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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第4話 転生・武市半平太

第4話 転生・武市半平太

武市家は半平太切腹後家財全てを没収されてしまっていた。が、お家取り潰しをまぬがれた。それゆえ、武市には帰る家があった。
富子は生前の夫・半平太の遺言通り誰にも姿を見せられないように半平太の遺体を安置した。
そんなある日の夜、富子は嫌な胸騒ぎがして半平太は安置してある部屋に向かって歩を進めた。
綺麗な満月が赤く染まっていた。
富子が部屋の前に立つと何やら呪文のような声が中から聞こえてくる。
「エロイム、イッサイム。我は求め訴えたり。蘇るのです、武市半平太。我が秘術、魔界転生によって」
富子は気丈にも長刀を取りに戻り、再び半平太の安置されている部屋の前に立った。
そして、一息息を深く吐き、一気にふすまを開けた。
「何者です!!」
長刀の刃を月の光だけにぼんやりと明るい部屋に向けた。
そこには何やら異様に大きい蚕の繭のような物体が糸のような物で左右上下につるされ浮いていた。
その場所は夫・半平太の遺体が横たわっていたのだが、その姿はなくなっていた。
そして、その異様な物体の前には宣教師のような姿をした人物が佇んでいた。
「エロイム、イッサイム。エロイム、イッサイム」
その人物は富子の声にも反応せず一心不乱に呪文のようなものを唱えている。
「何者です。旦那様の遺体はどこにやったのですか?」
富子はその人物に刃を向けたまま声を強めて問いた。が、その人物は呪文を辞めず振り返ることはしなかった。
「その薄気味悪い呪文をお辞めなさい」
富子は今にも飛び掛からん勢いで長刀を身構えた。その時、その人物から含み笑いが聞こえてきた。
「フフフフフ、今、悪魔は蘇る」
その人物は独り言のようにつぶやくと振り返って富子をみつめた。
その目は夜に輝く猫の目のように金色に輝いていた。
富子はその不気味な目をみた瞬間気を失いそうになったが、気丈にも耐えた。
しかし、次の瞬間気を失った。それは、巨大な繭玉から人間の指らしきものが現れ蜘蛛の足のようにばたばたと動き回る異様な光景が富子の気を失わせた。

「富子、富子」
気を失った富子の耳に優しく聞き覚えのある声が聞こえてきた。
富子はゆっくり目を開けると夫・半平太の顔があった。
(え?旦那様?)
富子は、自分はまだ気を失っていて夢でもみているのかと思っていた。
「富子、しっかりいたせ」
それは紛れもなく半平太の声だった。
「馬鹿な、旦那様はなくなったのです。貴方は何者ですか?」
富子は飛び起き半平太に向けて長刀を構えた。いきなり立ったせいか少し頭がくらりとした。
「富子、私だ。紛れもなく武市半平太だ」
富子が知っている優しい夫の笑顔がそこにあった。
「本当に旦那様なのですか?」
富子の目に涙が溢れ出てきた。
「そうだよ。私は蘇った。私のやるべきことのために」
半平太の顔から優しい笑顔からまるで鬼のような表情にかわった。
「だ、旦那様。旦那様のやりたいこととはなんなのですか?」
富子は半平太の表情に不安を覚えた。
「富子、さらばだ」
富子の問いに答えることなく半平太は固く閉じらせら門の方へと進んでいった。
その門の近くには一人の女が佇んでいた。
女は半平太に一礼すると半平太と合流し半平太の後ろへと付いた。
「旦那様、どちらに行かれるのです。旦那様!!」
富子の悲痛な叫びは夜の闇に消えるだけだった。そして、富子の目には半平太の後ろにあの宣教師の姿が見てとれた。
半平太と女は門を通りすぎるかのように消えていった。
 
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