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大晦日のスノードロップ

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2部分:第二章


第二章

「何?」
「お昼のお話だけれど」
 暗がりのベッドの中で姉の顔を見て言う。
「スノードロップのこと?」
「うん、すっごいお金貰えるんだって」
「どれ位?」
「お貴族様になれる位らしいわ」
「そんなに」
 マーシャはそれを聞いて思わず言葉を失った。
「それだけあったらお母さんもずっと楽になれるわよね」
「楽になれるどころじゃないわ」
 マーシャは考えながら言った。
「億万長者になれるわよ」
「そんなに」
「そうよ、それだけあったら」
「お母さん幸せになれるよね」
「ええ」
 ベッドの中で頷く。そして決心した。
「行く?」
「うん」
 リーザも。二人は一緒に頷いた。
「最初からそのつもりだったから」
「わかったわ、それじゃあ」
 まずはマーシャがベッドを出た。そしてすぐに服を着る。
「二人で行きましょう、森に」
「森にね」
 リーザもベッドから出ていた。そして服を着ながら姉に問う。
「ええ、森に行ったらあるかも知れないわ」
「けれど森は」
「大丈夫よ」
 リーザは強い声で妹に言った。
「狼も熊も。私に任せて」
「何かあるの?」
「ええ、まずは」
 暗い部屋の中を探す。
「これを」
 火打石を見つけて懐に入れた。
「それでこれ着て」
「外套、それにマフラー」
「外は雪だから」
 窓を指差しながら言う。見れば夜の闇の中に白い雪がしんしんと降っていた。
「凍えないようにね」
「わかったわ。じゃあ」
「いい、私から絶対に離れないでよ」
 また妹に対して言った。言い聞かせるように。
「離れたら何もならないから」
「ええ、それじゃあ私は」
 リーザはリーザでナイフを取ってきた。
「ナイフ?」
「森の中でわかるわ」
 リーザはにこりと笑って姉に応えた。
「何でナイフ持つのか」
「狼や熊と戦うとか?」
「それだとナイフじゃ駄目よ」
 それは笑って否定した。
「けれど別のことに使えるわ」
「別のことって?」
「それは森の中でね」
 最後まで言おうとはしなかった。だがリーザにも何かの考えがある、それだけはわかった。そして今はそれだけで充分であったのだ。
 二人はこっそりと家を出た。その際何本も薪を持っていた。
「薪?」
「そうよ、絶対に雪で湿らせないでね」
 マーシャはまずリーザにそう注意した。
「これが私達を助けてくれるから」
 そう言ってその中の一本に火を点けた。忽ち燃え上がる。
「これでいいわね。幸い風もないし」
 風まであったらどうしようかと思った。だが幸いにしてそれだけはなかった。これは二人にとっては僥倖であった。
「じゃあ行きましょう」
 リーザにも一本手渡して言った。
「薪がなくなったら森の中で拾うわよ」
「火を灯りにするのね」
「そうよ、けれどそれだけじゃないわ」
 マーシャは言った。
「これで狼や熊も怖くないから」
「こんな火で?」
「火だからよ」
 妹にそう答えた。
「火だから。私達を守ってくれるのよ」
「そうなの」
「動物って火を怖がるから」
 それが彼女の狙いだった。
「妖精だって近寄れないわよ。だから安心して」
「わかったわ、お姉ちゃん」
「じゃあ行くわよ」
「うん」
 二人は森に足を踏み入れる。そして中へ中へと進んでいく。

 
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