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地上の楽園

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2部分:第二章


第二章

「それだけいい国だとな」
「そうだよな。行ってみたいな」
「もうこんな国を出てな」
「あの国に住みたい」
「そうしたい」
 こう考えていくのも当然だった。そしてだ。
 あの国にルーツがある人達はだ。とりわけだった。
「あの国に、祖国に戻りたいな」
「そしてあの国で生きたいな」
「ああ、もうこんな国嫌だ」
「絶対にあの国で生きたい」
 彼等がこう考えたその時にだ。
 帰国事業がはじまった。あの国に帰って幸せに過ごそうと主張されてだ。あの国が政府単位で主導しそれに関連組織も加わっていた。
 しかもだ。新聞やテレビがだ。盛んに旗振りをしたのだ。
 その結果だった。あの国にルーツのある人達、その家族も含めてだ。次々にあの国に向かっていった。満面の笑みを浮かべて。
 次から次にあの国が用意した船に乗って旅立っていく。彼等はその天国に行った。そうである筈だった。
 だが誰もがだ。彼等はだ。
 残った家族達に手紙を出してきた。生活必需品が欲しいとだ。
 他には金もだ。どんどん送って欲しいというのだ。地上の楽園からだ。
 それを聞いてだ。心ある者達は疑問に思った。
「あの国は地上の楽園じゃなかったのか?」
「身一つでいけるんじゃなかったのか?」
「生活必需品は我が国より一杯あるんじゃないのか?」
「金はいらないんじゃないのか?」
 こうだ。疑問に思いながら話していくのだった。
 そしてだ。その中でだ。
 あの国についての話がだ。漏れてきたのだ。
「独裁国家?」
「言論の自由がない?」
「農業が破綻している?」
「経済が停滞している?」
「物資もない?」
 こうした話がだ。出て来たのだ。
「あれっ、おかしいな」
「あの国の主張と全然違うぞ」
「我が国の新聞やテレビの主張とも違うな」
「それも正反対じゃないか」
 このことにだ。気付きだしたのだ。
「どっちかが嘘を吐いているんじゃないのか」
「あの国と我が国の新聞やテレビ」
 そしてそこにいる文化人達もまた。
「若しくは今出て来ている話の元だな」
「どっちかが嘘を吐いている」
「そうなるよな」
 疑念はここからはじまった。それはまずは僅かなものだった。
 新聞やテレビは相変わらず同じことを言っていた。
「経済成長が十七パーセントを達成したんだ」
「もうあの国だけが違うんだ」
「何もかもがあって豊かで」
「皆幸せに過ごしているんだ」
「平等で公平な社会だ」
「差別はない」
 そのだ。差別についてもだ。噂が出て来ていた。
「えっ、あの領袖の主義に従っている基準で階級がある!?」
「それによって職業が選ばれる?」
「最下級の市民は奴隷扱いだと!?」
「尚且つそれが代々続くって」
「カースト制か!?」
 インドのこの制度の話が出た。
「ああいう感じだぞ」
「しかしあの国はだ」
「そうだ、共有主義だ」
「共有主義には差別がない」
「階級がない筈だ」
 それがキャッチフレーズだった。共有主義の絶対の。
 他の共有主義国家も建前はそうだった。実際に階級を否定し平等をでいこうという意志は見られた。だが、だ。その国は違っていたのだ。
 
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