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グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)

作者:あちゃ
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第21話:ツワモノの物語……それは色事?

(グランバニア城)
プックルSIDE

まだ夜も明けきらない頃、私は眠りから覚め起き出す。
隣では愛しの妻が子供達を抱き寄せ眠っている。
皆を起こさぬ様、ソッと息を潜めながら……

「ガゥ……?(何処に……?)」
しかし試みは失敗に終わる。
妻を起こしてしまった様だ。

「ガウァ(良いから寝てなさい)」
私は妻に囁き頬に口吻をする。
「………」
納得したのか、それともまだ眠いのか……彼女は何も言わず目を瞑った。

再度寝入ったのをみて私は部屋から出た。
今日も長い一日が始まるから。

私の名はプックル。
ここグランバニアで生きるモンスターだ。
私の主人はリュカ様……
この国の国王にして、世界を平和にした偉大なる人物だ。

妻の名はリンセ。
子供達は上からリンクス・チロル・モモ・ソロ……
全てビアンカ様が名付けてくれた。

妻との出逢いは偶然だった。
グランバニアに潜り込んだモンスターを追い出し……そして森の中まで追い詰め駆逐しようとしてた時、人間が仕掛けた罠に嵌まり身動きがとれなくなっていたのだ。

私の種族は基本的に人間に懐く事はない。
彼女もその一人(一匹)だった……
だから無視して放っておいても構わなかったのだが……それは出来なかった。

そう出逢いは偶然でも、結ばれるのは必然だったのだ。
私は一目で恋に落ち、そして口説いていた。
まるで(リュカ)様が乗り移ったかの様に、自分の任務を忘れ只管に。

自分でも驚いた。
まさか私にあの様な口説き文句を言う事が出来るなんて。
だが、妻が最初に喋った言葉は『ガーゥ!(いいから罠はずせ!)』だった。

まったくその通りだ。
私は慌てて彼女の足に絡み付いた罠をはずし、そして改めて口説いた。
しかし彼女は私から漂う人間の臭いが気になり『ウニャ(取り敢えず礼は言う)』とだけ言い、その時は去って行く。

それからだ、私は毎日彼女を追いかけ森に入る。
彼女を見つけては口説き、そして自分の事を話した。
時には食べ物を持って行き、気を引く努力を試みる。

私の努力の賜か……それとも彼女も発情期になったのか……
出会ってから半年、私とリンセは契りを交わす。
そして彼女は身籠もった。

彼女は人間と生きる事を良しとせず、私と共にグランバニア城で住む事を了承しなかった。
私も無理強いをしたくはなかったので、私が通う事で最初は落ち着いてた。
なんせ私には、リュカ様とリュカ様が守る全ての物を守る使命がある。
彼女の為にとは言え、私はグランバニアから出て行く訳には行かなかった。

だがリュカ様の目は誤魔化せなかった……
私の心が彼女に傾き始めた頃、『プックルどうしたの? 何か心配事かな? 女でも出来たのかなぁ?』と簡単に看破され、リュカ様に嘘の吐けない私は全てを話してしまった。

忠誠心を疑われ激怒されても仕方ないのに、優しいリュカ様は『じゃぁ僕が一緒に行って説得してあげる。それでダメだったら、プックルは彼女と一緒に生きた方が良い。寂しいけども、それが一番正しい選択だよ』と言って、リンセと合い説き伏せてくれたのだ。

リュカ様の力を持ってすれば、人間嫌いのリンセですら簡単に口説き落とされる。
同族の私があれほど苦労した彼女を、出会って数分で手懐けたリュカ様……流石だと思う一方で、ヤキモチを焼いてしまう狭量な私が居る。

私の気持ちを知ってか知らないでか、リュカ様は『大丈夫だよプックル。僕は他人(ひと)の女に手を出さない』と言い、ウィンクをしてくれた。
彼女が独り身だったら、キラーパンサーにでも手を出されるのですか?

リンセと共にグランバニア城へ来たものの、彼女はやはり人間に心を開かない。
例外はリュカ様とリュリュ様だけだ。
そしてもう一人……心を開いた訳ではないが、ビアンカ様にも他の人間よりかは懐いてくれた。

と言うより懐かされたのだ。
リンセはビアンカ様に初めてお目にかかった時、警戒心全開で牙を剥き威嚇をしてしまったのだ。
慌てて謝る私を横目に、リュカ様がリンセに顔を近づけ『二度とビアンカに牙を剥くな……』と殺気全開で脅したのだ。

あの殺気に抵抗できる生物は居るまい……
人間に心を開かないまま、彼女はビアンカ様には……その後ろに居るリュカ様には服従する事になった。

そしてリンセは子を産み、私は父親になった。
城内の片隅をお借りできるだけでも幸せなのに、リュカ様は我々の為に人間一家族分の部屋を用意して下さった。

リュカ様は『部屋は余ってるから(笑)』と仰ってくれたが、人間の様に手を使えない我々でも暮らしやすく、わざわざリフォームをして提供してくれたのだ。
常々私の事を“家族”と言っていただいてるが、その事を具現化するお心遣いである。

その所為か、または私が常々子供達に教えてる影響か、我が家はリュカ様に対して心からの敬服を……そして忠誠心を宿しており、まだ幼い子供達ですらリュカ様の前では大人しく、そして言う事をきいている。

だが、それ以外(と言ってもビアンカ様は別)の者達には些か無礼なところがある。
私もフレンドリーに接して良いと言ってたので、怪我でもさせない限り何をしても咎めないつもりでいたのだが、昨日ウルフに……あの小僧に叱られた。

生意気だったので子供達を連れ脅しに奴の部屋まで押し掛けたのだが、私の威嚇には気圧される事なく……むしろ私の子育てにクレームを付けてきやがった! 子育てなぞした事ないクセに……
しかし奴の言い分は妥当であり、例に挙げられたリュカ様の娘達の事を思うと何も反論できなくなる。

それにリュカ様からも言われたが、ウルフの邪魔をしてはこの国(グランバニア)の発展の妨げになると判断する。
何よりリュカ様の為にあの小僧(ウルフ)は働いてるのだから、それを阻害する事は間接的にリュカ様への反逆であると理解しなければならないのだ!

それに気付いた時、私は自分の愚かさを祟ってしまった。
リュカ様に仇成すとは……
忠誠心を見つめ直す良いチャンスを戴いたと考えよう。

だが……私の子供達を泣かした奴には、(いず)れ報復をするつもりだ。
リュカ様に迷惑がかからない様……奴の足にでも噛み付いてやる!
今はダメだ……奴が仕事出来なくなるとリュカ様に影響が出るから。

さて……城の窓から朝日が差し込みだしてきた。
私も何時もの任務に励もうと思う。
私が恩人たるリュカ様に出来るささやかな任務を……

プックルSIDE END



 
 

 
後書き
次話もプックルSIDE続くよ 
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