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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っていた。

作者:デュースL
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第十四話

 十三階層で頻繁に出現する《バッドバット》を始め、モンスターの弾幕かと思うくらい遭遇しては戦って順調に階層を降りていく。
 本当はショートカットとしてダンジョン各地に仕込まれている落とし穴を使って、あえて落ちることで直接階層を跨ぐという裏技があるんだけど、残念ながら私の発展アビリティ【対罠】のせいで私が行く道に落とし穴が出現することはない。
 まあ落とし穴はその名の通り、対象を罠を張り巡らせた深い大穴に突き落とすことが目的だから、不用意に落ちてみればそこが怪物の宴モンスターハウスだったとかよくある話だ。今の私がそれに嵌ったりでもしたら本格的にヤバイから喜ぶべきか。

 それにしても驚くべきはナチュルの戦闘力である。いくらLv.3だからと言ってもものには限度というものがある。確かに中層と呼ばれるここ一帯の階層はLv.2推奨の攻略難易度だけど、だからといってソロで確実にクリアできるかと言われれば全くの否。私というお荷物を抱えながらサポートできる余力を残すナチュルの戦闘力は推して測るべしだ。

 中でも特筆すべき点は彼女の魔法だ。極短い詠唱式に比べ威力が非常に高く、アルミラージの群れを一掃できるほどだ。途中の階層で遭遇した準階層の主と呼ばれている《インファイト・ドラゴン》を五回ほどで鎮めてしまう威力には脱帽だ。しかし威力を高めるためには相応の精神力(マインド)が必要のようで、自分で持ってきていた精神力回復薬マジック・ポーションを数本呷っていた。
 
 あと飽きるくらい遭遇するヘルハウンドたちの炎ブレスを私の魔法【ファンファルレーゼ】で未然に防げるというのが一番大きかったのかもしれない。
 
『ガルルッ!!』

 視線の遥か向こうから響いてきた犬の威嚇を聞いたと同時に小さく【ファンファルレーゼ】と詠唱、対象をヘルハウンドの群れに絞り込んで発動させると、一瞬ヘルハウンドの体内から仄かな光が漏れた。

 これでヘルハウンドは炎ブレスを撃つことが出来なくなった。

 奴らはブレスを吐くとき多少の魔力を用いている。ドラゴンなど素で炎を吐けるモンスターは別だけど、ヘルハウンドのように魔力を借りて遠距離攻撃するモンスターに対して【ファンファルレーゼ】は非常に有効だ。

『グル!?』

 一斉に横並びになって炎ブレスを照射する体勢を取った犬たちは、己の体の異常に気付き戸惑いの呻きを漏らす。
 そんな大きな隙を晒せば私だけでなく、ナチュルにとって格好の獲物だ。瞬く間に薙刀で両断されて犬たちの亡骸が地面に転がる。
 
 【ファンファルレーゼ】この魔法の内容は絶対魔防魔法(パーフェクトアンチマジック)だ。魔力を含んでいるあらゆる事象から身を守る光の衣を作り出すというものだ。この魔法の汎用性が一番の目玉で、自分だけでなく対象と絞り込んだ物ならば何でも付与することが出来るのだ。
 更にこの魔法は魔力を無効化にするという概念を叩きつける魔法だから、どんなに魔法を撃ち込まれようが解除されることはなく、私の意志でしか着脱できない。この内容の優秀さゆえに本来の詠唱式はとんでもなく長いけど、発展アビリティ【詠唱省略】のお陰で速効魔法として機能する。 

 この魔法の最大の脅威は、対象に魔力を無効化する魔法をあえて付与してやることで、逆に対象の魔法を事前に封じ込めることが出来るという点だ。敵に気付かれないように体表すれすれの部分に衣を纏わせることによって、今のヘルハウンドのように発動できもしない魔法を使おうとするという無駄な動作を引き出すことが出来るのだ。
 もちろんモンスターに限った話でなく、冒険者にも作用する。だから万が一冒険者と戦うことになっても速攻で【ファンファルレーゼ】を仕掛けてやれば、その時点で魔道師は戦闘力を失うし、普通の冒険者でも魔法を主力にする者や魔法で力を助長させる者もいるだろうから一手に封じることが出来る。加えて特装武装スペリオルズと呼ばれる特殊効果を纏った武具の効果すらも封じ込むから使い勝手良すぎである。

 まあ、この魔法のせいで前世の私は特装武装とか魔剣とか一切装備できなかったんだけどね。詠唱式の長さゆえに消費精神力が抑えられていたところを省略できちゃったからダンジョンに潜った時はポンポン使ってたけどね。
 ダンジョンから帰ってきたときに解除するの忘れて発動したまま魔道書(グリモア)に触れて効果をパァにしたことがあったけど、それはさておき。

 戦闘は滞りなく全勝し続けているものの、ステイタスの恩恵が薄い私はナチュルと違い体力が少ない。だから所々休憩しながらの移動になりかなり時間をロスしつつも無事に十七階層に到着した。

 岩窟は段々とその規模を広め、何十人もの集団が通れるくらい開放的な作りになっていた。天井も高く、松明のように揺れる燐光が光の粒にしか見えない。道が広くなる方向へ進んでいけば、十七階層最深部の大広間に到達する、のだが。

「あの、ナチュルさん」
「ん? どうかした?」
「十七階層の主……たしか《ゴライアス》というモンスターがいたと思うんですけど……」
「あぁ、それなら心配いらない。少し前に(リヴィラ)の連中が通行の邪魔になるってことで一回駆除したらしいから、少なくとも一週間は出現しないわよ」

 ほっ、とため息をつく。階層の主もとい迷宮の弧王(モンスターレックス)は名前の通り、他のモンスターとは比べのものにならないほどの戦闘力を有しており、複数集団(レイド)戦で戦うのが通例だ。逆に返せば沢山の冒険者がいなければ倒せないほどのモンスターというわけだ。
 で、この階層の主の名前がゴライアスという人型のモンスターだ。二週間の次産間隔(インターバル)で出現する怪物である。前世で何度も迷宮の弧王を倒してきたとはいえ、半分くらいは己のステイタス頼りの部分があったから成功していたわけで、今の私に成す術はない。いや、あるんだけど、それを使うと後々面倒だから避けれるなら避けたい。
 即断即決大雑把のナチュルが考えなしに通り抜けようとしているのではと思ったけど、冒険者として最低限の情報は集めてあったらしい。良かった本当に良かった。

 カツンと爪先に当たった石が転がる音が暗闇に吸い込まれ、王の復活を待ちわびるような静けさが辺りいったいを包んでいた。
 間の主がいない空間にはミノタウロスを始めとしたモンスターたちが広大な空間にのさばっていた。

「どうしましょう、これら全部倒すのは流石に無理くさいのですが……」
「ま、倒さなくても良いんじゃない? 確かこいつら、階層主の代わりに出現するモンスターだから階層を移動することはなかったはずだし」
「それ以前の問題ですよ、ここ抜けるのにどうするんですか」
「突っ切れるわよ。こう、上手い具合にちゃちゃっと」

 だめだ、やっぱりナチュルはナチュルだった。私というお荷物のステイタスを度外視してる……。一応敏捷は以前より高くなってるけど、結局レベルの高い相手のほうが高いオチだ。上手い具合にちゃちゃっと出来る自信がない。

 さてどうしたものか、と思っていたところで、背後から複数の足踏みの音が聞こえてきた。振り返ってみると、暗闇の奥から金色の光が見えてきて、数秒も経たないうちにその姿が露になった。

「……レイナ?」
「あ、アイズ」

 オラリオ最強の女性冒険者が登場なすった……。唐突の再会にお互い目を丸くして驚いていると、アイズの後ろから次々と彼女の仲間が現れる。

「あれ〜! ロキにナンパされてた子だ〜!」
「いえ、ですからナンパされてないです」

 片手に大双刃を持ったアマゾネス─確かティオナだったはず─が顔を見たと同時に快活に声を掛けてくる。私は何回ナンパされてないと否定すればいいんだろう……。
 彼女の隣には姉のティオネ、一目で超高性能と解る杖を持った二人のエルフの女性、金髪の小人族の少年が続き、ベートとドワーフのおじさん─名前聞いてない─を除いた【ロキ・ファミリア】の先鋭部隊が集結した。

「どうして皆さんここに……?」
「それはこっちのセリフだよ〜。どうしてキミがここに来れるの?」
「それはナチュルさんに連れてきてもらったからです」

 手でナチュルを指し示すと、【ロキ・ファミリア】の面々を前に驚いたように唇を窄めているナチュルがリヴェリアのことを凝視していた。
 リヴェリアもまたナチュルのことを見つめており、しかしお互い声を掛けることなくふと目線を逸らした。

「ん、どうも。【ヘファイストス・ファミリア】のナチュル・ヴェリルよ」
「へぇ、ヘファイストス様のところにエルフの女性がいたのか」

 フィンが顎に指を掛けながら呟く。やはりエルフが鍛冶師というのは天然記念物レベルらしい。レフィーアも驚いたように両手に握る杖を握り締めている。

「それでなんで二人はここに?」
「賠償を免罪してもらうために、二十階層に用事があるんです」
「賠償? あたしたちと同じだね!」

 何でもアイズは怪物祭のときに【ゴブニュ・ファミリア】から貸与されていた剣を使い潰して破損させてしまったらしく、その弁償として4000万ヴァリスを請求されたそうで。その金額を稼ぐために深層に潜るところをティオナたちも同行した、ということらしかった。
 
 いざというときには借金返済の手助けをすると頼もしい言葉を残していったアイズにしらっとした目を向けてやると、少し気まずそうに目を伏せた。半ば他人事のように手助けをすると言っていたのに自分が借金背負ってどうするのよアイズ……。

 積もる話は省略して、私たちがここに蔓延っているモンスターたちのせいで足止めを食らっていたことを説明すると、アイズが名誉挽回とばかりに「任せて」と言い置き、疾風の如くモンスター群に突入した。

 いやぁ、レベルの差って残酷だねぇ。ミノタウロスたちが逆に逃げ出したくなりそうな一方的な戦闘でした。というか、もはや瞬殺と言っても過言じゃなくて、さすが【ロキ・ファミリア】のトップ戦力というところだろう。 
 私たちの侵入を拒んでいたモンスターたちは嘘のように姿を消して、いっそすっきりした大広間の奥の壁に空いた洞窟、次の階層の連絡路へ進んだ。
 
 傾斜を描く洞窟を抜け、十八階層に降り立った私たちを迎えたのは、頭上より降り注ぐ穏やかな光、そして木々が疎らに生えた森の入り口だった。モンスターたちが溢れる地下迷宮に相応しくないほど平和的な光と清浄な空気。
 冒険者が深層に潜るときに必ず活用される一階層まるごと安全階層(セーフティポイント)となっている十八階層である。

「いつ来ても綺麗ですね、ここは」

 森を始めとした自然を好むエルフの性か、頬を緩ませるレフィーア。リヴェリアはどこか懐かしそうに眺め、ナチュルは興味が無いのか特に表情の変化をさせなかった。

 現在の十八階層は一般に『昼』と呼ばれる時間で、階層の天井にびっしり生え渡る無数の水晶が地下の洞窟に光を齎しているのだ。この水晶が発する光量によって冒険者たちは『朝』『昼』『夜』の時間帯を決めている。地上とは少し時間のずれが生じるため、時差は大きくなったり小さくなったりする。
 発光する美しい水晶は十八階層の名物とされていて、この階層に冒険者たちが勝手に街を作った切欠の一つでもある。多くの冒険者たちの目を奪ってきたダンジョンの神秘だ。

 十八階層は冒険者たちが初めて訪れる安全階層で、とりわけこの階層は『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』とも呼ばれる美しい地形が広がっている。
 南端に存在する連絡路の洞窟から森を越えて北上すると、まず現れるのは水晶が散在する大草原。階層の中心地帯には中央樹と呼ばれる巨大樹がそびえており、樹の根元に空いた樹洞から十九階層へ向かうことができる。

「どうするレイナちゃん。少し準備してから行く?」
「大丈夫ですか? ここ、凄いぼったくりしてくると聞いたんですが」
「まあ足元見られてるからねぇ。物資の調達というより、荷物の整理をするって感じで行きましょ」

 【ロキ・ファミリア】の一行の後を付いて行く形で、大陸を切り取ったかのような高く巨大な島の頂上付近に《(リヴィラ)》は築かれている。
 中層域に到達可能な限られた上級冒険者が経営するダンジョンの宿場街だ。元々は大昔により能率的に階層を潜れるように画策したギルドの計画だったものがとある事情によって廃止され、それを女性冒険者リヴィラが勝手に引き継いで勝手に築き上げたのだ。
 ギルドの目が届かない環境ということで、この街は無法者の冒険者らしく無法である。いけない薬や怪しい物品はもちろんのこと、ファミリア同士で密談するときにも用いられたりしている、まさに冒険者の街である。
 で、この街で店を構えることでどんなに高い値で売ろうが、客である冒険者たちは己の生命線なのだから買わざるを得ず、地上ではありえない高水準の相場が形成されている。賢いと感心するべきなのか、ダンジョンの中に住み着くとはと呆れるべきなのか。さすが冒険者である。

「それでは私たちはこれで」
「あ、うん! またねー!」

 買取所で魔石やドロップアイテムの換金をしに行くらしい一行と別れ、私たちは武器屋や道具屋が立ち並ぶ商店街の方へ足を向ける。

「おいおい、こんな出来で5万ヴァリスとか、相変わらずとち狂ってるわね……」

 店を務める男の目の前で遠慮なく暴言を吐くナチュルだが、その男も自覚はあるようでにやりと人の悪い笑みを浮かべる。冒険者が経営するだけあって暴慢な街なのである。
 回復薬(ポーション)精神力回復薬(マジック・ポーション)も例に漏れず、地上ならば五本は買える値段を一本で売りつけてくる強かさに舌を巻きつつもナチュルが数本購入し、雑貨の取引を行っている店に入る。

「ふぅん、《超硬金属(アダマンタイト)》が市場に出回るなんて珍しいわね。値段も地上と似たり寄ったりだし……買おうかしら」
「ま、待ってくださいナチュルさんっ! 値段、値段が凄まじいですよ!」

 オラリオの一等地を買えるくらいの値段が並んでいるのが目に入っていないのか、競売に掛けられている真っ最中の希少金属(レアメタル)に手を伸ばそうとするナチュルを慌てて引き止める。
 今もなお誰かが五倍の値段で買い取るなんてふざけたことを言っているさなか、ナチュルは自分の財布の中身を見て「もう少し持ってくればよかったわ……」と本気で悔しそうに呟いた。失礼だけどナチュルさん、あなたよくそんな調子で今まで破産しなかったね、いや本当に。

 街に入ってから十分ほどしか経たない内にナチュルが鍛冶師として喉から手が出るくらい欲しい金属を目の前にしたからか、早く金属を掘り返しに行こうと言い出し、早々に十九階層に潜ることになったのだった。



 安全階層を挟むせいか、十七階層と十九階層とでは少し質が違う。さながらダンジョンが「お前ら休めただろ? ならこれくらいできるよなぁ?」と意地の悪い笑みを浮かべながら囁きかけているようである。 
 その内容はモンスターの強さもさることながら、罠の凶悪性やモンスター同士の連携、迷宮の武器庫(ランドフォーム)の多寡と多岐に渡る。私の場合は罠は関係ないけど、やはりモンスターの一体一体が強くなってくると技術だけで押し返せるものではなくなってくる。
 Lv.3のナチュルもフォローに回り辛くなってきており、頻繁に魔法を行使するようになっている。

 ダンジョンというのは天使のような悪魔の笑顔を浮かべるもので、階層が深くなればなるほど地上では絶対に採れない希少価値の高い物資が大量に眠っており、冒険者たちはその富の元を目の前に目がくらみ、どんどん深く潜っていく。さながら蟻地獄のように欲望という引力が深淵へ誘う。
 実際私もLv.9になった頃は階層主を探す片手間に、まだ発見されていない未解の物資を集めては地上に持ち帰っていた。あまりにも多く見つかるものだから色んな安全地帯に集めておいて、次に潜ったときに持ち帰るなんて事をしてたから、たぶん回収し切れていない場所もあるんじゃないかな。もう覚えてないから私自身で回収できないけど。

 そんな訳で十八階層まで降りる気力と十九階層を踏破する気力が釣り合うという事態に苦笑いしつつ、ナチュルの渾身の魔法で最後のモンスター網を切り抜け二十階層へ。

「ようやく着いたわね……バックパックがはち切れるくらい掘ってやるわよ」

 額に珠のような汗をびっしりと浮かべるナチュルだけど、その顔は冒険者でもなく鍛冶師でもなく、ただの炭鉱夫である。【ヘファイストス・ファミリア】は鍛冶師だけのファミリアとして知れ渡っているが、世の中に渡っているヘファイストスのロゴが刻まれている武具たちは全て上級鍛冶師が作り出しているものだ。上級か否かで別つのはステイタスの発展アビリティに【鍛冶師】があるか否か。発展アビリティ発現の条件はランクアップ時なので、上級鍛冶師は最低でもLv.2以上の冒険者でもある。
 なので《戦える鍛冶師》とも呼ばれているわけだが、鍛冶師が世に武具を送り出すためには、当然ながら元となる素材が必要だ。それを調達するためには冒険者依頼クエストを発注したり、他のファミリアと連携する代わりの報酬として鉱石を回してもらったりと色々あるが、ナチュルの場合は自分で採りに行っていたらしい。

 もちろんソロではなく同業者とパーティを組んで、ではあるけど、それでも薙刀を作る度に毎回潜っていたとなると驚くところがある。
 彼女の話を聞いている限りだと鍛冶師になって二年のようで、一年は新米、一年は上級鍛冶師として過ごしており、二年通して生産した薙刀は百を越えるらしい。そんな頻度で打ち続けているということは、逆に返せばそれだけ素材を採りにダンジョンに潜っているわけで、彼女の手練さの一端を担っていたわけだ。

 鍛冶師にしてはダンジョンに潜る経験を多く持つ彼女が色々検索している内に辿り着いた結論が、この二十階層とのこと。
 嬉しいことにナチュルはかつて私が建てた冒険者指導施設にて交付されていた参考書─補佐科のものから冒険科まで全て─を持っているらしく、一階層から五十階層までの採取できる物資に関するデータを頭に叩き込んでいるらしい。
 参考書を編んだ本人である私でも覚えていない採取ポイントなども全て覚えており、鉱山地帯である二十階層が自分の力量に最も適して能率的に採取できるポイントだったとのこと。
 冒険者依頼(クエスト)を出せば、二十階層と同じ鉱山地帯になっている四十階層から取れる希少金属を回収できるのに、と思って質問してみると

「報酬が私の打った武具だってさ。私は薙刀しか打つ気がないから、出したくないのよね」

 大雑把な性格だけどしっかりと職人気質を持っているようで、自分が専売としている薙刀以外打ちたくないそうだ。それでも時々他の武器を打ってみることで新しい発想を得られるかも、ということで粗方の武器や防具を打ってみたことがあるらしく、結局目ぼしい手がかりを得られず使った素材の元手を取るために店に出品、その作品が冒険者に物凄い人気を得たようで更に不満に思っているようだ。

「薙刀を作る私を誰も知らないくせに、そこらの剣とか盾になるとすぐ私の名前を出してくるのよ。考えられる? 何の思い入れもない武具を評価される身にもなって欲しいわ」

 とぼやきながら壁面から覗くエメラルドの鉱石を慣れた手つきでピッケルを振るって採るナチュル。

「なんでそんなに薙刀が好きなんですか?」
「好きだからよ。全部が」
「全部、ですか」
「そう。薙刀は私に夢をくれるの。使い手の半身となって、どんな窮地に追い込まれても傍にあり続けて力を与える。そんな薙刀を作りたい」

 ぽろっと零れてきた鉱石をバックパックに放り込んで、次は床から生えている金属塊の前に跪き、表面を軽くなぞって物色してから再びピッケルを振るい始める。彼女が望み、臨み続ける薙刀に、一体何を求めているのだろうか。
 魔剣のような絶大な力を秘めるものか? どんな物でもたちまち一刀両断してしまう業物か? それはナチュルしか解らない。

「沢山薙刀を打ってきた。将来もずっと薙刀を打ち続ける。その間に黄金比が見つかればいいんだけど……」
「見つけられるでしょうか……」
「れる、られる、じゃないわ。見つけるのよ。一心同体と言えるまで昇華された姿を、見つけるの」

 このときばかりは、ナチュルが大雑把な性格の持ち主であることを忘れていた。子供のように頑固に自分の夢を持ち続け、夢を追求する姿はどこか神秘めいてすらいた。
 ナチュルは堅牢な意思が篭った言葉を打ち切ると、思い出したように途端に耳まで真っ赤にさせて、茶髪の髪で顔を隠すように弄る。

「年甲斐も無く熱くなっちゃったわ。忘れて」
「良いじゃないですか。一つの夢を追い続けるのって、素敵ですよ」
「やめてよ、余計恥ずかしくなるわ」

 いじける子供のように唇を尖らせながら返したナチュルは「でもまあ」と前置いてから言った。

「恥ずかしくて誰にも言えなかったことだから、聞いてもらえて嬉しかったわ」

 そして紅潮した顔でにかっと笑った。きっとその笑顔は、夢を持ったころの幼いナチュルの笑顔なのだろう。だからこんなにも幼く無邪気に、顔中に土まみれになっても美しく笑えるのだろう。

 一つの事に真摯に突き進んでいく姿は、無償に応援したくなる。

「私も手伝いますよ」
「レイナちゃん、採掘したことあるの?」
「……いえ、無いですけど」
「ふふ、良い機会だから教えてあげるわ」

 二十階層に着いてから時間の経過を忘れるくらいナチュルと二人で採掘をして回った。当然私は鉱石を何度もぶち壊しましたけどねっ!



 レイナたちが採掘を終え、十九階層に戻り始めた頃、十八階層は。

 夥しい数の食人花のモンスターが安全階層(セーフティポイント)に群れをなして地獄絵図と化していた。
 
 

 
後書き
【ナチュル・ヴェリル】

所属:【ヘファイストス・ファミリア】
種族:エルフ
職業:鍛冶師
武器:薙刀
所持金:280000ヴァリス

ステイタス
Lv.3
力:A801 耐久:E441 器用:H150 敏捷:B775 魔力:D522
《発展アビリティ》【耐異常】【鍛冶師】
《魔法》【エクスプロージョン】
《スキル》


【対罠】/罠を百回以上踏み抜く
・あらゆる罠を無効
・ダンジョン内部に限り異常気温を無効

【ファンファルレーゼ】/不明
・完全魔防魔法
・付与可能
・詠唱式【1つの願いが瞬いた。魔の雨に嘆きを叫ぶ人々を、この身1つですむのなら、この身を呈して救わんと。願いは届き人々は、救いのその身に諸手挙げ、神はその身に祝福す。それは天の導き也、ゆえに魔は拒めず、ゆえにそれは無窮である。】

速効魔法になったせいでチート性能と化した魔法。これを使うだけで【ロキ・ファミリア】の先鋭部隊の半分を無効化できる。
アイズは【エアリエル】、ベートは特装武装を、リヴェリアとレフィーアは主力を失うわけですからね。ヤバイ強すぎこの魔法。
残った手は近接戦闘だけど、【水連】があるから全部仲間に受け流されるし、疲労しても【ヒリング・パルス】があるから回復できるから……。あれ? 勝ち目なくね?

あとソード・オラトリア2の内容に繋がるところなんですが、これ時間軸あってますかね? 原作ではアイズ一行がリヴィアに到着してから何時間で例の事件勃発したか明記されていないのでお茶を濁していきたいところなんですが。
 
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