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3部分:第三章


第三章

「彼等は財産も奪われた」
「その失った財産の総額は天文学的数字に及ぶ」
「合衆国の法律は知っているね。個人の財産は保護されねばならないのだよ」
「しかし君は彼等の財産を全く保護しなかった」
「彼等は暴行も受けたが君は彼等の身の安全も見て見ぬふりだった」
「そして彼等を強制収容所に放り込んだのだよ」
「こんなことは合衆国ではかつてなかった」
 インディアンへの迫害はあったがだ。
「君は合衆国史上で最低最悪の人種差別政策を行いだ」
「この強制収容所だね」
「我々も調べさせてもらったよ、収容所について」
「いや、見事だよ」
「人権侵害の極みだね」
 死刑執行人の目でだ。俯き沈黙するウォーレンに続ける。
「粗末な食事に施設」
「仕切りもないトイレ」
「これは凶悪犯罪者用の刑務所かね?」
「しかも監視塔の銃は彼等に向けられていた」
「鉄条網で厳重に隔離もされていた」
「君の中では日系人は犯罪者か」
「君は人種だけで無実の者を犯罪者にし立てあげる法律家なのだね」
 嫌味というものではなかった。殺意すらその言葉にはあった。
「この様な施設に無実の者を送り込む」
「財産は実質全て没収だ」
「しかも銃を向けていた」
「実際にその銃で射殺された日系人も多くいた」
「粗末な食事と衛生管理で病気も流行った」
「ストレスで暴動も頻発した」
「これはナチスの蛮行かね?」
 こんな言葉さえ出た。
「アウシュヴィッツかと思ったよ」
「しかしこれは我々が愛する誇り高き合衆国で行われたことだ」
「君が行ったことなのだよ」
「君のこの政策で多くの日系人が罪なくして人権を侵害されだ」
「財産を失い命を落とした」
「全て君のせいなのだよ」
「尚だ」
 ここでとりわけ彼に嫌悪と軽蔑の目を向けている者が彼に言った。
「日系人達はファシストとの戦争に向かいそのうえで実に多くの犠牲者を出したのだよ」
「そうだった。四四二部隊だ」
「彼等は果敢に戦い自らの合衆国への忠誠を見せてくれた」
「君が全く信じなかったそれをだ」
「しかも君は戦場に立たずに彼等を収容所に送った」
「そうだったね」
「・・・・・・その通りです」
 このこともだ。ウォーレンは認めた。やはり俯きつつ。
「私はあの時戦場にいませんでした」
「まあ知事だったから当然だが」
「しかし。君が大統領にも副大統領にもならなくて実によかった」
「君の如き卑しい恥ずべき品性と人格の持ち主が誇り高き合衆国の代表になってもらっては我が国にとって最大の恥辱だった」
 こうまでだ。彼等は言う。
「だから君が大統領にも副大統領にもならなくてよかったよ」
「ヒトラーは合衆国の大統領にはなれないのだよ」
 一人がこうまで言った。
 そしてだ。別の一人がだった。
 彼の前に進み出てだ。そのうえでだ。
 彼の席にだ。あるものを置いた。それは。
「これが君に相応しいものだ」
「それは・・・・・・」
「ナチスの親衛隊の制服だよ」
 見れば漆黒の服だ。それにだ。
 赤と黒の鍵十字、それは。
「ハーケンクロイツも用意しておいた。着給え」
「私は、合衆国の」
「君は合衆国の名誉を汚した」
 その彼はだ。ナチスの親衛隊の帽子まで置いてウォーレンに反論した。
「だから君にはナチスの制服が相応しい」
「そうだな。若しくはクランの白い覆面を被り給え」
 こう言った人間は実際にその白い覆面を出してきてウォーレンに向かって投げつけた。覆面はウォーレン自身には当たらなかったが彼に確かに当たった。
「君の政策で多くの日系人が迫害され財産を失い」
 そしてだった。
 
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