィーラ、それと・・・シュリエルとアギトは居ないんだね」

アイリの微笑みが陰る。

「でもまた逢えるよね、今みたく・・・。だから待ってる。アイリを迎えに来てくれるのを。何百年と待ったんだもん。あと数年・十数年くらい、待っていられるもん」

「「「アイリ!」」」『アイリちゃん!』

「大丈夫だよ、アイリは。だから心配しないでね。・・・シュヴァリエル。みんなに手を出したら許さないからね」

「判ってる。管理局員を殺す真似はしない」

アイリがシュヴァリエルの肩に座った。そしてシュヴァリエルは「さて。目的を果たすとするか」そう言って、なのは達――正確には少年へと歩き始めた。結局、私は何も出来なかった。自分がほとほと嫌になる。諦めかけたその時・・・


「時空管理局・特別技能捜査課所属、テレサ・テレメトリー一等空士!」

「同じく、トゥーリア・サクロス一等陸尉・・・!」

「「推参!」」

我々八神家とシャルロッテが所属する部署の先輩である、テレメトリーとサクロス一尉が空から降って来てシュヴァリエルと対峙。さらには武装隊十数人が、バインドで拘束しているリンドヴルム兵の側に転送されてきた。そしてルシリオンと主はやてとシャマルの元には、ベッキー・ペイロード陸曹長が現れた。

「新手かよ。面倒くさいな、おい」

「広域指名手配犯・シュヴァリエルを確認」

サクロス一尉の側に指名手配データが表示されたモニターが展開した。テレメトリーが「まさかリンドヴルムの騎士だったなんてね」と言い放ち、両腕を大きく左右に広げた。

――固有スキル・物質変換/レベル3――

テレメトリーの周辺の地面に大きな穴が幾つも生まれた。穿たれた地面だったモノは白い粒子となってテレメトリーの全身を覆い隠した。次にその姿を見せた時、テレメトリーは全身に白い装甲を纏った姿へと変身していた。以前、任務を共にした際に見た姿だ。確か、高速格闘戦用の軽量甲冑。背中や肘やくるぶしにブースターがあり、それを噴射させての高速移動、高速打撃を可能とする。

「来なさい。私のラブリー・フォース!」

――固有スキル・人形師――

サクロス一尉の号令の下、彼女の周囲に2m近い体長をした10体の動物のぬいぐるみが現れた。サクロス一尉の自作人形だ。猫や犬、ウサギに熊などなど。全てが二足歩行で、丸っこい両前脚をガツンガツンと打ちつけてシュヴァリエルを威嚇している。

「随分とファンシーな奴が出てきたな。しかも・・・魔導じゃないと来た。だが、魔道の敵じゃないんだよ・・・!」

「行きます!」

「みんな、テレサを援護!」

テレメトリーが背中のブースターを噴射させてシュヴァリエルへ突撃。大剣で迎撃に入るシュヴァリエルだったが、テレメトリーは肘とくるぶしのブースターを利用して、先の読みにくい回避を取り、なおかつ「鬱陶しい・・・!」奴の顔面に拳や蹴りを打ち込んでいく。そこにサクロス一尉のぬいぐるみ軍団が混ざり、シュヴァリエルは一方的に殴られっぱなしとなった。しかし・・・

「何コイツ! 全然効いてない・・・!」

「防御力が高過ぎる・・・!」

どれも決定打にならず、とうとう「廻天轟乱」シュヴァリエルが自身の周囲に発せさせた竜巻により、「きゃああああああ!」テレメトリーとサクロス一尉が吹き飛ばされ、ぬいぐるみは綿を撒き散らしながら粉砕された。

(やはり・・・勝てないのか・・・?)

今度こそダメだと諦める。だが、望みはまだあった。


「ファルコンメン・ツェアシュティーレンッ!!」


シュヴァリエルの背後に転送されてきたのは、特務技能捜査課どころか局内の中でも最強に近い少女・アルテルミナス・マルスヴァローグ空曹長だった。彼女が繰り出した正拳突きが、シュヴァリエルの腰に打ち付けられた。

「うごぉ・・・っ!?」

(効いた・・・!?)

シュヴァリエルが反り返る。奴は慌ててマルスヴァローグへと振り返りつつ大剣を横一線に振るった。マルスヴァローグは屈むことでその一撃を躱し、懐が空いたその隙を突いて勢いよく立ち上がり、「もう1発!」奴の鳩尾に拳を打ち込んだ。

「っぐ・・・! なんだ、この力は・・・!? 俺の防壁ごと殴って・・・!」

「硬・・・っ! 私たちの大事な仲間(かぞく)を苦しめたその罪はちゃんと償ってもらう!! ツァラトゥストラッ!」

マルスヴァローグの両手首にはめられている腕輪型デバイス・“ツァラトゥストラ”が青緑色の魔力光に輝き、周囲の魔力素を両拳に急集束させた。

「上等だよ! とことん遊んで――っ!?」

シュヴァリエルがそこまで言いかけたところで口を噤み、我々に対して背を向けた。そして「時間切れだ。俺はここで退かせてもらう」そう呟くと大きく跳び上がり、そのままその姿を消した。

・―・―・終わりだ・―・―・

シャマルと、ペイロードの固有スキルのおかげでルシリオンは蘇生できた。が、今もなお予断の許さない危険な状態。このまま死ぬようなことがあれば切腹ものだ。しかもアイリまで奪い返されてしまった。オーディンに顔向け出来ん。

――だから待ってる。アイリを迎えに来てくれるのを。何百年と待ったんだもん。あと数年・十数年くらい、待っていられるもん――

だが顔を伏せてばかりではいられない。アイリは言っていた。迎えに来てくれるのを待っている、と。ならば迎えに行かねばな。ゆえにもっと強くならねば。シュヴァリエルの相手が難しかろうが、それ以外のリンドヴルムを殲滅できるくらいには。

「――シグナムさん。部隊長から集合命令です。壊滅に成功したとのことです」

「行くぞ、シグナム」

「ああ、いま行く」

手錠で拘束した犯罪者を連行し、我々は他の小隊と合流すべく歩きだした。

†††Sideシグナム⇒アイリ†††

「マイスター・・・・。シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ・・・」

リンドヴルム本拠地・天空城レンアオムの本城のてっぺんに登って、地平線の彼方を眺めながらアイリの家族の名前を呼ぶ。

・―・―・回想だよ・―・―・

「・・・シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ・・・」

アイリに用意された私室のベッドにうつ伏せになって、数時間前での出来事を思い返す。アイリにとって初めての家族だったシグナム達とようやく逢えた。それが嬉し過ぎて、こうしてまたリンドヴルムの本拠地・レンアオムへと連れ戻されても辛くない。ううん、ちょっと辛いし寂しいけど、でも信じてるもん。

「また逢える・・・。きっと、絶対、また逢えるから・・・アイリは大丈夫」

そう自分に言い聞かせる。でも「シュリエルとアギト、居なかったな・・・」呟く。まだ“闇の書”が400頁、埋まってないのかな。気になることはもう1つ。今の主はどんな人なんだろう。マイスターみたく良い人だったらいいなぁ。

「シュヴァリエル・・・、シグナム達を管理局員って言ってたっけ・・・」

だとしたら今回の主は管理局の人なのかな。じゃあそんなに辛い目には遭ってないよね・・・。シグナム達がアイリを取り戻してくれたらその人がきっと、アイリの新しいマイスターになるんだよね。けどマイスター以外の人を主なんて呼びたくないなぁ。

「逢いたい・・・マイスター・・・。逢いたいよ・・・。またアイリの名前を呼んでほしい・・・。またアイリの頭を撫でてほしい・・・。またアイリに笑いかけてほしい・・・。マイスター・・・マイスター・・・」

叶わないことだって理解しててもそう願わずにはいられない。今のアイリは真剣だっていうのに、くぅ~、ってお腹が鳴った。

「あぅぅ・・・」

成長しないクセにお腹は空くんだもんね。ベッドから降りて、食事を貰うために部屋を出ようとした時、「おい、食事だ」シュヴァリエルがノックもなく部屋に入って来た。淑女の部屋へノックなしとか、礼儀がなってないよ。でも注意しても治らないからもう諦めてる。

「シュヴァリエル・・・!」

コイツさえ居なかったらアイリはシグナム達のところへ帰ることが出来たのに。

「そう睨むな。お前を逃がしたら俺がボスにドヤされる」

「むぅ・・・!」

「はぁ。アイツらがお前の元・家族だったんだよな」

アイリの目の前にモニターが1枚展開された。映し出されてたのは「シグナム達!」の顔写真。シュヴァリエルが「局員のデータだ」って言った。やっぱり局員なんだね、みんな。

「シュヴァリエル。コレなんて呼ぶの?」

シグナム達の名前の前に知らない文字があるからそう訊いてみたら、「ヤガミ、だ」教えてくれた。八神シグナム、八神ヴィータ、八神シャマル。ザフィーラの名前は載ってない。局員じゃない・・・のかな?

「で、だ。コイツが今の主だ」

「ヤガミハヤテ・・・?」

女の子だった。そう言えばシャマルの側に居た子供の顔がこんなんだった気がする。ハヤテかぁ。優しそうな目をしてる。でもなんでだろう。マイスターの微笑みを思い返させる女の子だ。ハヤテの顔写真を眺めてるとシュヴァリエルが勝手にスクロールして、「っ!!?」そこでアイリは目を疑った。

「マイスター!? シュリエル!?」

マイスターとおんなじ銀髪に紅と蒼の虹彩異色をした・・・男の子? ん?女の子? 名前は「ルシリオン・セインテスト・・・!」マイスターと同じファミリーネームだ。そしてもう1人。シュリエルそっくりの女の子が表示された。けどすっごく小さいし、目もシュリエルと違って柔らかで青色。記載情報には、「ユニゾンデバイス・・・」そう記されてた。あぁ、融合騎なんだね。

「なんでまたシュリエルとそっくりなんだろ・・・? それに名前・・・」

八神リインフォース・ツヴァイ。ツヴァイ・・・、2って意味だよね。シュリエルとそっくりで、ツヴァイの名前。それじゃあ、今のシュリエルの名前は、「リインフォース・・・?」になるのかな。マイスター、シュリエルリートは時限付きの名前だって言ってたし。

「(とにかく・・・)シグナム達は今を生きていて、また逢えるってことなんだ。それにルシリオン! マイスターにそっくりだし、マイスターの代わりになってもらおうっかな♪」

シグナム達と一緒に過ごせる未来に思いを馳せていたら、「代わりも何も、オーディンと神器王、同一人物だろうが」ってシュヴァリエルが言った。

「ジンギ王・・・? またその名前・・・」

バンへルドもマイスターを、ジンギ王、って呼んでた。そしてシュヴァリエルは、ルシリオンの事も、ジンギ王、って呼んだ。しかも同一人物だって。一体何を言ってるの?

「どういう・・・こと・・・?」

「オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。ルシリオン・セインテスト。この2人は、同一人物だって言ったんだ」

アイリはシュヴァリエルから聞いた。マイスターの、ルシリオンの正体、そしてシュヴァリエルが、マイスターが救おうとしてた“堕天使エグリゴリ”の1機なんだってことも、全部・・・。

・―・―・終~わり・―・―・

「マイスターもまた・・・アイリ達みたく不老の存在・・・だったなんて・・・」

アイリの口端が吊り上る。嬉しい。アイリの大好きなマイスターも時間で死ぬ人じゃなかった。あの当時から変わって子供の姿だけど、それでもマイスター本人なんだって。それが本当に嬉しい。でもシュヴァリエルは言う。

――神器王は、俺が殺す。要らぬ希望など抱かない方が良いぞ、アイリ――

でも、マイスターは負けない。アイリが、氷結の融合騎アイリが、マイスターを助けて見せる。その時が、アイリとシュヴァリエルの何百年っていう関係に幕が下りる時だよ。

「マイスタぁぁぁぁーーーーっ! アイリは、ずっと待ってるからねぇぇぇーーーーっ!!」

広い空へ向かって叫ぶ。マイスター。大好き! 早く逢って想いを伝えたいよ。
 
 

 
後書き
カリメーラ。ヘレテ。カリスペラ。
前回で書き切れなかった部分をお送りしました。特別技能捜査課の仲間を相手にしてもシュヴァリエルは健在。アルテルミナスの破壊効果も無視する反則っぷり。結局勝負はつかずに撤退ということにしました。
そして、アイリがシグナム達とようやく再会を果たしました。彼女が八神家へ迎え入れられる日は来るのでしょうか。そしてルシルは、シュヴァリエルを救うことが出来るのでしょうか。それはまた数ヵ月後に。
次回は会議っぽい話なのでちょっと退屈させるかもしれません。
 
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