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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  ナルト

「なんだ……って……ばよ……?」

 ひどく懐かしい感覚がした。まるで折れた木の枝が、自分がもと生えていた木の中に戻っていったかのように。ケイの虚ろな瞳がナルトを捉え、そしてケイが片腕を上げた。そこから溢れ出たオレンジ色のチャクラが、ナルトの臍と繋がる。九尾の封印式が存在している場所だ。ぐったりと地面に膝をつく。力が出ない。揺り籠の中でゆすられているかのような安らかな感覚。朦朧とする意識の中、取り乱したネジの叫び声がする。

「ナルト!? ナルト! まさか幻術にっ……!」
「それは……違う。桂男は……九尾のチャクラを……おさえつける。月に……生きてた……から」

 緩慢な口調で説明するケイに、ネジの混乱は深まるばかりだ。

「九尾? どういうことだ?」
「あっれえー、白目っ子くん知らないのー? 十三年前、里を襲った九尾の狐。それを封印されているのが、この子だよ」
「人柱力は最高機密。知らないのも無理はない」

 からかうような口調で問いかけてくるカイナの傍らでミソラが呟く。話すたび真っ黒い歯が覗いた。
 するり、とミソラの片腕が持ち上げられ、その手の中に櫛が現れた。それを掴み、弾き飛ばす。

「青行灯流・櫛刺し」

 白眼でそれを見切り、かわすが、櫛は空中で回転すると、再びこちらめがけて飛んできた。柔拳でそれを破壊し、ミソラに柔拳を食らわすために前方に向かって跳躍する。しかしその前にカイナが立ちはだかった。

「病遁・破銅爛鉄(はどうらんてつ)っ!」

 迫り来る異臭を発する手裏剣を手裏剣で打ち返したその時には、既にカイナが下方に迫っていた。
 ――速いっ……!
 呪印の影響だろう。禍々しいチャクラを放ちながら迫ってきたカイナのスピードは前回のそれとは比べ物にならないほどで、カイナの拳が腹に命中する。空中に跳ね上げられるのとほぼ同時、急激に気分が悪くなった。なんとかして上手く着地しようとするが、余りの咳の激しさにバランス感覚が安定しない。激しく咳を続けるネジに、カイナは愉しそうな笑みを浮かべた。

「青行灯流・百物語」

 ミソラが印を組み、蜘蛛の足が次々と地面から生え、ネジの体を掴み、土の中へと引き摺り下ろそうとする。眩暈がした。このまま引き摺り下ろされるのもいいかもしれないという考えを慌てて振り払い、チャクラを放った。

「八卦掌・回天ッ」

 本戦まで取っておく予定だったが、今は本戦どころではないだろう。自身の体を独楽(こま)のように激しく回天させ、放ったチャクラで蜘蛛の足をなぎ払う。ミソラに急接近し、柔拳を食らわそうとする――

「……っ!」

 次の瞬間、ネジの右腕を三本の櫛が貫通していた。どっと吹き出る血。禍々しいチャクラを立ち上らせたミソラが微笑し、ネジの首に拳を食らわす。吹っ飛んだネジが地面を抉り、右腕から吹き出た血が地面にぽつぽつと痕を残した。

「げほっ……かはっ」
「ケイ。そっちは安定した?」
「うん……あっちのチャクラをこっちに取り込んでる……」
「じゃー九尾の方も始末つけとこっかな。ミソラ、やっちゃって」

 うずまきナルトが、九尾。
 九尾の狐の存在については知らないわけではなかった。里を破壊し、里の民に忌み嫌われたその狐が後に封印されたという話も知っていた。でもまさかそれがナルトに封印されていたとは、知らなかった。
 なんとか起き上がる。右腕の激痛に泣きそうになった。咳が止まらない。肺の中でぜいぜいと雑音がする。
 うずまきナルトだなんて、自分とヒナタの試合中ぎゃんぎゃん口を挟んできた、頭の悪そうな発言をするうるさい下忍くらいにしか思わなかったけれど。それでもこうやって必死になって助けようとしているあたり、自分もわりと頭が悪いのかもしれない。

「櫛刺し」

しゅっと櫛が鋭い音を立てて飛ぶ。伸ばした左腕にそれが刺さった。右腕と左腕。柔拳を用いるに於いて最も大切な腕を立て続けに攻撃されるとは情けないものだと思いつつ、ケイとナルトの間に伸びるチャクラに自分のチャクラを交えた。断ち切られるケイのチャクラ。そしてナルトの中に注がれる、自分のチャクラ。
ナルトが目を覚ました。

「ネジ……? あれ? 俺……?」

 両腕に櫛を刺したネジの体が宙を舞い、ミソラの拳が容赦なくその体に叩きつけられるのを見て、ナルトは現実に引き戻された。両腕から吹き出る血の痛々しいネジが地面に激突する。ミソラのクナイが振り上げられ、その心臓目掛けて振り下ろされた。

「――ネジッ!!」
「――おらぁああああッ!」

 ナルトが叫ぶのと時を同じくして、飛び道具がミソラに向かって一斉に襲来した。ミソラが後ろに飛んでそれを避け、そしてネジの前に一人の少女が立ちはだかる。
 テンテンといっただろうか。確かリーの、同期の子だ。

「あ、あんたは、たしかテンテン……」
「ちょっとアンタ、ネジにこんなに傷負わせといてなにボケっとつったってんのよ!」

 両手を腰に当てて怒鳴った彼女に、う、とナルトは肩を竦めた。テンテンはもー、と腹立たしげにいいながら飛び道具に結びつけた糸を引っ張り、カイナとミソラ、ケイの方に向かって飛ばす。
 カイナが飛び道具を掴み、破銅爛鉄を発動させた。侵食されてぼろぼろになっていく武器にテンテンは顔を顰め、巻物片手に飛んでくる。

「あああああッ!!」

 巻物を開き、中の武器を掴んで投擲するテンテンの背後に、ケイが飛び上がった。
 テンテンの体を掴み、先ほどナルトから吸い取った九尾チャクラを流し込む。常人にとって九尾チャクラは毒だ。テンテンの経絡系の中に入ってきた九尾チャクラは毒のように彼女の経絡系の中を巡り、力を失った彼女が地面に崩れ落ちる。

「いっ……」

 ケイがクナイを構えてつかつかとテンテンに歩み寄る。やばい、と思いながらナルトは咄嗟にケイに体当たりをした。ケイがよろけたその隙に印を組む。

「多重影分身のじゅっ……!?」

 しかし。
 多重影分身の印を組んだ筈が、出てきた影分身はたったの二つだった。
 ぐわんぐわんと視界が揺らぎ、吐き気がする。チャクラが切れかけているのだ、そのことを知った時にはもう遅かった。

「君の九尾チャクラを吸い出させてもらった……でも、九尾チャクラだけなのは毒だから……君本体の持つチャクラも一緒で……吸い取った。だから今の君には……もうチャクラはない……」
「……ッ!」

 必死にチャクラを練り合わせようとする。自来也は言っていた、ナルトの中には二種類のチャクラがあると。ナルトのチャクラと九尾のチャクラだ。九尾のチャクラをなんとかして必死に引き出そうとする――

「逃げろ……ナルト」

 苦しそうな声に振り返れば、ネジがそろそろと立ち上がるところだった。両腕からは血を流したまま、苦しげに目を細め、脂汗を流し、荒い息をつきながら。

「……木ノ葉崩しが……っ起こってるの……ッ!」

 地面に這いつくばっていたテンテンが、体を起こそうと必死になりながら言った。その言葉に目を見開くナルトとネジにはかまわず、テンテンは任務内容の記された巻物をナルトに握らせる。

「木ノ葉を……ッ!!」

 言いかけたテンテンの体が吹っ飛ばされた。木に体をぶつけて地面に蹲るテンテンの姿を冷たく見下ろすのはミソラだ。
 ぎりり、とナルトは唇を噛み締めた。彼らとナルトは別段親しいわけでもない、なのに何故自分を助けてくれたのだろう。とりわけネジは、ナルトもあまりよく思っていなかったくらいだ。なのにどうして?
 彼らがこんなに苦しんでいるのに。自分を庇ってくれた少年と、自分のチャクラを体に流された少女が、二人して苦しんでいるのに、ナルトはチャクラ切れしているという以外には全くの無傷でここにいる。なんて役立たずなのだろう。悔しくて悔しくてたまらなかった。

 こんな男が。
 仲間も救えなくて。
 こんな男が。
 火影になれるはずなんて、ない。
 助けたいのに。
 そんな力もなくて。
 こんな男が、火影になんて――なれるわけない。

 ミソラがテンテンの体を掴み上げ、投げた。ネジが傷ついた両腕でそれを受け止めようとし、受け止めきれずに二人そろって地面に転がった。ネジの両腕の傷は更に深まり、血がどっと溢れ、ネジが苦しみに呻きをあげる。

 いや、違う。
 仲間も救えないんじゃない。
 救わなければ。
 火影になれるはずないじゃない。
 火影に、ならなければ。
 そんな力もなくてじゃない。
 その力を引き出さなければ。
 俺は火影になる男だ。
 きっと仲間を守ってみせる。
 俺は、

「木ノ葉は崩させやしねえ! 仲間を死なせもしねえッ!!」

 ミソラを殴り飛ばし、ケイやカイナやミソラの呆然とした視線を受けながら、ナルトは叫ぶ。

「俺は、火影になる男だぁあああああ――――ッッ!!」

 だから、その火影になる男が。
 仲間を傷つけられて黙っているわけには、いかねえ。

 体が熱い。体の芯から燃え上がっているかのような感覚。ネジとテンテンの目が見開かれる。
 九尾チャクラ。朱色の膨大なチャクラが膨れ上がり、ナルトを包む。

「なあ、さっきの話――途中までだったよなあ?」

 話しかけてくるナルトの声に、ネジは目を見開く。ニヤリ、とナルトが笑った。

「お前が何にも出来ないって言うなら、俺が火影になって日向を変えてやるよッ!」

 そしてナルトは前方へと思い切り駆け出した。
 ミソラとカイナの呪印によって引き出された膨大なチャクラを大きく上回る九尾チャクラ。ミソラが蜘蛛の足を召喚し、カイナが破銅爛鉄を使用する。
 しかしそれらはすべて、朱色の九尾チャクラに弾かれた。

「うおおおおおおおおおおおぉおおおおッッ!!」

 木ノ葉の森の一角で迸る朱色の光。
 それはとても美しかった。
 強いゆえに、美しかった。
 その艶やかな色彩のチャクラに包まれながら煌く金色に、ネジは希望を見出したような気がした。
 そして賭けてみようと思った。この火影になる男に。
 
 

 
後書き
強いからこそ美しいってこと、あると思うんですよね。強いキャラクターはなんだか美しいなと思います。 
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