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ハリー・ポッターと蛇の道を行く騎士

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第十二話 ダイダゴン横丁

 黙々と先を進んでいくスネイプに着いて行くと、エメの前方に他を圧倒するかのごとくそびえ立つ、白い大理石で出来た巨大な建物が見えてきた。

「ここがグリンゴッツ、魔法界で唯一の銀行だ。ここで、アーロン家の金庫から必要なだけのお金を引き出す」

 スネイプが銀行だと言った目の前の建物を見上げるエメは、疑問に思ったことを口にする。

「魔法界で唯一ということは、世界中の魔法使いや魔女は銀行を使いたくなったらその度にわざわざ英国まで来ているということですか?」

 残念ながらその質問はどんどんと先に行ってしまうスネイプに聞こえる筈も無く、答えが返って来ることは無かった。そもそもそのような質問をしても、英国から出たことの無いスネイプに答えられる内容では無かったのだが……。
 正面の階段を上がっていくと、扉の前に真紅と金色の制服を着た小鬼と呼ばれる小柄な生き物が扉の左右に立っていた。
 扉を通ると中にもう一つ扉があり、そこには何か盗人に対する警告する内容の文字が書かれていた。更にそこを通り抜け建物の中に入ると、魔法使いの他に沢山の小鬼たちがいて、紳士らしく背広を着て働いていた。

「スネイプ先生、ここで働いている小柄な生き物は人間……ではないですね」

「あれは小鬼だ。礼節を持ってちゃんと接すれば問題ないが、我々とは違う独自の価値観を持ち合わせていたりする為、無闇に関わると面倒な連中だ」

 エメの発言にスネイプ先生が小声でへたに関わるなと教える。ちなみにエメが人間まで言いかけて否定したのは、見るからに自分たちとは違う点があったからだ。
 正面からじっくりと観察したいところだが、面倒事を自分から呼び寄せる気はエメにも無いので、横目に小鬼を見るだけで我慢することにした。
 小鬼達は金貨を秤で計ったり、宝石を片眼鏡で吟味したり、帳簿を書き込んでいたりしている。どの小鬼も賢そうな顔をしていて、指先は長く、肌は浅黒く顎鬚は尖っている。聞いたところ、お金が大好きらしい。

 スネイプは一番奥の高く設けられた机にいた小鬼のところまで進む。すると、小鬼は自分に向かって歩いて来ていることに気付いたのか、帳簿に書き込んでいた手を止めてスネイプとエメに視線を移した。
 スネイプはエメを指差して担当者を呼び出す。

「アーロン家の新しい当主だ。アーロン家の金庫には担当の責任者がいたはずだ、呼び出してくれ」

「ああ、メカテーですね。少々お待ちください、今呼び出しますので」

 受付の小鬼が手元にあった小さなベルを鳴らすと、奥から別の小鬼がやってきた。
 いくつか言葉を交わすと小鬼は引っ込んでいき、しばらくしてまた別の小鬼が出てきた。

「では、こちらのメカテーに案内させます」

「お待たせしました。こちらにどうぞ」

 やって来たメカテーに説明を受けて、金庫へと案内される。グリンゴッツはトロッコで金庫まで移動する仕組みになっているらしく、金庫に行くまで目が回るくらいの超高速で動くトロッコに乗って移動した。
 最初はそのスピードに驚いたが、慣れれば結構楽しい乗り物だ。金庫に向かう途中には何千何万もの鉄扉が見受けられた。因みにこの地下は下手に盗みに入ろうものなら迷子になりかねないぐらい広く、その全域を網羅する為にこのような速度でトロッコを走らせているらしい。
 トロッコを操縦していた小鬼が云うには、年に何回かは脱線を起こして勢いのまま壁などにぶつかり爆散してしまうトロッコもあるらしい。
 笑いながら言われたので、ジョークだと思い笑い飛ばそうとしたエメの目の前を、エメ達が乗っているトロッコよりも更に速い速度で走り抜けていくトロッコがあった。実に荒々しい運転で、時折車輪がレールから外れそうになっているのを見て、エメの顔が青ざめる。
 スネイプにあれぐらいが普通だと教えられ、自分たちの乗っているトロッコが如何に安全運転だったかを知る。





 アーロン家の金庫には、宝や金貨が山のように積まれていた。他にも銀貨や銅貨が同じように高く積まれていて、物珍しそうにエメは手に取ってみる。
 紙幣が主流となった今、というよりもそもそも大金のやり取りは書類で行うエメにしてみれば、時代遅れなイメージが強かった。
 よく考えてみれば、お金に触ることじたいが久し振りかもしれない。エメは記憶を遡ってみる。最近の金銭管理はロタロタがやっていた。その前は屋敷に腐る程資産はあったし、買い物はふみ任せだった。仕事上お金には関わっているが、書類での決算ばかりだったし……少なくとも数年は現金に触れて無いことに気付いたエメ。が、気付いたからといってどうという事も無かった為直ぐに忘れた。
 お金はスネイプが必要な分だけ取り分けて持ち出した。





 グリンゴッツから出てきたエメとスネイプは魔法族でいっぱいのダイアゴン横丁を歩きながら、入学準備の為の最初のお店を訪れた。

 マダムマルキンの洋装店を見つけるのは比較的簡単だった。
『マダムマルキンの洋装店ー普段着から式服まで』という看板が掲げられていたからだ。

「今日貴様が行うのは、この店でボーバトン魔法アカデミーの制服を作る為の採寸を測ることと、後で行く店で貴様の為の杖を買うことだけだ。残りの学用品は我が輩が揃えて来るから余計なことはするなよ?」

「あーはい、分かりましたスネイプ先生」

 マダムマルキンの洋装店で寸法を測っている間騒ぎを起こさないようにと言ったスネイプは、エメを置いて去って行った。






 エメが店に入ると既に、複数の人が順番待ちをしていた。
 エメが扉を開けたことによって来店を告げるベルが鳴ると、マダムマルキンと名乗る藤色のローブをきた愛想の良さそうな、ずんぐりとした魔女が奥から出てきた。

「ごめんなさい。今、他のホグワーツの新入生が丈を合わせているところなの。少々順番待ちしてもらうけど良いかしら?」

 それを聞いて奥を見れば、二つある踏み台の上にはそれぞれ少年が乗っていて、順番待ちで後2人立っていた。
 マダムマルキンに連れられて順番待ちの2人と合流する。

「あなたも今年から、ホグワーツなの?」

「いや、俺はフランスのボーバトン魔法アカデミーに行くんだ。今日は採寸をしに来ただけだよ」

「残念! ホグワーツじゃ無いんだね」

 順番待ちをしていた金髪ロングの女の子の質問にエメが答えると、少々大袈裟な動作で銀髪オッドアイの少年が会話に混ざってきた。
 どちらも美少年美少女といった容姿をしているが、少年の方は積極的に少女にウインクをしたりして逆に少女に引かれてしまっていた。
 流石に憐れんだエメは少年にコッソリ話かける。

「おい、お前のソレ、あの娘

に引かれているぞ」

「俺の名はアーサーだ。それに惹かれているなんて光栄じゃないか、分かっているから別に気にしないでくれ」

「こうえっ!? ……いや、分かった。不思議な奴だなお前、俺の名前はエメ。エメ・アーロンだ。よろしくなアーサー」

「おう、よろしくなエメ」

「お二人でさっきからこそこそと、私は仲間外れかしら?」

 少し長引いた会話の後、仲良くなった2人を見てむくれる少女が声を掛けてくる。
 わざわざ気を使って少し離れ、話を聞かないようにしていた少女に失礼なことをしたと思いエメは謝罪する。

「すみませんお嬢さん。私はエメ・アーロンです。よろしくお願いしますね」

「よろしくエメさん。私はフレデリカ・ギラン。フレデリカと呼んで頂戴」

 にこやかに微笑み手を差し伸べると、フレデリカも手を握り返して挨拶してきた。







 思いの外気が合うのかすっかり打ち解けて仲良くなった3人が談笑していると、ようやく制服の丈合わせなどが終わったらしく採寸をしていた1人がこっちに来た。

「あら、やっと終わったの? ドラコ」

「どうやら待たせてしまったようだね。そちらの2人は誰だい?」

「ああ、エメ君とアーサー君よ」

「よろしく。え~と、ドラコ君」
「チーッス!!」

「よろしく。ところで、君達も僕らと同じ純血かい?」

「血筋でいうならばそうだな」
「当然だろ? お前何言ってんだ?」

 エメ達の前に立つブロンド髪をした青白い顔の少年は、その答えに満足そうにして気取った喋り方で話し続ける。

「それはよかった。やはり魔法族は純血じゃないとね。僕はね、純血以外の連中はホグワーツに入学なんかさせるべきじゃないと思っているんだ。そう思わないか? 連中は僕らと同じじゃない。手紙をもらうまではホグワーツの事を知らなかった奴だっている。そんな奴らに魔法を教えてやるなんて馬鹿げている!」

 随分と酷い選民思想だなとエメは思った。選民思想が酷いのではない。考えの浅い稚拙な選民思想だと思って馬鹿にしたのだ。
 エメは面白くなさそうに鼻を鳴らす。他の2人の様子を見てみると、フレデリカは話し半分で聞き流していて、アーサーは何か引っかかっているらしく首を傾げてその何かをおもいだそうとしているようだ。









 次の人が呼ばれ、アーサーが採寸をしてもらいにその場を離れた。
 もう1人の方も直ぐ終わったらしく、フレデリカも呼ばれる。
 どうやら女性への配慮からか、カーテンで周囲を仕切られてフレデリカの姿が見えなくなる。特に理由もなくぼんやり眺めていると、カーテン越しに声が掛けられた。

「エメ君ごめん。いくつか私服も買うつもりだから少し遅くなる。ドラコの面倒見ててくれる?」

「なっ!! 失礼な、僕は子供じゃないぞ! フレデリカ、君は僕の保護者か何かか!?」

「あら、だって私、あなたのご両親からあなたのことをよろしくと頼まれているもの」

 何か言い返すより早く、マルフォイとフレデリカがカーテン越しに言い合いを始め、最終的にマルフォイが痛そうに頭を抱えて折れることで決着がついた。
 マルフォイはエメの方を見ると、肩をすくめて仕方がないなぁと表現した。

 どうでもいい事ではあるのだが、マルフォイの気取ったような態度は正直似合ってないので、傲慢そうに見えてエメは嫌悪感を覚える。
 話し相手がエメ以外にいない為、マルフォイは意味も無い自慢話しをひたすら続けてエメの苛立ちを煽っていた。

「これから、競技用の箒を見に行くんだ。一年生が自分の箒を持っちゃいけないなんて、理由がわからないね」

「あーうん。まぁ、そうかもしれんな」

 苛立ちを抑
おさ
えて、話しの殆どを聞き流しているエメは適当に頷いて言う。
 マルフォイの方もそれを気にした様子はない。ある意味自分の世界に浸りきっていると言えるだろう。

「君はどの寮に入るかもう知ってるの?」

「もちろん。アントワネット寮だよ」

 答えた後にマルフォイが首を傾げたのを見て、エメは違和感を覚えた。マルフォイの言う寮とは、ホグワーツの学生寮という意味だった。

「もしかして君はホグワーツじゃ無いのか?」

「ああ、いろいろ理由があってね。フランスのボーバトン魔法アカデミーに行くんだ。ところでお前は自分の寮を知ってるのか?」

「いや、知らないね。ホグワーツは入学式に行ってみるまでどこの寮になるか分からないんだ。だけど僕はスリザリンに決まってるよ。僕の家族はみんなそうだったんだから……ハッフルパフなんかに入れられてみろよ。僕なら退学するな」

 ……正直どうでもいいのでうざいとしか思えない。マルフォイがどんな寮に入ろうが、エメの知ったことじゃないのだ。
 いい加減嫌になったので猫被りは止めて、マルフォイの発言を全て論破する事で、調子に乗った態度をたたき伏せることにした。

「そういえば、お前は純血は優遇されるべきだと思っているんだよな?」

「当たり前じゃないか。純血こそが最も優秀で優れた存在なのだから」

「ふっ、それは違うな。マグル生まれだろうが何だろうが優秀な者は優秀だし、無能な奴は無能だよ。
 真に不要なのは実力もないくせに上に居座り続けて優秀な者の成長を阻害したり、足を引っ張っる無能な害悪共だよ。
 純血だろうが名門だろうが関係ない。無能な連中は飼い慣らして初めて、輝かしい発展に役立つようになるんだよ」

「なっ!? それじゃあ何だい、君は純血の名門を否定すると言うのか!」

「いいや? 有能ならば生まれも立場も関係なく全てにおいてチャンスを与えるべきで、無能ならばその実力に見合った立場で有能な者の為に生きるべきだと言っているんだ。真に優秀な者だけが栄光を手にし、残る劣等種は再利用。これこそ正しい世界の有り方だとは思わないかい?」

 どちらも自分勝手なことしか言わない酷い思考である。見方のズレた異なる二つの選民思想。納得のいかないマルフォイは興奮したように声を荒げる。

「そ、そんな考え方は絶対におかしい! 間違ってる!」

「決め付けてしまう時点で思考は止まり、お前の器がしれるな」

「……っ、話にならない! 失礼するよ!」

 彼は元々青い顔を更に青くしながら踵を返し、足早に店から出て行ってしまう。
 マルフォイの純血主義の話を完全否定して、逃げるその後ろ姿をつまらなそうに見送ったエメは、カーテン越しに話しを聞いてたであろうフレデリカに謝罪する。

「悪い、ドラコ君店飛び出しちゃった」

「気にしないで~、つまらない話をいつまでも続けるドラコが悪いんだし、どうせ店の側で待ってるだろうから」

 丁度アーサーが終わって戻って来たので交代する。アーサーはそのまま杖を買いに行くらしい。







 マダムマルキンは笑顔でエメの寸法を計り、自動で計測している巻尺にエメが興味を持つ。物が勝手に動くのは、この世界ではごく当たり前の事なのだろう。
 エメは寸法を測るだけだったので直ぐに終わった。

 エメが終わってもまだフレデリカは私服を買っている最中だったようなので、挨拶だけして店を出る。

「じゃあね、フレデリカ」

「じゃ、また機会があったら会いましょう?」

 フレデリカも気取った口調で分かれを告げた。








 カウンターで会計を済ませたエメは、隣りの本屋にいるだろうスネイプを呼びに行く。 
 

 
後書き
※ちょっとした設定
魔法使いとは、基本的に閉鎖的な連中の集まりです。なので彼らが魔法界と言うときは大抵、自国の魔法界を指します。 
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