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ロード・オブ・白御前

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もう一つの運命編
  第6話 「ふたり」と「ひとり」

 2台のロックビークルが、ユグドラシル・タワーの正面玄関へ通じる階段前で停車した。

「やっぱりこうなるよな」

 初瀬の言う通り、ユグドラシル・タワーの正面は低級から上級のインベスで溢れ返っていた。

 一体一体を相手にするなら巴でも苦労しないだろう。問題はとかく数が多いこと。膨大と莫大ならどちらが上の単位だったっけ、と巴は現実逃避気味に考えた。

 しかし、裕也の笑顔も余裕も崩れない。

「オーバーロードがいないだけマシマシ。んで? 二人、交替で変身するスタイルだろ。どっちから行く?」
「俺が行く。トモ、ドライバー貸せ」
「いいんですか」
「実戦経験積んどきたいんだよ。これからのためにもな」
「分かりました。疲れたら無理しないで、すぐ交替してくださいね」
「ああ。サンキュ」

 巴は量産型ドライバーとアーモンドのロックシードを初瀬に渡した。

 初瀬と裕也は並び、それぞれのドライバーを装着し、ロックシードを開錠した。

「「変身!」」
《 ソイヤッ  アーモンドアームズ  ロード・オブ・白鹿毛 》
《 ソイヤッ  オリーブアームズ  雷・電・エキサイティング 》

 変身を終えるなり、初瀬と裕也――黒鹿毛とシャロームは雄叫びを上げてインベスの群れに突っ込んだ。

『様子見なしだ! フルスロットルで行くぜ!』
『言われなくても分かってらあ!』

 二人のライダーはカッティングブレードを2回切り落とした。

《 オリーブオーレ 》
《 アーモンドオーレ 》

 黒鹿毛が跳ぶや、シャロームは地面に警棒を突き立てた。地面を伝って電撃が伝わり、インベスの3分の1は感電し、爆散した。

『でぇ――りゃあ!』

 続いて黒鹿毛が空中から地上にいるインベスに向けて×字状に薙刀を揮った。クロスしたソニックブームがインベスの群れに当たり、インベスを爆散させた。

 着地した黒鹿毛と、シャロームが背中合わせに武器を構え直した。

 ローズアタッカーの陰に隠れていた巴は、密かに驚いていた。

(この二人、いつのまにこんなに連携が取れるようになったの? わたしが知ってる限りでも、一緒に戦うのはこれが初めてのはずなのに)

 巴の疑問も措いて、黒鹿毛とシャロームは次々とインベスに大きな攻撃をくり出し――ついにはインベスの群れを掃討した。


「亮二さん!」

 巴は、変身を解いた初瀬に駆け寄った。

「すごいです。二人一緒とはいえ、あれだけの敵を全滅させるなんて」
「はは。まあ、半分は角居がやったんだけどな」
「でも、疲れたら交替してって言ったのに」

 初瀬は顔中に汗を掻き、呼吸も荒いような状態だ。

「悪い。交替しようにも、ちっと懐に入りすぎてて」
「もう……それでもすごかったですから、今回は許してあげます」
「サンキュ」

 初瀬は笑った。初瀬のこういう、正の感情から出る表情が、巴はいとしくてならないのだと、彼は知っているだろうか。

「巴ちゃ~ん。俺には心配なし?」

 裕也が恨めしげに巴と初瀬に寄って来た。

「え? い、いえっ。そんなことは。裕也さんもお疲れ様でした。亮二さんに上手く合わせてくださってありがとうございます」
「やっぱここでも初瀬かよ……ま、いいけどさ」

 他人に改めて初瀬との仲を指摘されるのは初めてで、巴の両頬は熱くなった。

「そんじゃ第一関門は突破したってことで、いよいよ中に突入するぜ」

 軽い調子で言っても、それは巴たちがついに敵地に侵入するという意味だ。

(中には光実さんと舞さんがいる。舞さんは紘汰さんたちが助け出すだろうからいいとしても、光実さんがわたしたちのほうに来たら。それに、あの人の近くにいるオーバーロードインベスが出て来でもしたら)

 すると、巴の頭に初瀬の手が置かれた。

「やる前からあんま考えない。プレッシャーになって疲れるだけだぞ」
「亮二さん……けれど」
「なんとかしようぜ。ふたりでさ」

 量産型ドライバーを持ち上げた初瀬を見上げ、巴は苦笑して首肯した。
 裕也が「見せつけてくれちゃって」と言ったので、巴はまた顔が熱くなったが。

 いざ巴たちは、タワーの正門がある長い階段を登り始めた。


 階段をちょうど半分ほど登ったところで、先を行っていた裕也が立ち止まった。

「裕也さん?」

 訝しみ、階段を見上げれば――

「悪いけど、ここから先は通さないよ」

 貴虎に似たスーツを着た呉島光実が、絶対零度のまなざしで巴たちを見下ろしていた。

(わたしと同じ。碧沙のためにがんばってるあなた。でも道筋は交わらなかった。こうして争うしかないなんて)

 今度は自分が、と思い、初瀬から量産型ドライバーとアーモンドのロックシードを受け取った。そして、いざ変身しようとした時だった。

 裕也が前に出て、腕で巴たちを制した。

「悪い。初瀬。巴ちゃん。あいつの相手は俺にさせてくれ」

 裕也の目は光実に固定されている。やらせてくれ、と言ってはいるが、譲る気は毛頭ないらしい。

「――ご存分に。わたしたちは見守らせてもらいます」
「ありがと」

 裕也は迷いのない足取りで前に出て、光実の正面に立った。






「今さら何しに来たんだ。碧沙を探すことも救うこともしないで、クズの側に付いたくせに」
「色々言い返したいことはあるが、そっちはとりあえず後で。今日の俺はお前に会いに来たんだよ」

 光実は険しい表情のまま訝しむ色を浮かべた。

 裕也はポケットに両手を入れ、階段を登り始めた。

「お前も碧沙も、俺のことを本当の兄貴みたいに慕ってくれたよな。嬉しかった。俺にはきょうだいがいねえから、すっげえ幸せだったんだぜ、お前らといる時間。でも、だからこそ、お前がそうなっちまったのは、俺の責任でもあるんだろうな」

 裕也は階段を登りきり、同じ地面に立って光実をまっすぐ見据えた。

「だから俺が止める。お前にこれ以上、不幸になってほしくないから」

 取り出すロックシードは二つ。オリーブと――メロンのエナジーロックシード。

 貴虎を謀殺した(といっても貴虎が生き延びる算段はしていたが)時、本当はゲネシスドライバーと共に拾ってあった。ただ、これまで光実に渡したら、光実を一層迷走させてしまう予感がして、今日まで隠し持ってきた。

(貴虎さん。使わせてもらいます)

 裕也はドライバーに、紘汰から借りたゲネシスコアを装着し、そこにメロンエナジーロックシードを嵌め込んだ。

「変身」
《 オリーブアームズ  ミックス  ジンバーメロン  ハハーッ 》

 草色のライドウェアの上から、メロンの模様が描かれた鋼の陣羽織が装甲された。 
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