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ONE PIECE《エピソードオブ・アンカー》

作者:蛇騎 珀磨
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episode11

 あの騒動から、早くも一週間が過ぎた。
 落ち着きを取り戻したアンカーは、乗組員全員を呼び出し、その面前に立っていた。

 アンカーは、全てを話した。

 母親に虐待されていたことも、育ての親に貞操を奪われそうになったことも、それを拒んで人間に売られそうになったことも、その時に育ての親を殺したことも...。

 蔑まされても、罵られても、当然だと思った。
 アンカーは、正面を見据えて決意を声にする。


「“僕”は、母の言い付けを守って生きた。自分のことを“僕”なんてみっともないって言われて、ずっと封印してきたけどもう吹っ切れた。今なら、母さんが間違ってたって分かるから。
僕は、本当の世界が見たい。だから、何でも教えてほしい。お願いします!」

「そういう時は、頭を下げろ」

「あっ、そうなんだ......」


 相変わらずの仕草に、全ての乗組員が爆笑した。

 誰一人としてアンカーを蔑む者も、罵る者もいない。普段と変わらない笑顔に、アンカーもつられて笑顔になる。
 少し子供っぽい笑顔に、全員が「笑ったー!」と歓喜の声を上げた。




 それから冬島付近の海を抜けて、次の島で食料や武器の調達が終わって、ようやくコアラの故郷がある島へと辿り着いた。

 ボサボサだった頭は綺麗に散髪され、ボロボロだった服も新調されて、見違えるような姿になったコアラとも別れの時が来たのだ。
 短いようで長かったような、長いようで短かったような...。

 コアラが船に乗ると決まった時のギスギスとした空気は今は少なく、別れを惜しむ声すらも聞こえた。
 アーロンやアンカーの人間嫌いは変わらず、皆よりも離れた場所で見送っている。もちろん、見送る対象はコアラではなく、それに付き添うタイガーである。


「1人だけ“魚人にもいい奴がいる”と言って何になる。何も変わらねえさ」

「アーロン! テメェ!」


 余程コアラのことを気に入っていたのか、涙を流しながら見送っていた魚人が殴りかかる。しかし、傍にいたアンカーに薙ぎ倒され「ふぎゅ」と声を上げて気絶した。


「チッ......。余計なことを」

「そんなこと言って...実は気に入ってたクセに」

「......フンッ」

「僕は、気に入ってたよ。あのまま大人になってくれたら...ってね。ま、無理だろうけど」


 アンカーの表情は明るい。自ら人間の話を出来るのは、皆に全てを打ち明けたからであろうか?
 しかし、人間嫌いが無くなったわけはなく、付け足すように「無理だろうけど」と呟いた声は低く冷めていた。

 その時ーーー

 ドドン! ドン! ドドドド......!!

 ーーー複数の銃声が響いた。


「な、なんだ!?」

「おい! 海の方を見ろ。海軍だッ!」

「囲まれてる!?」


 気付くのが遅すぎた。タイヨウの海賊団の船の周りには、何隻もの海軍の船が迫って来ていた。その内の1隻から放たれた砲弾が直撃する。

 ジンベエの指示の元、数名はタイガーの救出、残りは船を捨て海の中から海軍を襲撃する。アンカーは、ジンベエと共にタイガーの救出に向かった。


「くそっ! これだから、人間は嫌いなんだ!」


 海軍を呼んだのは、おそらくコアラを送ってほしいと頼んだ奴ら。もしくは、ここに来るまでに立ち寄った島の人間たち。
 罠にハメられたのだと、アンカーは怒りを憶えた。

 未だに止まない銃声を頼りに、タイガーの救出に向かう。他の船員たちも、海軍に、人間に怒りを爆発させていた。
 ようやく見えてきた人間の姿。「タイヨウの海賊団です!」という声に、奴らが海軍だと確信する。


「おのれーーー!!」


 ジンベエを筆頭に、次々と海軍に襲いかかる。むろん、アンカーも。


「タイガーから離れろっ! 僕たちが相手になってやるよ!」

「なっ!? 人間が魚人を!?」

「僕は、魚人だあぁぁッ!!!!」


 アンカーは武器を構えた。鎌のような刃が付いた長い棒を振り回し、周りの海兵たちを振り払う。刃に四肢を切り裂かれ、大半は起き上がれなくなった。
 しかし、海兵はまだいる。その中には、正義を背中に掲げる者も。

 アンカーの攻撃を耐え、討伐せんと向かって来る。


「アンカー! 奴は、海軍少将じゃ。お前さん1人では力不足...。ここは、わしに協力せい!」

「分かった!」


 迷わず了承し、武器の形態を変える。ジャラジャラと出てきた鎖を、向かって来る少将に投げつけた。そんな攻撃には当たらず、簡単に避けてみせる。そこに待ち受けるのは、正拳突きの構えをしたジンベエ。


「魚人空手...“千枚瓦正拳”!!」

「くっ...!」


 咄嗟の判断で腕を上げガードを構える。


「させるか!」

「なにっ!?」


 アンカーは鎖を操り、それを少将の体に巻き付ける。周りにいた他の海兵たちも巻き込んでしまったが、返ってそれが功を奏した。
 避けてしまえば、後ろの部下たちに攻撃が当たってしまう。その迷いが判断を鈍らせた。
 結果、ジンベエの正拳突きが直撃する。

 殺さないように手加減されてはいたものの、その威力は凄まじく、少将と数名の海兵たちはまとまった状態で吹っ飛ばされた。


「よし! 今の内にお頭を運べ!」

「なんで!? コイツら全員殺さないの!?」

「殺しはせん! それが海軍であろうと! それよりもお頭を運ぶのが先じゃ。早く治療してやらねば...っ!!」


 ジンベエの言う通り、タイガーは瀕死の状態だった。思った以上に血を流し過ぎたのだ。
 全員で運び出す頃には、ぐったりとした様子でピクリともしなかった。


「アンカー! 早うせんかっ!!」

「チッ...」


 殺してやりたい。しかし、それをタイガー自身が阻む。
 そのタイガーの命が危ない。アンカーは、ジンベエに促されてその場に背を向けた。

 ドンッ! という音の直後、アンカーの体は地面に吸い寄せられるように倒れた。 
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