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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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第三十一話 砂上の楼閣

小隊着任が終わったところで真壁清十郎が質問を投げかける。

「あの大尉、此処では一体何を……先ほどのお話を耳にしたところ何かしらのインターフェースの研究のようですが―――」
「口で説明するより見た方が早い。……ついてこい。」

顎で奥の扉を指し示す。下のシミュレーター搭乗口に通じる通路の扉だ。


「もともと己の仕事は戦術機のOSの改良、衛士の視点からより扱いやすいシステムの構築が基本理念だったが、既存の戦術機のマンマシーンインターフェース……分かりやすく言えば従来の操縦システムではそれには限界があるという結論に到達した。」

「それ限界……ですか?」
「そう限界だ。元より従来の操縦法は機動砲撃戦闘が主体のアメリカが作ったものだ、多少の改良が加えられているとはいえ近接格闘戦に十全に対応しているとは言い難い。」

苦い表情を取る忠亮。忠亮自身でいえば射撃よりも剣劇戦闘の方が得意だ。
それでも二種の突撃砲を併用して機動砲撃戦闘を用いるのは純粋に自らの剣劇技能を再現できないからだ。
戦術機のOSでは余りに剣術の再現度が稚拙だからだ。そんな半端なのでは使わない方がマシだ。

「従来の兵士が兵器に対応する、という方針ではダメなんだ。それに戦術機の機体自体の近接戦闘能力はかなり上限まで来ている―――ここから先は何処まで人間と機械のかみ合わせを上手くするかで別れる。」
「別れる、とは如何様な事がらでしょうか?」

「まず一つはBETAに対し戦い抜けるかどうか、もう一つはBETA戦役後の国際社会でだ。」
「BETA戦役後ですか……」

「簡単な話だ、これから各国はステルスとアンチステルスの研究に精を出すだろう。やがてステルスは普遍的なものとなりステルス機同士での戦いとなるだろう。
 そのキーパーソンはF-35だろう。あれの大量生産・大量配備。如何に親米国のみに配備するとはいえ、当然裏切る国家は出る。
 そうなった時、ステルスが無効化されるのとステルス機同士の戦い…果たしてどちらの戦いが先に起こるのか、考えずともわかる。」

歩みを進めながら説明する忠亮。
つまりステルス戦術機同士の戦闘となれば近接戦闘が多発しやすいという事だ。そしてその時、戦闘を左右するのはパイロットが性能を引き出しやすい機体であり、機体性能(カタログスペック)ではなく操縦性で相手を上回るべきだという思想だ。

そして、その方向性の進化は初陣衛士の損耗率を抑え、対BETA戦でも多くの衛士を救う可能性を秘めている。
特に、速成カリキュラムにより半端な状態で実戦投入される兵が多い中で彼らを如何に生き残らせるか―――次代を残さぬ戦術で勝利しても未来はない。

「しかしF-35の懸念は理解できますが、本当にそれが起きうるのでしょうか?」
「清十郎、武力の後ろ盾無い約束事なんぞ寝言にも劣る。貴様も斯衛の軍人となったのだ平和ボケは大概にしておけ。」

清十郎の言葉に鋭い批判が助六郎から飛んでくる。
同盟や条約が一方的に破られ滅んだ国は古今東西数知れず。格闘技の試合とて相手がインターバル中に襲ってくることもある。

基本的に条約などの決まり事というのはそれを守らせる暴力が無ければ文字通り絵に書いた餅以上の価値はない。
日本はそれを大戦末期の日ソ相互不可侵条約の一方的破棄によるソ連による樺太侵略、そして日米安保の一方的破棄等の流血の経験から学んだはずだ。
それでなお日和見った意見を吐けるのは平和ボケ、蒙昧と言われても仕方のない事柄だ。


「ふふっ懐かしいね。」
「何がだ?」

清十郎が助六郎からお小言をもらい続けている横で甲斐が小さく笑みを零す。

「訓練校時代、ボクシングの試合をみんなで見ていたけど君は選手が残心を心掛けていないと知ると興味が失せたって見るのを止めたじゃないか。それに似ていると思ってね。」
「そんな事もあったか。」

確かボクシングの試合でラウンドが終わりインターバルに入った時だ、その選手は双方ともに対戦相手に背を向けコーナーに戻っていった。
相手が急に後ろから殴りかかってくるかもしれないのに―――当然、そんなことはスポーツマンシップに反し反則だ。

しかしだ、仮にも格闘家ならば相手の善意に期待して隙を曝す間抜けの試合は真剣みが無い為見る価値が無いと判断したのだ。
正直、飼いならされ牙を失った虎の八百長試合を見せられている気分にしかならない、そんな茶番に勝ちなんぞない。野良猫の縄張り争いの方がよほど見る価値がある。


「相手の善意や良識に期待するな。他力本願となれば人間は堕落する―――そしてそれが自身の命さえも他人に預ける事だという事に気付いていたのに僕は止められなかった。
 ああ、僕は屑だ。骨の髄まで腐っている……守りたかったモノがあったのに、何に立ち向かうべきだったのか瞭然だったのに。」
「……それは己も同じだ。」

甲斐の言葉は耳に痛かった―――しかし彼はその言葉すらも否定した。

「違うよ、僕と君は違った。僕は守りたいモノが有ったのに守らなかったんだ……だけど君は守りたいモノが無かったんだろ?
 そして何時か守りたいと思うモノが出来た時のためにその時後悔しない為に我武者羅だった。」
「お前が正常で俺が異常だった、唯それだけだろ」

「それでもだよ、僕は憎い……どうしようもなく、僕自身と志摩子を殺したこの国とBETAがね。」

一抹の狂気を宿して甲斐が言う。その表情は辛酸を舐め、苦汁を飲み痛みに耐えるかのように鎮痛だった。

確か奴には義理の妹がいたなと思い出す……武家の養子入りはその家に女の直子がいる場合、十中八九許嫁となる。
もし……自分が唯依が殺されたらと思うとその気持ちは痛いほどに共感できる。

「―――甲斐。」
「だから君が変えてくれ、悲劇の連鎖を……今のままじゃ志摩子は犬死だ。そんなのは許せない。」

切実、悲痛な訴えが忠亮の胸を撃つ。

今の流れを変える、確かに戦術機の劇的な革命と呼べる性能向上が有れば多少は変わるだろう――しかし、それでは足りないのだ。
この日本は平和主義なんぞという麻薬に酔い、既得権益に胡坐をかく官僚どもや人権団体、その犬に過ぎん日和見政治家どものせいで勝てるべき戦いを逃した。

其れこそが諸悪の根源。病原を叩かねばこの流れは変わらない、奴らの楽観と偽善がまた何千万という人間を殺す。
全てが善人でなければ成り立たないシステムなんぞ欠陥品でしかない。

そんな偽善を放置し、愛しき者が殺される未来を看過できる理由はない。
幾つもの絶望を、幾つもの終焉を知っていれば尚更だ―――『流れを変えなくては』その思いは己の中に根付いている。


「間違えるな甲斐……己が変えるんじゃない、“俺達で”変えるんだ。他力本願にするんじゃない。」
「厳しいね……だけど、その通りだ。それにしても君がそんな事を言うのは珍しいね。」

「今は危機ではあるが転機でもある。此処で踏ん張れねば国家を再生し、先進国と返り咲く事叶うまい―――己も妻を迎える身だ。踏ん張らねばならん時が来たという事だ。」
「なるほど……それは頑張らないとダメだね。」

脳裏に過るのは既に逝った戦友たち。
胸裏を締め付けるのは何度も、何度も繰り返した唯依との別離。

相思相愛になれたが戦いの中で果てた事もあったし、相思相愛でも結ばれずそのまま彼女を失ったこともあった。
不安定化する情勢下でテロで彼女を失ったこともある。共に最期の時を過ごし消えた事もある。

幾つもの絶望と、幾つもの無念と、幾つもの憤怒と、幾つもの慟哭と、幾つもの憎しみを抱えて己は今此処に在る。
次こそは、次こそは勝つのだと―――暗黒を打ち払い、嵐を走破し、光ある明日をつかみ取るのだと歩み続けてきた。

擦り減りながらも歩み続けてきた。
輪廻のたびに恋をして彼女を愛した―――たとえそれが報われても報われずとも関係なしにただ走り続けた。

その記憶は共感することは出来ても自分の記憶だという認識は持てない。
例えるのなら、自分は家にいるのにいつの間にか出かけていて、そして気づいたらその出かけている時に起きたことをテレビで見て終わっていた……そんな現実感のない記憶だ。

だからこそ、この輪廻に……今の自分が唯依に抱く感情は唯一無二。
俺に次はない。
常に無限螺旋の一輪は絶対なのだ……次の自分は始まりを同じくしただけのよく似た別人なのだと知っているから。

之では諦める事すら出来ない。
だが、それでいい……如何に前世の記憶が有ろうとも人生は一度なのだ、たった一度なのだ。
失えない、失ったらそれで終わりなのだ。
大切なのだ、彼女が。唯一無二なのだ。
失ったら戻ってこない、己が愛した唯依は―――繰り返したら、逆戻ってしまえばそれはもう己も彼女も別人なのだ。

何より失って戻ってくるものに本当の価値はない。


「そうだな、妻となる女の笑った顔が見たい。……こんな願い、お前からすれば腹立たしいかも知れんがな。」
「そんなことは……」
「だが、敢えて今一度言う。己に力を貸せ、復讐という弔いを成したいのならな。」

痛いところを吐く言葉に言いよどんだ甲斐。
失った者と失っていない者、その差はどうしようもなく隔絶し埋め難い。
しかし忠亮はそこからさらに追撃を言い放つ、どのみち今の体制ではBETA相手に勝てるわけがないのだ。

官僚は自己保身にべったりで国家存亡の危機だというのに日和見っている。
政治家は榊陣営がどうにか張っているが民主主義政治の政権は短命だ。また戦時特例法案も不整備この上なく、榊退陣後は有象無象の素人政治家による連立政権とその集離が繰り返され、責任を取りたくない責任者たちの消極的な内輪揉めで兵士は戦力の逐次投入を強要されて、BETAの脅威の前に緩やかな自殺の路を歩む。

そもそも、殆どの国家で戦時特例が存在するのは戦争中では民主主義は何の役にも立たないと知っているからだ。
参加者全員が善人であるシステムは所詮は性善説に基づいた妄想でしかないのだ。

そして、そのシステムで甘い蜜を啜るための誤魔化しはBETAという絶対の捕食者を前に限界まで来ていると見た。
この嘘と偽善の上塗りで作られた民主主義という楼閣が崩れ去るその時、何を信じ何に依って動くのか―――考えるまでもない。


「……なるほど、君の意図は分かった。僕は全霊を以て尽力すると誓おう。」
「助かる。」

言わんとしている事の意味を悟った甲斐が改めて忠誠を誓う。

今のままでは未来が無い、今のままでは既に逝った犠牲が無駄になる。
修羅だった青年は光ある未来を求め武士となる。
武士だった青年は過去の断罪を求め修羅となる。

白と青の青年は共に修羅にして武士。
共に血風雷火を求めし戦いの鬼、されどその戦いは誇り高き守護の戦い。

正反対ながらもそれ故に本質を同じくする二者。
共に抱えるのは理不尽への憤激。
大切なものを奪うやつが許せない、大切なものを奪ったやつが許せない。

その純粋な怒りと憎悪は、その本性を曝け出す時を待ちのみ……静かに牙を研ぐ。
 
 

 
後書き
瑞鶴の改造機、制作してみようかなと思案中。
とりあえずブレイクブレイドのデュルフィングベースにフレームアームズマガツキとボーダーブレイクのセイバーのコンパチで大雑把に、あとはちょこちょこ加工・……どうやって兵装担架と跳躍ユニットを手に入れるかが問題

余談だけど、フレームアームズ・ボーダーブレイク・ブレイクブレイドのプラモは全部クロスフレームというメインフレームに外装を付足す構造(メダロットみたいな感じ)なので大抵のパーツに互換性があったりします。 
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