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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第七十八話

 荒廃した岩場。水の一滴も無いような不毛の大地だったが、辺りには文明の利器のようなものがチラホラと散見されており、どうやら滅んでしまった町らしい。もはやそれが何なのか分からない程に破壊された何かや、風に流されて流砂と化している岩場は、滅んでからの時間を感じさせる。

 それほどまでの時間をかけてもなお、まるで古くなる気配がない破壊の跡に、先程つけられたような真新しい破壊の跡。そんな人間の業が感じられるフィールドに、似つかわしくない口笛が流れていた。

「あい……しんか……ーとぅー――」

 その口笛の主もうろ覚えなのか、途切れ途切れの口笛がまたミスマッチさを漂わせている。だがそれも、その口笛の主に比べれば些細な問題だった。

「あいむー……なんだっけ……?」

 気楽な声で口笛を吹きながら、大手を振って道路があったと思われる場所を歩いていく。その格好は《この世界》には何をしていようと合わない、まるで異世界から来たような踊り子の衣装。ピンクを基調とした胸元が大きく空いた露出の高い服を身にまとい、口笛を吹いて踊りながら流砂の中を歩いていく。

 ――そして、その踊り子を狙う銃口が一つ。

「くそっ……」

 ボロボロの迷彩服を身につけた男が、もう使い物にならないゴーグルを投げ捨てて悪態をつく。その男も踊り子と同様、仲間がいない単独なようだったが、彼は好きでそうなった訳ではない。

 仲間たちは全員やられたのだ。あの口笛を吹いている踊り子に。

「ナメやがって……!」

 周りには何もない岩場にて着座すると、彼は愛銃である《チェイタックM200》の銃口を踊り子に向ける。その距離はおよそ1000m。最大射程距離2300mを誇るこの狙撃銃であれば、あのフラフラと踊っている頭に当てることも容易い。

 男はスコープから踊り子に狙いをつけると、一息深呼吸すると着弾予測円が狭まっていく。踊り子に今にもヘッドショットを撃ち込める位置になるが、あちらは狙撃手を発見出来ていない為に、弾道予測線の加護は得られていない筈だ。もちろん、B級ドラマのようにレーザーサイトで悟られる、などということもない。

 あとはしっかりとグリップを握り締め、冷静に愛銃のトリガーを引くのみ。仲間たちのドロップ品も総取り出来ると考えれば、むしろあの踊り子には感謝してもお釣りがくるぐらいか。

「ん……!?」

 これから起きることに我慢できずにニヤリと笑った男が、銃弾を撃つ直後にスコープで見たものは、こちらに向けて笑いかけている踊り子の姿――こちらの場所がバレている? そんな筈はない、ただの偶然だ、いや偶然にしては――などと、様々な感情が男の胸に去来する。

 ……ただ、男がその感情を元に、何か行動を起こせる訳ではなく。

「えっ」

 ――男が最後に見た光景は、一瞬の閃光……後に爆炎に包まれる、自分と愛銃の姿だった。


 ……踊り子は閃光がほとばしった遠くの岩場を一瞥すると、それだけで何の感慨もなく町への歩を進めていく。歩くごとに半透明のレースがユラユラと揺れ、曖昧に吹かれていた口笛がようやく完成する。

「あ、そうだ。あいむしんきんーとぅーーとぅとぅー」

 ……どうやら口笛のリズムを思い出したらしく、ご機嫌になったのか歩くスピードが少し早くなっていく。そのまま誰にも見つかることはなく、踊り子はどこかに消えていく。

「今ので何人倒したっけ……本当のレッドプレイヤーの人は殺した数なんて覚えてないのかな? どうなんだろ?」


 ……所沢市立総合病院。かつてアインクラッドに囚われた俺を収容していたところであり、未帰還者となっていたアスナが入院していたところでもある。いつぞやはリハビリなどの為に通院していたが、もう月に一回程度の頻度となっており、こうして訪れるのは久しぶりのことだった。

 ゲーム上の弾丸でプレイヤーを殺害する死銃――その原因や方法は未だ不明のままであり、菊岡さんが提供してくれた場所がこの病院だった。ここの病院の機材ならば何が起きているかモニターすることが出来るし、いざという時にも対応が出来る、という理屈は分かるのだが。

「撃たれても大丈夫だから、本当に撃たれてこいってことか?」

「…………」

 SAO事件が始まる前から使っていた愛用の自転車を漕いでいると、バイクで併走している和人からそう声がかけられたが、何も言い返すことは出来なかった。エギルから貰ったという中古のバイクは、今日も排気ガスを撒き散らしながら走っており、それぞれの駐輪場に留めていく。

 いつぞやのアスナが囚われていた頃とは違い、気軽に病院の中に入って受付を済ましていると、スーツ姿の青年に道を誘導された。どうやら菊岡さんが話を通してくれていたらしく、準備が出来るまで俺たちはここで待っていろ、ということらしい。

 用意された椅子に座って一息ついていると、俺と和人が同時にため息をついた。理由も多分同じようなものだろう。どちらも苦笑いを浮かべていたが、先に和人の方が口を開いた。

「リズには……言ったか?」

「その言葉、そっくりそのまま返してやる」

 今からプレイヤーを殺した銃弾に当たってきます――などとはついぞ言えず。何かがあるって悟っているだろう彼女たちに、隠し事をしているようで――いや、実際しているのだが――とても居心地が悪い。かといってなんと言えばいいものか、和人と2人で首をひねったものの何の案もなく、今に至るわけだが。

「心配かけてる……ってか、申し訳ないよな」

「……でも言ったら明日奈もついて来るだろうしな……」

 先日、何度ループしたか分からない話題が再度、勝手に口から漏れて出てしまう。結局は、心配をさせないほどに早く解決するしかない、という結論にたどり着く訳だけども。

 ……と、二人で無意味な時間を過ごしていると、目の前の病室の扉が開き、1人の看護士が姿を表した。

「ん? 何を悩んでるのかな、青少年たち?」

「安岐さん……」

 安岐ナツキ。この病院に所属しているらしい、SAO事件を担当していた看護士の方の1人だ。その掛けているメガネが怪しげに光ると、興味津々て言った様子で和人の肩にもたれかかった。

「そういう悩みは大人に相談してみるものよ?」

「あー……その、遠慮しときます」

 身の危険を感じたかのように和人はじわりじわりと安岐さんから離れながら、丁重にその申し出をお断りしていた。安岐さんももちろん冗談だったらしく、小さく笑いながら立ち上がると、先程出て来た病室を指差した。

「青少年は悩むのが仕事だからね、悩みなさい悩みなさい。じゃ、準備出来たみたいよ」

 安岐さんが指差した部屋をチラリと覗き見てみると、通常のフルダイブ環境では考えられないほどの、一目で厳重な注意がなされていると分かる機械群だった。素人には何がどの機械だのはもちろん分からないが、それほどまでに重大なことなのだと感じさせられる。

「これは……」

 俺よりは遥かに機械に造詣が深い和人は、その機械群を見て小さく何かを呟いた。どうした? ――と和人に聞くより先に、安岐さんに背中を押されて二人して入室する。

「ほらほら、時間推してるんでしょ。服脱いで入った入った」

「えっ」

 確かに見れば肌に接着するようなコードも見え、手術台のような様相も呈している。無論、そのコードは服の上から吸着できるようなタイプではない訳で、必然的にフルダイブするには服を脱ぐしかない。

「大丈夫大丈夫。現実の二人の身体は、私が見てるからさ」

「それが――」

「脱ぐの上半身だけでいいですか」

 それがむしろ不安――と言いかけた俺の横腹を和人の肘が捉え、すんでのところで安岐さんに失礼なことを言うのは抑えられた。そして和人の申し出通り上半身の服を脱いで――というか、手術をする際に使う薄い服が用意されていた。思ってみれば当然だったが。

「向こうの世界でな、翔希」

「ああ」

 安岐さんに他のスーツ姿の青年が機械を接続したりチェックする中、俺と和人は最後の確認を行っていく。集合場所や目的など、話し合っているうちに安岐さんたちの準備は完了し、俺と和人は口を揃えてそう言い放った。

 ――リンク・スタート、と。

 俺にとっては三つ目の仮想世界。そこでは、ゲーム内で放った攻撃が現実でプレイしているプレイヤーを殺した、という怪事件があったという。

 そのゲームの名は《ガンゲイル・オンライン》――通称GGOと呼ばれる、今までの世界とは逆の銃と硝煙の世界。荒廃した近未来における云々――などと、深く設定はされているようではあるが、そのことは俺の興味ではない。

 SAO事件からずっと戦い続けている、侍のアバター《ショウキ》が銃の世界に適応されるようにコンバートされていき、俺は……《ショウキ》は新たな世界で目を開けた。

「ん……」

 まず飛び込んできたのは雑踏の騒音。商店街にでもログインしたのか、まず俺の意識に考えられたのは、そんな感情だった。フルダイブした時特有の、乗り物酔いのような気持ち悪さを鎮めていくと、ゆっくりと辺りを見渡した。

 どうやらメインゲートと呼ばれる天下の往来らしく、多種多様なプレイヤーが跋扈している。そんな光景は見慣れたものだったが、道行くプレイヤーが色とりどりの美しい妖精などではなく、百戦錬磨の傭兵たちのような格好ばかり。本当にALOではない異世界に来たのだと、改めて実感し直した。

「鏡、鏡……」

 それはそうとして。ALO事件の折にシルフとしてログインした際に、限りなく似合わない金髪のお坊ちゃまアバターが割り当てられたことを思い出すと、慌てて近くの鏡を探しだした。最初にプレイヤーがログインするところならば、確認用の鏡があるだろうと踏んでのことだったが……その予想は正しかったらしく、すぐに目的の鏡を見つけだした。

 ――そして目を逸らした。

「…………」

 ……どうやら自分でないプレイヤーが映り込んだようだ、この鏡め壊れておるわ――などと自らに言い聞かせながら、もう一度チラリと見るものの、もちろん全くその姿が変わることはなく。鏡の中にいるプレイヤーは、自分の癖である髪をクシャクシャと掻く癖を、完全に投影していたのだった。

「……芸者?」

 鏡に映る自分の姿を見た最初の印象は、京都あたりにでもいそうなソレだった。ALOのシルフ領の領主、サクヤのような姿というのが一番イメージしやすいか――周りに屈強なガンマンや仕事人の傭兵が居並ぶ中、このアバターは違和感があるどころの話ではないが、海外の間違ったイメージが具現化でもしたのだろうか。

 ALOで日本刀を持っていたことが原因か、でも身長や背丈があまり変わらないで助かった、そういやキリトはどうしたんだ……と様々な考えが錯綜する中、最後に去来した思考は、このアバターはキチンと男かどうかだった。かのデスゲームの主催者は、フルダイブ環境下における性別の違うアバターについての危険性、ということに気づいていたらしく、ゲーム開始時の《手鏡》によってアバターは変更させられた。故に後発のフルダイブゲームにおいても、基本的には現実と違う性別になる、ということは不可能な筈だ。

「……ふぅ」

 まさか何らかのバグかと思い至り――何せバグに関しては前歴がある――一番手っ取り早い方法として胸を確認してみると、そこには無駄に鍛え抜かれた胸筋があってホッとする。歌舞伎の女形とかいう設定なのだろうか、どうでもいいが。

「…………」

 もうどう反応していいか分からないといった具合に、慌てふためくことも出来ずにただ沈黙する。これは死銃とか関係なく、リズを連れてこないで助かった――などと現実逃避していると、後ろから声をかけられた。

「あ! あのそこの女のキミ!」

 その声につい振り向いてしまうと――無論女のキミに反応したわけではなく、その高音の大声に反射的に反応し――自分以上に、この異世界には似つかわしくない人物が、こちらを見上げていた。

 ……最初に考えたそれは、踊り子だった。少なくともこの銃と硝煙の世界には似合わない、あるいは酒場にでもいるかいないか、といった具合の服装で。

「そのアバター可愛いね! でもその装備、まだ始めたばっかりなのかな?」

 混乱する俺に対して、ピンク色の踊り子はあけすけに俺の手を掴むと、マシンガンのように話しかけてくる。

「オッケー! じゃあウチがコーディネートしてあげる!」

「え? ちょっ……」

 見た目からは想像もつかないほどの踊り子の筋力値により、何の抵抗も出来ずにそのまま踊り子に引っ張っられていく。踊り子は俺のことを気にすることもなく、口笛を吹きながら早々と走り出し、あっという間にメインゲートから離脱してしまう。

「ちょ、ちょっと……待てって」

 ようやく平静を取り戻して手を弾くと、踊り子は不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んできた。服と合わせたピンク色の髪を左右で結んでおり、一際目立つ真紅の瞳が俺を見つめてくる。

「あ、ごめんごめん! 遅れちゃったけどウチの名前はリーベ! よろしくね!」

「えっと……」

 納得したような表情をして自己紹介をする、マイペースな踊り子――リーベに対し、俺は困ったように髪の毛を掻く。明るいのか天然なのか電波なのか知らないが、完全にこの名前しか知らない踊り子のペースにのせられている。

 ……どうやら自分は、ピンク色の髪をした女に縁でもあるらしい。

「名前は……ショウキ。……男だ。それで君は――」

「えーっ!」

 まず何から言う事にしようかしばし考えた後、とりあえず自己紹介と性別の訂正を済ませ、それから様々なことを聞こうとしたが、リーベが発した驚きの叫びにかき消されてしまう。その叫びを発した直後、リーベの動きはピタリと止まり、どうした――と話しかけた瞬間、彼女のガッツポーズが俺の顔の前に差し出された。

「男でもオッケー! いやむしろ……超オッケー!」

「…………」

 会話が通じない。というか彼女と会話出来る気がしれない。とはいえ、初めてこの世界で知り合えた人物を無碍にする訳にも行かず……一度頭を抱えた後、笑顔でガッツポーズする踊り子に、ゆっくりと話しかけた。

「その……こんな格好してるけど男なんだ。悪いな」

「ううん、それはむしろ超オッケー! でもそういうアバターって、プレイ時間が長ければ長いほど出やすくなるらしいけど、そこらへんどー?」

 リーベの言葉に自らの芸者のようなアバターのことを思いだし、風に揺れ動くロングヘアに少しばかり憂鬱になる。プレイ時間が長ければ云々、という噂話は確かリズから聞いたことがあったが……それは二年間もフルダイブしていれば、間違いなくプレイ時間は最長だろう。

「いや……確かに別ゲームからのコンバートだけど、プレイ時間はそうでもない」

「ふーん……?」

 そうは言っても、わざわざかのデスゲームのことを言う必要はない。そうして適当にごまかしたものの、何故かリーベは疑わしげにこちらを覗いてきた。じっくりとこちらを見てくる真紅の瞳から、ばつが悪く目を逸らした後、さらに質問を続けていく。

「友達とBoBって大会に出ることにしたんだけど、どこか武器屋……みたいなのはあるか?」

 BoB――《バレット・オブ・バレッツ》。本日この世界で行われる大会であり、GGOにおけるトッププレイヤーにおける祭典だそうだ。俺とキリトはまず調査の一環として、その大会に潜り込むことにしていた。

 ……もちろんキリト曰わく「プロがいる」このゲームのトッププレイヤーに混じって、キリトだろうと勝ち残れるとは考えてはいないが、そこから《死銃》の情報を得られると考えてのことだ。トッププレイヤーともなれば、それに比較して情報量も多いだろうし……前回優勝者である《ゼクシード》のように、直接狙われることもあるかもしれない。

「武器屋? ガンショップのことならもちろん案内してあげるよ! コーディネートしてあげるって言ったでしょ?」

 いや、案内するだけでいい――とノリノリの彼女に言いかけたものの、俺は銃のことなど何も知らない。知らないどころかモデルガンすら触ったことのない自分には、ガンショップに1人で行くのは荷が重い。……コーディネートと言われると、彼女の格好を見るにとても不安だが。

「はい! じゃあこっちこっち! 迷わないようにウチについてきてね!」

 リーベは口笛を吹きながらご機嫌に走り出した。手を振る事に連動するように、腕についた透明のレースが揺れる。人混みに構わず走るものだから、見失わないように小走りに追いかけていくと、道並に少し違和感を覚えた。

 まさしく踊り子の格好のリーベに対し、道行く大多数のプレイヤーはBoBの前座か何かのように思っていないかのように笑っているが、少数のプレイヤーは身を屈めながら歩いている。……まるで、踊るように走るリーベに見つからないように。

 一度感じた違和感は拭えずに、もう一度じっくりと観察してみると……やはり気のせいではない。やはり一部のプレイヤーはリーベから隠れるように移動して、逃げるように立ち去っている。彼らは素人目から見ても、装備もしっかりとしたプレイヤーに見えるが……?

「どーしたの? 着いたよ?」

 ――と、真紅の瞳が飛び込んできた。どうやら考え事をしている間に目的地についていたらしく、リーベは不思議な顔をして俺のことを見つめてきていた。

「っ……ああ、なんでもない」

 リーベの目的のガンショップは言う通り真ん前にあり、店頭には売れ筋商品の如く多数の銃が陳列されている。……自分には、どれがどんな銃かの区別も付かないが。

「お金はウチが保つからさ! 安心して買ってね!」

 ……女子に完全に奢って貰うというのは、少しプライドが邪魔するが。ここはお言葉に甘えさせて貰うことにする。リーベは随分と羽振りがいいらしく、適当な銃を持って「これカートン買い余裕!」などとうそぶいている。

「ふむ……」

「ところでところで、ショウキくんさ!」

 分からなくても店頭の銃をしばし眺めながら、試し撃ちとかが可能なのかなどと考えていると、リーベから幾分小さな声で話しかけられた。銃からそちらの方に振り向くと、リーベは静かに笑いかけていた。

「SAOって……知ってる?」

「――――ッ。そりゃ知ってる……が」


 ――唐突なリーベのその問いかけに、俺の思考は一時停止する。何とか平静を装うとするものの、どうしてもその質問に前に声がうわずってしまう。

「ウチはね、そのSAO事件の、そう……《SAO失敗者》ってとこかな」

 ……俺たちのような、SAOをクリアして現実に帰って来た者たちのことを、俗にSAO帰還者などと呼ぶことがある。SAO事件のことが忘れ去られようとしている今、当事者間以外では死語と化している感じがあるが……それとはまた違う、《SAO失敗者》とは。あの世界で失敗したということは、もはやこの世界にはいないはずなのに。

 ――帰還できなかった彼ら、彼女らのように。

「それはどういう――」

「よっし! 鬼ごっこしよ、ショウキくん!」

「……え?」

 ――さっきまでの少し落ち着いた声音はどこへやら、問い詰めようとしたリーベは、突如としてそんなことを叫びだした。

「鬼がショウキくんで、逃げるのがウチ。ただお金あげるのも面白くないし、ウチを捕まえたら何でも買ってあげる!」

「お前……!」

「とう!」

 止める間もなくリーベはかけ声とともに飛びたつと、驚くべき跳躍力でガンショップの看板の上に着地する。俺を挑発するかのように、器用にも看板の上で踊るように一回転すると、リーベは俺へとそう言い残す。

「もうそろそろBoBの受付時間だから、早くウチを捕まえないと、参加出来なくなっちゃうんだからね!」

 リーベはそれだけ言い残して看板の上から路地裏へと飛び込んでいき、メインストリートからは姿が見えなくなってしまう。……とにかくここにいても仕方がない、何にせよリーベを追わなくては始まらない。

「くそっ……!」

 ――どういうつもりだ、と内心で毒づきながら、俺はリーベを追って路地裏に入っていった。
 
 

 
後書き
オリヒロイン、リーベの登場。主人公以外のオリキャラを話の核心にまで登場させる、というのは初経験だったりします。

銃のこと、オリキャラのこと、様々なご意見、ご感想をお待ちしております。
 
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