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山本太郎左衛門の話

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5部分:第五章


第五章

「まあ入れ。中でゆっくりと話をしよう」
「それでしたら」
 彼等は居間に案内された。そしてそこにめいめいで座った。
「さてと」
 平太郎は主人の場所に腰を下ろした。
「まずは最初のことから話すか」
 そして一日目の大入道のことを話した。そして翌日のことも。
「この部屋じゃったな」
 彼はいささか面白げに話した。
「ここに水が流れてのう」
「本当ですか」
 これは誰もがまずは疑った。
「本当じゃ。だからわしは嘘を言わぬと言っておろう」
「それはそうですが」
 彼は曲がったことを嫌うことでも知られていた。嘘を言う様な者ではないことはここにいる全ての者がわかっていた。
「だから聞け。安心してな」
「はい」
 そして今度は昨夜の首のことを話した。話が終わると一同は大いに首を傾げた。
「おかしなこともあるものですなあ」
「一体何がはじまりやら」
「それがわかれば苦労はせん」
 平太郎はそれに対して笑って言った。
「わしも百物語が原因じゃとは思っておるがな。じゃがそれ以外のことはわからぬ。あの者達が果たして何者かもな」
「ふうむ」
 皆はそれを聞いてさらに首を傾げた。
「狐か狸ではござらぬかな」
 まずはそれが出た。やはり狐狸の類であると考えるのが第一であった。
「いや、それはなかろう」
 だが他の者がそれを否定した。
「稲生様のところには犬がいるからのう」
「そういえばそうじゃったのう」
 平太郎の家には一匹の大きな犬がいる。彼は闘犬も好きなのでその為の犬である。気は荒く彼と勝弥以外にはなつかない犬である。
 狐や狸は犬を嫌う。従ってそれは否定された。
「では何かのう」
「生霊か死霊ではないか」
「大入道は違うであろう」
「そうじゃったな」
 こうして亡霊やそういった類も否定された。こうして話は次第にどうどうめぐりになっていた。あれでもない、これでもない、平太郎はそれを止めるわけでもなくただ主の場所に座って皆が話すのを聞いていた。
 結局答えは出なかった。平太郎も出るとは思っていなかった。
「そうそうわかれば苦労はせん」
 夕暮れになったので彼は皆を帰した。そして夕食をとりまた化け物を待った。
「今日は何があるかのう」
 そう思いながら書に目を通す。だがそれは進まない。どうも化け物が気になって仕方ないのだ。
 進まないので読むのを止めた。そして寝転がってゆうるりと待つことにした。
 喉が渇いたので水瓶をとった。下にして水を椀に注ぐ。だが一滴も出て来ない。
「今度は水瓶か」
 そう思い瓶を覗く。すると水は氷となっていた。
「ふむ」
 今日の怪異はこれかと思った。水が出ないのでは仕方なくそれを置いた。代わりに井戸の水を飲むことにした。こちらは凍っていなかった。腹が減ったので飯を少し食うことにした。台所に行き釜の蓋に手をかける。
 だが開かない。どうやらこちらでも怪異が起こっているようだ。
 
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