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ロード・オブ・白御前

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もう一つの運命編
  第8話 免疫血清



 ――改心した、と表現するのが正しいかは分からなかったが、とにかく光実は、人が変わったように穏やかな態度になった。

 その光実に、巴は碧沙を取り戻す方策を伝えた。
 すると光実は、「その血清のある場所を知っている」と言って、巴たちをタワーの中に案内した。

 「罠じゃないか」と初瀬は何度も言ったが、巴としては、罠だとしても初瀬と力を合わせて打ち破ればいいと考えていたので、問題はなかった。


「ここが戦極凌馬の研究室ですか?」
「うん」

 光実は持っていたカードをカードリーダに当てた。ドアがスライドして開いた。

「あの人はどんな発明品でも、完成品を一つは手元に置くようにしてました。だから碧沙の免疫血清も、一つだけならこの部屋にあるはずです」


 ――そこから先は警察のガサ入れもびっくりな家探しだった。開けられる棚は片っ端から開け、一本一本、試験管を見た。抽斗は全て開けてひっくり返した。デスクの上の資料は床に落として隙間という隙間を探った。

「あ」
「! ありましたか!?」
「いや……ごめん。見間違い」
「そうですか……」


 1時間ほど経って、巴は一つの箱を見つけた。

 キャリーケースを手持ちサイズにしたような箱だ。箱のラベルは「対ヘルヘイム感染免疫血清」と書いてある。
 巴は思い切ってロックを外し、蓋を開けた。
 クッション材の窪みにそれは治まっていた。釘を打ち込む道具と注射器が一体化した物と表現すればいいだろうか。とにかくそれは、素人にも打ちやすそうに見える、携帯型注射器だった。

 皆を呼んで現物を見せると、光実が「これだよ」と肯いてくれた。

「これ、一本きり、なんですよね」
「うん……さすがに僕も、これ以上、試薬やらがどこに保管されてるかは教えられてない」
「右に同じ」
「分かりました」

 巴は箱を閉じ、取っ手を掴んで持ち上げた。王妃の前に行くまでは、安全も考えてケースごと持って行ったほうがいいと判断したのだ。

「さて、と。捕まった人たちは紘汰たちが来るからいいとして。俺らはこれからどうする?」
「僕はM(マスター・)I(インテリジェント・)S(システム)のほうに行って、通信遮断のプログラムを落として来ます。ケータイが使えるようになれば、避難の効率もかなり上がるはずだから。……僕が街の人にできる償いなんて、こんなちっぽけなことだけど」

 光実が言うと、裕也も「じゃあ俺も」と光実のほうに乗っかった。

 これで碧沙を取り戻すための戦力は、関口巴と初瀬亮二の二人だけになった。

「関口さん。初瀬さん。どうか碧沙をお願いします」

 光実は深々と頭を下げた。

「承知しました。本物の碧沙は、必ず取り戻して帰ります」

 きっと碧沙が誰より再会を望む、光実と裕也のもとへ。






 若干不安を残しつつも、巴に続いてホールを出ようとした初瀬を、

「初瀬さん」

 光実が引き留めた。

「何だよ」
「これ、あげます」

 光実が差し出しているのは、赤いドライバーとマツボックリのロックシードだった。

「な、なんかあるんじゃねえだろうな」
「ありませんよ。持ってて邪魔だから、要る人にあげるだけです。戦極ドライバーより強い変身ができますよ、これ。要らないんですか。関口さんを守るには絶好の道具になると思いますけど」
「……そこまで言うなら、貰っといてやるよ」

 初瀬は赤いドライバーとロックシードを受け取った。
 ロックシードのほうは、ただのマツボックリかと思いきや、青い半透明の素材に覆われたマツボックリだった。

「用はそれだけです。早くしないと、関口さん、行っちゃいますよ」

 初瀬は最後まで胡乱な目を光実に向けつつ、ホールを出て巴を追いかけた。






 巴と初瀬が研究室を出てから、裕也は光実の頭を撫でた。

「よくできたな」

 あのゲネシスドライバーは貴虎が使っていた物だ。光実にとっては兄と繋がる唯一の品。それを初瀬という他人に、光実は渡した。

 賢明な判断であり、勇気ある決断だ。
 マツボックリのエナジーロックシードを研究室の家探しで見つけた光実だから、できた決断。

「――勝てるでしょうか。ロシュオに」
「それは、二人次第。そもそも巴ちゃんも初瀬もロシュオと戦いに行ったんじゃないんだからな」
「分かってます。碧沙を取り戻しに、ですよね。でもそれは、ロシュオから愛する人を奪うってことでしょう? 衝突はきっと避けられない。だから――せめて、少しでも無事に帰れる確率を上げられたらって」

 裕也は微笑み、光実の頭をぽんぽんと叩いた。

「ほんじゃ、俺たちも俺たちにできることをやりに行くか」
「はいっ。MISの場所なら知ってます。こっちです」

 光実が歩き出す。その背を見つめながら、いつか光実も貴虎のように頼れる背中を見せる日が来るのだろうと、裕也は本当の兄のような気持ちで思った。 
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