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悪徳

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5部分:第五章


第五章

「やはりな」
「うむ、そうだな」
「間違いない」
 ひそひそと怪訝な声で眉を顰めさせて。そのうえでの密談の中で話されるのであった。
「教皇の座を狙ったばかりに」
「こういうことになるとはな」
 こう囁かれるのだった。他にも妹婿を同僚に助けられた枢機卿がいた。その彼がある枢機卿を次期教皇に推挙した。それはまさに次の教皇を決めるコンクラーベのさなかのことであった。
「ロベール枢機卿をですな」
「そうです」
 そのバレンチ枢機卿はここでその同僚を次期教皇に推したのである。他の教皇達も多くはその言葉を聞いて目で頷くのであった。
「如何でしょうか。ロベール枢機卿では」
「そうですな」
「確かに」
 その彼等は口々に彼の言葉に頷いてきた。
「それで宜しいかと」
「私もそう思います」
「では我々の間ではそれで宜しいでしょうか」
「それだけではありませんし」
「そうです」
 枢機卿達はここでまた口々に言うのであった。
「ローマ市民達も何かあれば言っています」
「ロベール枢機卿を教皇にと」
 こう言うのである。
「そしてイタリアの有力諸侯や司教まで」
「各国の大使までです。そうしたことを踏まえれば」
「ロベール枢機卿以外ありません」
 まるで最初からその結論は決まっていたかのように。流れ作業にも似た速さで議論が進んでいく。その速さに慎重な議論を挟む者は誰もいなかった。
「では。そういうことで」
「決まりですな」
「確かに」
 やはりここでも異論は出ないのであった。
「ロベール枢機卿で」
「決まりです」
 こうしてそのロベール枢機卿なる人物が次期教皇になることが決定した。白衣の教皇が姿を現わした時ローマ市民達が戦闘に立ち彼を讃えるのだった。
「教皇様万歳!」
「バチカン万歳!」
 教皇は微笑み彼等に応える。その彼等に対してすぐにパンに肉、それにワインが配られる。彼等はそれを飲み食いしさらに教皇を讃えるのだった。
「有り難うございます!」
「これぞマナ!」
 こうまで言う者が出て来ていた。
「神が教皇様を通じて贈られたマナだ!」
「教皇様の恵みだ!」
 彼等は今パンとワインに満ち足りて彼を崇めるのだった。教皇は満面の笑みで彼等を見届けた後で。そのうえで教皇の間に入るとそこに多くの神父達が控えていた。
「教皇様」
「何でしょうか」
 表面は穏やかな言葉であった。そしてその表情もまた。実に穏やかである。そうしたものを見ただけでは少なくとも神の代理人に相応しく見えはした。
 その前に控える神父達もまた。だが彼等はその温和な顔でこう教皇に問うのであった。
「宴ですが」
「聖宴ですね」
「はい、それです」
「皆また待ち望んでおります」
「わかっています」 
 静かに微笑み彼等の言葉に応える教皇であった。
「それもまた」
「それでは今宵も」
「あの宴を」
「ですが。今日はより趣向を凝らしましょう」
「趣向を?」
「そうです」
 何故かここでその温和な笑みに邪なものが宿った。本隊は相反するものである筈なのに何故かこの教皇の顔には並存しているのであった。
「それを考えました」
「といいますと」
「いつもの十字架の前での儀式ではないのですか?」
「それは変わりません」
 これは否定しないのであった。
 
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