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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 中学編 24 「夜月家でのある日」

「……何ていうか、少し落ち着かないね」

 そう呟いたのは隣に座っていた紫がかった黒髪の少女――我の友人のひとりであるすずかだ。彼女の他にも向かい側になのはとアリサが座っている。
 なぜすずか達がいるかというと、簡潔な言葉で説明すればお茶会だ。異性がひとりもいないので女子会とも言えるかもしれない。
 お茶会を行っている場所は翠屋……ではなく我が居候している家。つまりショウの家である。すずかが落ち着かないのは異性の家を訪れていること。それに加えて、仕事の関係でショウがこの場にいないからだろう。

「気持ちは分からんでもないが、急な仕事が入ってしまったのだから仕方がなかろう。本人からはゆっくり楽しめと言われておる。だから何も気にせず楽しむといい」

 と我が言うとすずかは納得したように見える笑顔を浮かべた。のだが……向かい側に座っているアリサが、どことなく意地の悪い笑みを浮かべているのが気になる。

「何なのだアリサ、言いたいことがあるのならはっきりと言わぬか」
「あっそう、じゃあ言わせてもらうけど……ディアーチェってあいつの嫁って感じよね」

 あいつが指しているのは、流れから考えてショウのことだろう。

「き、貴様は何を言っているのだ!?」

 わ、我があやつの嫁だと?
 馬鹿なことを言うでない。我とあやつはまだ結婚できる年齢ではないし、仮に結婚できる年齢であったとしても互いのことを愛し合っている関係ではないのだ。
 確かに過去には我やあやつの知らないところで許婚のような話があったらしいが、その話はすでになくなっておる。大体結婚というものは本人達の意思が重要のはずだ。よほど自分の理想どおりだったならば話は別だが、基本的に人から決められた相手と結婚はしたくないだろう。

「今日は小鴉やシュテルはおらぬからゆったりとした時間が過ごせると思っていたというのに……!」
「言えって言ったのはディアーチェのほうじゃない。それに実際あんた達の夫婦感っていうのかしら。かなりやばいレベルよ」

 何がやばいというのだ。我らは別におかしいことはしておらぬぞ。
 家事は基本的に我がやっておるが、これは居候としての責務のようなもの。たまにレヴィといった大食いが遊びに来るので買出しに付いてきてもらうことはあるが……。だがこれは協力して家事をやっているだけ。我らのように家事を行う子供は探せばいくらでもいるだろう。
 他に我がやっていることなぞ……あやつは我より早く起きてランニングに行くから起こしたりすることはない。着替えを用意して朝食を作るだけだ。学校のある日はついでに弁当も作っておるが、別にこれは家事の一環としてやっているだけで他意はない。

「何がやばいというのだ。そもそも、あやつには我よりも親しい間柄の者がおるだろう」
「はやて? まあはやてにも似た感じはあるけど……あれは夫婦って感じじゃないのよね。距離感も何だか前より離れてる気がするし」
「アリサちゃん、それははやてちゃんが大人になったってことじゃないかな。仲が良いと言ってもショウくんは男の子だもん。昔みたいに引っ付くのは恥ずかしいと思うし」
「……あのお子様だったなのはがこんなことを言う日が来るなんて。時間が経つのって早いわね」

 しみじみと呟くアリサになのはは驚きと怒りが混じったような声でツッコミを入れる。
 これは我の気のせいかも知れないが、なのはは日に日に我と似たような位置に追い込まれていないだろうか。前までは頻繁に大声を出したりはしていなかったと思うのだが。
 そんなこんなしているうちになのは達が来る前に作っておいたチョコレートが出来上がる時間になった。我は皆に一言言ってからキッチンのほうへ向かい、冷蔵庫からチョコレートを取り出して戻る。無事に完成したようで何よりだ。

「これ……ディアーチェちゃんが作ったの?」
「う、うむ」
「何恥ずかしそうにしてるのよ。充分すぎるほどの完成度じゃない」
「うん、私はこんなの作れないよ」

 驚いてくれたり、褒めてくれるのはこちらとしても嬉しく自信に繋がる……のだが、なのはよ、貴様に関しては反応に困るのだが。
 我の記憶が正しければ貴様はパティシエの娘であろう。まあ……パティシエの娘だからといって上手く作れないといけないと言うのはいけないことだろうが。しかし、それでもなのははパティシエの娘なわけで……笑顔で作れないよと言われると複雑にもなる。

「これ食べていいのよね?」
「アリサちゃん、がっつきすぎだよ」
「ふーん、ならすずかは食べたくないのね? すずかの分は私が食べてあげるわ」
「そんなことは言ってないよ。もうアリサちゃんのいじわる!」

 やれやれ、相変わらずこのふたりは仲が良いな。まあなのは達は魔法に関わる道に進もうとしておる。こちらの世界に残るのは5人の中ではこのふたりだけであろう。長年の付き合いもあるのだから強い絆で結ばれておるのは必然か。
 騒ぐふたりを何とか宥め、チョコレートを食べるように勧めた。味見はしているので不味くはないと思うのだが、やはりそれでも不安はある。

「――っ!? ……凄くふんわりしてるというか、優しい味だね」
「そうね。料理の腕前は知ってたけど、お菓子までこのレベルとは……ディアーチェをお嫁さんにできる男は幸せものね」
「な、何を言っておるのだ。べ、別に我くらいのレベルならば作れるものはたくさんおるであろう」

 身近にもショウやシュテルといった我よりも優れたお菓子を作るものはおるのだから。まあ料理に関しては我のほうが勝っている自負はあるが……。

「……ん? なのはよ、あまり食が進んでおらぬようだが……もしや口に合わなかったか?」
「え、ううん、そんなことないよ! その、えっと……美味しいからこそ食べられないといいますか、最近甘いものをよく食べてたから体重が心配でして」

 見た感じこれといって変わっていないように見えるが、我も年頃の娘だ。つい体重を気にしてしまうなのはの気持ちは分かる。
 世の中には馬鹿げた量を胃袋に収めても何も変化しない人種がおるが、いったいどういう構造をしておるのだろうか。べ、別に羨ましいなどと思ってはおらぬからな。

「心配って別に太った感じはしないわよ」
「そうだね。というか、今の時期にダイエットとかは良くないと思うよ。きちんと食べないと体に悪いし」
「さすがすずか、1番育ってるだけあって説得力が違うわね」
「――っ、どこ見て言ってるの!」

 すずかは顔を真っ赤にしながら上半身の一部を両手を隠す。だがなのは達の中で誰よりも発育が進んでいるだけに、隠されると余計に存在に意識が行ってしまう。
 女の我から見てもすずかはスタイルが良いからな。性格も大人しく言葉遣いも良い。世の男の多くはこのような娘が好きなのではないのだろうか。
 ちなみに最も身長が高いのはフェイトだ。その次にすずかであり、なのはとアリサが同じぐらい、最後に小鴉という順になる。
 胸のサイズは、今言われたとおりすずかが最も成長している。他のメンツの順序はアリサ、フェイトと小鴉が同じくらいでなのはの順になる。

「別にいいじゃない、ここには私達しかいないわけだし。というか、あんたは見られて困る体してないでしょ」
「良くないよ。じっと見られるのは恥ずかしいんだから!」
「アリサよ、そのへんにせぬか。すずかも困っておる……それ以上するのであれば、貴様の分のチョコは没収するぞ」

 我の言葉にアリサは息を詰まらせ、小声でだが謝罪を口にした。すずかから感謝されたが、別に礼を言われるようなことをした覚えはない。普段今のような話題ではないがからかわれている身として気持ちの理解はできるし、何より我とすずかは友達だ。助けるのに理由なぞいるまい。

「時になのはよ」
「ん?」
「実際のところどうするのだ? 我としてもすずかと同じ意見ではあるが、無理に食べろとも言えぬ」

 なのはにとって最優先すべきものは家での食事だ。桃子殿が作ってくれるだけに残したり食べなかったりするのは心苦しいはず。それをきちんと食べるとなると、ここでの間食はやめておくべきだ。正直に言って、料理に比べてあまりお菓子は作らぬからカロリー計算はほとんどしておらぬし。

「うーん……食べる!」
「本当にいいの? 太ってもしらないわよ?」
「だ、大丈夫だもん。そのぶんきちんと運動するから……って、何でさっきと打って変わってそういうこと言うの。ひどいよアリサちゃん」
「だってディアーチェのお菓子美味しいから」

 一般的に考えてアリサを咎めるべきところなのだろうが……今のような言い回しをされるとこちらとしては言いづらくなってしまう。
 ……まあこやつらは親友と呼んでも問題のない仲だ。親しい仲にも礼儀あり、といった言葉もこの世界にはあるが、常識を知らない者はいないのだ。本当に傷つけるような真似をすることはなかろう。また必要以上に構ったりしても煙たがれるだけだ。毎度のように口を出すのも悪手であろう。

「そういえば、ディアーチェは最近大丈夫なの?」
「何がだ?」
「その、体重とか。この前ショウくんがディアーチェにお菓子作りを控えるように言われてる、とか言ってたから」

 ぐ……ショウめ、余計なことを言いおってからに。いやまあ、別に口止めするようなことでもないのだが。

「あらそうなの? あたしならそんなこと言わないけどね。外に出なくても美味しいお菓子が食べられるわけだし」
「でも考え方によっては美味しいのが問題だったりするよね。つい食べすぎちゃいそうだし」
「そうなのだ……」

 あやつの作るお菓子は試作品であろうと美味い。それに……素直な感想を言ったり、我の食べている姿を見るとあやつは嬉しそうに笑うのだ。
 別に我だから笑っているわけではないが、我らに比べて笑ったりすることがないだけに友人としては嬉しく思ってしまう。

「しかもあやつは味見をしていることもあってあまり自分では食べん。レーネ殿は外出している時間が長いし、休みの日は桃子殿やリンディ殿と会うことが多いようだからな。捨てるのももったいない故に必然的に我が食べることになるのだ」
「あはは……それは確かに毎日のように作られると困っちゃうね」
「けどまあ、ある意味贅沢な悩みよね。……あたしもあいつと結婚したらそういうことを考えるようになるのかしら」

 アリサのさわりと言った言葉に我だけでなくなのは達も盛大にむせたり過剰な反応を見せた。
 でもそれは仕方がなかろう。アリサがショウに気があるような素振りを見せたことはない。そもそも、昔より話すようにはなっているが我らの中でも会話しない部類に入るはずだ。そんな彼女が結婚などと言い出せば知人ならば誰だって似た反応をするはずだ。

「ア、アリサちゃん……そうだったの?」
「は? 何よそのいかにも誤解してそうな顔は。言っておくけど、別にあいつのことなんて何とも思ってないわよ。まあ最低限度の異性としては意識しているし、最も親しい異性ではあるけどね。……そうね、なんだかんだであいつって優良物件だし可能性としてはなくはないわ」

 ど、堂々とよく言えるものだ。
 これだけはっきりと言われると何とも思っておらぬのだろうなとは思う。しかし、最後の部分は言う必要があったのだろうか。下手をすると誤解を生みかねない発言のような気もするのだが。

「ね、すずか?」
「え、ここで私に振るの?」
「だってあたしよりもあんたのほうが可能性としては高いでしょ。あんたはあいつと同じで機械やら本が好きなんだし。あと……デートもしてるみたいだし」

 な、なんだと!?
 いいいやまあデートと言っても一緒に遊びに行ったとかいう意味であって、交際していてどこかに出かけているというわけではないのだろうが。
 し、しかし……あのすずかがデート。大人しそうであまり自分から異性に関わりそうではない印象を持っていたのだが。いやでもアリサの言うとおり、あやつとすずかは興味を持っておるものが酷似しておる。共通の話題も多いだけに会話も弾みそうだ。

「へ、へぇ……そ、そうなんだ」
「な、なのはちゃん誤解しないで! た、確かにふたりで出かけたりしたことはあるけど、それはなのはちゃん達の予定が合わなかったときの話であって。さ、最初からショウくんだけを誘ったりしたことなんてないから……もうアリサちゃん、変なこと言わないでよ!」
「別に変なことは言ってないでしょ。あんたは女であいつは男なんだし、好きなものが似てるのもデートの件も事実なんだから。そ・れ・に、あんたにとってあいつは貴重な存在じゃない。試しに告白でもしてみたら? 案外上手くいって忍さん達みたいにラブラブになるかもよ」
「もうアリサちゃん!」

 にやけるアリサにすずかは顔を真っ赤にしながら襲い掛かる。といっても、弱々しく叩いているだけなのだが。この世界では猫パンチといった言葉で表現したような……・
 やれやれ、アリサにも困ったものよ。
 だが可能性の話としてはありえない話ではない。すずかは工学に興味を持ち、礼儀やマナーに関する教育もきちんとされている。見た目も実に良く、性格的に大和撫子とでも呼べる存在ではないだろうか。
 ショウはしっかりしているようで抜くところは抜く奴だからな。そのへんに気が付いて世話を焼ける人間が将来の伴侶として良いような気がする。

「そんなことばかり言ってたら怒るよ!」
「すでに怒ってるじゃないの」
「すずかの気持ちは分からんでもないが、相性に関しては良いのではないか」
「ディアーチェちゃんまで!? わ、私よりもディアーチェちゃんのほうがお似合いだよ!」
「な、何を言っておるのだ!? わ、我よりも……ア、アリサのほうが良いのではないか。あやつは消極的な部分があるからな。アリサのように引っ張っていく感じとも相性が良さそうだ」
「それ、あたしじゃなくディアーチェにもある要素だと思うんだけど。でも……意外となのはみたいに誰かが見てないといけなさそうなタイプとのほうが相性良いかもね。あいつって何だかんだで面倒見良いわけだし」
「まさかここで私、というかさらりと貶されたような気がする!? 確かにショウくんは面倒見良いところあるけど……!」


 
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