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異世界系暗殺者

作者:沙羅双樹
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炎の時間(2016/03/22 一部加筆修正)




【視点:樹】



京都2泊3日の修学旅行。初日は西本願寺、二条城、相国寺をクラス全員で回った。この3ヵ所を見た不破さんの感想はというと―――


「やっぱ、ぬらりひょん●孫に登場した螺旋の封印は外せないよね!あと5ヵ所を残りの2日間で絶対見て回らないと!!」


だそうだ。で、現在は修学旅行2日目。俺達、E組第4班は暗殺スポットへと向かっている、訳なんだが―――


「渚。俺、ちょっとだけ皆と別行動してもいいか?」
「え?どうかしたの、イッキ君」
「ちょっとだけ行きたい所があんだよ。どうせ、暗殺開始まで時間あるし、それまでには予定スポットに戻るから」
「……まぁ、予定時間までに戻って来るならいいけど、行きたい所ってどこなの?」
「殺センセー謹製修学旅行しおりに書いてあった京都老舗和菓子屋トップ50。しおりの内容は京都全域の地図も含めて全部記憶して来たから、迷子になることは無いし安心してくれ」
「和菓子買いに行く為だけに別行動!?ってか、あの広辞苑みたいなしおりの内容、全部記憶してきたの!!?」


渚は眼球が飛び出さんばかりに目を見開き、ツッコミを入れてきた。相変わらずのツッコミ オブ ツッコミニストだ。


「しおりを貰ってから5日も時間があれば覚えられるだろ?」
「普通は無理だから!」
「そんなことより、この暗殺が成功しても失敗しても、今晩は打ち上げすんだろ?その為の食べ物を今の内に確保しときたいんだ。ってな訳で、俺は別行動させて貰うわ。また後で合流な!」


俺は渚達にそう告げると、返事を待たずA・T――炎の試験型玉璽(テストタイプ・レガリア)を使って空を飛んだ。この行動が結果として神崎さんと茅野さんを危険に晒すとも知らずに……。

そして、俺が渚達と別行動をした1時間後。暗殺予定地に辿り着く途中で、俺は道に倒れ込んでいる渚、カルマ、友人と3人に駆け寄る奥田さんを発見した。


「!!?お前ら、一体どうした!?」


空から地面に着地し、俺は奥田さんと同じ様に渚達に駆け寄った。この場に居るのは渚達4人だけで、神崎さんと茅野さんの姿が無い。


「痛っ!……イッキか?か、神崎さんと茅野が拉致られた」
「何っ!?」
「相手は高校生で、盗難車っぽいバンを使ってた。明らかに犯罪慣れしてる奴らだね」


友人が現状を説明し、カルマが相手の特徴を簡単にだが説明してくれた。


「……そんな奴らが女攫ってすることなんて決まってる。さっさと助けに行かねぇと!」
「でも、何処に行ったか分からないよ!どうするつもりなの、イッキ君!?」


神崎さん達を助ける為、俺がその場を後にしようとすると、渚が俺を呼び止めた。その渚に対して俺は―――


「渚!お前、殺センセー謹製の旅のしおり持ってるだろ?そのしおりの1240ページにある困った時の対処法17の第3項目、クラスメイトが拉致られた時ってのを見ながら後を追って来てくれ!あと、殺センセーと烏間先生への連絡も頼む!!」
「ちょっ、イッキ君!?」


そう告げると、俺は渚の呼びかけを無視し、空へと飛んだ。ここから一番近い人目のつかない場所と、そこに辿り着く為の最短ルート。

俺はトリック・パースとイーグル・アイを最大限に活用し、(トリック)――AFTER BURNERを使って拉致実行犯の潜伏候補地へと向かった。

目的地には5分程で到着し、建物の外でナンバーの無い車とビデオカメラを持った高校生を発見した。

これから行われるであろう事態を把握した俺は、着地すると同時に時の(トリック)を使って高校生を血達磨にし、その意識を刈り取った。

そして、その高校生を引き摺りながら潜伏場所――閉店したバーの跡地に入ると―――


「お、来た来た。撮影スタッフのご到着だ」


その言葉と同時に顔に傷のある高校生が俺を出迎えた。


「残念ながら今から行われるのは撮影会なんかじゃねぇ。楽しい楽しい害獣駆除だ」


俺はそう告げると同時に、引き摺っていた血達磨の高校生を、リーダーと思しき顔に傷のある高校生に投げた。


「!?」
「俺の連れが2人、随分と世話になったみたいだな。その礼を今からたっぷりしてやるよ。害獣駆除って形でな!」
「その服、椚ヶ丘の中坊か!?何でここが分かった!?」
「うちのクラス担任は心配性でね。修学旅行のしおりに拉致対策と拉致実行犯の潜伏マップをつけてくれてたんだよ。いやー、やっぱり修学旅行のしおりは記憶しておくべきだわ」
(((あ、あるか!そんなしおり!!)))


ん?今、ツッコミを入れられた様な気がするが……。気のせいだな。そんなことより―――


「あんた等さ、俺の連れ――男子3人をボコってくれた上、女子2人を拉致ったんだ。今日から修学旅行が終わるまで病院で寝たきり生活を送る覚悟は当然できてるんだよな?」
「………ハッ!中坊が調子くれてんじゃねぇぞ!こっちには女が―――!!?」
「女が、何?もしかして、神崎と茅野のこと言ってんの?だったら、既に救出済みなんだけど」


リーダーの男が神崎と茅野を人質にしようと俺から目を離した瞬間、俺は最大速度で神崎達のいた所に移動し、2人を抱えて元いた場所へと戻った。


「数的に有利なのに人質取ろうとするとか、もう救い様がねぇな」
「な、何なんだテメェ!」
「害獣に名乗る名前なんて持ち合わせてねぇよ。―――時よ、止まれ」


俺の挑発に逆上した高校生達がナイフを持って突っ込んで来るが、それを俺は時の(トリック)で迎撃した。


「ッ!!?(なっ!?体が動かねぇ!!?)」
「!?(何が起こってんだ!?)」
「「???」」


時の(トリック)を喰らった害獣共は、本当に時が止まったかの様に動かなくなり、神崎と茅野も害獣共に何が起こったのか分かっていなかった。

まぁ、余程の動体視力が無ければ俺の時の(トリック)―――動き出しの妨害や運動中枢を麻痺らせていることを見極めることはできないだろうから、当然の反応っていえば当然の反応なんだが。


「時よ、炎よ!この者共の汚れし魂を太陽(アポロン)の劫火で清めたまえ!!」


俺はそう告げながら害獣共に1人辺り8発ずつの蹴りと拳を叩き込み、その上で炎の玉璽(レガリア)で発生させた炎でその身を焼却消毒した。と、丁度炎を発生させたタイミングで渚達が殺センセーと一緒に店の中に入って来た。

拉致被害者の神崎と茅野も含め、全員が今の光景を呆然と見ている。まぁ、普通に考えてインラインスケートから炎が発生するとは思わないだろうしな。


「焼き加減はミディアムレアに抑えてやった。感謝しろ、害獣共」


プスプスと軽い煙を上げながら倒れていく害獣共にそう告げながら背を向けた俺は、神崎達に近付きながら殺センセーとカルマ達に視線だけ向けた。


(わり)ぃな、カルマ。害獣は全部焼却消毒しちまった。ってか、殺センセー。そのビン底眼鏡付けたガリ勉もどきどもは何ッスか?」
「……外に集まっていた彼らの仲間の様です。先生が全員手入れしておきました」
「へぇ~。数は10人ッスか?その程度なら俺1人でも相手できたけど、焼却消毒する手間が省けたんで感謝します」


俺は感謝の言葉を口にしながら身体操術で爪をナイフの様に鋭く伸ばし、神崎と茅野の両手を後ろで固定しているガムテープを切る。


「神崎、大丈夫か?茅野も。2人とも何もされてないか?パッと見、大丈夫そうだけど……」
「私は大丈夫だけど、茅野さんは……」
「ちょっ、神崎さん!?その言い方、誤解招くよ!首を少し絞められただけだから!」
「いや、それはそれで十分問題だろ。拉致監禁に婦女暴行未遂、傷害罪か。俺刑法と裁判なら死刑確定だ」
「イッキ君の中の法律、どんだけ厳しいの!!?」
「俺、こう見えてもフェミニストなんだよ。女性には優しく、野郎には厳しくが基本理念なんだ。ってか、首絞められたんなら殺センセーに見て貰っとけ。隔離校舎では殺センセーが保険医も兼ねてただろ?」


害獣共を全員駆除したことで心の余裕が生まれたのか、俺は茅野とツッコミを含んだ言葉のキャッチボールを交わす。ただ、神崎に関しては先程まで緊張状態にあったせいか、腰が抜けている様だ。


「神崎、立てるか?」
「南君。ごめんなさい、ちょっと無理そう」
「……別に俺が神崎を迷惑と思ってる訳でも無いんだ。手を貸す程度のことで謝んな」
「うん。―――ッ!南君、後ろ!!」


俺が神崎の手を取ろうとした瞬間、神崎が悲鳴の様な声を上げた。


「エリート校の中坊だからって、俺達を見下してんじゃねぇ!この糞餓鬼が!!」


どうやら、リーダー格の男が立ち上がり、ナイフを持ったまま突っ込んで来ているんだろう。完全に意識を刈り取ったつもりだったんだが、加減し過ぎたか?

そして、リーダー格の男が手にしているナイフが俺の背中に突き刺さる―――様に4班メンバーには見えただろう。が、実際の所ナイフは俺をすり抜け、その先に居る神崎すらすり抜けた。


「蜃気楼、って分かるか?あんたが見ていたのは、摩擦熱で生み出した俺と神崎の虚像だ。俺を本気で殺したいなら、マッハで移動できる様になってから出直して来い。
あと、俺はエリートなんて肩書で人を見下さねぇ。気に入らない相手を見下してんだ。むしろ、周囲が勝手につけた肩書なんて糞喰らえって思ってるわ。本当の意味で自分の価値を見出せるのは、自分自身しかいねぇだろ?」


俺は神崎を姫抱っこしながらリーダー格の男にそう告げ、首筋の根元に4発の蹴りを放ち、今度こそその意識を刈り取った。


「イッキ、大丈夫か?って、いつまで神崎さんを抱いてんだよ!?」
「神崎の腰が抜けてんだから仕方がねぇだろ、友人。って、悪い神崎さん。いつの間にか名字を呼び捨てにしてたわ」
「ううん。呼び捨てでいいよ。私もイッキ君、って呼んでいい?」
「名字で呼ばれるより愛称で呼ばれる方が俺としては気が楽で助かる」


絡んできた友人を軽く無視しつつ、神崎さんに名前を呼び捨てしたことを謝罪すると、神崎さんは敬称を略すことを許してくれた。


「神崎さん。迷いが吹っ切れたという顔ですが、私達が来るまでに何かありましたか?」
「……いいえ、特には何も。殺センセー、ご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ。生徒の為に動くのは教師の務めです。気にする必要はありませんよ」
「イッキ君も……」
「うん?」
「助けに来てくれて、ありがとう」
「……気にすんな。俺達、クラスメイトで暗殺仲間だろ」


面と向かって――しかも、姫抱っこしてることもあって顔が至近距離にある状態で感謝の言葉を言われたのが初めてということもあって、俺は照れ隠しに顔を少し逸らしながらそう言った。

すると、腕の中の神崎はクスクスと笑い、すぐ近くに居る殺センセーやカルマ達はニヤニヤと笑っていた。唯一、友人だけが何故か対抗意識を燃やした様な顔で俺を凝視している。


「お前ら、何ニヤニヤしてんだ!観光の続きをする前にお前らも燃やすぞ!男子限定で!!」
「うおっ!イッキのフェミニスト宣言キターwww。渚君、逃げるよ!」
「ちょっ、カルマ君!?」


カルマはそう言うと同時にスマホで俺を写メり、渚を連れて店から飛び出して行く。


「おい、カルマ!何勝手に写メってんだ!?」
「題して、烏男と姫。L●NEで皆にも見れる様にしとくから、安心してよ。イッキ」
「安心できるか!!」
「えっ、イッキ君!?」


カルマにからかわれた俺は頭に血が上ってしまい、神崎を姫抱っこしたままカルマとの追いかけっこをすることとなった。無意識の内か、神崎を抱いていることもあって最高速度を出さずにいる状態でだ。

結果、カルマを捕まえるまでに、俺が神崎を姫抱きしている所を、他の班員に目撃され、旅館に着いた時には神崎共々クラスメイトからからかわれることになるとは、この時の俺は思ってもいなかったんだ。


 
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