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魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年

作者:レゾナ
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第十六話 模擬戦

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

今、屋上のとある一角の雰囲気は最悪といっても過言ではないほど、静かな雰囲気に包まれている。

そこの一角にだけは誰も近づかない程だ。

(((く、空気が重い……!)))

その中にあって、昼食を一緒に食べているアリサ達の心情は察するべきだろう。

そして、そんな雰囲気を出し続けている当人はというと

「…………」

静かに、ただ静かに昼食を食べている。しかし、先ほどの一件が全の逆鱗に触れたせいか、今でも機嫌は悪い。

「ぜ、全……?」

何があったのかるいが聞こうとするが

「…………」

(む、無理っ!無理無理無理!こんな雰囲気の全に話しかけるなんて無理!)

さすがに今の全に聞くのは怖いのか、聞くのを途中で止めた。

(ちょ、ちょっとるい!あんた何諦めてんのよ!?)

(じゃ、じゃあアリサはあんな感じの全に聞きだせんの!?)

(あ、あはは……私はさすがに、無理かな……)

小さい声でそんな相談をする三人。

全はというと

(はぁ……ホント、俺って親とか師匠、仲間関係になると沸点低いよな……皆からも、散々注意されたってのに)

先ほどの怒りを反省しているようだ。

全の沸点はかなり高い位置にあり全はそこまで本気で怒る事はない。

しかし、全の親や師匠、仲間の事を馬鹿にされたりすると、瞬く間に沸点が低くなりキレるのだ。

(反省、しないとな……)

「はぁ……」

そんなため息をつく全。

そんなため息を見て、これは全の問題だと理解したアリサ達はそのまま静かに昼食を食べ進めた。



そんな日々が過ぎていく事、数日。

全の姿は、アースラにあった。向かい合って聖が立っており、二人ともバリアジャケットを着ている。

「この間のようには、いかないからな!」

聖はそんな事を言っているが、全は完全無視で準備運動をしている。

なぜ、このような事になっているのか。

理由はクロノが突然全の家にやってきて

「君の実力が知りたい。模擬戦を受けてはくれないか?」

そう言われたのだ。

全自身も、特訓ばかりを重ねていてもそれが実戦で役立つかどうかはわからないと思っている。

どれだけ訓練を積んでも実戦では使い物にならない、というのはよくある。

全はそれを身を以って体験しているためなおさらだ。

そんな経緯もあって模擬戦をする事になったのだが……相手が聖だと知ったのは当日の事だ。

あの時の事はもう反省しているため、しこりは残ってはいないが……それでも、やはり割り切れない。

そういう部分があるのだろう。先ほどから少しだけ怒りを含んだ表情をしている。

そんな全を心配そうに、るいは観戦室から見守っている。

なのは達も一緒だ。

『それでは、これより模擬戦を開始する。双方友、準備はいいか?』

「ああ、ちょっと待ってくれ」

これから模擬線が始まる、という時に一旦待ってくれ、と全は言う。

と、腰に差しているシンを引き抜くと地面に突き立てて、円を描くように移動する。

直径で言うと、精々三メートル位だろう。

「制約をつける。三分間、俺はこの円から出ないし攻撃もしない」

「なっ!?」

「それに三分が経ったとしても、俺は一撃しか攻撃しない。これが俺がつける制約だ」

「僕を馬鹿にしているのか!?」

「別に馬鹿にはしていない。ただ、勘を取り戻す意味も込めてこれ位しないといけないと判断しただけだ」

『それで構わないなら、別にいいが……』

クロノ自身も疑問には思っているが、それでもやはり不安なのだろう。なぜならば、相手を見下すような制約なのだ。

「問題はない。やられるなら、俺はそこまでの存在だったという事だ」

『……わかった。模擬戦、開始!!』

円の中心に立ち、無防備に立つ全。

そんな全に真正面から自身の武器である剣を振りかぶる聖。

「はぁっ!!」

そんな気迫が伝わってくる叫び声をあげながら、突進する聖。対する全は目を瞑ったまま、動かない。

そして、聖の振りかぶった剣が全に当たる――――――――筈、だった。

全は目を瞑ったまま、その場にしゃがむ事で剣を避けたのだ。

「っ!?」

聖は驚きながらも、冷静に判断し、今全がいる場所に剣を突き立てる。

しかし、全はその場から既に退避し、円の端まで移動していた。

しかも、未だに目を瞑ったままなのだ。

「何で目を瞑っている!?馬鹿にして!今すぐに、この円の中から出してやる!」

その後も執拗に攻撃を繰り返すが……全はその攻撃を悉く避ける。目を瞑ったまま。

これは別に全の天性の才能などではない。努力の結果だ。

今、全は視覚ではなく聴覚・嗅覚・触覚を使って聖の攻撃を避けているのだ。

全の師匠はこの技をこう呼んだ「舞踊一の型・流水の陣」と。

流れる水をせき止める事は誰にも出来ない。何者にも止める事はできない動きから名づけられた名前だ。

この技を身につけるにあたって全は死ぬような思いをしたので勘を取り戻せてよかったと思っている。

(なにせ、ふっとい木の枝が全方向からランダムに来るからそれを避けろ、だもんな……)

今、全の脳裏にはそれを易々とこなしていた師匠と苦戦していた自分の姿が思い浮かばれる。

あの時は苦労したな、と今更ながらに全は苦笑する。

そして三分が経ち……全が、ついに動く。 
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