| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

山本太郎左衛門の話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

15部分:第十五章


第十五章

 尾が二つになった巨大な二本足で歩く猫がいる。猫又だ。他にも古狸や狐もいる。天狗や鬼までいる。
「またえらく大勢いるのう」
 平太郎は一向を見て思わずそう呟いた。
「酒があると聞いてのう」
 猫又が楽しそうに言った。
「それでは来ないわけにはいくまい」
 狸もそう言った。見れば他の者達も同じ意見のようだ。
「では追加の酒や肴はあるのだろうな」
「無論」
 鬼がそれに答えた。
「ほれ、ここに」
 彼は障子の向こうから樽をもう二つ持って来てそう言った。
「肴もな」
 狐とが言った。彼等は手に揚げを入れた籠や干し魚を多量に持っていた。
「おお、これはいい」
 平太郎は新たな酒樽を見て目を細めて頷いた。
「これだけいても飲みきれぬかもな」
「その心配はない」
 天狗がそれに対して答えた。
「わし等にとってはこの程度何ともない」
「もっともお主にはしんどいかも知れぬがな」
 ここで猫又達は平太郎をからかうようにして言った。
「無礼なことを言うのう」
 平太郎はそれを聞くとあからさまに不機嫌な顔をした。
「わしがどれだけ飲めるのか知らぬようだな」
「まあな」
 妖怪達はそれに対して答えた。
「どうやら毎日飲んでおるようだがな」
「それでもわし等には勝てまい」
「言うてくれたな」
 彼等の挑発に口を尖らせてきた。
「では見せてやろうか、わしの飲みっぷりを」
「おお、見せてみよ」
「もしわし等を納得させられたら酒樽を二つやるぞ」
「何」
 それを聞いた途端平太郎の目が光った。さらに飲めるのかと思うと思わず目を輝かさざるを得なかったのだ。
「ならば」
 彼は杯を持ち替えた。大杯を取り出して来た。
「ほう」
 それを見た妖怪達は思わず声をあげた。
「それで飲むつもりか」
「そうじゃ」
 平太郎は得意気に応えた。
「これでどんどん飲んでやろうぞ」
「どんどんか」
「そうじゃ。では注ぐがよい」
 そう言いながらその大杯を前に出した。
「片っ端から飲んでやる故」
「よし」
 妖怪達もそれに応えた。すぐにその大杯に酒をなみなみと注いだ。
「飲んでみよ」
「ぐい、とな」
「よし」
 平太郎はそれを両手に持ってにやりと笑った。そして口に着けた。
 ぐい、ぐい、ぐい、と音を立てて飲む。まるで水を飲む様に飲んでいく。
「おお」
「これは中々」
 妖怪達はその見事な飲みっぷりに感嘆の声をあげた。
 忽ちのうちに全て飲み干した。だが平太郎は杯をまた前に差し出した。
「もう一杯」
 更に飲もうというのだ。
「そうこなくてはな」
「面白くとも何ともないわ」
 妖怪達もそれに応えた。その杯にまた酒を注ぎ込む。
 平太郎はそれも瞬く間に飲み干した。そして干し魚を口に入れると噛んで飲み込んだ。
「おかわりじゃ」
 そしてまた飲み干す。これを幾度となく繰り返した。
 そして樽を一つ空にした。だが顔色は普段とは全く変わってはいない。
「どうじゃ、わしの飲みっぷりは」
 空になった樽と大杯を妖怪達に見せつけながら問う。その顔は勝利者のものであった。
「ううむ」
 妖怪達はそれを見て思わず唸った。
「まさか樽一つ飲み干すとはのう」
「いやはや、見事なものじゃ」
「ふふふ」
 平太郎は余裕の笑みを浮かべていた。妖怪達の鼻を明かせたことが何よりも楽しかったのだ。
「では約束通り樽を二つもらえるのであろうな」
「無論じゃ」
「わし等も嘘はつかん」
 彼等は言った。そして鬼が樽を二つ抱えて来た。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧