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美しき異形達

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第四十八話 薊の師その二

「本当にな、残念だよ」
「阪神独走ね」
「横浜五位だよ」
「最下位じゃないのよね」
「巨人が最下位だからな」
 全世界にとって有り難いことにだ、やはり巨人には最下位こそが最もよく似合う。一億年は最下位になっていてもいい。
「まだましだよ」
「それはその通りね」
「しかし、優勝したいな」
 薊は夢を見る顔でまた言った。
「また何時かな」
「何時かなのね」
「ああ、多くは望まないさ」
 薊は菖蒲には夢を見る顔で語った、その顔で。
「ただ。日本一にな」
「なって欲しいのね」
「一度だけでもな」
 こう熱く言うのだった。
「あたしが生きているうちにな」
「一度なのね」
「一度だけで充分だよ」 
「そこまで言うのね」
「だってよ、前の優勝の時だってな」
 一九九八年の優勝だ、その時の優勝でもなのだ。
「三十八年ぶりだったんだよ」
「長いわね」
「三十八年って何なんだよ」
 ぼやくばかりの薊だった。
「巨人なんかその間飽きる位優勝してるのにな」
「残念なことですね」
 桜は巨人の優勝についてはこう返した。
「そのことは」
「だよな、阪神も何回か優勝してるよな」
「その三十八年の間に」
「だよな、何で横浜は三十八年なんだよ」
 その時に産まれた子供が就職して結婚して家庭を持っている、そしてそろそろ髪の毛が薄くなるだの成人病だの肥満だのという話になってくる年齢だ。
「長いにも程があるだろ」
「それで今回は」
「生きている間にな」
 薊の言葉はかなり切実である。
「見たいよ、優勝」
「本当に切実ですね」
「だって阪神よりもなんだよ」
「優勝することが少ないというのですね」
「大洋ホエールズになってな」
 ここから横浜大洋ホエールズになり横浜ベイスターズになった、そして親会社が変わって横浜DENAベイスターズになった、
「二回だけだぜ、優勝」
「そう言われますと」
「楽天除いて十二球団で一番優勝の数少ないんだよな」
 桜にもぼやくばかりだった。
「ったく、最下位になった数は多いのにな」
「特にこの最近は」
 菖蒲も言う。
「そうだというのね」
「ああ、権藤さんが辞めてからな」
 その日本一になった時の監督である、最早遥かな過去である。
「どれだけなったやら」
「巨人が暗黒時代になるまでは」
「本当に凄かったよ」
 その最下位になった数がというのだ。
「山下大ちゃんの時なんてな」
「あの時ね」
「絶賛暗黒時代だったよ」
「監督は二年辺りですぐに交代して」
 それがかえって駄目だったという説もある。
「育成も失敗ばかりで」
「育った選手はフリーエージェントでな」
「出て行ってばかりで」
「生え抜きの選手は追い出してな」
 まさに悪循環だ、これでチームが強くなる筈がない。かつての親会社のフロントが何もわかってなかったのだろうか。
「もう百敗だって夢じゃなかったよ」
「今の巨人は百二十敗よ」
 一シーズンでだ。
「それよりはましよね」
「まだな、しかし巨人弱くなったな」
 実にいいことにだ。 
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